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研究からスポーツを捉える新たな視点。日本スポーツ協会の研究が環境保護活動の後押しに

著者: 公益財団法人日本スポーツ協会

誰もが自発的にスポーツを「する」「みる」「ささえる」ための幅広い事業を展開してきた日本スポーツ協会(JSPO)は、2022年1月1日、スポーツと環境に関する啓発動画を公開しました。

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動画のタイトルは「スポーツと環境〜スポーツの未来のために〜」。「スポーツと環境」に関する研究を行い、その視点からスポーツの持続可能性について改めて考える機会となるような動画を制作しました。


現在の地球環境の実情や人間と自然が相互に受けている影響に加え、スポーツやオリンピックと環境の歴史、そしてスポーツ団体の取り組みについて、一から知ることのできる構成となっています。


啓発動画は、JSPOスポーツ医・科学委員会研究プロジェクト「環境保護の視点からみるスポーツの持続可能性に関する調査研究」班が制作。スポーツ科学研究室の研究員である石塚創也は研究班員として参画しました。本ストーリーでは「スポーツと環境」の研究に3年がかりのプロジェクトに取り組んだ背景とともに、今後日本でスポーツと環境保護を両立するためにどんな行動が必要なのかをインタビュー形式でお伝えします。

JSPOスポーツ科学研究室 石塚 創也


「50年後にスポーツ自体ができなくなってしまうかもしれない――」関係の深いスポーツと環境問題

啓発動画本編より


ーー現在、JSPOスポーツ科学研究室で研究をされているとのことですが、「スポーツと環境」の関わりについて興味を持った経緯はなんだったのでしょうか?


石塚:大学院に進学し、札幌で1972年に開催された冬季オリンピックの招致活動の研究を始めました。地元が北海道(旭川市)であったことからも、このテーマに興味を持ちました。研究を進めていく中で、公文書などを分析するうちに、競技場の建設と環境保護をめぐる問題に行き着いたのがきっかけです。


ーー研究者のひとりとして、特に興味を持ったのは問題のどの部分だったのでしょうか?


石塚:札幌オリンピックが開催されるにあたって新設された「恵庭岳滑降競技場」をめぐる、IOC(国際オリンピック委員会)や、大会組織委員会、地元の環境保護団体の間の議論です。


大会終了後、建設した競技場は撤去され、植林が行われました。これはオリンピック史上初めて行われた環境保護対策といわれています。


環境保護団体による問題提起をきっかけとして、大会組織委員会と行政の連携が生まれ、競技場の建設と環境保護の両立を考慮した上でどのような対策ができるか模索した結果、植林することになったことが調べるうちにわかってきたんです。


ーー今後のスポーツと自然保護を考える上で、非常に重要な事例ですね。


石塚:この問題は、環境保護の難しさや複雑さ、それに加えて多様なステークホルダーの立場を尊重した意思決定の重要性を示していると思います。教訓的な「レガシー」なんじゃないかと。この事例をもとに、今後どうしたらよいかを考えるきっかけになるのではないかと思いました。

参考:日本スポーツ協会スポーツ医・科学研究報告「環境保護の視点からみるスポーツの持続可能性に関する調査研究」第1報第1章


動画を見て知ってもらい、共有してもらうのが第1段階

ーー今回の動画は、主に誰をターゲットに想定して制作されたのでしょうか?


石塚:スポーツ指導者の方々に見てもらうことを想定しています。スポーツと環境の関連性が深いことは明らかなのですが、実はスポーツに深くかかわる指導者でも、なかなか環境への影響について思い浮かばないと考えています。また、JSPOの職員はもちろん、加盟団体*職員の方にも見ていただき、スポーツに関わる全員が「スポーツと環境」を考えるきっかけになればと考えています。


*JSPOには60を超える競技団体や47都道府県スポーツ・体育協会、その他スポーツ関連団体が加盟しています。


ーー第一線で活躍されているアスリートの方も動画に登場していますよね。現場レベルで現状に対する問題意識の高さを感じられましたが実際はいかがですか?


