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手間暇かけた手摘みバジルの色・味・香り。大分県国見町が、露地栽培の国産バジル生産量トップを誇る一大産地になるまでのストーリー

著者: キユーピー株式会社

収穫時のルールは、新芽から二節目までを手摘みすること。6月半ば、露地栽培のバジルは収穫期を迎えた。国見町では例年、10月末頃まで収穫が続く。



大分県の北東部、国東(くにさき)市国見(くにみ)町では露地栽培のバジルの生産が盛んです。この地に工場を構える「くにみ農産加工有限会社※(以下、くにみ農産加工)」は、近隣の農家が手間暇かけて栽培した手摘みバジルを、鮮度を保ったまま速やかに加工し、バジルペーストを作っています。このバジルペーストは、キユーピーが手掛ける「Italiante バジルソース」や「あえるパスタソース バジル」などの主要な原料となり、全国のスーパーに並びます。農業に適さないと言われた山あいの国見町が、露地栽培の国産バジル生産量トップに至るまでのストーリーを追います。

※くにみ農産加工有限会社:キユーピー株式会社の持分法適用関連会社。

尾根と谷が放射状に織り成す国東半島。山あいの狭小地、国見町に誕生した農産物加工の第三セクターが、この土地ならではの優位性・競争力のある農産物に出会うまで

大分空港から国見町に到着するまで、車はいくつものトンネルをくぐり抜けます。車の窓からは、梅雨の時期であることを忘れてしまうような、カラッとした爽やかな風が吹き込んできました。大分県の北東部に突き出た国東(くにさき)半島は、中央に鎮座する両子(ふたご)山から放射状に尾根と谷が延び、火山によってできたことがよく分かる地形です。それゆえに平野部が少なく、国東半島の北部に位置する国見町も、その多くが作付面積に恵まれない、山あいの狭小地です。さらに消費地からも遠く、農業に有利とは言えないこの土地に、今から40年余り前の1981年、「第三セクター」として設立されたのが「くにみ農産加工」です。当時、イチゴジャムの原料加工を手掛け、キユーピーのグループ会社である、アヲハタ株式会社と取引があった関係で、現在でも、国東市が30%、キユーピーが20%を出資しています。設立以来、タマネギやニンジン、ホウレンソウなど、さまざまな農産物の加工を手掛けてきましたが、もともと農業に有利な土地ではないため、収益性の確保が難しい状況が続きました。消費地から遠い山あいの土地だからこその農産物、他の地域と比べ優位性・競争力のある農産物を手掛ける必要に迫られていたのです。

バジルとの出会い。イタリア北西部、ジェノバの地中海気候を思わせる、年間降水量の少ない温暖な気候が追い風に。手間暇かけたバジル、そしてバジルペーストが誕生

収穫後、速やかに加工されるバジルペースト。バジル特有の色・味・香りをそのまま閉じ込めた。


くにみ農産加工がバジルペーストの製造を始めたのは、今から20年以上前、1999年にさかのぼります。国見町ならではの優位性・競争力のある農産物を探していた頃、ちょうどキユーピーからバジルペーストを作れないか、という相談を持ち掛けられたそうです。そもそもバジルの香気成分は揮発性が高く、時間とともに香りが失われてしまいます。その上、色もあせやすく、振動にも弱いという特徴があり、バジル特有の色・味・香りを保ったまま、加工するのは非常に難しかったのです。また、バジルの栽培・加工には、出荷する葉の選別や土などの異物処理に、多くの人手や高いノウハウが必要で、生産農家にも加工会社にも大きな負担が圧し掛かります。その一方で、バジルの栽培には広い農地が必要なく、収穫した葉も軽くて運びやすいため、他の農作物に比べて扱いやすいという利点があります。さらに、大分県の北東部に突き出た国東半島は、年間降水量が少なく温暖で、バジルの生産が盛んなイタリア北西部の都市、ジェノバの地中海気候に似ている、という大きなメリットもありました。


1999年当初、くにみ農産加工が声を掛けて集まったバジル農家はたったの5軒。そこから次第にバジル栽培を始める農家が増えて、現在は実に100軒以上に上ります。契約農家の畑はそのほとんどが、加工工場から50km圏内にあり、まさに“畑の中にある工場”で収穫したてのバジルがバジルペーストに生まれ変わるのです。ここから、逆境を逆手に取り、露地栽培の国産バジル生産量トップへの道のりが始まりました。

バジル農家の一人、前田さんのバジル畑。尾根と尾根の間に細く長く続いている。


「べと病※」を乗り越えて。世界中から最良の種子を調達。種子の独自処理で難局を打開。露地栽培のバジル生産量トップを誇る一大産地へ

くにみ農産加工では、吉丸栄市氏が社長に就任した2009年以降、主力商品をバジルペーストやフライドオニオンなどに絞り込みました。優位性・競争力のある農産物・加工品に集中し、収益性を上げながら、「国見ならでは」の産業を築くためです。ただ、その道のりは、順風満帆ではありませんでした。露地栽培のバジルは、香りが強く、肉厚なのに柔らかい葉が育つメリットがある一方で、「べと病」などの病気のリスクも高まります。国見町でべと病が発生した2015年以降の3年間は、収穫量も減り、バジルペーストの注文量を確保できない事態に陥りました。「発生当初は原因が分からず、どうなってしまうのか、不安な日々を過ごしました」と、吉丸社長は当時を振り返ります。くにみ農産加工が、工場の隣に自社のバジル畑を作ったのは、ちょうどこの頃です。病気の解明や病気に強い品種の検証・選定などを、加工会社が率先して行うことで、生産農家の皆さんの不安を解消し、地域一体で難局を乗り越えたい、という思いがあったそうです。「生産農家の皆さんにとって、“正確な情報源”となることが、くにみ農産加工の役割」なのだと、吉丸社長は言います。


