「使う」から「使いこなす」住宅へ。人生100年時代対応型の住宅ブランド「Makefull」の開発に込めた想い
住協グループは、2022年より東京大学高齢社会総合研究機構の大月敏雄教授と共同研究を開始し、人生100年時代対応型の次世代住宅具現化を目指しました。その第一歩となる住宅ブランド『Makefull』が、2023年6月31日、練馬区大泉町の開発現場で完成。同年の7月1日にはモデル棟を除く3棟が販売を開始しています。
このストーリーでは、住宅ブランド「Makefull」誕生の経緯と開発に込めた想いをご紹介いたします。
開発の経緯
アカデミックとの共同研究で従来の価値観に縛られない革新的な住宅を提案
顧客の多様なライフスタイルに合わせた新しい住宅の形を模索し続ける住協グループは、既成概念にとらわれず、アカデミックなアプローチを求めて、東京大学のIOG(Institute of Gerontology)と共同研究を行うことを発表しました。この共同研究により、従来の価値観に縛られない発想に基づいた次世代型住宅の実現を目指します。
「私たち住協グループは、従来の住宅事業の枠組みにとどまらず、利益の確保や既成概念に拘束されない視点を重要視しています。このため、東京大学のIOGとの連携によって、新たな展望を開き、革新的な住宅の提案を行うことを決定しました。
大月教授の“住民が何世代にもわたって町全体を住みこなす”という発想は、通常住宅を提供する不動産会社には予想外の視点でした。しかしながら、住協グループの役員が大月教授の講義に参加し、その提案に魅了されたことが、この共同研究のきっかけとなりました。
共同研究では、定期的な会議を通じて、大月教授が長年研究してきた“超高齢社会と住宅ニーズ”に基づいた理想的な住宅設計と、住協グループが培ってきた現実的な課題解決力、企画販売のノウハウを結びつける方法が検討されました。大月教授自身が関与している先進的な住宅地の視察や、東京大学の建築学生とのコミュニケーションを通じて、新しい住宅の価値観である『Makefull』が生み出されました。」(株式会社住協 取締役員 宇野健一)
本記事では、打ち合わせや視察を通じて議論された内容について、具体的にまとめ、どのように商品開発に繋がっていたかを社会的な観点から掘り下げ、ご紹介します。
社会の問題と密接に絡まり変化する社会を生きるために、次世代の住宅ニーズを模索する必要がある
日本が世界に先駆けて突入している「人生100年時代」の社会は、少子高齢化、自然災害、世界的変動、新型コロナウイルス等の社会変動要因といった様々な不安的要素をはらんだ時代に突入しています。こうした社会問題や、それに伴う政策と、住宅の機能、人々の暮らし方が密接に絡み合っていることは歴史を顧みれば一目瞭然です。
戦後から続いた住宅不足が解消すれば、次は「量から質へ」という方向性が打ち出され、広さや日照、通風などの住宅環境課題に焦点があてられるようになり、同時に震災や洪水を見越した強固な設備、安定した地盤が求められるようになりました。
さらに、2011年の東日本大震災を経て、原発の停止によって、再生エネルギーの需要が加速し、住宅においてもソーラーパネルの設置が普及しました。創エネ分野が促進されるに至っています。
2020年の新型コロナウイルスは、皆さんも記憶に新しいのではないでしょうか。テレワークの促進が加速し、住宅に求められる広さや、快適さに大きな変化が訪れました。
その後、2021年には米国での住宅人気で、木材が世界的に不足する「ウッドショック」が発生。ロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の影響で、木材価格はさらに最高値を更新しています。このように、世界のどこかに問題が発生すれば、日本の住宅の変化もそれに応じて加速していきました。
これからの日本の生活を考えた時、住宅ニーズと絡めて私たちが考えなくてはならない、重大な社会問題のひとつとして、超高齢社会の問題があります。厚生労働省の推計によれば、認知症高齢者数が2025年には約675万人に達すると予測されています。
世の中では、IOTやAI、バリアフリーの整備など、住宅の重設備化が進んでいますが、はたしてそれだけで良いのでしょうか。住宅の重設備化は、高齢化社会に呼応した空き家問題の根本的な解決には繋がりません。改修に必要な費用も人も足りず、住宅は持て余され、やがて町の過疎化、地域のつながりの希薄化は広がっていくでしょう。今回プロジェクトメンバーが注目したのは、こうした社会を生きていく次世代の住宅ニーズを模索していかなくてはならないというところです。