石塚:動画に出演していただいたアルペンスキー選手の湯淺直樹さんやトライアスロン選手の上田藍さんは、ご自身が競技を普及する立場ということもあり、環境保護に関して非常に関心を持っていらっしゃいます。


ただ、ほかのアスリートの方にお話を聞いてみると、現役選手はなかなか環境保護に関して考える余裕はないのが現状のようです。もちろん、アスリートとしてそのような指導を受けてきていないこともあるのですが、勝利を目指し努力されている。それは現役のアスリートのあるべき姿だと思います。その中で、自分がスポーツを行うことで環境にどんな影響があるのかまではなかなか意識が向かないのではないかと思います。


しかし今後は、そうも言っていられないのが現状です。若い選手も問題を認識し、アスリートからの発信による普及もお願いしたいと考えています。


ーー動画は30分ほどの長尺ですが、伝えたいことを伝える上で気を付けたことはありますか?


石塚:研究成果を一般の方にもわかりやすくまとめる必要があったので、そこは難しかったです。動画を制作するにあたり、プロジェクトには大学の先生方にもご協力をお願いし、研究成果を提供していただいています。


先生方は普段、学生に対して講義を行っていたり、市民講座を担当されていたりと経験が豊富です。ですので、わかりやすい言葉や表現になっているかなど、多くのアドバイスをいただいたのですが、それでもまだ難しい内容を噛み砕いて伝えられているのかなと不安に思うところもあります。


ーー動画を見たあと、どのような行動に繋がっていくのが理想だと考えていますか?


石塚:まずは興味を持ってもらうことが大切だと考えています。知ってもらい、そして共有すること。指導者の方であれば、動画を選手にも見るよう促していただくことがまず第1段階だと捉えています。


その上で、スポーツが次の世代、さらにその次の世代にどんな影響を与えるのか。現代を生きる我々がその責任を負っていることの理解に繋がれば嬉しいです。

2020年度に競技団体やスポーツ指導者を対象に開催したオンライン研修会「JOCスポーツと環境・地域セミナー兼JSPOスポーツと環境フォーラム」の様子


環境保護を通してスポーツの持続可能性を高めたい

ーー元々、3年間の予定だったのが無期のプロジェクトに変わったそうですね。今後はどのような活動をされていくのでしょうか。


石塚:来年度には、指導者の方や加盟団体の方、さらに一般の方にもより理解しやすい動画も作る予定です。


すでに積極的に活動を行っているスポーツ団体があります。それらの事例を紹介して自分ごととして捉えてもらうと同時に、自身が所属する団体でもできるかもと思っていただけたら嬉しいです。


ーーJSPOにはどのような活動が求められていると考えていますか?


石塚:2021年に国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は人間による活動が地球温暖化させてきたことについては「疑う余地がない」と報告しました。全世界に対して強く警鐘が鳴らされています。


IOCを中心に、国際スポーツ団体や国連が「スポーツを通じた気候行動枠組み」を立ち上げています。個人的にはその取り組みを注視していきたいと考えています。


ーーそれらの取り組みに対し、今回のようなプロジェクトはどのような意味を持つと考えていますか?


石塚:JSPOは、スポーツ統括団体として、必然的に気候変動への取り組みを主導しスポーツの持続可能性の推進に寄与する立場になっていくだろうと思います。


今わたしが携わっているプロジェクトでの研究を続け、JSPOのさまざまな活動を後押しできたらと思います。そうなるとやはり3年では終わらないですし、少なくとも今後数年は続けていく必要性があると考えています。



◆JSPO(公益財団法人日本スポーツ協会)について

JSPOは、1911年7月に「国民スポーツの振興」と「国際競技力の向上」を目的に、大日本体育協会として創立。日本体育協会を経て、2018年4月1日、現在の名称となりました。


JSPOでは、国民体育大会や日本スポーツマスターズなど各世代を網羅したスポーツ大会の開催、スポーツ少年団や総合型地域スポーツクラブなどスポーツをする場の創出、スポーツの楽しみをサポートするスポーツ指導者の育成、最新の医・科学に根差したスポーツの推進など、誰もが自発的にスポーツを「する」「みる」「ささえる」ための幅広い事業を展開しています。また、わが国スポーツの統一組織として、国や60を超える競技団体、47都道府県スポーツ・体育協会など、様々なスポーツ関連団体・組織や個人と連携しています。





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