日本交通の新卒社員は、なぜタクシー営業所に自主運営カフェを導入したのか?
都内最大手のタクシー会社・日本交通株式会社(以下「日本交通」)の「葛西営業所」は、乗務員の平均年齢が60.7歳(※1)のタクシー業界の中で、平均年齢は24.6歳(※2)、新卒入社の乗務員のみで構成される営業所です。この営業所が今年2月7日に移転リニューアルし、そこには社員向けのカフェが設けられました(※3)。このカフェは新卒社員が導入を企画し、さらには調理スタッフも新卒乗務員が担当します。
キッチン検討プロジェクトの山田さん、加藤さん、最上さん
このカフェはなぜ導入され、何を目指しているのか? これを企画したプロジェクトのメンバーであるHRM(Human Resource Management)プロジェクトの最上史織さん、葛西営業所運行管理者の山田智久さん、新木場営業所乗務員の加藤 優さんにお話を聞きました。
新卒乗務員の増加に伴い、コミュニケーションの在り方が課題に
最上:タクシー業界はタクシーアプリやキャッシュレス決済の普及、直近ではウィズコロナ、インバウンド対応など、大きな変化が起きています。そのような中、ホスピタリティが高く、新しい環境へ柔軟に適応できる人材が求められ、新卒採用が拡大しています。またタクシー乗務員という働き方が、接客業の魅力、ワークライフバランスに優れる点でも就活生から注目を集めています。日本交通では2012年より新卒乗務員の採用を行っていて、現在まで累計で1,400名以上が入社しています。
山田:葛西営業所は、新卒社員の活躍の場として、2020年8月に新設されました。さらに新卒採用者を受け入れるため、今般移転し施設を拡大することとなりました。
最上:新卒採用の乗務員が増えてきたことで徐々に、社員間のコミュニケーションがとりにくくなる課題が生じました。タクシー乗務員は、業務中は基本的に独りなので、殊に経験の浅い若手乗務員は営業所での情報交換や交流が欠かせません。将来にわたりモチベーションやスキルを向上させていける環境の整備が、より求められるようになりました。
経営トップとのディスカッションから生まれた「カフェ」プラン
最上:私が所属するHRM(Human Resource Management)プロジェクトは、新卒社員が目標を持ち、やりがいを持って働ける環境を創出することを目的に、モチベーションやスキル向上のための取り組みを自ら考えて行っていく部署として、昨年4月に立ち上がりました。私を含め新卒社員3名で構成されます。
葛西営業所の移転決定にあたり、経営側の「新卒社員の育成はタクシーの根幹」との考えから、HRMメンバーへ「社員のモチベーションアップに何かできないか?」という投げかけがありました。若い社員が直接経営トップとディスカッションするのは貴重な時間でした。そこで挙がったものの1つが「キッチンを設置し、自分達で運営するカフェ」でした。自分の乗務員時代の経験を思い出し、新卒社員がコミュニケーションを図れる新しい場所を自分たちで作りたい、と強く思いました。
まずとりかかったのは、キッチン検討プロジェクトの立ち上げです。私たちと一緒にやってくれる有志を、乗務員を含むすべての新卒社員から募りました。新卒社員の為の取り組みには、すべての新卒社員に挑戦の機会を与えたい考えです。WEBアンケートで「カフェを創るPJに興味があるか、その理由とアイデア」という質問を投げ、回答者の想いを自由に受け止める形にしました。約3割の人が「興味がある」と回答し、その中から飲食店でのアルバイト経験や熱量を見てメンバーを選任し、12名のプロジェクトでスタートしました。
建設現場を確認するプロジェクトメンバー
「憩い」の場になってほしいという想い
最上:キッチン検討プロジェクトがキックオフミーティングでまず呼びかけたのは、可能・不可能関わらず、とにかく自由に、思いついたアイデアはとにかく机上に出してほしい、ということでした。メンバーの中には職員もいれば乗務員もいます。それぞれの目線から色々な意見が出てきました。
山田:まず前提としたコンセプトは「とにかくオシャレに」。一から作るのであれば、タクシー営業所のイメージを変えるようなものが良いと思いました。意見出しの段階ではおにぎりや定食を提供する案もあったのですが、最終的にはパンやサラダを提供する形態に決まりました。
加藤:もう一つ、メンバーの共通認識としてまとまったのが、「憩い」というキーワードでした。タクシーの主戦場は道路上なので、営業所は出庫準備や帰庫後の納金、教育指導といった「業務上必要な事」をするためだけの場所というイメージでした。そうではなく、営業所にいる事そのものに意味を持たせたい。いい意味で「たまり場」になり、営業所にいる時間を好きになってほしい、という想いでした。
最上:キッチンに求める役割、どういう要素があれば利用したいか、というニーズ調査も行いました。その結果「乗務前にリラックスできる空間が欲しい」「同期や先輩と落ち着いて触れ合える空間が欲しい」という意見が約8割を占めました。
山田:安全や営業方法、接客といった教育面でのフォローはしっかりとできていても、周囲との交流機会が少なく孤立してしまい、残念ながらそこから退職に繋がってしまった例もありました。こういった人を無くしたい、無くさなければという想いもありました。
「理想」を「現実」に落とし込む苦労
加藤:コンセプトが決まってからは、それを叶えるためにメニューやレイアウト・運用をどう近づけていくか?という議論がなされました。瓶ジュースを出してワイワイしたら楽しくないか?とか、野菜を出すなら遊び心も加えてシェイクサラダはどうか?など。
