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「きれいと快適」を最大限進化させた「吸引式」のハンドドライヤー開発秘話 ~自在に風の流れを作り出す開発者、キーワードは「バランス」~

著者: TOTO株式会社

2023年1月5日、TOTOは、より快適なパブリック洗面空間を実現するハンドドライヤー「クリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)」を発売しました。


オフィスや商業施設などのパブリックトイレでは、基本設備と言っても過言ではないハンドドライヤーですが、新型コロナウイルス感染症拡大を受けて、一時様々なパブリックトイレで使用が停止されていました。

2022年10月、内閣官房から「ハンドドライヤーは使用できる」旨のガイドライン見直しの指針が発信された事もあり、徐々に利用停止は解除されつつありますが、ウイルス飛散や衛生面で不安に思う声はいまだに存在します。

こうしたお客様の不安こそが「ニーズ」だという思いから、不安なくお使いいただくために「クリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)」は誕生しました。


「クリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)」が生まれた背景や、開発者が目指したものとは――。最新のハンドドライヤー開発の裏話をお届けします。

TOTO株式会社 機器水栓開発第三部 機器水栓開発八グループ 入江恭亮(いりえ きょうすけ)


聞き手:TOTO株式会社 広報部 本社広報グループ 山崎明子

特長は「吸引式」「HEPAフィルター」「コンパクト設計」

――新商品の特長を教えて頂けますか。


入江:今回の「クリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)」の主な特長は「吸引式」「HEPAフィルター※の搭載」「コンパクト設計」の3つです。

吸引式にすることで高速乾燥は維持しつつ、商品外への風の吹き返しや水滴飛散を抑制しています。一般的なハンドドライヤーに比べて、水滴飛散数を約90%低減しており、より衛生的に快適に使って頂けます。


※HEPAフィルター(High Efficiency Particulate Air Filter):0.3μmの粒子に対して、99.97%以上の粒子捕集率を有するエアフィルター




また、空気清浄機で使われている「HEPAフィルター」を搭載することで、より清潔な風で快適に手を乾燥できます。

こうした機能追加をおこないつつ、商品サイズを最大限コンパクトに設計することで、ハンドドライヤーを洗面ボウル間にすっきり設置でき、手洗いから乾燥までスムーズな動線で床への水垂れも抑制した空間提案が可能となりました。

商品設置イメージ


新型コロナウイルスの流行がきっかけとなった商品の進化


――今回の新商品は、どのようなニーズを受けて開発されたものだったのでしょうか。


入江:TOTOは1985年からハンドドライヤーを発売していますが、新型コロナウイルス流行前から、快適に使って頂くために、風の吹き返しや水滴飛散の抑制には取り組んでいました。

ですが、新型コロナウイルスが流行して、日本ではハンドドライヤーの利用を制限する動きもあり、安心して使って頂くにはどうしたら良いのだろう、と考えたのがスタートでした。


ハンドドライヤーの利用で発生する水滴やマイクロ飛沫による感染リスクが極めて小さいことは報告されていますが、それでも、ハンドドライヤーがウイルスを飛散させているのでは……と、不安に感じている方がいらっしゃるのも事実です。

そういった方にも安心して使って頂くためには、これまでの延長線上の開発ではない、何かしら抜本的な対策・進化がないと難しいのだろうなと感じていました。


――そこで出たアイデアが「吸引式」や「HEPAフィルター」だったのですね。


入江:色々な要素開発のアイデアが検討に上がりましたが、まずは水滴飛散を抑えるのが第一とした時に、「吸引式」が最初に思いつきました。また、空気清浄機でも使われている「HEPAフィルター」で手を乾かす風をきれいにするのも、安心して使ってもらうためのアイデアでした。

「吸引式」と「HEPAフィルター」は開発初期段階からマストな要素と思っていました。


TOTO初採用となる「吸引式」と「HEPAフィルター」で、風の吹き返しや水滴飛散を気にせず、より清潔な風で手を乾燥できる新しいハンドドライヤーへの進化を目指して開発に着手しました。

モーター1つで実現した「吸引式」と「コンパクト設計」


――最も苦労したのはどういった部分だったのでしょうか?


入江:「吸引する」という機能の追加を、モーター1つで実現した所です。

ハンドドライヤーは元々、1つのモーターで作り出した風を吹き出して手を乾かすシンプルな構造ですが、今回の商品は、水滴飛散を抑制するために、風を吹き出すだけでなく、吹き出した風と周囲の空気を吸引しています。


単純に考えれば、風を「吹き出す」ためのモーターと「吸引する」ためのモーターの2つを使えば実現できるのですが、モーターを増やすと商品のサイズが大きくなって現行品からの交換が出来なくなってしまったり、消費電力が大きくなって環境配慮性能の悪化や、現場で電源の問題が出てくる可能性もありました。


そこで、1つのモーターで風を「吹き出す」機能と「吸引する」機能を両立させることにしました。これにより、吸引式やHEPAフィルターという機能追加による商品のサイズUPを最小限に抑えることができました。商品の横幅や奥行は現行品(TYC420型)から変わらず、高さのみ若干大きくなっていますが、商品の設置高さは変わりませんので、既設品からの取替も容易にできます。

モーターが2つあった試作品初号機。2つ目のモーターは下部に配置され、商品サイズは大きくなっていた。


――具体的にはどのようにして、モーター1つで実現させたのでしょうか?