そもそもべと病などの原因となる病原菌は、土の中で生息するため、種子が殺菌されていないと、病気を持ち込む危険性が高まります。しかしながら、日本国内で入手できる種子は殺菌されていない上に、生産性の良い種子・悪い種子が混在していました。そこで、くにみ農産加工では、最良の種子を世界中から調達。優良な種子一粒一粒に殺菌コート加工を施し、国見町のバジル生産農家に提供を始めました。べと病を完全に克服するまでには6年の歳月を費やしましたが、2021年には過去最高の収穫高を記録し、国見町一帯は、露地栽培のバジル生産量国内トップを誇る一大産地と呼ばれるまでになったのです。


※べと病:カビ(糸状菌)による代表的な病気の一つ。べと病になりやすい作物には、キュウリなどのウリ科の野菜や、キャベツやダイコンなどアブラナ科の野菜がある。バジルがべと病にかかると、葉は黄色くなり葉裏につゆ状のカビが生じ、症状が進むと枯れてしまう。

くにみ農産加工のビニールハウスでは、砂を使った無機栽培で条件を均一にして、新しい品種を試している。ハウスから自社の畑に移して、品位・収量を2年がかりで検証する。写真は、生育状況を見守る岩﨑さん。


二節目までの柔らかい葉を手摘みする、こだわりの品質。100軒を超える生産農家一軒一軒の栽培管理をクラウド上で見える化、高い生産性を地域全体で実現

100軒を超える生産農家とくにみ農産加工の間には、約束事がいくつかあります。その大事な約束事の一つが、「新芽から二節目までを手摘みする」という収穫時の厳格なルールです。ペースト状に加工したときに、硬い葉や茎などが食感を損ねることのないように取り決めた基準なのだそう。国見町の生産農家の一人、藤本さんにお話を伺いました。「そんなに大変なことじゃない。二節目までであっても、一枚一枚葉の状態を見て、これは少し硬いかな、成長し過ぎているかなと思ったら、その葉は収穫しない」と言います。また、「バジル農家の仲間の畑を見せてもらって、生育の状態が良ければ、翌年は自分もその品種を植えてみたり。互いによく、情報交換をしている」とのこと。ルールの厳しさへの不満どころか、「より良いものを作りたい」という強い意思・向上心が感じられました。目指すは世界一の品質。それを支えているのは、バジル農家の皆さんの“手間暇”なのです。

生産農家の藤本さんは、定年退職したのち、バジルの栽培を始めたそう。ミカンなどに比べて、バジルは軽く、年を取ってからも続けられるのがいい、と話す。


その品質を保ち、向上させるには、生産農家一軒一軒の栽培管理を「見える化」し、「標準化」することが重要です。そのために、くにみ農産加工では、2014年にクラウドシステムを導入し、「いつ誰が、苗を植えて、どんな肥料や農薬を施し、いつ収穫できそうか」といった日々の状況や今後の予定を、双方がリアルタイムで把握できる仕組みを構築しました。このクラウドシステムを使うことが、生産農家との契約条件であり、大事な“約束事”の一つなのだそう。


通常のトレーサビリティシステムは、生産過程を上流までさかのぼって、問題発生時の原因を特定する仕組みを指しますが、このクラウドシステムを使えば、入力された日々の栽培管理情報から、収穫されたバジルに問題のないことが確認できて初めて、納品に必要なラベル(QRコード)が発行されるため、「最初から、不確かなものは持ち込めない仕組み」を実現していると言えます。また、このシステムにより、収量の多い農家はどんな栽培管理をしているのかが分かるため、バジル生産農家全体のレベルアップにつながり、地域全体で高い生産性を実現することが可能となりました。バジル栽培を始めた1999年の収穫量(生葉換算)はわずか年間2.2トンでしたが、2022年は、実に200トンに迫る勢いです。20年余りでおよそ100倍。まさに「一大産地」と呼ぶにふさわしい規模にまで成長したと言えるでしょう。

生産農家の藤本さんは今年、新しい品種に挑戦している。写真はその苗。時期をずらして別の畑に植えて、長い期間、収穫できるようにしたいと言う。


山あり谷ありの作付面積に恵まれない土地だからこその逆転の発想。手間暇をかけ、他では作り出せない品質が生み出す、色・味・香り。大分県国見町が育んだ国産バジルを、一人でも多くの方に手に取ってほしい。そんな思いで、このストーリーを紹介しました。



【プレスリリース】2023/06/21

「新芽から二節目までの柔らかい葉だけを手摘み。国産バジル、収穫始まる」

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000418.000044559.html




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