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人の数だけ、物語がある

関東大震災から100年。街を、家でまもろう。地域の方々とともに進める不燃化プロジェクト「創業60周年。感謝と挑戦を胸に」災害に強い家づくり②

著者: パナソニック ホームズ株式会社

今からちょうど100年前の1923年9月1日に発生した関東大震災は南関東を中心に死者・行方不明者が10万人を超える未曽有の大災害となりました。生命や財産を守るためには、災害による被害を防ぐための「防災」、そして万一起きてからでも被害を最小限に抑える「減災」の両面から取り組みが求められます。なかでも重要なのが、ふだん私たちが暮らす住まいの備えです。「災害に強い家づくり」3回シリーズの2回目は、東京都品川区・戸越地区の「不燃化住宅」の取り組みを紹介します。


戸越銀座商店街で知られる東京都品川区戸越地区は、木造住宅密集地が今も多く残されており、都や区、そして町を挙げて防災の取り組みが進められています。パナソニック ホームズは2016年から戸越銀座商店街と連携を図りながら、老朽化した木造住宅を不燃化住宅に建て替えるための啓蒙を行う「戸越不燃化プロジェクト」を進め、安心して暮らせる街づくりをサポートしています。

地域の防災力を高める「戸越不燃化プロジェクト」

7月22日、東京都品川区の戸越小学校グラウンドで、5歳から小学校6年生までの子どもたちとその保護者を対象に、サッカーを楽しみながら災害への備えを学ぶイベントが開かれました。名付けて「まちなか防災サッカー」。準備運動をしながら住まいをテーマにした防災に関するクイズが出され、全問正解の子どもにはお菓子が配られました。FC東京のスクールコーチからパスやシュートについてアドバイスを受けた後は、チーム戦でパスの本数を競いながら災害時に必要な備蓄品について学びます。ミニゲームでサッカーを楽しんだ後は、体育館に移動。小学校の体育館は、災害時は実際に避難所となるため、避難所の生活を体験し、平時からの備えを考えます。実際に設置することになる間仕切りテントにより生活スペースの狭さを体験したほか、水やお湯だけで食べられるアルファ米を使った防災食を試食しました。

「まちなか防災サッカー」のイベント時の様子

 

戸越銀座商店街連合会が2021年から開催している「まちなか防災サッカー」は、パナソニック ホームズが、都市の社会環境問題の解決を目指す株式会社HITOTOWAの協力を得て、企画・運営を担当しています。「イベントを通して、戸越エリアに住んでおられる方々の防災に対する意識がさらに高まり、ひいては災害に強い家づくりへの関心を持ってもらうことができれば」と、東京支社城南支店で戸越不燃化プロジェクトリーダーを務める山中 滉生はイベント開催のねらいを語ります。

山中 滉生


戸越不燃化プロジェクトとは、木造住宅が密集し、狭い路地が入り組んだように張り巡らされ、地震発生時に火事が燃え広がる危険性の高い戸越地区の防災力を高めようと、同地区を営業エリアに持つパナソニック ホームズ城南支店が7年前に始めた取り組みです。「燃えないまち」を掲げる品川区では、特に老朽化した木造住宅が密集しているエリアを不燃化特区と位置づけ、耐火・準耐火建築物を建てる際に、不燃構造化するために必要な工事費用などを助成しています。同プロジェクトでは、戸越地区の住民と強固な結びつきを持つ戸越銀座商店街連合会と連携し、不燃化特区支援制度の周知を図りながら地震や火事に強い住宅への建て替えを促しています。

木造密集住宅地域に欠かせない住宅の耐震化、不燃化

なぜ、戸越地区で不燃化プロジェクトの取り組みが始まったのかを知るためには戸越地区がたどってきた歴史を振り返る必要があります。


戸越地区の隣接地で生まれ育ち、東日本大震災時には内閣府で防災担当総括参事官として緊急災害対策本部の設置・運営に当たり、現在は、国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 客員教授で巨大災害再生策の自主研究に取り組む小滝 晃氏に現地を案内してもらいました。


