ジェットウォッシャードルツの歴史とその魅力を神原サリーが徹底取材!~パナソニックが口腔洗浄器の国内パイオニアとして市場を作るまで~
水流の力で歯ブラシでは届かない部分の汚れまで強力に除去する“ジェットウォッシャードルツ”は「一度使い始めると手放せない」とコアな愛用者が多い口腔洗浄器。初代モデル誕生から43年と歴史ある商品カテゴリーです。3年目に入ったコロナ禍で、口腔ケアのニーズがますます高まっている今、生活者目線で家電分野の発信を重ねる家電ライフスタイルプロデューサーの神原サリーが、開発メンバーに徹底取材。その開発の歴史と最新モデルの魅力を探ってきました。
【取材・執筆】神原 サリー
■歯ブラシだけでは不十分。日本人の手や口に合わせた口腔洗浄器を作りたい
#初代モデル(左)から新モデルまでのジェットウォッシャードルツの数々
ジェットウォッシャードルツの初代モデルが当時の松下電工から発売されたのは1979年のこと。今から43年も前のことになります。当時の日本人のオーラルケアへの意識や、開発の経緯とはどのようなものだったのでしょう。パナソニック株式会社くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナル事業部商品企画部の主幹、細川 慎氏は、日本人のオーラルケアの不十分さを改善させたいというところから始まったと言います。
#1979年に発売された初代モデルの口腔洗浄器「ハークリン」
細川:「1970年代当時の日本人のオーラルケアへの意識は現在ほど高くなかったと思います。でも歯ブラシだけでは歯と歯の間の汚れを落とすには不十分だということはわかっていました。水流の力で汚れを落とすものが発売されていたアメリカを視察し、ぜひとも日本人の手や口に合わせたものを作りたいということで開発が始まりました。アメリカのものはかなり大型でしたから。そうして1979年に誕生したのが『ハークリン』です。『ハークリン』は、電動歯ブラシと水流で汚れを落とすものとの一台二役タイプ。これはすでに電動歯ブラシを発売していたため、2つの使い方ができたほうが便利と提案され、歯ブラシとして使用する時は水を止めブラシが振動するだけというものでした」
#昭和の雰囲気が漂う「ハークリン」のパッケージ
当時のパッケージを見ると「磨くと洗う 1台2役。電動歯ブラシ・ジェット水流洗浄」の文字が躍っています。磨くと洗うが自動的に切り替わり、食べかすが“洗える”というのは当時としては驚きの機能だったことでしょう。タンクの中には家族で取り換えられるようにブラシが2本、ノズルも2本入っているのも見受けられ、水圧が5段階に調節できる機能が、この初代モデルからあったようです。
■一台二役がセパレートタイプになり、お風呂でも使える充電・防水型へ
次のターニングポイントとなる1990年に発売の「Powerdent(パワーデント)」の特徴はどんなものになりますか?
細川:「歯ブラシが横磨きにも対応して進化したのに合わせ、歯ブラシと水流(ジェットクリーン)を分ける設計にしたのです。当時、電動歯ブラシの技術進化が著しく、対して水流タイプはそこまで進化が早くないこともあり、一台二役型よりそれぞれ進化したほうが良い商品が作れるということです。その後、1994年には充電・防水タイプのハンディ型が登場しています。というのも、使用時に水が飛び散って洗面台を濡らしてしまうので、充電式にしてお風呂で使いたいという要望が多く寄せられたからです」
#ポータブルタイプのジェットウォッシャードルツについて説明するパナソニック株式会社くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナル事業部商品企画部の主幹、細川 慎氏
なるほど。それはよくわかります。上手に使おうと思っても、どうしても洗面台に飛び散ってしまいますから。充電や防水と聞くと、ラムダッシュなどのような理美容商品にも使われている技術ですが、そのあたりは社内で流用されているということでしょうか?
細川:「そのとおりです。理美容商品で培った技術を応用して防水・充電商品の開発となりました。続いて1998年には、水タンクを収納すれば缶コーヒーの大きさになるコンパクトな乾電池式の商品も登場しています」
#1990年に発売された「パワーデント」のパッケージ(左)と1998年に発売されたタンクが収納式になったハンディタイプ
コンパクトな乾電池式というと、イメージとしては手軽に使えるエントリーモデルという位置づけだと思いきや、実はそれだけではないのだと細川氏。ジェットウォッシャーを愛用している人はそのスッキリ感が病みつきになり、出張などの外出先やランチの後にも水流洗浄したいというニーズが強いとのこと。つまり、エントリーモデルではなく、ヘビーユーザーの2台目、3台目というのが興味深いではないですか!
