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【リコー社内起業家インタビュー】「3D ピコ水力発電システム」で新興国の電力不足解決に挑む「WEeeT-CAM」

著者: 株式会社リコー

真っ暗な夜も電気がついて、明るく電気が照らしてくれる。夏は涼しく、冬は暖かく、テレビや音楽のつく部屋で快適に過ごすことができる。しかし、この光景が「当たり前」ではない国や地域だってたくさんある。

 

3Dプリンターで成形した羽を用いた装置を使い、少ない水力で発電可能な「ピコ水力発電システム」。これらを用いて新興国の電力不足問題に取り組んでいるのが、TRIBUS 2019で採択されたリコー社内起業チーム「WEeeT-CAM(以下、ウィットカム)」。ウィットカムは、2020年度の独立行政法人国際協力機構(JICA)の「中小企業・SDGsビジネス支援事業」にも採択され、フィリピンの農村部での電力供給だけでなく働く現場のDX化にも取り組み、現地の社会問題解決に挑む。また、工場排水や地域の用水路などを水源として使用し、再生可能エネルギー活用促進を目指す。

今回は7名のメンバーにプログラム参加の経緯、これまでの苦労ややりがい、今後の展望について伺った。


インタビュイー

斎藤啓 株式会社リコー TRIBUS推進室:リーダー、企画営業、材料研究・開発、事業推進

三宅啓一 株式会社リコー デジタルサービスビジネスユニット 環境・エネルギー事業センター :水力発電関連技術全般 

清水孝幸株式会社リコーTRIBUS推進室:材料開発、ワークショップ企画設計

林篤司 リコーエレメックス株式会社 産業機器事業部:水力発電装置開発、メカ設計

尾崎大輔株式会社リコー TRIBUS推進室:材料開発、アプリケーション開発

 

黒田真一郎 リコーイメージング株式会社 PENTAX事業部:営業、企画

赤堀久美子リコージャパン株式会社 経営企画本部:JICA企画、プロジェクトコーディネーター

 

 

 

これまでの失敗を活かして装置を開発

 

ーーTRIBUSに応募したきっかけを、教えてください。

 

 斎藤「僕はもともと3Dプリンターの部署で、材料開発や研究、将来構想企画などを担っていました。育ててもらったリコーに仁義を尽くしたいという気持ちと、そこで培ったリコーの3Dプリンターの技術で世界を変えたいという強い気持ち、そして、もともと興味のあった新興国でのビジネスを掛け合わせて社会起業家になれないかと考え始め、業務時間や予算の支援を受けながら新しい事業開発に挑戦できるTRIBUS に応募しました」

 

ーーなぜ、新興国へ興味を持つようになったのでしょうか。

 

斎藤「 学生時代の東南アジアに旅行した際の現地の人々の心のやさしさに触れた事に加えて、インドのマザーハウスでボランティアした時の体験、そして欧米での仕事の経験を通じて、

私個人としてのアイデンティティの中で特性や機能を一番発揮できるのが、このアジア新興国という領域であると確信を持った為、専門分野としても興味が深まっていきました。新たに生み出す技術とビジネスの種が育つ事で、事業を通じた国際貢献のイメージが出来上がりました。毎年の数十パーセント伸びる国でリープフロッグの現象を起こしてやろうと。

応募するTRIBUSのプロジェクトは『多くの人が関わる水にまつわる問題を3Dプリンターを用いて、社会課題を解決するビジネスを生み出す』

にしようと。そしてこの軸で発展していきました。」



ーー「3Dピコ水力発電」の開発に至った経緯を教えてください。

 

斎藤「最初は、工場排水などの汚水をきれいにして発電する仕組みを考えていたんです。しかし、実際にフィリピン・インドネシアの現地で話を聞くと『汚水処理よりも先に、低コストで発電できる事業を各国の政府・要職者が求めている』というニーズがわかり、シフトチェンジすることになりました。その結果、当初一緒に動いてくれていたメンバーの中には、別のプロジェクトに進んだり、離れていく方もいたんですが、一方で三宅さんをはじめとする、今いるメンバーが興味を示して参画してくれました」