「戸越という地名は、江戸から現在の戸越を越えると、相模の国に入るということで『江戸越えの村』と呼ばれ、やがて『戸越』と呼ばれるようになったと言われています。もともとこの一帯は、孟宗筍(もうそうだけ)の産地として知られた郊外農村地域でしたが、1923年の関東大震災とその後の鉄道開通に伴い、急速に人がなだれ込んできました。このため無差別に市街化し、密集住宅地が形成され、狭い路地が増える遠因となりました」と、街の成り立ちを教えてくれました。


木造密集住宅の危険性について小滝氏は二つの点を指摘します。「関東大震災では10万人を超える方が犠牲になりましたがその大半は火事による焼死といわれています。木造密集住宅は火事があっという間に燃え広がるリスクがあります。また、老朽化した木造住宅は倒壊しやすく、ただでさえ細い路地の進路がふさがれてしまうと消防車が通行できなくなり、火事の延焼を防げないリスクがあります。そのためにも家の耐震化、不燃化をまず進めなければならないのです」と、いつ起こるとも知れない地震への備えについて警鐘を鳴らします。

戸越八幡神社にある地名の由来と詠める古歌が刻まれた石碑

防災公園、道路拡幅…、災害に強いまちづくりに向けて

東京都や品川区は、こうした現状に対する危機感から「災害に強いまち」の実現に取り組んできました。たとえば、広域避難場所となっている戸越公園、そして避難所に指定されている戸越小学校の周辺エリアは、重点的に防災対策が進められています。「多くの人が避難する公園の周囲が火の海になってしまっては元も子もありませんから」


例えば、戸越公園の一部になっている「文庫の森公園」には、災害時の拠点となる事を想定してさまざまな工夫が凝らされています。公園の一角には荏原消防団第六分団倉庫が設けられ、災害発生時に使われるさまざまな機器・工具類が収められています。

「あそこのマンホールは何のためにあるか分かりますか」と小滝氏。指さした方向に目をやると、数m四方に20数個のマンホールが集積していました。「答えは災害時のトイレ用です」。マンホールは下水道に直結しており、その上に仮設トイレを置けばそのままトイレになるという仕組みです。このほか、かつて三井家の資料が保存され「文庫の森公園」の名前の由来にもなった旧三井記念館は外観そのままに防災備蓄倉庫として活用され、陽だまりの広場は、災害時にテントを張って救援拠点に早変わりできるようになっているほか、周辺には、災害時に炊き出しのために火が起こせる、かまどベンチも配備されています。


また、戸越地区を走る都道29号線については道路幅を広げるための用地買収が進んでおり、実際に歩いてみると道路沿いにセットバック(道路の幅を拡張するために土地の境界線を後退させること)された箇所がいくつか見受けられました。「実際に道路の幅が広げられるには、まだかなりの時間を要するでしょうが、前に進めていくためにはできるところから進めておかないと」と小滝氏は言います。

文庫の森公園の防災トイレ(マンホール)(左)と防災ベンチ(右)

セットバックする前の商店街(左)とセットバック後の道路拡張用地(右)

安心できる街の玄関口に。戸越銀座商店街連合会の取り組み


全長約1.3kmにわたる関東有数の長さを誇る商店街で、約400軒の店舗が軒を連ねる戸越銀座商店街連合会も、そうした歴史の一端を担ってきました。関東大震災後には、農村地帯の中の商店主が、銀座の街が大量のレンガ瓦礫の処分に困っているという話を聞き、レンガを水捌けの悪い通りに敷き詰めて歩きやすくしようと、レンガを譲り受けた上に、銀座の賑わいにあやかりたいという思いから「戸越銀座」と名乗り、全国に300以上ある「○○銀座」の元祖となったとされています。


そのような来歴もあり、周辺に木造密集住宅を抱える同商店街でも早くから防災の取り組みについても積極的に進めてきました。約10年がかりで2016年に完成にこぎつけた無電柱化の取り組みもその一つです。無電柱化についてはもちろん景観上の目的もありますが、台風や地震などの災害時に電柱が倒れたり、電線が垂れ下がったりするといった危険を防ぐことにもつながります。倒れた電柱が道をふさぐということもなくなり、災害時の緊急車両の通行もスムーズになります。


