【井熊均×中村誠司による創業10周年記念対談 】地熱発電でサスティナブルな地域創生を実現するために大切なこととは
熊本県小国町で地熱発電を手掛ける「ふるさと熱電株式会社」。創業10周年を記念した企画第1弾は、代表取締役会長の井熊均と創業者である中村誠司による対談だ。「創業の経緯」や「地熱発電にとって最も大切なこと」など事業にかける熱い想いを語り合った。
ふるさと熱電があえて難しい「地熱発電に取り組んだ理由」
井熊 均
ふるさと熱電株式会社 代表取締役会長
1983年早稲田大学大学院理工学研究科修了後、同年三菱重工業株式会社入社。1990年に株式会社日本総合研究所入社、産業創発センター所長を経て、2006年より同社執行役員、2014年より同社常務執行役員、2017年同社専務執行役員、2021年同社フェロー。2020年株式会社DONKEY取締役、2021年J-NEXUS北陸RDX総括エリアコーディネータ、北陸先端科学技術大学院大学経営協議会委員、2021年株式会社フォワード取締役会長、2022年ふるさと熱電株式会社代表取締役会長。早稲田大学大学院非常勤講師、内閣府官民競争入札等監理委員会副委員長、中国国家発展委員会顧問、 委員なども経験。専門分野は事業の計画・提携・運営、産業政策、ベンチャービジネス、環境産業、公共政策、地域経営、中国・アジア市場など。著作数は70冊以上。代表的な著書に『PFI公共投資の新手法』、『電力取引ビジネス』、『IoTが拓く次世代農業 アグリカルチャー4.0の時代』、『私はこうして社内起業家/イントラプレナーになった』、『なぜ、トヨタは700万円で「ミライ」を売ることができたか?』『ゼロカーボノミクス』などがある。
井熊:ふるさと熱電が設立された2012年は、FIT(フィット)制度※がスタートした年でしたね。日本中が「太陽光発電」に注目し、各地で太陽光パネルが続々と建設されていきました。しかし、地熱発電に取り組もうとした人や企業は、ほとんどなかったと思います。
※「固定価格買取制度」とも呼ばれるFIT(フィット)制度は、電力会社が、再生可能エネルギーで発電した電気を、固定価格で買い取ることを国が保障する制度。
中村 誠司
Team Energy株式会社 代表取締役
Team Energyグループ代表 1968年4月生まれ。現在54歳。大学卒業後、大手証券会社へ入社。 「顧客が得する思いを感じてもらえる仕事がしたい」と決意して退職。1993年にコスト削減コンサルティング事業を始め、中央電力の前身であるメリックスを創業し、省エネメーカーを作り特許件数5件取得。2003年に日本で初めてマンションの電力一括受電サービスを開始。翌年中央電力を設立。 2018年「夢と事業が育ちあう森づくり」「共経営」を進めるべく、Team Energy株式会社を設立、グループ経営に乗り出す。
中村:そうですね。地熱発電に取り組むのは、時間もかかるしコストもかかりますから。短期的に見たら、太陽光発電に取り組んだ方が効率的だった。世間の風潮がそうなっていくのは、ごく自然な流れだったと思います。
井熊:しかし、そこであえて中村さんは地熱発電に真っ先に取り組んでいきましたよね。今でこそ、国際情勢が不安定ということもあり、自己資源を活用すべく地熱発電に注目が集まっていますが、当時は違った。つまり、中村さんは、10年先の流れをいち早く取り入れたわけです。それはなぜでしょうか。
中村:きっかけは、東日本大震災でした。被災地の光景を目の当たりにして、「自分も何かできることをしなくては」と居ても立ってもいられなかったのです。日本は地震の多い国なので、また同じようなことが起きる可能性は高い。「発電所の在り方を変えられないか?」と思いました。
中村:最初に考えたのは、「発電所を船の上に建設するのはどうか?」という案でした。しかし、この案は、民間企業だけで取り組むのは難しかった。調べていくうちに、国のお金で大々的に進めていくようなプロジェクト規模になってしまうことがわかったのです。
中村:そこでたどり着いたのが「地熱発電」でした。日本は、地熱資源量が世界3位の地熱資源国ですから、これを活用しない手はないと考えたのです。ただ地熱発電は、コストも時間もかかる上に、地元の方から反対されやすく、難しい分野だった。でも反対されるのも当然なんですよ。地熱発電ができる場所は、多くの場合、温泉地として栄えている場所でもあります。
中村:古くから、地元の人々が生活の一部として守り続けてきた地熱、温泉。それを突然やってきたよそ者が活用し始めたら、誰だって嫌ですよね。
中村:大切なのは、地元の人と一緒に取り組んでいくこと。特に地熱発電は、地域と共生していくことが重要だと考えています。土地なら、どこまでが自分の土地か計測されて境界線が明確になっていますが、地下はそうではありませんから。そういった曖昧な領域なら、なおさらです。
中村:だから、ふるさと熱電では、発電で発生した収益はきちんと地元の方々とシェアしているのです。これは、エネルギービジネスの基本姿勢だと思います。どんなビジネスもそうですが、地元の方々とうまく共生できなければ、成功はありえません。
