浅草初!雷おこしの製造工程を見学できる「浅草工房」をオープン。創業200年の老舗・常盤堂雷おこし本舗の挑戦
浅草初!雷おこしの製造工程を見学できる「浅草工房」をオープン。創業200年の老舗・常盤堂雷おこし本舗の挑戦
「創業からの200年余り、浅草の地に根を張り、雷門と一緒に歩んできました」
1997年に常盤堂雷おこし本舗に代表取締役社長に就任した穂刈 久米一(ほかり・くめかず)は、これまでの事業をそのように振り返ります。穂刈家が常盤堂雷おこし本舗の事業を継承したのは、1946年のこと。先々代、先代に次いで、久米一は3代目の社長に就任しました。62歳になった現在もトップとして経営の指揮を取り、長男の雷太が専務取締役を務めます。
浅草・浅草寺の参拝土産として長く親しまれている「雷おこし」の製造・販売を行う常盤堂雷おこし本舗は、続くコロナ禍で一つの事業転換を決意。自社ビルの「雷5656会館(かみなりごろごろかいかん)」で長く営業してきた団体旅行客向けレストランを終了し、改装工事を経て、2022年4月に雷おこしの製造工程を見学できる「浅草工房」をオープンしました。
同時に、雷おこし作りの体験も提供をスタートし、家族連れを中心に楽しんでいただいています。当社のヒット商品や浅草初の試みとなる「浅草工房」の狙いについて、穂刈 久米一、雷太、雷5656会館の館長を務める宮倉 隆行(みやくら・たかゆき)が語ります。
既成概念を壊す「生おこし」「塩おこし」がヒット
ーー「雷おこし」の誕生の背景を教えてください。
久米一:起源をさかのぼると、おこしは約250年前に中国で生まれた菓子です。日本では関西発祥の粟(あわ)おこしがもっとも古いおこしで、東京で雷おこしを初めて販売したのは1795年に創業した当社で、家を「おこし」、名を「おこす」縁起菓子として知られ、うるち米を使用しているのが特徴です。関西の粟おこしを参考にしながら東京流にアレンジし、雷門の横で販売されている参拝土産として広まっていきました。
週末は雷門の横にある店舗で実演販売を行っており、観光客のみなさんにできたてを食べていただくこともあります。
ーー雷おこしといえば、「サクサクした食感」や「程よい甘さ」が特徴ですが、常盤堂雷おこし本舗では、これまでの概念を変えるようなオリジナル商品も人気のようですね。
久米一:あえて定番商品と差別化した「生おこし」や「塩おこし」がヒットしています。「生おこし」は、もち米を使用した種と水飴、卵白、あんこなどの副原料を加えるといった、通常の工程とは異なる製造方法を採用しています。
これまでにないやわらかい食感を持つ半生タイプの「生おこし」は、幅広い層に好評で、当社の「新たな定番」となりつつあります。
夏季限定の「塩おこし」は、専務取締役の雷太が開発を担当しました。開発中には親子ゲンカもありましたが(笑)、夏場に食べたくなる“しょっぱい味”のおこしは、予想以上にヒットしています。
雷太:社長が懸念したのはパッケージの風神雷神のイラストでした。「こんなやせ細ったのはダメだよ」と。ですが、私には従来の味やパッケージイメージを一新したい思いがあり、「任せてほしい」と意思を貫きました。結果的に、若い世代の女性客の目に留まり、ヒットにつながりました。
味のこだわりとしては、甘味度を抑えた砂糖を使用して塩を引き立たせた「のりしお」がおすすめです。つい何個も食べたくなるような絶妙な塩加減になったと思います。
久米一:この結果を見て、若年層向けの製品開発は雷太に任せて、あまり口出ししないでおこうかなと(笑)
ーー伝統は守りつつ、新商品にも果敢にチャレンジしている、ということでしょうか。
