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人の数だけ、物語がある

コロナ前から「オフィス・ニューノーマル」を実践するSQUEEZE代表と、これからの時代の働き方について対談をしました

著者: ClipLine株式会社

サービス業の運営や教育支援を行うClipLine株式会社では、現オフィスを解約し、ワーキングスペースの分散化を図ろうとしているところです。

当社のオフィス縮小、移転プロジェクトを手掛ける取締役の遠藤は、分散化による生産性の向上と、イノベーションを引き起こすコミュニケーション機会創出の両立について解決策を模索中であり、社外を巻き込んだ意見交換を行っております。

このたび、宿泊事業のプラットフォームやホテル運営を手掛ける株式会社SQUEEZEの舘林氏と議論を交わしましたのでお知らせいたします。



舘林 真一氏 株式会社 SQUEEZE 代表取締役CEO

東海大学政治経済学部卒業後、ゴールドマンサックス証券シンガポール支社に勤務。

その後、トリップアドバイザー株式会社シンガポール支社にてディスプレイ広告の運用を担当。2014年9月、株式会社SQUEEZEを創業し代表取締役CEOに就任。


遠藤 倫生 ClipLine株式会社 取締役

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、2013年にClipLine株式会社に参画。映像撮影・編集の豊富な知見を活かしたコンテンツ部門統括を経て、新規事業・採用・高齢者就労支援・PRを統括するビジネス・アクセラレーション部門統括に就任。

■単に「オフィスから離れた」働き方ではなく、一人一人が独立している「モバイルワーク」という働き方

遠藤: 分散化とかオフィスをコンパクトにという考え方は、もともと創業時から、賃料の問題とか、そもそも「いわゆる本店、本社っているんだっけ」と考えていた背景はあります。一般企業や、我々より一世代古いスタートアップだと、事業が成長して組織が拡大すると事務所がどんどん立派になって六本木ヒルズに入るみたいなのが成長のストーリーとして語られていました。ただ、少なくとも我々はそことは距離を置いていました。うちの代表の高橋もそうですが、経営陣の金銭感覚はとても堅実(笑)なのです。デカいビルに入居することを目標に掲げることなく、オフィスの費用対効果を常に議論しながらやってきたんですね。したがって、新型コロナウィルスが引き起こした問題は、みんなが考える良いきっかけになって、改革を進めやすくなった、という風には考えています。その辺いかがですか。


舘林 : そうですね。今、リモートワーク、テレワーク、在宅ワークといろんな言葉がありますけれど、我々は2年ほど前からモバイルワークと言っています。なぜかというと、我々の事業はホテル・宿泊で、エンジニアもすべて内製化しているんですけれども、システムを作って、オペレーションでも使って、それをSaaSとして販売しているんですね。要は、ホテルを経営しているから分散しているわけで、1社で固まって仕事するということがそもそもできない事業スタイルなんです。それで、どういう組織にするか考えたときに、ワークモビリティという言葉からモバイルワークって持ってきたんです。ホテルにいる人たちもみんな主役だし、どこにいても会社の情報に早くアクセスできて、自分たちがちゃんと当事者としてでやれるというワークスタイル。リモートとかテレワークってコアから離れているからリモートなんですよ。なので、何かから離れている主従関係じゃなくて、一人ひとりモバイルでどこにいても重要だと。だから我々はここを「本社」ではなく「東京オフィス」って言うんです。ここに来たらコアな情報があるのではなく、クラウドでどこにいてもしっかりと早く情報にアクセスできる組織を作ってきました。なので、オフィスをがんがん広げるというマインドではなく、最低限、ミーティングスペースをちゃんと設けるみたいな感じでオフィスを抱えていましたね。

