世界のベスト3に選ばれた製品が、行政や銀行の支援を受けられなかった理由とは
世界で評価された製品が受けた国内での逆風
世界で最も革新的な電子楽器を表彰するアワード「MIDI Innovation Award」(ミディ イノベーションアワード)で、ファイナリストの3製品に選ばれた日本生まれの電子楽器「インスタコード」は、楽器に挫折した人でも弾ける画期的なユーザーインターフェイスが評判になり、ネット通販や楽器店で人気を博しています。
インスタコードを持つ開発者ゆーいち
起業したばかりのベンチャーが、構想から3年で製品を発売し、2年後には世界規模のアワードで評価されるまでに成長したものの、この成長の逆風となったのは、日本のものづくりベンチャーが、適切な支援を受けられない、構造的な問題でした。
本稿では、インスタコードの開発者が、投資家、行政、銀行などの支援を受けられず、それでもユーザーの支持を得ながらギリギリの状況で製品化を達成したストーリーをご紹介します。
たった1人で始めた製品開発
インスタコード開発者のゆーいちは、ミュージシャンであるものの手先が不器用で楽器が苦手だったため「不器用な人でも弾ける楽器のインターフェイス」を考案しました。
製品化に着手する前に、2000人を対象にしたアンケート調査を行い、潜在的な市場のニーズが高さを確認し「この製品は売れる」という確信をもって製品の開発をスタートしました。
しかし、広告制作会社や化学メーカーなどで勤務した経験はあるものの、電子機器の開発については全く未経験でした。
開発者が木で作ったモック
国内トップレベルのエンジニアや企業を集めたチームを結成
全国の中小企業から大企業まで様々な会社に連絡し、製品化できる会社を探しましたが、電子楽器をゼロから開発できるノウハウをもつ会社はなく、ほとんど断られました。
しかし徐々に賛同者が集まり、最終的には国内トップレベルのエンジニアや企業を集めたチームが結成され、構想から1年で「試作機」が完成しました。
構想から1年後に完成した試作機
投資家から相手にされなかった
試作機が完成し、海外の展示会に出展するなど市場調査を重ね、間違いなく市場のニーズがあることはわかりました。
しかし量産するには5000万円以上の費用が必要になります。
海外の展示会で好評を博し世界で売れることを確信
最初に投資家やVCに相談しましたが「ものづくり」は投資家のウケが悪いことに気づきました。
なぜなら、製造業はどんなに売れても、売上に比例して製造原価がかかるので、利益率はずっと横ばいだからです。さらに、製品が市場に行き渡れば成長はストップするので将来性も見込めません。
一方、IT系のサービス業は、ユーザーが増えれば増えるほど利益が倍増するので大きな違いがあります。
また、投資家の多くが国内市場を基準に判断しているという問題もあります。
越境ECなどの発展で、今では中小企業でも容易に世界を相手にビジネスができます。しかし、世界で販売する企業の事例は少ないので、多くの投資家やVCはその価値を測定する手段を持っていないため投資できないという事情もあるようです。
行政の補助金を受けられなかった
ものづくり補助金は対象外
ベンチャー企業を金銭的に支援する様々な補助金や助成金を行政が提供しています。
しかし「ものづくり補助金」は基本的に「設備投資」を支援するための補助金なので対象外でした。
新しいものを生み出す際にはリスクを最小限に抑えることが重要なので、リスクの高い設備投資を行わず、EMS(製造受託企業)を活用したのですが、それでは補助金の対象にはならないのです。
その他の助成金もベンチャーのスピード感には合わない
各自治体で「製品開発や改良に関する助成金」が用意されている場合があります。しかし、それらも対象から外れてしまいました。
なぜならこれらの助成金の多くは、募集期間が1年のうちたった1ヶ月間しかなく、しかも申請から半年後の審査完了まで事業に着手してはいけないというルールがあるのです。さらに、もし採択されたとしても、当初の計画通り事業を進めないと助成金をもらえないというルールもあります。
インスタコードは『計画→設計→実装→テスト』の小さなサイクルを繰り返しながら改善を重ねる「アジャイル開発」という手法で開発を進めてきました。このようにスピード感を持って、失敗しないように製品化を進める手法は、助成金の対象にはならないのです。
助成金の仕組みが次のように改善されれば、より適切に助成金が行き渡ると思います。
・助成金の募集期間を伸ばす
・募集期間より前に実施した事業も助成金の対象にする
クラウドファンディング会社から断られた
銀行が、全く実績のない会社に5000万円を融資するはずもないので、クラウドファンディングで予約購入を募ろうとしましたが、実は、クラウドファンディングの運営会社からも断られました。
なぜなら、目標金額を5000万円に設定した前例がないため、達成する可能性が低いということと、目標を達成しなかった場合はお金が入ってこない「All or nothing」方式なので、クラウドファンディング会社の手数料収入もゼロになるということが理由だったようです。
そんな悪条件にも関わらず、クラウドファンディング会社「kibidango(きびだんご)」が「やりましょう!」と一肌脱いでくれたおかげで、クラウドファンディングを実施できました。
結果は7900万円(約2400台分)の予約を集めることができて、無事に量産化が決定しました。
銀行から借り入れできなかった
クラウドファンディングが終了した後も「購入したい」という声が後を絶えず、予約分の台数よりも大量に生産する必要がありましたが資金がありません。なぜなら売上の7900万円は、量産設計などの開発費に使ってしまったからです。
そこで地方銀行に融資の相談をしましたが門前払いされました。信用金庫は話を聞いてくれましたが、結局1円も貸せないという結論でした。
なぜなら、クラウドファンディングの「予約購入」という仕組みが、銀行の査定のシステムの評価対象に該当せず、7900万円の売上は、製品を納品するまで「実績」と認められないからです。
インスタコードのクラウドファンディングでは、割引販売を行わず、購入を煽るような宣伝を一切行っていないので、一般販売されてからのほうが売上を伸ばせることは明白でした。しかし、銀行の査定システムではクラウドファンディングの成果は評価基準にならないそうです。
購入希望者から前払い予約を募る
初期ロットは計4000台に決めて工場に発注しましたが、その時点で銀行の残高が1000万円ほど足りませんでした。
そこで、通販サイトをオープンし、購入希望者に代金を前払いで支払ってもらうという奥の手を使いました。幸い、通販システムの運営会社 Shopify も状況を理解してくれて、売上の20%を運営会社にプールすることで、前払い予約を実施させてもらえたのです。
前払いの売上が1000万円を超えないと製品は納品されません。
そんなギリギリの状況でしたが、なんとか予約が1000万円を超えて4000台を完成させることができました。
ものづくりにチャレンジしやすい世の中に
数十年前は、ベンチャー企業が電子機器を大量生産して販売することは不可能でしたが、EMS(製造受託企業)やインターネットの発展で、小規模の会社でも、ものづくりにチャレンジしやすい土壌ができました。
とはいえ、ものづくりには多大な資金が必要で、資金を支援する仕組みは、まだ時代に追いついていないことを感じます。
画期的な製品を日本から生み出すには、行政や銀行の仕組みも少しずつ変わっていく必要があるかも知れません。
関連動画
インスタコードについて
https://instachord.com/overview/
InstaChord株式会社について
https://instachord.com/company/
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