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【リコー社内起業家インタビュー】TRIBUSによって見えた「スポーツ業界をDXの力で変革させる」という夢

著者: 株式会社リコー

アマチュアのスポーツ大会に出場する選手にとって大きな課題となる点が2つある。1つ目は、大会運営がアナログな手法で行われていることだ。試合結果や連絡事項は紙媒体に手書きで入力されることが主流で、速報性を担保できず更新作業にも労力がかかる。運営スタッフはもちろんのこと、選手たちの負担も大きく、大会の質を向上させることが難しい状況にある。2つ目は、試合動画を後から振り返ろうと思ってもどこにも残されていないということ。プロであればだれかが撮影した動画がYoutubeなどにアップされることはよくあるが、アマチュアの試合はほとんどどこにも残されない。こうした悩みをDXの力で解決するための大会トータルサポートサービスが「TempMachi(テンプマチ)」だ。このサービスは、TRIBUS2021に参加した内田傑之氏、松永一紀氏、森島徹氏の3名を中心に考案されたものだ。プログラムを経て株式会社TempMachiを立ち上げた彼らは、リコーグループの社員として勤務すると同時に、現在もサービス開発と事業化への取り組みを進めている。TRIBUS2021における活動の中でどのような手応えを掴んだことが彼らを起業へと突き動かしたのか。そして、このサービスを展開することで、スポーツ業界にどのような価値を提供しようとしているのだろうか。話を伺った。


【インタビュイー】

内田傑之 株式会社TempMachi代表取締役CEO、株式会社リコー 未来デザインセンター TRIBUS推進室

松永一紀 株式会社TempMachi代表取締役COO、株式会社リコー RDP SC事業部 新規事業推進室 事業企画グループ

森島徹 株式会社TempMachi取締役CIO、株式会社リコー RGC グローバル販売戦略本部 デジタルサービス事業センター 事業統括室 プロダクトマーケティンググループ


DXの力でアナログなスポーツ大会を脱却


――「TempMachi」の開発が始まった経緯を教えてください。


松永 内田さんと私は幼い頃からテニスをやっていて、リコーのテニス部に所属してアマチュアの最高峰レベルでもプレーをしていたのですが、選手としてある“痛み”を伴った経験があります。それは、過去の自分のプレー映像が残されていないというものです。現役を退いてから、選手として最も脂が乗っていた頃の試合を見返したくなったり、自分の子どもにもそれを見せたいという思いを抱いたりしたのですが、当時は試合撮影することを考えていませんでしたし、時には誰かが撮影をしてくれていたけれどもはや見つからない状態になっていて、「悔しいな」「痛いな」と感じたのです。

その頃、仕事でも何か世の中の役に立つサービスを作れないだろうかという思いを抱いていたこともあり、この「痛み」を解決する方法を考えていくようになりました。そこで思いついたのが、「メルカリ」のようにCtoCで動画を売買できるプラットフォームを作るというものです。このアイデアを簡単な企画書にまとめ、テニス部で最も信頼していた内田さんに話を持ちかけたところ賛同いただきました。ちょうど同じタイミングでTRIBUSの存在を知り、当時同じ部署で共に働いていた森島さんも誘ってTRIBUSに参加することにしました。


内田 当初考えたのはCtoCでの動画売買という内容でしたが、検討を進めていく中で分かったこととして、需要はあっても供給側が少なく、また肖像権や著作権など乗り越えるべきハードルが多くあります。そこで、どのような形が最適か探るために実際にテニス大会を訪れて実地調査を行ったところ、大会運営が非常にアナログで行われているという新たな課題に気づきました。

プロの場合は多額の資金を投じて運営されるので試合に関する情報はデジタル化されリアルタイムに共有されますが、アマチュアでは設備投資が難しく、対戦結果や連絡事項は紙に手書きしたものが大会本部の掲示板に張り出されるという具合で、速報性に欠けますし、情報収集や更新の手間もかかってしまっていました。また、テニスは制限時間のないスポーツなので、早く終わる試合もあれば長時間に及ぶ試合もあります。順番を待つ選手たちはいつ自分の出番が来るか気が抜けませんし、出番の近い選手の姿がない場合には運営スタッフが会場中を探さなければなりません。こうした状況を見て、動画に関するサービスだけでなく、大会運営そのものをDX化することが重要だと気づきました。

具体的には、試合の進行状況やインフォメーションはもちろん、大会エントリーなどもスマートフォンで行えるようにすることで、選手やスタッフの労力を減らすアプリを開発し、パッケージングして様々な大会や他競技に展開していくというイメージです。その端緒として、もともとのスタート地点であった動画撮影と販売サービスを先行的に進めているところです。


TempMachi代表取締役CEOの内田傑之氏


TRIBUSを通じて広がった自分たちの可能性


――TRIBUSに応募してからの活動内容や印象深い出来事を教えてください。


森島 選考を通過した後に受けたメンターの方との壁打ちを通じて、自分たちがやりたいことの穴を見つけられたことは印象的でした。また、実地調査の際にテストも兼ねて試合動画を撮影したのですが、僕がミスをしてしまって上手く撮影できていなかったり、データが破損してしまったことがあり、とても落ち込んだことも覚えています(苦笑)。