■緊急事態宣言発令後も大きな変化はなく対応

舘林: そんな考えがあったので、正直、今、緊急事態宣言があったからって、大きく何かを変えたということはあまりなかったです。宣言前にオフィスに来る人たちはだいたい7~8割で、カフェでもホテルでも自分で場所を選んで良く、必ずオフィスでというワークスタイルではなかったです。それが緊急事態宣言で10%以下に抑えるといった形になったので、みんな強制的に在宅になりましたけど、それは今まで我々がやっているモバイルオフィス、モバイルワークとは違うよ、今は緊急事態だから原則在宅だというのは言い切ってやってますけどね。


遠藤: 御社でもSlackなどのツールでコミュニケーションをして、Web会議も以前から取り入れていましたよね。


舘林: Web会議はやっていましたね。社内はGoogle Meetでやって、ZoomやWhereby使ったりとか。不動産の物件のオーナー側とかデベロッパー側のミーティング、ホテル業界もホスピタリティ業界なので、対面が必須なところがあったんですが、今はオンラインで十分できるようになりました。


■受注が増えるにしたがってオフィス稼働率が下がっていた、という問題

遠藤: 当社は、次のコンパクトな本社を五反田のTOCビルのフロアに決定しました。ここ(青山のオフィス)は雰囲気がTOCビルにちょっと似ていますね。物件の築年数とか。ClipLineも過去の移転時にはそういう物件を検討したことがありましたが、その時はやめて、1年半前くらいに今の坪単価3万円弱の新築物件に入りました。


舘林: 今のオフィスは格好いいですよね。


遠藤: 新築で坪単価3万円弱というのは東京だとまあ普通というか、高くもなく、安くもない。田町に184坪のフロアを借りたんです。


舘林: 結構大きいですね。


遠藤: そうなんですよ。入居した時はスペースに結構余裕があって、アルバイトやインターンの活用を進めて、正社員50名に対して、アルバイト40名まで組織を成長させることができました。しかし、コロナ前の平常時に出社するのが、40〜50名くらいなので、座席の「稼働率」を考えると、オフィス賃料が500万弱、常時座っているのが40〜50名と考えると、諸々の経費含めて一人当たり月額十数万だったんですね。顧客サポートではなるべく客先に行くようにしていたし、直行直帰をよしとする、という働き方を考えると、本社の座席稼働率は低くなって当然で、それに対し一人あたり十数万かかっているというのはどうなんだろう、受注増に応じて打ち合わせや出張も増え、オフィス稼働率が下がるという事実を目の当たりにして、固定費のかけ方として正しくないのではないかと思うようになりました。


舘林: 今は完全在宅で50人くらいですか?


遠藤: 社員50人で、フルタイム換算で80人くらいですね。基本、在宅勤務を中心とするリモートワークです。もともと御社のようなワークモビリティなる思想はClipLineにはなくて、「リモートワーク」や「テレワーク」という、オフィスからどう距離をとるか、という視点で変革をしようとしていました。社内では、集合してホワイトボードを使って議論する習慣もありましたし、対面の会議も大事にしていました。

ただ、「対面教育のDXを推進するプロダクト」を提供している企業として、当社もコミュニケーションのDXを進めないとね、という視点で、コロナ前から、在宅勤務を徐々に試していたんです。チーム単位で小さく試しながら、少なくとも個人の作業の生産性が下がらないことを確認してきました。

緊急事態宣言の直前に、100%在宅勤務の方針を決め、1週間で準備をして移行した次第です。


舘林: 一気に在宅になって、2か月くらいですか。で、全社でオフィスは要らないだろうと。しかし、実際にはバックオフィス部門の人たちとかはどうするんですか。郵便物とかそういうのは。


遠藤: うちの顧客には老舗企業が多いので、以前は顧客から「契約書や請求書は紙じゃないとダメ」と言われることが多かったのですが、うちが紙のデジタル化を決めきれない間に、顧客の方から、「紙はもうやめてくれ」と言っていただきました。