同連合会の山村 俊雄会長は「この商店街は駅を降りたところにある街の玄関口として、よその街とは違うぞと言う魅力を発信していかなければなりません。そして玄関口である商店街が多くの人に愛されるためには、まず安全に買い物、通行できる環境整備が大切です。無電柱化のテーマだけでなく、どうすれば商店街により多くの人たちに来ていただけるか夜中まで議論をしたものです」。平日で1万5千人もの人が行きかう全国有数の人気を誇る戸越銀座商店街連合会が今のようなにぎわいを維持するためにかけた熱量は並大抵ではなかったようです。

山村 俊雄会長

街に飛び込んで、家にかかわる課題を解決する

7年前にパナソニック ホームズの担当者から「戸越地区で防災の取り組みを進めていきたい」と話があったときは「何を言っているかよく分からなかった」と当時の戸惑いを正直に語る山村会長。しかし、その後の地道で熱心な防災への取り組みを目の当たりにして考えが変わっていったと言います。

当初の取り組みについて、東京支社営業推進部企画推進センター 所長の北條 賢宏は「近隣の住宅展示場に二つのモデルハウスを出展していましたが、そこで待つ営業ではなく、実際にお客様が住んでおられる場所に飛び込んで、そこに住んでいる人たちが抱えている課題解決に応えるのがこれからのパナソニック ホームズが果たすべき役割ではないかと考えました。防災に強い街を作りたいと考える戸越銀座商店街連合会の皆さんと、災害に強い家を作りたいという想いで合致しました。」と、戸越不燃化プロジェクトを始めることになった想いを語ります。

北條 賢宏


以降、当社の住宅が15センチ単位の設計が可能であるため、路地が入り組んだ場所にある変形地においてもわずかなすき間も無駄にせず設計できること、重量鉄骨ラーメン構造(NS構法)の場合、足場を用いずに建築可能な無足場工法により狭い敷地でも施工が可能となることや、構造の強さから柱間隔が最大10.8mと間口が広く駐車場スペースを広々と使えることなどの強みを発信するとともに、ポスターやチラシにして分かりやすく伝えられるようにしました。


また、戸越銀座商店街連合会が主催する「防災街づくりフェア」に出張ブースを設け、不燃化特区支援制度の周知とともに、耐震・耐火性能を持たせた住宅へ建て替えることで、安心して暮らせる街づくりにつながります、との呼びかけを行ってきました。子どもたちには、当社が独自に制作した絵本「4ひきのこぶた」を通して、災害後も安心して暮らし続けることができる「災害に強い家」こそが、”おうち時間を楽しむ”ための重要な基盤となり、ひいては“災害時の在宅避難”にも対応できることを伝えています。


画像は、戸越銀座商店街のイラストが入った特別版オリジナル絵本の表紙

▶ご参考:https://homes.panasonic.com/ad_lp/kobuta/

商店街と一体になって安全な街づくりに貢献する

戸越銀座の中にリニューアルオープンした「よろず相談所」


「商店街連合会としても地震の揺れを体験できる起震車などを置いて地震の怖さを知ってもらうこともしていますが、パナソニック ホームズが加わったことで奥行きが広がり、子どもたち向けに楽しみながら学べる工夫をしてくれているので非常に多くの人が集まってくるようになりました」と山村会長。「防災イベントに民間企業が入ることで商店街だけではできないことをサポートしていただきたいですし、若い世代や女性の商店主の人たちの発想で取り組みをどんどん進化させていってほしいと思っています」と語ります。


パナソニック ホームズは2023年9月1日、商店街の一角に「よろず相談所」をリニューアルオープンしました。「これまではイベントでしか接することのなかった戸越エリアの住民の方と日常的に接することができる拠点を設けることによって、不燃化住宅に建て替えることの重要性をより多くの人に知っていただくことができれば」と、城南支店長の阿部 亮介はその思いを語ります。

阿部 亮介

関東大震災から100年という節目の年。7年越しで取り組んできた戸越不燃化プロジェクトをさらに前に進め、パナソニック ホームズは、災害に強い家づくりを通じて街をまもる取り組みをこれからもサポートしていきます。

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住宅の耐震化、不燃化を進め、首都直下型地震の被害を最小限に

