「地図帳」を転載した異例の鉄道図書。『明治~現在 鉄道路線をくらべて楽しむ地図帳』の編著者が語るストーリー
2022(令和4)年、新橋~横浜間で開業した日本の鉄道は、150年という節目を迎えた(10月14日)。山川出版社が刊行した『明治~現在 鉄道路線をくらべて楽しむ地図帳』は、老舗の地図専門出版社である二宮書店が制作した学校用地図帳を活用して、明治の鉄道開業から現在のJR全盛期までの、国鉄・JRの鉄道路線を中心とした変遷を紹介するものです。地図帳で鉄道路線を追いかけながら、解説や写真とともに、鉄道路線がどう移り変わっていったかをくらべて楽しむ。本書の編著者である寺本光照氏は、本書の魅力をこのように語ります。(山川出版社編集部)
刊行:2022年4月 仕様:B5 ・ 160ページ
鉄道趣味を推進してくれた「地図帳」との出会い
日本の鉄道は1972年(明治5)に新橋―横浜間が開通して以来、2022年10月で150周年を迎える。1950年(昭和25)生まれの筆者にとっては、そのほぼ後半部分の鉄道を見ながら過ごしてきたわけである。
「地図帳」との初めての関わりは、小学6年に進級した際、担任から配られた数冊の新しい教科書にそれが入っていたことである。地図帳といっても小学生用なのでページ数も少なく、世界と日本の両地図も、全体図と各地方図が見開きで掲載されているだけだが、世界中の国や国旗、日本の都道府県名や都市名など、それまで断片的だった情報が一冊で分かるため、食い入るように見つめたものである。
中学生になると、1年生で地理分野を学習するため、地図帳も大縮尺地図のページが増加し、統計などの資料ページも充実するなど、厚く読み応えのあるものになる。当時の筆者は、鉄道に人一倍興味を抱いていたが、鉄道情報誌や時刻表などの月刊誌は、書店での立ち読みが精いっぱいだったので、そこから得た情報を地図帳に照らし合わせることで、知識を深めていった。地元の大阪駅からは東京・九州・宇野・北陸・松江方面へ特急や急行が出ており、地図を眺めながら、そうした列車に乗っ
て旅行に出かけることに憧れを感じたものだった。
1968年の地図
もちろん、同じ特急でも東京や九州行きは、原則として6大都市と県庁所在地しか止まらないのに、北陸や山陰への列車は、なぜさほど人口の多くない都市にも停車するのか、そのあたりに疑問を感じた。そして、その理由を追求するため、地図帳で地形と産業・人口との関係などを調べるうちに、鉄道への関心がますます深まり、やがては運輸運転史の研究をライフワークとするようになった。筆者にとって地図帳は、つねに時刻表や鉄道関係の図書・雑誌とともに、机からすぐに手の届く書棚に
おいてあり、生活の一部とさえなっている。
地図帳の地図を転載した鉄道図書は類例がない
本書は、3時点(1968年、1987年、2022年)の学校用地図帳をくらべて、鉄道発達史をふりかえる試みである。また、別途、明治期(2点)、昭和戦前(1点)の鉄道路線図を作成、解説を施した。
鉄道趣味が、撮影や旅行、模型など多領域にわたることで、鉄道関係の雑誌や図書も数多く出版されているが、本書のように、一般の地図帳から転載した地図を大々的に使用した鉄道図書は類例がなく、まさに画期的であるといえる。
大学卒業以来50年近くにわたり小学校を職場としていた筆者にとって、社会科教科書の副読本や、教科書としての「地図帳」の資料ページなどに、鉄道を中心とした交通の変遷を執筆することは、「教師」としての目標であり、夢でもあった。今回、少し形が異なるものの、それが実現できたことで、長らくお世話になった教育の世界にも微力ながら恩返しができたものと思う。
1968年・1987年・2022年という3つの視点を選んだ理由
日本の鉄道150年の歩みを紹介するため、本書では明治期の1893年と1906年、それに昭和戦前の1934年鉄道路線図を、特別に制作した日本全図で示す。昭和戦後から現在にいたる1968年・1987年・2022年については、北海道から九州にいたる7つの地方別に分け、高等学校の教科書として使用する地図帳から転載した該当ページを掲げながら解説を行う。
選定した6つの時期のうち明治期と昭和戦前までの3図は、道路交通が未発達で陸上交通の王者だった鉄道が、延伸を繰り返し、1934年には急きゅう峻しゅんな山岳地帯やリアス海岸部分を除けば、全国津々浦々にまで開通しているのが分かる。さらに、1968年以降の地図と重ね合わせれば、往年の基幹産業だった石炭の大量輸送のため、鉄道が欠かせなかったこと。さらに、神社仏閣への参拝も鉄道が担っていたことで、戦前における国民の信仰心は、現在では考えられないほど、強かった様子も見て取れる。
昭和戦後から現在にいたる3つの時期のうち、真っ先に1968年を選んだのは、国鉄線の営業距離も最大に達し、同年10月に実施年月から「よん・さん・とお」と呼ばれる全国ダイヤ改正があり、特急は増発やスピードアップで利用しやすい存在になったこと。その反面、蒸気機関車で代表されるように、1934年当時に使用されていた車両や設備の一部も残っていたのが理由である。要は戦後における国鉄のピークの時期だった。
1987年は、国鉄が赤字ローカル線廃止などの合理化策も功を奏さず、JR旅客6社などに移行した年。そして、新幹線鉄道が10路線の大台に乗るものの、わが国の交通機関が多様化する2022年の鉄道を示す。
1968年から2022年への鉄道路線については、変遷が顕著だった地域を、各地方別に「3時代地図比較」で掲載したが、2時代でも大きく変遷した地域は多くあるので、本文を参照しながら探していただければ幸いである。
本書は鉄道愛好者だけでなく、広く一般の読者を対象とするため、鉄道専門用語などの掲出を極力控え、必要な箇所には説明も加えさせていただいた。読者の皆様方には、各年代の地図をくらべていただくことで、全国各地方の人口や産業の変化とともに、線路の変遷に注目していただき、鉄道へのご理解と愛情を深めていただければ、筆者としてこれに勝る喜びはない。
編著者について
寺本光照(てらもと・みつてる)
1950 年、大阪府八尾市生まれ。甲南大学法学部卒業。小学校教諭・放課後クラブ指導員・高齢者大学校講師を経て、現在はフリーの鉄道研究家・鉄道作家として、おもに国鉄~JRの運輸運転史に関する著述活動に専念。鉄道友の会会員。主な著書に『これでいいのか、夜行列車』(中央書院、991)、『国鉄・JR 列車名大事典』(中央書院、2001)、『JR特急の四半世紀』(イカロス出版、2012)、『列車名の謎』(イースト・プレス、2016)、『こんなに面白い!近鉄電車100』(交通新聞社、2019)など。共著には『決定版近鉄特急』(JRR、1985)、『時刻表に見る<国鉄・JR>列車編成史』(JTB パブリッシング、2011)、『国鉄・特急列車100 年』(JTB パブリッシング、2012)、『国鉄旅客列車の記録【客車列車編】』『同【電車・気動車列車編】』(ともにフォト・パブリッシング、2021)などがある。
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