■分散化してもイノベーションやクリエイティビティを刺激できる仕掛け

遠藤: 当社は今まさに、次のコンパクトなオフィスに引越しをしつつあります。都心の本社+郊外のサテライトでもいいのだけど、いわゆる管理部門の書庫だの備品を郊外のストレージに置いてもいいんじゃないかとか思ってます。もしスペースをうまく組み合わせて使えるんだったら、都心の本社こそミーティングスペースを中心に構成するのがいいんじゃないかと。


舘林: そう思います。ミーティングスペースさえ用意しておけば、通常のオペレーションプロセスの仕事に関しては、基本、家でもどこでもできるわけなので。ミーティングは慣れてしまえばオンラインでもいいわけじゃないですか。大手のビル会社さんや一棟賃貸で貸しているようなオフィスビル会社さんも基本的にはミングルする場になっていくというか、今まではオフィス設計も、島を置いて、部署ごとに分かれてという設計ですけれど、いかにコミュニケーション、インタラクションするかという設計でやっていかないと。


遠藤: 解体すべきなのは本社じゃなくて、従来の島構造だったり、会議室での対面会議だったり、なんですよね。会議については、割と対面にこだわっていたメンバーも、30分の会議がオンラインにしたら15分で済むようになったり、個人作業の合間に商談ができたり、移動がないメリットをようやく皆が理解できました。社内であれ、社外であれ、オンライン面談のアポは非常に取りやすいんです。

逆に、作業とのバランスを考えないと、一日中会議で埋まってしまい、コミュニケーション過多になっちゃうくらいな感じですね。



遠藤: もう1つ議論したいテーマがあります。会話からイノベーションが生まれるというのは、半分事実で、半分信仰に近いものだと思うんですけれども、「ホワイトボードでブレスト」みたいなものを御社は敢えて対面でやったりしていますか。あるいはオンラインで?


舘林: そういう意味で言うと、Miroさんみたいなブレストツールがすごく伸びていますよね。テックチームはそういうものはずっとやっていましたね。モバイルでいわゆるアイデア出しだったり、雑談、コミュニケーションはオンラインで書き込めるポストイットみたいなものでやっていましたけれども。経営会議などは温度感が大事なのでなるべく集まってやろうとしていますが、半分はオンラインです。

ただ、雑談は大事だなというのは確かにあって、ちょっと集まって雑談すると、いろいろなアイデアが出てくるんですよね。それって雑談をたまにするからいいのか、いつもしていてもたぶんいつもいいアイデアは出てこないし、その塩梅が大事なのかなと個人的には思っていて、いろいろたまっていたり、いろいろないところから発散された時に吐き出すからクリエイティビティも出てくるかもしれないと思いますけれどもね。

■個の生産性だけでなく、チームワークを醸成する働き方を模索する

舘林: 我々も今、このフロアと、隣と、下のフロアを借りていたんですけれども、オフィスに来る人数が減って、これからももっと減ると思うので、下は他社に貸し始めましたし、ここもそこも今月、来月から貸そうかなと。本当にサテライトオフィス、ミーティングスペースみたいに使いたい会社があれば、場所は良いと思っているんで、他社さんに貸して、うちも固定費を下げようかなと。


遠藤: 採用の話でいうと、いちばん遠方の方はどれくらい遠くにいらっしゃいます? ホテルのスタッフは現地ですよね。


舘林: 完全在宅の人はもともといましたよ。京都とか舞鶴とか神戸とか。今までも完全在宅も採用していました。3年前くらいまでは民泊を中心にやっていたんですね。民泊メインでやっていた時のオペレーションをどうしていたかというと、民泊は24時間多言語でやらないといけないんですよ。