■海外でも圧倒的な支持を得た試金石のような一台から、15年ぶりのデザイン刷新へ
こうして初代モデルから25年を経て誕生したのが、サイドのブルーのカラーとくびれた形が印象的な2004年発売のハンディタイプです。こちらは海外でも多くの人に愛用され、海外ECサイトでは口腔洗浄器部門の第1位になったこともあるとのこと。その後、ハンディタイプのデザインは、2019年にホワイトに刷新されたモデルが登場するまで15年間も変わらずに愛され続けてきたというのです。このデザインについて、パナソニック株式会社 くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター、シニアデザイナーの別所潮氏にお話を伺うと…
#パナソニック株式会社 くらしプロダクトイノベーション本部 デザインセンター、シニアデザイナーの別所潮氏
別所:「人間工学的に持ちやすい形にしたのが2004年に誕生したモデルです。エルゴノミクスデザインという言葉でも語られますね。このモデルは、コンパクトで握りやすいと人気を集め、ハンディタイプの口腔洗浄器のスタンダードになり、グローバルの口腔洗浄器のほとんどがこの形になったほどです。それだけ完成度の高いデザインだということでしょう」
#海外でも人気だった2004年発売のジェットウォッシャードルツ
とはいえ、満水でも30秒ほどしか使えず、口全体を洗浄するのに5回も水を入れ替える必要があったのも事実。それが15年ぶりとなるリニューアルモデル誕生につながるのですね。でも、先代を超えるデザインを生み出さなければならなかったのは大変だったのではないでしょうか。
別所:「タンク容量が少ない分、コンパクトで握りやすかったのが人気の秘密でもあったので、容量をアップしながら、持ちやすさを維持しつつデザインを如何に刷新するかが最大のポイントになりました。これまでのジェットウォッシャーは歯科医院で使われる道具のようなイメージがあり、深刻な悩みを抱えている人が使うものだと思われていました。もっと多くの人に使ってもらいたいということから、普及にあたり暮らしにフィットするような親しみのあるデザインにしたいと考え、洗面空間を邪魔しないよう、正面から見たときにも印象をまっすぐにシンプルになるようにする。でも、握りやすさを維持するために、グリップの断面は握りやすいD型の断面にしています。試作をいくつも作りながら、この形を作り上げていきました。国内外の人々に握っていただいての感応調査をしていますが、他社の海外製のものはボトムが大きくて重たくて使いにくいが、これは使いやすいという声もいただくことができました。また、複数のパーツが組み合わさっている事ですき間が生まれ、水垢や汚れが溜まりやすい部分を見直し、パーツを減らし、すき間がなくお手入れのしやすいデザインにしています。」
#過去モデルのデザイン試作品の数々
■節水性と水流効果を高めた“超音波水流”の誕生
デザインの視点から2019年誕生のホワイトモデル(ハンディタイプ)のことを別所さんから伺いましたが、同時に超音波水流という新しい技術も搭載されて、格段に節水性と洗浄効果が高まっていることも重要なポイントです。パナソニック株式会社くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部の主任技師、谷口 真一氏に最新モデルにも搭載されている超音波水流についてお話を聞くと、その秘密は「ノズル」と「ポンプ」にあるようです。
#パナソニック株式会社くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部の主任技師、谷口 真一氏
谷口氏:「長く愛されてきたハンディタイプですが、満水で約30秒しか使えないというのが弱点でした。節水性を高め、なおかつ少ない水でも水流の効果でしっかりと洗い落とせるようにする必要があります。そこで第1の着眼点としてノズルの形状を刷新させました。一度水路を絞ってから解放する(高校で習ったはずの「ベンチュリ―管」のイメージがわかりやすい)ような形状、水道ホースをギュッと絞ったような感じですね。こうすることで、流速が速まり、結果として水圧が下がると、瞬間的に沸騰する現象が起こり、気泡が発生します。その泡がはじける時の衝撃波で汚れをはじき飛ばすことを『超音波水流』と名付けました」
#超音波水流を生み出すノズルの説明になるほどと納得!