こうした現実指向、未来志向の動機をベースにして、東京大学の研究チームが蓄積してきた知識、経験、アイデアと、より快適で暮らしやすい住環境を日々模索してきた住協グループのノウハウとのコラボレーションによって、共同開発が進み、最初の成果物である人生100年時代対応型の次世代モデル住宅が完成しました。
より多角的な視点で将来を見越した「人生100年時代の住まい」
「人生100年時代の住まい」に相応しいコンセプトとして、研究の基盤となったものは、「住みこなせる家」という概念でした。より多角的な視点で将来を見越したフレキシブルな設計によって、「充実したセカンドライフのことも考えませんか?」という提案です。
『Makefull』の第一弾として竣工した4棟の住宅の大きな特徴としては、外階段と水周りの配管や設備が、あらかじめ大掛かりなリフォームを想定した設計となっていることです。この設計には、従来の一般的な戸建住宅における課題であった改修費用を大幅に減少させる目論見があります。
子が独り立ちし、離れていった時に、空いた部屋やスペースを賃貸併用住宅や店舗併用住宅として活用することを想定した設計です。また、二世帯住宅に改修し、独り立ちした子が、パートナーを連れて戻り、やがて引き継いでいく、といったケースも想定しています。
このようなコンセプトをもって作られた住宅が、新しい時代のスタンダードとして普及していけば、その町はどうなるでしょうか。今回のプロジェクトの起案者である、大月敏雄教授、齋藤隆太郎氏が、住宅や町に懸ける思いを語ってくれました。
写真左/斎藤講師 写真右/大月教授
大月敏雄
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 教授
東京大学高齢社会総合研究機構 副機構長
復興デザイン研究体 特任教授
齋藤隆太郎
東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
東北工業大学 専任講師
株式会社 DOG 一級建築士事務所 主宰
どんな多様な考えや価値観にも対応できるように設計に余剰を持たせた、「使いこなす」住宅
大月教授:戦後から現在まで日本で考えられていた「家族」とは、典型的な4人家族の形態です。そのうち、統計的には3カップル中1カップルが離婚してしまうという話も聞きます。昔は子供2人という家族形態が一般的でしたが、今は1人であったり、ディンクス(DINKS)であったりも、普遍的になってきていますよね。親も、昔は70歳、80歳で亡くなっていましたが、今や「100歳過ぎてもひいおじいちゃん、ひいおばあちゃんまで一緒に過ごす人生」というケースもよく見受けられるようになりました。
30年ほど前では考えられなかった離合集散が、今は非常に増えてきています。住宅の間取りは3LDKのままだと、家族形態の変化に対応することができず、「家に合わせて住まざるを得ない」という状況が増えていきます。それは結局、住民が長期にわたって我慢をしなくてはならないことですが、その我慢を解決したいというのが、今回の研究のコンセプトの根幹に込められた思いです。
例えば、子離れした夫婦が、喫茶店を開業したくなったから1階を全部飲食店に改装し、自分たちの寝室を2階にする等、そういったことを簡単にできるような住宅があれば、家族形態の変化に対応してゆけるのではないかと考えました。
今の日本は、不安定社会という言葉がぴったりです。災害の多発もありますが、加えて深刻なのは経済的な面で、ずっと安定的な収入が期待できるわけではないということです。そのような時代で、外へ稼ぎに行くだけでなく、住宅を使って何か稼ぐことはできないかということを考えました。その際、昔は下町であれば、工場の上に居住空間があったりもしましたが、今は戸建住宅地では住宅以外を作れないという法的な縛りも多いのです。ですが、そういった町の中に気の利いた個人の喫茶店があったり、小さなレストランがあったりすると、町全体の繋がりや活気が生まれていくのではないかと思っています。そのような町が今は大きく必要とされているのではないでしょうか。今回のコンセプトを簡単に言うと「とにかく色々使えるよ」ということです。もちろん、無制限になんでもという訳ではありません。恐らく人間が辿るであろう色々なパターンを大まかに予測し、その為に将来必要とされる装置を、あらかじめ仕込みつつ作っています。
齋藤先生:現代は本当に暮らし方が多様化しています。特にコロナウイルスの影響による、リモートワーク化の加速がわかりやすいですよね。また、昔とは違い、1つの会社に生涯勤め上げるという価値観も崩壊しつつあります。転職をすれば、当然新しい価値観が新しい職場環境で降りかかってくるし、趣味や考えも変わったりもするでしょう。