Airbnbとかのゲストに対して。それを在宅ワーカー、基本ほとんど主婦さんだったんですけど、日本時間で日中、follow the sun と言っていたんですけれど、太陽を追えばいいということで、我々が17時までだとすれば、そのあとはヨーロッパの駐在員の奥様、そのあとはアメリカの駐在員の奥様、彼らみんな在宅で、うちの民泊500室から最終1000室くらいまでいきましたけれども、そのオペレーションを在宅で回していたんですよ。そういう感じでもやっていたので、社員がプラハにいたりとか、っていうときもありましたよ。


遠藤: そうすると、今後も特に大きく変わりはしないですよね。


舘林: そうですね。もう少し小さくしていけるかなというのと、それこそオフィスの在り方、もう少しミングルする場、インタラクションする場にもっとしていって、今までやろうとしていたモバイルワークというのをより推奨していくという形になるかなと思っています。オフィスの目的がだいぶ変わるかなと思います。


遠藤: この期間というのは、舘林さんにとって、ますます迷いがなくなったということになるんでしょうか。


舘林: 今までやってきたことは、そのままだなと思って、ちょうど先週会社でも話しました。緊急事態宣言が解除された後どういう働き方にする? 戻す? オフィス集中? あるいはもっと完全に在宅? という議論をしたんですよ。結論、前と変わらなくていいよね、ということになったんですよね。モバイルワークをちゃんとみんな意識してやっていこうと。

ただ部署によってオフィスでしかできない仕事とか、オフィスにまだ来なくてはいけないものがあったりするので、そこは上長判断で最適化してくれと、そういう感じですね。



遠藤: メンバーが働き方を自己決定するために、場所代などコストがかかるじゃないですか。それは手当で解決していますか。それとも報酬ですか。


舘林: 自己研鑽のために「今日この(他社の)ホテルで仕事する」と選択することに対してかかるコストは払っていないです。自身の報酬の中から支出して、自己研鑽して欲しいと考えています。もちろん、会社の指示でここに行ってくれ、という場所に関しては、全部出張扱いです。


遠藤: 手当による解決というのは日本的なやり方で、個人で使える経費込みの報酬をあらかじめ合意して決める、という考え方が個人的には好きです。結局、福利厚生で出しているような学習支援金も結局課税所得になっちゃうので、職種ごとの働き方に応じた報酬のあり方について決めなきゃいけないのが今後の課題です。


舘林: 結局、個の生産性だけ考えると、家でやるという判断が多くなっちゃうんですけれど、本当にその時間が、チーム、会社にとってい良いか判断してね、と常に言ってます。ここの判断ができるようになってくる組織は強いと思っていて、そっちに持っていきたいなと思っています。家の方が集中できるし、引きこもってやりたいという人も多いと思うんですけれども、それだけだったらチームとして機能しないし、業務委託でいいじゃないかという話にもなってくる。

例えばホテルを10数棟かやっていて全部の精算書を1部門で最終的に締めるのなんて、みんなバラバラに家でやっていたら回らないじゃないですか。いかにチームで共有して調整して、今日はここでみんなで集まってやっていこうね、というのを決定していかないと組織の生産性は上がらない。チャレンジングで、我々もこれからも言い続けていかなければと思っています。


遠藤: わかります(笑)。「締め」の作業を集合して片付けるハイテンション。

モバイルワークを推奨することと、コミュニケーションやチームワークの強化はどのように両立しているんですか。


舘林: 強化を常に意識していないですけど、部長陣とよく話すのは、モバイルでやっている中で、さっきの雑談の話じゃないですけど、発散する場を作るとか、インタラクションする場をどう作るか、例えば最近でいうと、スマートホテル部という今20人くらい正社員がいるんですが、そこでZoomでオンライン飲みをする計画をしていたりとか、そこにパートの方々も入ってもらうとか、プロアクティブにやっていかないと繋がりって薄れていくじゃないですか。僕もみんなと全然会っていないので寂しいんですけど、たまにZoomすると全然髪型ちがうじゃんとかありますからね。敢えてそういう場をつくりながらやらないといけないかなと思っています。


遠藤: ありがとうございました。






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