流路を絞ることで気泡が出やすくなるという原理は、富士山山頂では低い温度でも水が沸騰する様子に置き換えるとわかりやすいかもしれないと、谷口氏。これまでのジェット水流よりも歯ぐきに優しく、少ない水でも汚れが落ちるようになったと言います。実はこの超音波水流は、水の飛び散りを防ぐのにも一役買っているというのですから、素晴らしいですよね
#超音波水流のコードレスタイプEW-DJ55 とカットモデル
谷口氏:「もう1つの技術が独自設計のポンプです。逆止弁が2つ付いていて、先端から空気を引き込むことで、ノズルのくびれ部分に水がなくなって抵抗がなくなり、水流のスピードを速めることで超音波水流を高効率で発生、しかも節水性にも繋がる技術です」
流速を速くするためにノズルをしぼって出来たくびれ部分の水をなくしたい。そこで逆流式のポンプが活躍するという経緯ですが、ポンプの開発には約2年かかったとのこと。2017年発売モデルにノズルの改良をして初めての「超音波水流」を実現させ、独自設計のポンプの搭載で、節水性を高めたさらなる進化をしたモデルが2019年に発売されたのですね。少しずつ進化していく…でも結果として大きな進化となっている。開発にかける熱意に頭が下がります。
■超音波水流の据え置き式のフラグシップモデルはデザイン賞4冠&使いやすさも◎
これまでハンディタイプの最新モデルに注目してきましたが、超音波水流の据え置き式のモデルも見逃せません。2017年に円筒形のこのデザインが誕生した背景には、海外でも据え置き式を展開していきたいという思いもあったからだと言います。
店頭で他社と見た目の差別化を図りたいことに加え、どの方向からもコードが引き出せるので設置性の幅が広がり、マグネットでハンドルが付く浮いているようなデザインも目を引きます。それもそのはず、デザイン賞4冠を受賞したほどの洗練された一台なのです。
#ハンドルが持ちやすくて使いやすい据え置き式のジェットウォッシャードルツEW-DJ75
実際に手にしてみると、タンクが大容量なだけでなく、ハンディとは違ってハンドルの部分が軽く、口の中で自在に動かせるという魅力があります。水流のオンオフも片手ですぐにできるので、これならお風呂で使わなくても、洗面台を濡らさずに気持ちよく洗浄できそうです。…とここで設計を担当されたパナソニック株式会社くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部の主任技師、星野 純一氏が「丸の大変さを聞いてください」と割り込んできました。
#設計を担当したパナソニック株式会社くらしアプライアンス社ビューティ・パーソナルケア事業部の主任技師、星野 純一氏
星野:「企画やデザイン担当者から円柱形というオーダーは来たものの、丸というのはけっこうムダなスペースが出来てしまって、すべての部品を入れ込むのは大変だったのです。汚れに配慮するために継ぎ目のないような設計にもしなければなりませんし。途中、楕円のプランも浮上しましたが、円筒形の美しい仕上がりを見てフランスのバイヤーが『セクシーだ』と言ってくださったこともあり、『絶対に丸』となりました」
設計の方のがんばりで見事に素敵なデザインと使いやすさが両立できてよかったです。
■ポイント磨きと舌磨き、充実のノズルで歯列矯正の人にもおすすめ
ジェットウォッシャードルツには、2020年6月発売モデルからポイント磨きノズルが登場しています。
谷口氏:「パンなど粘性の高い食べかすは、水流できれいに除去できますが、こびりついた歯垢はポイント磨きノズルを使うと本当にきれいになります。先端を90度に曲げた狙いやすいノズル形状と、細かい歯間部分にも届きやすい円錐状のブラシがポイントです。他社製品を参考にするのではなく、自社の電動歯ブラシの形状を口腔洗浄器に応用するとどうなるのだろうという視点での開発をしているので、仕上がりには自信がありますね」
コロナ禍でマスクを着ける日常になっていることもあり、歯列矯正をする人が増えています。ひと昔前は中学生くらいになると始めた歯列矯正ですが、今は子どもと一緒にお母さんも歯列矯正する例も多いと聞きます。歯列矯正をしている人にはポイント磨きノズルが付いたジェットウォッシャードルツは必須のアイテムかもしれません。
#デリケートな舌を優しくきれいにする「舌磨きノズル」は外周から水が出る仕組みに。手前のスタンドにあるのがポイント磨きノズル。グリーンの部分がブラシ状になっている
2021年6月発売モデルからは舌磨きノズルも加わりました。
谷口氏:「舌はデリケートな部分なので優しく磨く必要があります。それにはやはり水を出しながらというのがいいんですね。この舌磨きブラシは、外周から水が出る仕組みになっていて、痛くなくて驚くほど舌の汚れが取れます」
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ハンディタイプを実際に使ってみていますが、「歯磨きしても、必ず何かしら出てくる。使っている様子を人に見せたくない、だけどすごい!」というのが正直な感想です。歯間ブラシやフロスを使う人も多いですが、そういう消耗品を使わずとも、はがれた汚れを洗い流してすっきりできる口腔洗浄器「ジェットウォッシャードルツ」。開発の歴史や新製品の誕生秘話を聞いて、ぜひとも多くの人に使ってほしいと願ってやみません。
■ジェットウォッシャードルツ EW-DJ55
https://panasonic.jp/teeth/products/EW-DJ55.html
■ジェットウォッシャードルツ EW-DJ75
https://panasonic.jp/teeth/products/EW-DJ75.html
【取材・執筆】神原 サリー(かみはら さりー)
新聞社勤務、フリーランスライターを経て、家電ライフスタイルプロデューサーとして独立。「企業の思いを生活者に伝え、生活者の願いを企業に伝える」べく、東京・広尾に「家電アトリエ」を構え、テレビやラジオ、雑誌やウェブなどさまざまなメディアで情報発信中。家電を“感動ベース”で語れる担い手として、その独自の視点にメーカーの開発者やマーケティング担当者のファンも多い。商品企画やコンサルティングの仕事も多数。
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