国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 客員教授 小滝 晃氏に聞く


記事にもご登場いただいた国士舘大学 防災・救急救助総合研究所 客員教授の小滝 晃氏に、首都直下型地震へ備えるための住宅、まちづくりのあり方について聞きました。


―巨大災害政策の研究に取り組むことになったきっかけは。

2011年3月11日に発生した東日本大震災の際、私は内閣府で防災担当総括参事官として緊急災害対策本部の設置・運営に当たりました。巨大災害の恐ろしさを目の当たりにし、もし、災害対応力の中枢を担う首都東京が被災すれば想定を超える重大事態に発展しかねません。東京における災害に強いまちづくり は、一地域の問題にとどまらず、日本を国難災害から守り抜くための要諦であると考えました。


―東日本大震災から得た教訓は。

最も重要なことは、①「最大級の巨大災害」を想定し、備えなければならないこと、②そのための「減災」の積み重ねが重要であること、③「想定外の事態」を想定し、「臨機の対応力」を確立することが必要であること、です。


100年前の関東大震災では火事で多くの人が犠牲になっています。首都直下型地震に備え、木造住宅密集地域対策に早急に取り組まなければなりません。延焼ネットワークの構造に関する科学的知見を基礎に、最大級の市街地大火を可能な限り具体的に想定した上で、減災につながる「首都東京における災害に強いまちづくり」を検討しています。


―木造住宅密集地の対策として求められることは。

建築基準法は、震度6強~7の大規模地震の際に、倒壊・崩壊によって人が押し潰されて死ぬことがないという耐震性能を要求しています。ただ、地震発生時に人命を守れたとしても、建物が大きく損傷し、居住が継続できない状況となる可能性があります。


倒壊した家屋で道路がふさがると被災者支援の活動を阻まれます。膨大な数の避難者が発生し、特に高齢の方にとっては負担を強いられます。被災者にとっては住居の再建築等のための経済的負担は非常に大きくなります。こうした複合的な要因で東京の震災復興が遅々として進まない事態となる可能性があります。


そこで、木造密集住宅が集中する地域内の住宅については、①耐火性、②耐震性(震度 7の地震動に対しても、小さな損傷しか発生せず、小規模な修繕等を行うことでそのまま居住を継続できる耐震強度)を備えることを提案しています。



―このほど「次の関東大震災までに何をすべきか 3.11からの教訓」を出版されました。本の中では「懐かしいけど安全な未来のまち」の大切さを提唱されています。

さまざまな研究・調査の結果、東京の低層地域の住民は、低層で路地空間の豊かなヒューマンスケールな住環境やコミュニティを好む志向性が高いことが判明しています。こうした地域では、高層ビルが立ち並ぶ市街地に作り替えるのではなく、低層のヒューマンスケールな住環境の特性を残しながら、防災性(不燃化・耐震化)を向上させる建て替えを進めていくことが理想です。


高層化がふさわしい場所では高層化によって、一方、低層の市街地の魅力を残すべき場所では低層のままでの建て替えを行っていくということができれば、東京が「懐かしいけど安全な未来のまち」に進化していくのではないでしょうか。それが、この町に育ててもらった私の夢です。 


近年はSDGsの観点からもZEHなどのエネルギー自立性能を備えた建物の普及が進んでいますが、ZEH住宅の普及は直下型地震に備えた減災にも寄与します。被災地への支援が届くまでには最低でも72 時間程度が必要といわれますが、ZEH住宅であれば、災害時に停電が発生しても冷蔵庫等が使え、在宅避難を支える基盤として機能するからです。

今年は関東大震災から100年の節目。この機会に一人ひとりが想像力を働かせ、防災の意識を高めてほしいと考えています。

*ご参考:https://www.chuko.co.jp/tanko/2023/08/005684.html


▶”災害に強い家づくり” 第1号

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次号は、地震被災リスク推定システムについてご紹介します。(2023年9月8日公開予定)


◎関連リリース:

https://homes.panasonic.com/company/news/release/2023/0901.html

https://homes.panasonic.com/company/news/release/2023/pdf/0810.pdf


◎パナソニック ホームズ株式会社について

パナソニック ホームズ 創業60周年特設サイト:https://homes.panasonic.com/60th/

商品ページ:https://homes.panasonic.com/

企業情報ページ:https://homes.panasonic.com/company/

公式Twitter:https://twitter.com/panasonic_homes






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