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「これはただの研修じゃない、関わる人の人生がかかっているんだ」。研修参加者も受け入れ側も熱く学び合う、地域の中小企業での越境研修「シェアプロ」とは

著者: 特定非営利活動法人G-net

「たった3か月で、こんな表情が引き出せるなんて」

2018年12月、大手事務機器メーカーA社の越境型実践研修プログラム「シェアプロ」報告会に参加した、関連企業の人事研修担当者(当時)の言葉です。

A社では2018年8月から12月に、次世代リーダー育成研修の一貫として「シェアプロ」を導入いただきました。「シェアプロ」は、地域の中小企業・団体の事業推進・経営革新プロジェクトに期間限定で取り組む、越境学習をベースとした実践型人材育成プログラムです。NPO法人G-netのコーディネートのもとで、岐阜県・愛知県の中小企業6社に、次世代リーダー候補となる営業職・技術職の社員28人が参画しました。

人事研修担当者をうならせた「こんな表情」とは、どんな表情だったのか。そしてそれを引き出した「シェアプロ」とはどんなものなのか。A社での導入時の様子を中心に、「シェアプロ」の現在に至るまでをご紹介します。


企業研修として「シェアプロ」を導入

「シェアプロ」は、岐阜県岐阜市を拠点とするNPO法人G-netが、2017年8月から12月、岐阜県の各務原市商工会議所と連携して初めて企画したものです。このときは、同会議所に加盟する中小企業等4社に、公募で集まった大手企業に勤める社会人など10人が3か月間、プロボノ※1として参画。参加者が本業で培ったスキルを発揮し、プロジェクトが進展する例がいくつも見られました。

※注1 プロボノ 職業上のスキルや経験を生かして取り組む社会貢献活動。


その後、共通の友人の紹介をきっかけに、代表南田が出会ったのが、当時のA社人材育成担当者のMさん。その席で各務原市商工会議所との「シェアプロ」の話を聞いたMさんが「こういう研修、面白そう」と反応したのです。それをきっかけに、「ビジョンある中小企業の一体感や、バリューチェーン全体を見て実際にビジネスを作っていく面白さを知ってもらうこと」「自己効力感を持つこと」を目的として、企業研修としては初めての「シェアプロ」導入が決まりました。


協働する事で、参加者にも受け入れ企業にも変化が生まれる

それぞれのプロジェクトは初回、中間、最終の3回、研修参加者が受け入れ企業を訪れ、それ以外はリモートワークで進められました。参加者は本業の仕事をしつつ、業務時間終了後に週1〜2回、オンライン会議に出席します。各企業がこれから取り組みたい事業や課題と思っている事業の解決に実際に入り込んで行きました。


ある参加者は「受け入れ企業の新入社員から学んだ」といいます。A社では企業の規模が大きい分、各部署での分業が進んでいます。しかし受け入れ先の企業では、新入社員が、前後の工程にいる人の働きやすさを考えて、自分の仕事のやり方を工夫していました。「前工程・後工程という言葉は知っていたけれど、実際にそれを意識している姿を見て、こんな若手の子が出来ているなんて!と衝撃がありました」。


一方で、参加者が普段から自社で行っている当たり前のこと、例えば「過去の事例をまとめる、セグメントする」「会議のアジェンダを事前に考える」といった一見何気ないことが、中小企業のプロジェクト遂行に役立ち、喜ばれることもありました。本業ではやることが当然であることが、地域や中小企業の課題解決に通用し、喜ばれると知って、自信をつけた参加者もいます。


一般には大手企業が中小企業を「助けてあげる」という構図になりやすい中で、「シェアプロ」では「大手企業」と「中小企業」というステレオタイプを壊し、お互いがお互いに学び合う関係性が築かれていきました。一つの課題に期間限定で一緒に向き合い、大手企業にはないスピード感で意志決定を行って、PDCAを高速回転させる。技術職の研修参加者が、営業職の同僚に聞きながら新規事業の営業を行うなど、専門性がなくてもなんとか結果を出そうとがむしゃらに頑張る姿も見られました。

そうした中で、たった3か月の期間でも、課題解決の新たなヒントがいくつも生まれてきたのです。開発した商品が自治体の贈答品に採用されるなど、目に見える事業成果も上がりました。

▲地域の受入企業訪問時の様子



そして、研修終了後の報告会。何十枚にもまとめられたスライド、参加者が受け入れ企業を「うちの会社」と呼びながら、その経営者と「仲間」としてプレゼンする姿。会の終了後には、参加者にも受け入れ企業にも涙する人が何人もいました。