 

三宅「以前、水力発電の事業の立ち上げに関わっていた経験があったので、斎藤さんからプロジェクトに関して相談を受けていたんです。そのうちにだんだんと…という形です(笑)。当時、社内での水力発電の事業はうまく軌道にのりませんでしたが、その時に得た知識や技術を活かして力になれるんじゃないかと」





斎藤「ピコ水力発電は、少ない水量でも発電可能で、農業用水を活用できるのがポイントです。最初の教育モデルは、三宅さんが構想し、金属で自前で作ってくれて、それを3Dプリンターで作れるように改良していきました。3Dプリンターで作ることで装置が安価になり、3Dプリンターさえあれば、どんな国や地域でも作ることができる。ビジネスとしても、展開しやすいと考えたからです」

 

林「私は水車のプロペラなど、ピコ水力発電の装置の設計を担当しています。これまでは固体を扱う装置の機械設計が多かったんですが、今回は水を扱うこと、さらに環境や使用条件によって装置をカスタマイズしないといけない。そこが難しくもあり、自分の技術を鍛えられる面白さもあるところですね」

 

清水「私は、林さんが書いた設計図を元に、3Dプリンターを使って装置を造形します。当初は装置の造形に適したインクがなかったため、材料開発から始まりました。今はそれが形になってきたので、次の段階として環境に負担がないインクの開発を尾崎さんとともに進めています」



尾崎「清水さんと一緒に3Dプリンターのインクの開発や、材料全般を扱う業務を担っています。リコーでインクジェット用のインクなどの開発を行う部署に所属しているのですが、入社前から3Dプリンターのインクの開発や新規事業の立ち上げに興味があったので、意欲をアピールして、なんとか参画させていただきました(笑)」

 

ーーメンバーは今、何人いらっしゃるんですか?

 

斎藤「私と今話してもらった5名が、主に技術開発を担当しています。新興国に関連する業務に携わっているのが、赤堀さんと黒田さん。それ以外にも僕らがヘルプを求めると、TRIBUSコミュニティに参加してくれてる方々が、プロジェクトの進み具合に応じて、スポットで助けてくれるんです。

例えば水車羽構想プロジェクトでは、3Dプリンター用のモデル化に、リコーフューチャーズビジネスユニットの長谷川さん、3水力の羽シュミレーションではリコーテクノロジーズの水野さん、リコーフューチャーズビジネスユニットの吉沼さん、吉田さん、テーマ全体のサポートとして営業・企画ではアジア・パシフィック極担当営業の小泉さん、事務関係では田村さんという感じで、現状のメンバーの力では足りない所を、本業の隙間を練ってバランスを鑑みながら臨機応変に色々と関わってもらっています。


チームメンバーである赤堀さんと黒田さんは、現地のニーズがなかなか見えてこないという課題に対して、TRIBUS事務局を通じて紹介していただきました。赤堀さんは途上国で、政府やNGO、JICAと連携しながら事業を進めた経験をお持ちでしたし、黒田さんは、フィリピンのセブ島でJICAの青年海外協力隊として働いていた経験があり、現地のことに詳しいんです。お二人から得た情報をもとに『現地の困りごとは何か』を本当の意味で理解したことでようやくテーマが定まり、本格的に物事が進んでいきました」



現地の「本当の困りごと」を理解する

 

ーー「現地の困りごと」とは、どういったことでしょうか?

 

黒田「今なお、農村部などでは十分に電力が供給されておらず、インターネットが普及してからは都市部との情報格差、生産性の低さによる貧困、教育へのアクセスが問題になっています」

 

赤堀「そういった現地の問題と、リコーがもつソリューションを掛け合わせて課題解決につなげられないかと詰めていき、JICAが募集する「中小企業・SDGsビジネス支援事業」 に提案して採択されたのが『3Dピコ水力発電による働く現場のDX支援事業』です。安定的に電力を供給するだけでなく、インターネットなどのインフラ機材の提供、農作物の販売スキルの向上、農業の協同組合の管理の業務の効率化などを含めてパッケージ化してサポートを行います。また、教育現場には、プロジェクターや母語を用いたデジタル教材を提供し、子どもの学習意欲向上の支援を目指します」