地元の人々が大切にしてきた資源で得た利益は、地元にしっかりと還元・シェアしていくべき
井熊:ビジネスを成功させる上で「競争優位」と「シェア」は大きなポイントですよね。
今回の場合、難しい分野に挑んでいくことによって優位性を作り出し、そこで得た利益を地元の方々とシェアしていく。この二つのポイントがあったからこそ、今があるのだと、改めて実感しました。
中村:そうですね。特に自然エネルギーの分野においては、地元の方としっかりと合意形成をすることが重要だと思います。
井熊:おっしゃる通りですね。特に再生可能エネルギーにおいては、地域と結びついていることが多い資源ですから。不動産を購入すれば、その土地で何をしても良いわけじゃない、ということですね。その最たるものが地熱であったと。
中村:そうなのです。地熱というと「地下の熱」だと思われている方も多いと思いますが、実はもう一つ大事な意味があって、それは「地元の熱」なのです。だから「土地を買い占めてここは私たちの場所だ」は通用しません。お金を払っても人の地元を奪うことはできませんから。
井熊:地下熱じゃなくて地元熱。たしかに、こういった想いをもっていれば、土地の権利主張をせずとも、共生していけるはずですね。
中村:やはり地下の熱という考え方ではなく、地元の熱だという意識をしっかり我々は持たなくてはいけません。
今後はエネルギーだけでなく、地域もサスティナブルになる仕組み作りを
井熊:再生可能エネルギーは、サスティナブルエネルギーといわれることも多いですが、やはりエネルギーだけでなく、地域がサスティナブルにならなければダメですよね。自分の子供や孫が仕事を得て、住み続けたいと思えるような地域にしていくことが重要です。
中村:そうですね。だからこそ、地域で生まれた地熱によって得た利益を、いかに地元に還元できるのか。地元の人たちとアイデアを出し合い協力しながら、未来に向けてサスティナブルな経済社会を作りあげていくことが大切ですね。
井熊:新型コロナウィルスの影響により、リモートワークが当たり前になった今、東京といった都心部に住む必要はなくなりつつあります。地方に対する見方が大きく変わっている今、地熱発電を進める上で強い追い風が吹いているように感じます。
中村:そうですね。さらに今後は、いかに火力発電依存を減らしていくかも大きなテーマになります。これは日本に限らず、世界にとっても大事なポイントになるでしょう。
再生可能エネルギーのなかでも安定しているのが地熱発電
井熊:近年は、気候変動による影響を避けるために再生可能エネルギーが注目されています。しかし、自然による影響を最も受けるのも再生可能エネルギーなんですよ。そういった意味でも地熱発電の価値は、今後もどんどん上がっていくはずですよね。
井熊:例えば中国では、気候変動による水不足により水力発電が機能せず、計画停電をしています。またヨーロッパでも、偏西風が蛇行したことにより、風力発電による発電量が大幅に減ってしまったこともあります。
中村:その点、日本は地熱に恵まれ、地熱発電は気候変動の影響を受けづらく安定している。同じ再生可能エネルギーでも、地熱発電のポテンシャルはかなり高いように感じますね。
ふるさと熱電は発電会社じゃなくて、地域創生の会社
井熊:先ほどもあったように、地熱というのは、地元の資源であり、大切な財産なんですよね。だから、地熱発電をすることで温泉や観光の資源が奪われてしまうのでは?と感じてしまう。
井熊:でも実際は、そうじゃないのです。地元の方々と共同で運営していけば、雇用が生まれ、そこで働く人も増えていく。発電によって得た利益もシェアしていけば、温泉街もさらに発展していく。私たちが目指すのは、そういった仕組みです。「地下のエネルギーを活用すれば、こんなに素晴らしい生活も送れるんだ」と、誰もが実感できるような未来を作っていきたいですね。
井熊:例えば工場を誘致して地元に雇用を生むだけではもったいないですよね。そういった地域のほとんどは、工場が去ったあとに、厳しい状況に陥ってしまう。重要なのは、地域にある資源を使って持続可能な仕事ができるような場を作っていくこと。
中村:地熱発電は、地元の熱を使って発電するわけですから。地域にある資源を使うという意味でも、素晴らしい地域創生の手段ですよね。地域の資源を使って、そこでしか作れないような商品やサービスを作っていく。その利益で道や建物を作ったり。こうした良い流れを作っていきたいですね。
中村:いいですね。やっぱり、これからは地元から愛される地域創生をしていくことが必要ですよね。
井熊:その通りです。そして我々の会社は発電会社じゃなくて、地域創生の会社なんだと。発電はそのための手段だという気持ちで、これからも地域の方々と共生しながら進んでいきたいですね。
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