久米一:私の経営のモットーの一つは、「伝統は改革である」です。創業してから今までの間に雷おこしの味は、どんどん変化しています。200年前と今では食生活がガラリと変わっているわけですから、お菓子も変わらなければおかしいだろうと。変わらないことを大切にするというより、その時代に合った雷おこしを作りたいと考えています。
コロナ禍の業態転換。「浅草工房」のオープンへ
ーー常盤堂雷おこし本舗では、2022年4月に雷おこしの製造工程を見学できる「浅草工房」をオープンしています。この背景を教えてください。
久米一:直接的なキッカケは、新型コロナの影響で浅草への団体旅行客が激減したことでした。浅草への外国人観光客は、2018年の953万人から2020年には145万人となり、国内の修学旅行生もほぼゼロに。運営していた団体旅行客向けのレストランはガラ空き状態になりました。そこで、レストラン事業を終了して、雷おこしにより親しんでもらえる「浅草工房」への事業転換を決断しました。
新型コロナがいいキッカケではありましたが、実はコロナ禍以前からレストラン運営に課題があったのは事実でした。私の父にあたる先代が「修学旅行生の思い出づくりに使ってほしい」とビル内の3・4階にレストランを作り、団体旅行客に食事を提供していました。しかし、500人というキャパゆえに質のいい料理の提供が難しかった。団体客は単価も低く、売上にもつながりづらい。
先代は、「食事後にダウンシャワー的に2階の土産物売り場に降りてきて、雷おこしを買ってもらえれば」と考えていましたが、実際はほとんど誰も立ち寄りませんでした。素通りして、仲見世通りに向かってしまうんです。
先代が思い描いていた理想とは違う現実があり、私には悶々とした気持ちが拭えませんでした。そこで、コロナ禍の変化をキッカケに、「うちにしかできないことをしよう」と事業転換を決めました。最初に口を開いたのは私でしたが、雷太の賛同があったから実現できたのだと思います。
雷太:2020年の年末に話し合って事業転換を決め、その1年後に工事がスタート、2022年4月に「浅草工房」として、新出発を切ることができました。
ーー「浅草工房」では、どんな体験ができるのですか?
宮倉:雷おこしの製造工程の見学、及びオリジナルの雷おこしを作る2つの体験ができます。体験料金は、スタッフが案内する見学ツアーがオリジナルのお土産付きで1,100円、自分で雷おこしを作る体験が2,420円(いずれも税込)となり、所要時間は各30分ほどです。
4階では雷おこしの種(パフ)が製品になるまでの工程を、3階では製品になった雷おこしを函・袋に詰めて、商品になるまでの工程を見学できます。当社の歴史、おこし種の種類、製造工程、商品内容までスタッフがくわしく説明するので、雷おこしについて深く知っていただけると思います。
工房で製造しているのは「生おこし」で、できたてのふんわり柔らかい食感を試食していただくこともできます。「試食した商品がおいしかったから買いたい」と言ってくださる方もいて、大変うれしいですね。
雷おこし作りの体験では、自分好みの味でオリジナルの雷おこしを作ることができます。季節限定の味もあり、春はいちご、夏はカレーなど、ユニークな味も好評なんです。普段はなかなか体験できないので、ぜひ家族や友人同士でワイワイと楽しんでいただきたいですね。
いずれも、電話での予約、当日の来店でも受け付けていて、夏休み時期の土日を中心に予約が入り始めています。夏休みの自由研究としても、親子で一緒に取り組めるのではないでしょうか。
激変した「浅草」の今。老舗企業が担う役割は
ーー近年、浅草の町の様子は、どのように変化していますか?
