琉球王朝から約300年間受け継がれる沖縄の伝統的歌舞劇【組踊(くみおどり)】を新しい切り口で映像化した「シネマ組踊」とは?
【組踊(くみおどり)】とは、琉球王国時代に玉城朝薫が創始した、琉球独自の歌舞劇。能楽・人形浄瑠璃・歌舞伎・中国伝統劇などの影響を受け創られたといわれ、中国や日本の故事、琉球の民話を題材に、琉球舞踊や琉球古典音楽を基礎として発展。沖縄本土復帰の1972年5月15日には国の重要無形文化財に指定され、2010年にはユネスコ無形文化遺産リストに登録された。
そして「シネマ組踊」は、ほとんど沖縄でしか観られなかったこの伝統歌舞劇を、新しい切り口で映像化するプロジェクト。
沖縄の映画制作を支える一流のスタッフが集結し、組踊の様式美や舞台ではみられない立方の繊細な表情、緊迫感溢れる地謡の音楽、流麗なセリフ回しなど、組踊の魅力をあますところなく映像で捉えることに成功した。
冒頭には案内人宮城さつきによる歴史やみどころの紹介や、本編に字幕もあり、初めて組踊に触れる人も予備知識なしで楽しめる「映画」として、劇場での全国公開が決定。
監督は「アンを探して」でシンガポールの新人映画際(AFFF)で邦人初のグランプリ・監督賞を受賞した沖縄県出身の宮平貴子さん。
シネマ組踊を監督することになったわけ
ーー宮平監督は以前から組踊をご覧になっていましたか?
「以前から観ていたわけでは、ありませんでした。祖母が沖縄芸能が好きで、テレビを通して見てはいたと思うのですが組踊の世界には縁が遠かったです」
ーー「シネマ組踊」を監督されることになった経緯を教えてください。
「作品のプロデューサーである大野順美さん、横澤匡広さんからお話をいただきました。
まずは以前「カラカラ」などで現場を共にした横澤さんから誘われ、それから大野さんを紹介してもらいました。大野さんは東京生まれなのに組踊に興味を持たれて、ついには移住してしまった方で、すごい情熱をお持ちの方。人生を変えてしまうほどの魅力が組踊にある。そこに触発されました」
ーーこの作品はただ舞台を収録するのではなく、最初に解説が入り、全編に現代語訳の字幕も入っています。組踊を幅広い人に楽しんでもらうよう、苦心されたところはありますか?
「初めて組踊を観る人にも”楽しんでほしい”と思ったので、そのヒントをどう伝えるかは苦戦しました。でも事前に聞いた大野さんの解説がすごく面白かったので、今の人にはこの方が伝わりやすいと思った表現はドンドン起用しました(笑)」
役者や演奏家はトップクラスの演者たち
ーー出演されている役者さんや演奏家さんはどんな皆さんですか?
「組踊や沖縄古典音楽をされているなかでも、トップクラスの演者さんを中心にお願いしたと伺いました。出演して頂いた若手の演者さんの中には、沖縄の伝統文化をYoutubeで発信する“リュウカツチュウ”として活動する方もいらっしゃいます。”リュウカツチュウ”の3名は映画の応援大使としても活躍して頂き、映画のクラウドファンディングのリターンで琉球古語で琉歌を作ることに挑戦もしてもらったのですが、20代の方々が演舞を通じて言葉や文化も学び自分のものとしている、そのことに驚き、頼もしく思いました。」
ーー琉歌とは琉球弧で詠われる8・8・8・6の30音による歌ですね。よく聞くと台詞が全部琉歌のスタイルでできている。しかもこの『孝行の巻』は、組踊の始祖玉城朝薫が創ったといわれる「朝薫五番」と呼ばれる5作品の中でも、台詞の量が多いそうですね。
「研究者によると沖縄独特の対句表現が五番の中で最も多いそうです。韻を踏んでみたり、テンポの良さを感じたりと、聴いているだけでも面白い作品で、きっと朝薫本人が楽しんで書いていたのでは、と感じました。」
ーーすでに一般公開された那覇でのお客さんの反応はいかがでしたか?