山田:営業時間は9:00~15:00に。これは午前中に帰庫した乗務員と、午後から出庫する乗務員とが顔を合わせられる、営業所のピーク時間帯に合わせています。
最上:レイアウトやデザインの検討には、私たちが固めたコンセプトをオフィス家具メーカーに説明し、レイアウト案をもらい、そこから細部を調整しました。特にこだわったのは、明るく開放的な雰囲気を出すこと。私の中ではカフェというと電球色のムーディーなイメージがありましたが、若手社員が利用するカフェなので日射光を活かし、フレッシュさを前面に押し出そうとしました。そのため、フェイクグリーンを入れ、柱の柄に光が当たったときにどう見えるか、テーブルや床の木目調の荒さはどうか、まで調整しました。
おおよそのコンセプトは意見一致しても、皆の頭の中にある細かいイメージは異なっていました。これをうまく折衷案に落とし込むのは時間がかかり、一番苦労しました。サラダ一つとっても、完全個包装を提供するのか、野菜から完全に自分で取るのか、で意見が割れました。最終的に、レタスなど劣化が激しいものは冷蔵庫から出し、クルトンやコーンなどのトッピングは各自でやってもらうことになりました。
パン焼きを学ぶプロジェクトメンバー
加藤:毎日提供していくことになるので、現実的に運用可能な方法にしなければなりません。パンは、最初は「生地をこねる所から」との案もありましたが、難易度が高く、また仕込み時間の確保が難しく、結局は冷凍パンを発酵させ、焼き上げる方法にしました。また、調理スタッフには私ともう一名がメインで入ることになりました。冷凍パン業者の方から焼き方のレクチャーを受けましたが、焼き色を自分の目で見て焼く時間を調整する必要があり、気温や湿度によっても焼き上がりが異なってくるので、なかなかに難しいです。これから経験を積んで、皆の笑顔を増やしていければと思います。また現在、より継続的に利用してもらえるように、新メニューの考案・試作を行っているところです。
カフェスペースからタクシーの未来が広がる
山田:オープン以降、社員にはかなり好評です。私も時々スタッフとして入りますが、移転前の乗務員同士の交流の場は事務所・点呼場が中心であったのに対し、新たにコミュニケーションスペースができたことで、和気藹々とした雰囲気があります。あまり話したことが無くよそよそしかった同僚同士に、私が話を振ることで会話が生まれることもありました。ここは タクシー乗務に関係するものが目に入ってこない場所です。事務所・点呼場ではできない交流ができると思います。これからもそういう場であって欲しいですし、社内イベント開催の場としても十分な広さがあるので、営業所内でも色々と企画を考えたいです。
移転前の点呼場と休憩スペース
移転後のカフェスペース
新卒社員にとって「自分たちにも、こういうことのできる力があるんだ」という自信につながりました。意見の述べ方やプレゼンなど、メンバー自身のスキルの向上にも繋がったのではないかと思います。
加藤:乗務員さんの中に調理を手伝える方が増えてくれば、日によってタクシー乗務をしたり、別の日はパンを焼いて乗務員さんのサポート側に回ったり、働き方にも多様性が生まれてくるのではないかと期待しています。
最上:いずれは外部の方、例えば地元地域の方と交流できる場にもなり得るでしょう。タクシーが地域に根差した愛される存在になり、イメージが変わってくれると嬉しいです。
HRMプロジェクトでは、新卒乗務員の為の営業所横断的な“委員会”を発足させています。「事故防止」「接客接遇の向上」「地理学習」など、それぞれ関心の高いテーマに沿って新卒社員が自主的に課題解決に取り組む小集団です。スキルアップはもちろんですが、委員会内で「委員会メンバー→幹部→リーダー」という新しいキャリアアップの道筋を作ることができれば、モチベーション向上にもつながるはずです。営業所が異なるメンバーで構成されるのでオンライン開催が多いのですが、今後は葛西営業所でリアルな開催もあり得ると思います。実際に顔を合わせれば新しいアイデアが生まれ、そこから思いがけない新サービスへと成長するかもしれません(※4)。
タクシーという移動インフラと、新卒社員と、カフェという交流スペースが揃ったことで、タクシー業界に新しい化学反応が起きるのではないかと、今からワクワクしています。
新営業所オープン初日に、新卒社員が記念写真
※1 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」令和3年
※2 2023年1月現在
※3 詳細はプレスリリース参照
※4 新卒入社予定者による企画が実現した一例として、クラウドファンディングによるワクチン接種移動支援プロジェクトがあります。
■日本交通株式会社について
創業95年(1928年創業)、グループ売上高で日本最大のハイヤー・タクシー会社です。約9,000台のタクシー・ハイヤー(運行管理請負車両、業務提携会社を含む)、10,000名以上の乗務員が、東京・大阪を中心とした各地の公共交通を支えています。
独自の社内資格・キャリアパス制度などの人材育成を通じて、「拾うではなく、選ばれるタクシー」として、Japan Hospitality を合言葉に顧客満足を追求しています。
日本初となるタクシーアプリや、都内初となる妊婦送迎「陣痛タクシー」、キッズ・観光・サポートの専門サービス「EDS(エキスパート・ドライバー・サービス)®」など、Mobilityに+αの価値を提供しています。
日本交通のタクシーについて https://www.nihon-kotsu-taxi.jp/
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