動画撮影にあたっては、カメラに詳しい業者の方のお力添えをいただきました。当時はまだ法人化も事業化もしていない状況でしたが、彼らもまた「スポーツに関するビジネスを作りたい」という思いを持って積極的に協力してくれましたし、システム開発のために雇ったフリーランスエンジニアの方も情熱を持っていました。本当にいい人たちと巡り会うことができたプロジェクトでもあったと感じています。


内田 印象深い出来事は幾つもありますが、ひとつは自分の人脈がビジネスに活かされることを知った点です。もともとテニス界に友人や知人はたくさんいましたが、そうした人々に自分たちがやりたいと思っていることを伝えていくと多くの人が協力してくれて、自分はとてもいい仲間に囲まれていたのだと気づかされました。


TempMachi代表取締役COOの松永一紀氏


松永 内田さんの話ともつながりますが、リコーグループという大きな組織に所属している利点も感じました。TRIBUSではリコーの社内リソースの活用や、他部署との連携ができるので、「こういうことができる人を探しています」と発信すると誰かが手を差し伸べてくれるんです。自分たちだけではできないことはたくさんありますが、大企業の強みを活かせば可能性が広がるという点は、今回のプログラムを通して改めて気づいたことでした。


内田 以前は、まさか自分が新規事業や法人を立ち上げるなんて思ってもいませんでした。本業の方も忙しかったですし、副業をやろうという意思もなく、特に勉強もしていませんでしたから。ですが、TRIBUSにエントリーして、TRIBUSプログラム事務局の方々やメンターの方から色々なことを学び、少しずつ自分の成長を実感していく中で、自分が勝手に自分には事業立ち上げなんてできないと思い込んでいただけで、チャレンジしてみたら十分に可能性はあるんだという気づきは大きなものでした。

そう考えると、チャレンジしてみれば誰にでも可能性はあるとも言えると思います。特にリコーでは、リモートワークなど柔軟な働き方が可能なので、在宅勤務をうまく活用すれば、移動時間を短縮できる分だけ時間に余裕が生まれます。また会社側も社員のリスキリングを支援しています。こうした環境を活かしつつ、色々な方のサポートを受けられるTRIBUSというプログラムを上手く活用してみると、チャンスは広がるだろうと感じています。


社外副業となったことでモチベーションは一層アップした


――TRIBUS2021では、残念ながら最終選考で選抜されませんでした。


内田 最終ピッチに通過できなかったことは、TRIBUSの中で最初にして最大の挫折でした。ピッチの中で、この事業のポテンシャルや、動画撮影はあくまでも一部で大会運営全体をカバーしていくサービスであるといったことが、最終選考であるピッチの時間の中で上手く伝えられなかったことが反省点として残りました。

ただ、手応えはありましたし、協力をしてくれた外部の企業の方々や、テニス大会の運営者など、多くの人を巻き込んでいたので、そのまま終わるという考えはありませんでした。そこで最終ピッチの翌日から今後の動き方を考えていき、メンバー内で話し合ったり、TRIBUSプログラム事務局の方々に相談をしたりしていった結果、社外で起業するのが最もいい方法だろうという結論になり、法人化を決意しました。ここまでは自然な流れでしたが、森島が一緒にやってくれるかどうかは不安でした。僕と松永は自身のルーツであるテニス界への思いもありましたが、森島はテニスをやっていたわけではありませんし、システム開発を担ってくれていた森島がいなくなってしまうと何もできなくなってしまうからです。


森島 二人の決断の速さには驚かされましたが(笑)、僕自身TempMachiでの活動はとても楽しかったので継続の意志は持っていました。それに、DX化によってアナログから人々を解放し、やるべきことに集中してもらいたいというシステム屋としての思いを抱くようにもなっていたので、ぜひやっていきたいと考えていました。


TempMachi取締役CIOの森島徹氏


――TRIBUS期間中は社内副業という形でしたが、現在は社外副業という形でTempMachiの事業に取り組まれていると聞いています。それぞれにはどのような違いがありますか。


内田 社内副業の頃は通常の業務時間の20%の工数を使ってよかったのですが、現在は就業時間外で取り組んでいます。TempMachiの活動に割ける時間は減りましたが、完全に自分ごとになった分、モチベーションはTRIBUS期間中よりも上がっていると感じます。

現在は、誰でも一定のクオリティで動画撮影ができるように撮影方法のブラッシュアップや機器のカスタマイズをしたり、撮影から販売までのスキームを構築している状況です。大会運営のDX化に関しては、最低限の機能を持ったベータ版ができてきたところですので、改めて実地検証を展開していく予定です。そう遠くないタイミングでリリースしたいと考えています。


――最後に、TempMachiのビジネスに興味がある方へのメッセージをお願いします。


内田 日本のテニス人口は270万人以上いると推計されていて、とても裾野が広いスポーツです。それでもアナログで運営されている状況ですので、DX化することで業界を変えていきたいと思っています。ただし、我々だけではできないことも多いので、同じ志を持った方々とコラボレーションもしていきたいと考えています。


松永 私たちの取り組みは、テニス界だけではなくアマチュアスポーツ全体を楽しく豊かにしていくためのものです。よりよいスポーツ環境を作っていくためにも、我々のサービスに興味のある方はぜひ一緒に取り組んでいきましょう


PHOTOGRAPHS BY Yuka IKENOYA (YUKAI)

TEXT BY Tomoya KUGA





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