「映画館で観客の皆さんとお話しすることがあったのですが、皆さん、組踊に関しては、民謡と違い自分には理解できない、少し退屈なものと思い込んでいた方が多かったようでした。でも楽しみ方、内容がわかることで、こんなに素晴らしいものだったのですねと興奮して話してくださった方がいました。涙を流されていた方も多かったです」
ーー最後に、なぜ今この【組踊】を公開する意味をおしえてください。
「昨年は沖縄の本土復帰50年の年でした。沖縄の本土復帰と同時に重要無形文化財に指定された組踊にとっても特別な年でした。一方、私の父母の世代は祖国復帰運動のさなかの沖縄で、多感な時代を沖縄語ではなく将来のために日本語を話せるようになるよう学校教育の中でうながされた世代。沖縄公開時には、いまの50-60代の方々から自身の生まれた沖縄の文化や歴史をほとんど教わっていない「空白の世代」があると聞きました。映画がきっかけで組踊の素晴らしさを知ることができてよかったと言われたことは、とても嬉しかったです。
本作を観ることで、沖縄にははるか昔から大切に継承された素晴らしい芸能文化があることを知ってほしいし、それらを受け継いでいくことに尽力した方々の存在にも想いを馳せる機会になればと思います。」
能や歌舞伎と同様、我が国の伝統芸能として誇るべき組踊。映画の公開で広く知られることを願う。
聞き手・構成 渡部晋也(演劇・音楽ライター)
「シネマ組踊 孝行の巻」あらすじ
屋良ムルチという池に住んでいる大蛇が、田畑を枯らし村々に被害を及ぼしていました。占いによると、被害を抑えるためには14、15 歳になる子どもを大蛇に供える必要があるとのこと。国王は「大蛇の生贄になる者は、その親族全員の生活を保障する」とお触れを出しました。
母親と貧しい暮らしを送っていた姉弟。ある日、2 人が落穂を拾っているときにその高札を発見します。姉は、自分が生け贄になれば母や弟を助けられると弟を説得し、最後にひと目会いたいと母のもとへ帰ります。
母には何も告げず役人のもとへ向かい、「生け贄になるから母と弟を助けてほしい」と申し出ます。役人は、占い師を呼んで姉を祭壇に連れて行きます。祭壇で祈りを捧げると大蛇が出現します。その時、天から観音が降りて大蛇は退散し、姉は救われます。
一方、世間の噂で姉が生け贄になったと知った母は息子を激しく責め、屋良ムルチに向かいます。そこへ、帰途の姉たちと遭遇し、親子は涙の再会を果たします。親孝行をしようとする姉の気持ちに感心した王府は、褒美として姉を王子の妃に、弟を王女の婿にすることを親子に伝えました。親子は喜んで帰途につきます。
【スタッフ・キャスト】
指導 眞境名正憲(伝統組踊保存会元会長、重要無形文化財「組踊」技能保持者)
配役 頭取 宇座仁一
高札持ち 伊藝武士
おめなり 田口博章
おめけり 金城真次
母 佐辺良和
時之大屋子 嘉数道彦
供 伊藝武士・嘉数幸雅・高井賢太郎・砂川博仁
蛇後見 平田智之・下地心一郎
後見 高江洲一平
地謡 歌三線 仲村逸夫・棚原健太・徳田泰樹
箏 池間北斗 笛 澤井毎里子 胡弓 森田夏子 太鼓 宮里和希
シネマ組踊案内人:宮城さつき
ナレーション:幸地松正
プロデューサー:大野順美・横澤匡広
監督:宮平貴子
製作:一般社団法人ステージサポート沖縄
制作:株式会社エコーズ
配給:株式会社ククルビジョン ミカタ・エンタテインメント
宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
<イベント情報>
1/28(土)10:50の回 上映終了後に舞台挨拶
【登壇者】
宮平貴子(監督)
大野順美(プロデューサー)
澤井毎里子(出演者:地謡・笛)
1/29(日)10:50の回 上映終了後にゲストトーク
【登壇者】
宮平貴子(監督)
尚玄(俳優 /『義足のボクサー』『10 ROOMS』など)
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