久米一:私が事業を継承した1997年頃は、浅草は年配者であふれていました。その後も年配者からの人気が続き、特に2005年8月につくばエクスプレスが開通したときの影響はすさまじいものでしたね。茨城県から年配者の観光客がどっと押し寄せ、業績も非常に好調でした。その後、インバウンドの波があって外国人観光客が激増し、コロナ禍でまた様変わりました。最近は国内の若い観光客が中心ですね。
レンタルした着物や浴衣を着て、スマホやカメラで写真を撮りながら歩いている姿を多く見かけます。浅草には着物や浴衣に似合うスポットが多いですし、SNSでも映えますよね。
浅草は、季節感が強く表れている町でもあります。毎年5月に開催される三社祭、夏の風物詩でもある隅田川の花火、年始の初詣など、季節に応じたイベントごとが盛んで、季節を感じながら過ごすのに最適な町だと思います。近年は、コロナ禍でなかなかイベントが開催されていませんが。
雷太:現在は外国人観光客の姿もチラホラ見かけるまでになりましたが、まだ以前の活気は戻っていませんね。
ーー老舗企業として、常盤堂雷おこし本舗は、どのように浅草を盛り上げたいと考えていますか?
久米一:私たちは、浅草の玄関口である雷門の横で商品を販売しています。いち浅草人として、おもてなしの心で観光客のみなさんをお迎えするリーダーであるべきだと思っています。実演販売をしながらお客様と会話をして、私が知る浅草の魅力をお伝えしています。
例えば、「浅草でしか食べられないオススメは?」と聞かれたら、「絶対どじょうだよ! くさみがなくておいしいよ!」と、どじょう専門店をご案内します。また、お酒が好きな方には、デンキブランというアルコール度数が高いカクテルを提供している明治13年創業の神谷バーをご紹介します。
そうやって浅草を観光した後、参拝土産として雷おこしを持ち帰って楽しんでいただけたら、うれしいですね。自分自身へのお土産としてはもちろん、家族や友人、職場の方などのお土産としてもご利用いただきたいです。
私には、「ギフトはデイリーから始まる」という価値観があります。自分が食べてみておいしいと思うから、大切な人にも食べてほしい。ギフトはそういうものだと思っています。当社は直営店であることから、試食も提供しています。試食だけでもいいので、ぜひ一度、雷おこしを味わってみてほしいですね。
目指すは、“なつかしいお菓子”からの脱却
ーー長く事業を継続する中で、課題だと感じていることはありますか?
久米一:先程、浅草の観光客が若い世代に移り変わっているとお話ししましたが、これまで年配者をターゲットにしてきた私たちは、若い世代へのアピールが苦手なんです。これからの浅草は若年層に好まれる町として、町おこしをしていかなければいけないと感じます。
今回オープンした「浅草工房」にも、若い世代の人たちに雷おこしを知ってほしい、親しんでほしいという思いが込められています。浅草は、見どころやグルメスポットは豊富ですが、時間をかけて何かを体験するような施設が少ないんです。ぜひ観光プランに「浅草工房」の見学と雷おこし作り体験を組み込んでいただけたらなと。
商品開発においても、若年層に寄り添った商品作りをしたい。夏季限定の「塩おこし」が若年層にもヒットしている実績を踏まえ、甘味度が低い、しょっぱい味のバリエーションをもっと作りたいと考えています。“なつかしいお菓子”という長年のイメージから脱却し、若い世代に関心を持ってもらう。それが、現在の最大のチャレンジです。
雷太:「生おこし」も、若年層に好まれる秋冬向けの新しい味を開発している最中です。僕ら世代になると、そもそも雷おこしを知らない人、聞いたことはあるけど食べたことがないという人が多くいます。まずは雷おこしの認知を広げ、ひいては誰でも知っているお菓子にしていきたいと思います。
久米一:2021年6月にオープンしたユニクロなど、大手企業も進出してきている浅草において、生き残れるのは他にはないオリジナリティを持つ店舗のみ。どじょう専門店やデンキブランを売る神谷バーが、まさにその好例です。常盤堂雷おこし本舗も、競合とは一線を画するオリジナリティを追求し続けます。
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