入江:「吸引」と一言で言っても、手を乾かすためにノズルから吹き出した風を吸い込むだけでなく、周囲の空気も吸い込んで、商品外に水滴飛散しにくい空気の流れを作っています。


あくまで数字は例ですが、普通なら、空気を「100」吸い込んだらモーターを介して「100」ノズルから吹き出すのですが、ノズルから吹き出す風を「80」など少し減らしてあげると、自然と残り「20」を周囲の空気から吸い込むようになります。ただ、ノズルから吹き出す風を減らし過ぎると周囲の空気は吸い込めても、今度は乾燥性能が悪くなりますのでこのバランスが重要です。


商品内部の風路(ふうろ)の無駄をなくしたり、周囲の空気を吸い込む風量のチューニングはトライ&エラーを繰り返して、高速乾燥は維持しつつ、吹き出す風に加えて周囲の空気もしっかりと吸い込む「吸引・高速タイプ」が実現できています。

空気と水の流れのイメージ


――吹き出す空気を減らすと自然と周囲から吸い込む、というのは面白いですね。試行錯誤して思いついたアイデアだったのではありませんか?


入江:我々はTOTOでは珍しい「気流制御」を得意とする開発部隊です。

TOTOには、1985年に発売したハンドドライヤーや、1995年に発売した浴室換気暖房乾燥機「三乾王」など、水まわりを快適に使用するために欠かせない「気流制御」を必要とした商品が存在していたことがその背景にあります。今回の商品は、こういった過去から蓄積された気流制御のノウハウや経験により実現できました。


もちろん、アイデアを思いつくまでには悩みましたが、モーター1つで実現するにはどこかに空気を逃がすしかない、という考え自体はわりと早い段階で出てきました。ですが実際に商品にした時にどこまで乾燥性能をキープできるのか?どこまで水滴飛散を抑制できるのか?それらが本当に成立するものが出来るのか?など、最初は分かりませんでした。


実際の開発に当たっては、試作品を作って風路内の空気の流れに無駄が無いように風路全体を作り込みました。また、ノズルから吹き出す風が手に当たって直接商品の外に出ていかないように、影響する複数のパラメータを考慮したシミュレーションで、風を吹き出すノズル角度等の最適化も図っています。

実際のシミュレーション画像

「空気」と「水」の分離でHEPAフィルターの汚れを防ぐ


――「HEPAフィルター」搭載に当たって苦労した部分はどこでしょうか?


入江:商品内部で「空気」と「水」を分離させたところです。

手を乾燥させた風は商品内部を通ってまたノズルから吹き出すのですが、より清潔な風にするためにHEPAフィルターで浄化して循環させています。吸い込んだ水が風路に入り、HEPAフィルターに水がかかってしまうと、フィルター自体が汚れてしまう可能性があります。

そこで、手を挿入する空間(乾燥室)で空気と水を分離して、HEPAフィルターに水が飛散しないように工夫しました。


――「水」と「空気」の分離、とは具体的にどのような事をしているのでしょうか?


入江:手を挿入する乾燥室の形状で水と空気が分かれるようにしています。

基本的に吸い込む力は強いので、風は決められた風路に行ってくれますが、水も一緒に流れてしまうので工夫が必要でした。風路の入り口(吸気口)の大きさを極力おさえたり、風路の入口と排水路の入口を両端に離したり、排水路にむかって傾斜をつけたり、風路の手前に壁を立てたり……

吸引性能を考えれば風路は大きい方が良いのですが、風路が大きすぎると水は入りやすくなるため、ここでもバランスが重要でした。

風路と排水路の配置


風路に水が流れていかないように立てられた壁

「きれいと快適」という変わらない価値を進化させた商品


――入江さんにとって、「クリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)」はどんな商品ですか?


入江:今回は、いい商品を作らなくてはいけなかったのは勿論ですが、お客様に安心して使って頂くためには、水滴飛散が抑制できることなどをきちんとお伝えする、エビデンスの準備も必要でした。短い時間の中、たくさんの人に協力して貰って実現できた商品です。


感染症対策として石けんで手の汚れを落としてしっかりすすぎ、しっかり乾燥まで行うことが重要とされており、ハンドドライヤーは乾燥をタッチレスで行えます。勿論、新しいクリーンドライがここまで大きく進化できたのは新型コロナウイルスがきっかけですが、特別なものではなく、TOTOの「きれいと快適」という変わらない価値を最大限進化させた商品です。新型コロナでハンドドライヤーの使用に不安を感じる方にも、再度使ってもらえるきっかけになる商品になったのではないかと思いますし、新型コロナウイルスが落ち着いても、新しいクリーンドライで、安心して快適に手を乾燥していただきたいと考えています。


――今後、どんな開発者を目指したいと思われますか?


入江:元々「日本らしい面白いものを作って海外とつながる仕事がしたい」と思ってTOTOに入社しました。入社してすぐに担当した商品も、実は当時のクリーンドライでした。水を扱う商品が多いTOTOの中で、風の流れを活かした商品は少なく、大学で専攻していた流体力学は役に立ったと感じています。


今後はTOTO内でも珍しい気流制御を極めることで、クリーンドライ等の気流を扱う商品の開発を通じて、「きれいと快適」「環境」にも配慮した水まわり空間をグローバルに実現していきたいと考えています。


「クリーンドライ(吸引・高速両面タイプ)」紹介サイト




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