例えば、今まではカフェを営みたいと考えていた人が、今度は塾を開きたい、ダンススタジオを開きたいといったように願望を変えていく可能性が大きいのです。その為、『Makefull』をどう「使いこなす」かは、具体的に限定していません。できるだけどんな価値観や考えの多様化が生まれても対応できるように、設計に余剰を持たせています。住まうにしても、ヨガスタジオとして使うとしても、やはりシャワーは必要ですし、手洗いも必要。そういった仕様や設備が、予備的な意味を含めて2つあるということが、『Makefull』の大きな強みです。
使うだけでなく、それを作り込んで「使いこなす」ことで、より生活が豊かになる
大月教授:通常の住宅では、家の玄関を開け、家の中に2階へ上がる階段が作られているという間取りが一般的ですよね。『Makefull』では、敢えて室内の階段に加える形で外に鉄骨の階段を作っています。日常的には1階、2階、屋上を内部の階段で行き来できればいいですし、2階を誰かに貸し出した時は、外階段を利用することによって、貸主であるオーナーさんとは、別の動線で借主が自分のお部屋と外を自由に行き来することができます。日本の戸建住宅は、ほとんどが内階段しかないため、40年も経てば2階に用途を見出すことができず、多くが空き部屋のまま放置されてしまいます。外階段によって、2階の活用法が大きく拓けるというところが、一番重要なポイントだと思っています。
もしくは日常においても、必ずしも内階段ではなく、外階段で2階から直接外へアクセスするという時があっても良いのではないでしょうか。気分の良い日は、外階段をダダダっと降りていくなど日常的にそのような些細な暮らし方の変化があるだけでも、生活の豊かさは広がります。
また、単純に町並みとしてのデザイン性も特徴的です。『Makefull』の4棟に使われている外階段というのは、カラフルな色が塗ってあったり、一般的な住宅地では中々見ないモダンな景観に仕上がっています。ここも、例えばそのままにしておくのではなく、小さな鉢植えなんかを1段1段に植えていくとさらに色彩豊かな景観になるのではないでしょうか。単に2階の部屋を貸せるようにする予備的な機能だけではなく、自分のスタイルに合わせて色々と設えたり、少しライティングを施すと、家の表情が変わるという面白味も持ち合わせています。一般的に階段というのは、使うだけのものです。しかし使うだけでなく、それを作り込んで「使いこなし」てみる。そういう対象にもなるのかなと思っています。
齋藤先生:技術的な部分の話ですが、通常木造の賃貸アパートに付いているような鉄骨階段は、登っていくとカンカン鳴ったり、雨が降ればコンコン鳴ったり、安普請に作られたゆえに音が響いてしまい、住まう方々の居住環境に害をなしてしまうような一面があります。しかし、『Makefull』の鉄骨階段は、アクティブに使いこなしてもらうことを想定している為、かなり稼働率の高い階段を目指しており、足で踏む部分にモルタルを充填しています。それによって、音の響きをかなり抑えるような仕組みで、住環境に優しい階段なのです。
写真:A号棟/外階段
「この町に住んでよかった」と心から思えるような町をプロデュースする
大月教授:今回、住協グループと共同で開発した4つの住宅というのは、ごく一般的に開発される郊外の住宅地に建っています。【角切(すみき)り】といって、道が曲がる所の角がななめに削られているようなやり方で、開発分譲地の中になるべく沢山の住宅が建てられるような区割りになっています。これはこれで極めて合理的な設計ですが、もう少し余裕のある宅地があれば、奥行きの深い街並みを展開しても良いのではないかと思います。
例えば、「道路の幅が本当に6m必要なのか、ひょっとすると5.5mぐらいで、道路の横に緑道や歩道を設置したらどうか」、あるいは「住宅地と住宅地の間に【フットパス】という人間だけが通れる緑道をつけたらどうか」等。区画以外の所でできる工夫は沢山あるのです。それが良い町並みを作る原動力となります。道路は真っすぐに作られる方が良いという固定概念もありますが、少し曲げてみるだけでも町並み全体に表情が生まれます。開発する宅地に余裕があれば、住宅一つ一つの重設備化以外に、そのような付加価値をつけることも可能です。さらに、そのような町並みを手掛ける中で、端から端まで居住用の一般的な住宅で埋めるのではなく、町の入口の角地などに、ちょっとした喫茶店やレストラン、雑貨屋さんが出来たり、住んでいる人がそうしようと思えばできる住宅があれば、「私の家はあそこの喫茶店の角の家なんだ」と言える目印になったり、あるいはそこの喫茶店が地域のコミュニティのたまり場のようになったり、人も建物も含めて、町全体が一体性を持った、「この町に住んでよかった」と心から思えるような町をプロデュースすることが可能になります。今後そういうチャンスがあれば、ぜひ住協グループにも取り組んでいただきたいと思っています。
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