 


斎藤「その結果、農業協同組合の組織化や、会計スキルなどを持った人材の活用など、地域経済の発展や貧困削減につながる事例を作っていきたいです。現地の課題に対して響くものを提案できたというのは、黒田さんが現地の人たちやNGOとつないでくれて、赤堀さんが僕らの提案をフィリピン政府やJICAが納得できる言葉に変換してくれたというところが大きかったと思います」

 

ーープロジェクトが成功する秘訣は?

 

黒田「一方的に『こういう素晴らしい仕組みがあるんだよ』『これ使ったら生活向上するよ』と言って、現地の人に渡したところでそれが活用されるとは限りません。私たちが提供できる技術や仕組みを、現地で生活してる人達が本当に必要なところのレベルまで、落とし込んで初めて意味を成します。

 

難しい面で言えば、不便なことで成立している現地のビジネスもあるので、私たちがいきなり入り込むことで、現地の人間同士の経済循環やコミュニティが壊れてしまうこともある。けれど『IT格差をなくす』という使命においては、やはりやりきらなければならない部分もあります。そういうことも考えながらやっていかなくてはならないと思うんです。

 

また、去年フィリピンで大きな台風が直撃した際に、およそ2ヶ月、都市部でも電気が供給できない状況が発生していました。こういった非常事態にも私たちの技術を役立てることができると証明できれば必ずうまくいくと思いますし、他のアジアの国やアフリカ、南米などにも展開していけるんじゃないかと思っています」


斎藤「現地の状況を詳細に理解したことで、ただ目先の解決に取り組むのでなく、政府や国連が目指す社会実現のために、マクロな視点で社会課題を理解しなきゃいけないと気づくことができました。現地に足を運んだことで多くの繋がりができてきたので、コロナが落ち着いたら、再びプロジェクトを進めていきたいと思っています」

 

「ピコ水力発電」の必要性と理解を深める

 

ー新興国で動きが進みづらい状況下、国内ではどのような動きをされていたのでしょうか?

 

斎藤「国内では近年、安心で安全な電力を求める声も多くなってきています。ピコ水力発電は、農業用水を使用するため、環境を生かしてエネルギーを生み出すことができる。またその地域でエネルギーを生み出すことにより、送電コストの削減や、災害時など緊急時のエネルギー確保につながります。

今年の3月に3Dプリンターを活用したピコ水力発電のレンタルサービス を開始しましたが、そういった点から地方自治体や企業からの注文や問い合わせが殺到しています」

 

ー京都里山SDGsラボ「ことす」では、どういった取り組みをされているのですか?

 

斎藤「環境省のプロジェクトに採択され、その中で京北の地域住民の方に向けたイベントやワークショップを開き、ピコ水力発電がどのようなものかを理解していただく活動を行っています。農業用水を活用する場合は、地域住民の方の許可が必要なので、私たちのプロジェクトがどのようなものかを理解していただく必要があるんですね。そのときにいきなり装置を持ってきても理解しにくいと思うので、農業用水で発電して沸かしたお茶を飲んでもらったり、参加者が持参した使用済みのプラスチックを利用して、3Dプリンターでオブジェを作成したり。お子さんからご高齢の方まで楽しみながら、再生可能エネルギーや、ピコ水力発電システムの活用方法に対する理解をしていただける機会を設けています」




清水「子どもや親御さんに向けて『水力発電ってこういうことだよ』と話すことで、理解を深めていただけたらいいなと思って実施しています。自分は長年技術者としてやってきているので、最初は人前に立って話すのは緊張もあったのですが(笑)。でも、どうやったら楽しく取り組んでもらえるのか考えることで、技術とは違う部分も成長に繋がっていると感じています」

 