冒頭の人材育成担当者の「たった3か月で、こんな表情が引き出せるなんて」という言葉は、その様子を見て発せられたものです。

▲シェアプロ報告会後の全体写真



後に、「シェアプロ」の導入2社目となる大手自動車メーカーでも、これに似た場面がありました。業務時間後に、受け入れ企業のプロジェクトに懸命に取り組む研修参加者の様子を見た上司が「何でそんなに頑張っているの」と声をかけました。すると「私が取り扱っているのは研修ではなくて、プロジェクトのオーナーさんやこの地域の人たちの命や人生に関わることなんです」という言葉が返ってきたのです。普段はどちらかというと物静かなその参加者が、熱意に満ちてプロジェクトに没入する様子に衝撃を受け、事務局あてに「こうした姿勢やマインドを引き出せていなかったのだと気付いた」と連絡をくださいました。


リアルな課題に取り組むからこそ本気になれる。「シェアプロ」設計の工夫


これほど真剣に課題解決に向き合う姿の背景には、本気で挑戦したくなる「シェアプロ」の設計の工夫があります。

「シェアプロ」の設計においては、受け入れ側と研修人材が本気で課題解決に挑むプログラムとなることを大事にしています。地域の課題を題材にし、「困っている」地域を「助けてあげる」という構図ではなく、現在進行形で課題解決に向き合い、逆境に挑む地域リーダーとともに、研修参加者も課題解決の当事者として実践するプログラムとすることで、研修という枠組みを超えて、本気で実践に取り組むことにつながっているのです。



「シェアプロ」を終えて本業に戻った後の参加者たちにも変化が見られました。本業へのモチベーションが上がる人が多かったのです。期間限定でも小さな組織のプレイヤーとして参画し、ビジネスの全体像や背景が見えるようになったことで、組織の中のルールの意味や、目の前で行われている仕事そのものの意味、その背景や意義が理解できるようになる。それがモチベーションや自己効力感につながりました。また、自分の仕事の価値に改めて気づいた参加者も多くいました。


受け入れ企業にも、プラスの影響がありました。中小企業では社員の育成体制が整っていなかったり、ロールモデルに出会いづらかったりすることがあります。大手企業からの研修参加者の仕事のやり方は、地域企業の若手社員にとっても実践的な勉強の機会になりました。また、受け入れ先の中堅社員からは「研修参加者の方が慣れないSNS運用を必死で、しかし面白がりながらやっているのを見て、外部の人から見て面白いことに自分たちは普段からやっているんだな。自分たちの仕事は面白いものだったんだ」と気付き、事業へのモチベーションがアップしたそうです。さらに、研修参加者とともに積み上げたものを途絶えさせてはいけないと、意欲的に引き継いで取り組む社員も出てきました。



インターンのコーディネート経験を社会人の育成にも活用

「シェアプロ」を開発したG-netは、岐阜県を拠点に、地域の中小企業の経営革新と担い手となる若者の人材育成を通じた地域活性に取り組むNPOです。

2004年、実践型インターンシップ「ホンキ系インターン」のコーディネートを開始。さらに、地域の中小企業経営者の右腕となる人材に特化した就職採用支援事業「ミギウデ」を開始して、学生や若い世代と地域の企業をつなぐ事業を行っていました。


こうした事業の中で、スキルも経験もないけれど、熱意とモチベーションが非常に高い学生がインターン生として入ることで、若者自身の成長はもちろん、受け入れ企業も変わっていくのを、G-netでは実感していました。

地域の中小企業では、経営者が孤軍奮闘していて、社員からは「仕事が増える」と時に反発されることも少なくありません。そんな中に、経営者と同じ熱量で新しいことをしてくれる人が入ることで、経営者の後押し、大きな推進力になるのです。

このインターンの仕組みを、社会人の人材育成にも活用できるはずだと考えたことが「シェアプロ」の始まりです。フルタイムでは関われなくても、専門知識と思いがある社会人が参画することで、中小企業にとっては期間限定で経営者の右腕を得ることができます。社会人の側も、逆境を乗り越えてきた中小企業の経営者と接し、ビジネスの現場をリアルに感じながらプロジェクトに携わることで、多くの学びが期待できます。これを企業の研修として行うことで、人材育成と地域課題の解決を両立できる、社会性のある研修を実施できるのです。


これまでG-netは事業を通し、長年にわたって地域の中小企業に伴走してきました。地域の中小企業は課題を抱えていても「何も知らない・できない」弱者ではありません。さまざまな逆境を乗り越えてきた猛者たちです。「シェアプロ」を開発する上では、その猛者たちが仕掛けようとしていることを、研修参加者が一緒になって面白がり、提案やアドバイスをするのではなく当事者になれるようなプログラムにすることにこだわりました。

近年注目されている「越境学習」ですが、NPO法人G-netではこの言葉が一般的になる前から、「ホンキ系インターン」や「シェアプロ」による越境学習の試行錯誤が続けられていました。


全国各地で多様な課題に取り組む機会を提供していきたい

G-netでは、2018年9月に、地域における副業兼業のマッチングプラットフォーム「ふるさと兼業」をスタート。これは企業研修ではなく個人でプロジェクトにエントリーするもので、多様な形で兼業人材と地域の中小企業とのマッチング、コーディネートをしています。

企業研修としては、2020年から、大手自動車メーカーが「シェアプロ」を導入。その後も3社が導入し、これまでに合計7社230人が、地域の中小企業40社に参画しました。現在「シェアプロ」は、1泊2日程度のフィールドワーク型導入プログラムと、数ヶ月程度の実践型プログラムを用意しています。

そうした中で、大手企業から「G-netが拠点とする東海地域以外の企業でも実践できないか」「もっと多様なテーマに挑戦したい」といった声をいただくようになったのです。

そこで今年、全国11地域の地域パートナーと連携し、全国各地で「シェアプロ」を実践できる体制づくりをスタートさせました。


今月末には、地域パートナーと、「シェアプロ」導入を検討する企業とのマッチングフェアを行います。

このフェアでは、地域側が越境学習のプログラムを完全につくりこんで、参加者を募集するわけではありません。研修参加者を送り出す企業側の、どんな環境で、参加者にどんな気付きをもたらしたいかという意図を汲み、プログラムを共創していきたいと考えています。


※画像は下記ページより引用

ふるさと兼業「3ヶ月限定のパラレルワーク!富士ゼロックスに学ぶ、兼業・副業時代に向けた企業側の役割とは(前半)」



【地域を舞台にした越境学習ミートアップ『越境学習マッチングフェア MEET × MAKE × MATCH』 開催概要

■日時:2023年10月30日(月)13:00-16:00

■場所:PiOPARK(ピオパーク) 東京都大田区羽田空港1丁目1番4号 HICity zone K

■プログラム内容:

・トークセッション「地域と共創する越境学習の可能性と未来」(法政大学大学院政策創造研究科 石山恒貴教授、株式会社御祓川 森山奈美代表取締役社長ほか)

・越境学習プログラムを提供する8地域の代表者ピッチ

・交流ブース/各地域の課題・特色と、モニターツアー内容のご紹介

・アイディアソンブース/企業側人事の方々と地域代表者によるプログラム意見交換を実施

※プログラムは変更になる可能性があります

■参加費:無料


イベント詳細はこちら:

https://ekkyogakusyu.studio.site/

参加お申し込みはこちら:

https://forms.gle/TkVvRrhk1ykuiFjR9



■副業兼業プラットフォーム「ふるさと兼業」とは

https://furusatokengyo.jp/ 

 大手企業や都市部で活躍しながら、愛する地域や共感する事業に関わりたいと考えている人材が、地域中小企業の経営革新や自事業推進にプロジェクト単位でコミットできる副業兼業・プロボノのマッチングプラットフォームです。全国28地域の地域活性・中小企業支援に取り組む企業・団体と連携して運営しています。プロジェクトマッチング支援だけでなく、プロジェクト設計から伴走までを専属のコーディネーターがトータルでサポートする仕組みが特長で、2021年には「HRアワード2021」にて、プロフェッショナル部門に入賞しています。

 

 ■NPO法人G-netとは   https://gifist.net/

 岐阜県を拠点に、地域の中小企業の経営革新と担い手となる若者の人材育成を通じた地域活性に取り組むNPOです。実践型インターンシップ「ホンキ系インターン」の04年開始を皮切りに、地域の右腕人材に特化した就職採用支援事業「ミギウデ」、複業兼業マッチングプラットフォーム「ふるさと兼業」、日本全国のU24世代の若者と社会人が集うオンラインキャンパス「つながるキャンパス」など、多様な人材と地域を繋げる仕組み作りを推進しています。

 


ふるさと兼業越境研修プログラム「シェアプロ」・越境学習マッチングフェア運営事務局NPO法人G-net

担当:掛川・山田・細見

Email: info@furusatokengyo.jp





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