斎藤「成長という意味では、技術者が営業、販売、企画など幅広い分野に関われる経験は、社内ではあまりないかもしれないですね。先ほどの環境省のものとは別に国のプロジェクトにも関わっていますが、研究者や技術者として、国の政策に寄与するような技術・事業開発に参画できるのは非常に名誉なことですし、特にこのチームが代表となり国の委託事業に参加させてもらえる経験は、非常に大きかったと思います。提案が通るような内容にしなきゃいけないと頭を悩ませることで、チーム全体が成長できていると思っています。これから実際のプロジェクトが始動していきますが、私達の課題意識がソリューションを生み出し、社会を変える一歩になるかもしれないと思うと非常にワクワクします。」

 

赤堀「私は21年4月から、リコージャパンでサステナビリティ推進を担当していて、ウィットカムのフィリピンのプロジェクトにはボランティアベースで関わっています。フィリピンの取り組みをサポートしながら、国内での取り組みをリコージャパン内にも紹介し、他の地域にも広げていけたらいいなと思ってます。今後、小規模の再生可能エネルギーが地域ごとにつくれるようになることで、日本の地域ならではの面白い使い方も、出てくるのではないかと思います」





新興国や地域を活性化したい

 

ープロジェクトに対する想いを、お一人ずつ教えていただけますか。

 

斎藤「ウィットカムが立ち上がった当初から目指すのは、『事業を通じて新興国を活性化する』こと、3Dプリンター技術を会社と共に発展・普及させる事です。SDGsウォッシュと言われないように真摯に現地の文化を理解しながら、その土地の人たちの目指す未来を一緒につくっていきたいと思っています。またビジネスとしても、この小さなプロジェクトから始まった事業がゆくゆくは会社の一事業になるように、使命感をもって、諦めずに続けていきます」

 

三宅「新興国で困りごとがある方達と一緒に歩んでいくことで、「リコーが来てくれていいことがたくさんあった!」と喜んでくれるようなプロジェクトにしていきたいですね。またこういった活動を見て、「リコーで自分も社会に貢献したい」と思う人が、入社してくれるとうれしいです」

 

林「私は学生の頃から『持続性のある社会を作る』ところに興味があり、大学では効率の良いものづくりの研究に取り組んでいました。今、まさにサステナビリティにつながるプロジェクトに関われているので、この事業をもっと社会が豊かになるものに発展させていきたいなと思いますね」



清水「私はこのプロジェクトを通じて、社内でもチャレンジできる環境をつくりたいなと思っています。もちろん保守的にならざるを得ない部分もあるとは思いますが、せめて新しいことにチャレンジする人を応援できるような環境づくりができたらいいなと思うんです。ですからまずは僕たちがこのプロジェクトをしっかり成功させ、TRIBUS に参加する他のチームも盛り上がり、リコー社内でもその波が伝播していけばうれしいですね」

 

尾崎「僕は『お店で購入するような感覚で、欲しいものを自分で作れる世の中にしたい』という思いがあります。例えば3Dプリンターでピコ水力発電をつくるのも、僕が目指す夢の大きな手前のことだと思うんです。このプロジェクトに関わることで、必要なものを必要な条件に合わせてものをつくり社会に貢献すること、そしてそれを実現するために、自分たちでお金を生み出すこと。その両輪を学べる貴重な機会ということもあり、大きなやりがいを感じています」

 

黒田「私も50代を目前にして、これからが会社員として最後の集大成の時だと思っています。これまでの経験や知識を、自分の人生で深い付き合いのあるフィリピンの人たちが豊かに暮らせるために活かしていきたいと思っています」

 

赤堀「これまでサステナビリティやSDGsに関わる中で、その本質が理解されずに、言葉だけを後付けしている取り組みもあると感じています。本質的に社会課題解決につなげるためには、現場の真のニーズや困りごとから、関係者とともにソリューションを作っていくってことが大切です。。それが現地で使われ、広がってこそ、本当に社会を変えることに繋がるんだと思っています。そういう意味でも、必ずこのプロジェクトで現地でビジネスを作るところまでやり切りたいですね。そしてこの事例が、SDGsや社会課題の解決につながるビジネスとはどういうものかを伝えられるモデルになるるとすごく嬉しいなと思っています」





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