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「集落文化」を次の世代に伝える活動を続ける、奄美大島の集落を幸せにするまちづくり集団「伝泊」とは

著者: 奄美イノベーション株式会社


2021年7月、世界自然遺産に登録された奄美群島。今なお、手付かずの豊かな自然が残り、世界から見ても希少種など多様な生物が生息しています。それだけでなく、歴史的背景から、約360の集落が750年以上残っており、方言や唄、踊りなど、集落ごとにそれぞれ異なる独自の文化が今日まで継承されてきました。


「伝泊」は、奄美大島で大切に紡がれてきた「集落文化」を次の時代へ伝えることを使命として、2016年に誕生したまちづくり集団です。島で暮らすように滞在できる3タイプのリトリート宿泊施設を中心に、地域住民と連携した集落文化体験プログラムの造成や提供など、地域住民と観光客との交流や地元雇用の創出に取り組んでいます。こうした集落の「日常を観光化」するまちづくりを通して「誰一人、何一つ取り残さない社会」の実現を目指しています。

"小さな声に寄り添う建築家”山下保博が、2016年からまちづくり事業を開始


「伝泊」が始まったのは、2016年のこと。奄美大島出身の建築家・山下保博(伝泊を運営する「株式会社奄美イノベーション」代表取締役)が、奄美大島の行政や地域住民から増加する空き家に関する相談を受け、立ち上げたプロジェクトがきっかけです。


山下の建築は、これまで見向きもされない埋もれた素材に着目し、その声を聴き、新しい建築素材を地域活性の材料として再編集するなど、”小さな声に寄り添う建築家”として世界的にも評価を得てきました。

しかし、建築という「点」のデザインで出来ることに限界を感じ、徐々に社会=「面」をデザインする「まちづくり」に着目し、慶應義塾大学の特別招聘教授としてゼミ生と共に古民家・空き家問題や江戸時代の循環型社会に関する研究を行いました。その後出会った、障がい者人口が約4割を占めるドイツ・ベーテルという街の在り方に深く感銘を受けたことから、九州大学では、地域活性のまちづくりについての研究を行いました。


そんな折、故郷の奄美大島で増加する空き家に関する相談を受けます。この頃の奄美群島は、世界自然遺産の登録を目前に国内外の富裕層によって安く土地が買い荒らされたり、オーバーツーリズムにより地域コミュニティや貴重な文化資源が壊されたりするなど危機感が募っていき、2016年から宿泊施設「伝泊」を中心とした、まちづくり事業をスタートさせました。

「伝泊」が取り組む、“観光×福祉×集落“のまちづくり


「伝泊」は奄美大島の北部に位置する笠利町を拠点として、「伝統的・伝説的な建築と集落文化を次の時代に伝える」をコンセプトとしたリトリート宿泊施設を3タイプ運営しています。


1つは「伝泊」の誕生のきっかけとなった「伝泊 古民家」で、築50年以上の伝統的な建築構法をもつ空き家を再生し、観光客の滞在を通じて建物とその集落の文化を維持・継承することを目指しています。宿を異なる集落に点在させることで、各集落の特色を生かした滞在や集落体験プログラムの実施が可能となっています。


2018年にオープンした「伝泊 奄美 ホテル」は、廃業していた島の伝説的なスーパーマーケットを改修した「まーぐん広場」の2階に位置しています。「まーぐん広場」は、ホテルのほか、高齢者施設や伝統料理を提供する食堂、地元の商品や作品を扱う奄美産マーケット、郷土資料のライブラリーなどを併設しており、学童保育や塾、アートや音楽のイベントといった多岐にわたる企画も行っています。

奄美の方言で「みんな一緒」を意味する「まーぐん」という言葉の通り、地域住民と観光客のどちらにも求められる機能を複合することで、両者の出会いの場となっています。


しかし、民間でありながらコンセプチュアルで公共的な活動を継続するには、資金が必要です。合わせて、世界自然遺産の登録後、世界から奄美大島への注目が集まり多様な客層の来島が予想される一方、それに対応できるような宿泊施設が少ないという現状がありました。それら2つの課題を解決するために誕生したのが、新築のヴィラ「伝泊 The Beachfront MIJORA」です。

エコラベル「グリーンキー」を取得した、島の自然と対話する宿「伝泊 The Beachfront MIJORA」


「伝泊 The Beachfront MIJORA」は、”島の自然と対話する”をコンセプトとして、2019年7月に誕生しました。この施設の最大の特徴は、奄美で入手可能な最大サイズのガラス窓に映る景色で、刻一刻と移り変わる海や空の表情をまるで一枚の絵のように切り取ります。また、台風対策も兼ねた無機質なコンクリートの床と壁に、奄美の伝統建築「高倉」をイメージした焼杉の屋根の組み合わせは、伝統とモダンの対比であり、自然の温かさを浮き彫りにします。無駄をそぎ落した禅的空間で、自己と自然との調和を促し、自分自身に奥深く還る、静謐なひとときを提供しています。


なおこの場所は、以前は見向きもされず荒れていた海岸線でした。この施設ができたことで、海岸沿いの集落への自然災害から防御し、景観改善にも役立っています。


また、次世代へ集落文化と共に奄美大島の豊かな自然環境もつなげていくために、この施設を中心として環境に配慮した様々な取り組みを実践しています。

  • 客室やレストランにコンポストを設置。肥料を自社農園で活用し、
  • ハーブや野菜をレストランで提供
  • アメニティのノンプラスチック化と客室への設置を廃止
  • 地域住民と連携したビーチ清掃の定期開催
  • E-Bike貸出による二次交通の見直し
  • 小風力発電と太陽光発電による「エネルギーロスゼロ」の実現に向けた実証実験など


こうした積極的な取り組みを通して、2021年に国際的なエコラベル「グリーンキー」※を2つ取得しました。


※エコラベル 「グリーンキー」とは

環境に配慮したホテル・レストラン等に付与される国際的なエコラベルのこと。

詳しくはこちら:https://den-paku.com/news/news20220208

地域に根ざした「伝泊のまちづくり」と評価

●伝泊の拡大と雇用

現在伝泊は、奄美大島、加計呂麻島、徳之島の3島に、41棟51室の宿泊施設を展開しています。コロナ渦においても稼働率を維持し続け、2016年に2名でスタートした従業員数は100名以上にまで増加し、地元雇用は7割となりました。そして、自社で運営しているレストランで扱う食材は地元産が80%以上を占めているほか、奄美産マーケットで扱う商品は98%以上が地元企業で構成されています。


●伝統文化の継承

島では後継者不足により伝統技術が継承されず、伝統文化が絶えてしまう危機があります。2023年に完成した「伝泊 Catamaran」は、伝泊の代表であり建築家である山下と、奄美で伝統的な木船をつくる唯一の船大工・坪山良一氏と一緒に奄美独自の伝統的な木船をリデザインしたもので、伝統7割に新規性3割を掛け合わせることで次の時代に伝えていくことを目指しています。

「伝泊 Catamaran」は、伝泊 The Beachfront MIJORAの目の前に広がる赤木名湾で、サンセットクルージングのツアーに活用されています。

伝泊 Catamaranについて:https://den-paku.com/information/202308


●美と健康のまちづくり

伝泊初のオリジナルCBD製品「AMATSUMIZU」は、奄美で馴染みの深い植物と、麻由来の天然成分CBDを掛け合わせた高付加価値なオリジナル商品です。障がい者就労支援施設で原料を採集・加工し、製品は自社の高齢者施設でも活用するなど、一貫したまちづくりのための製品となっています。

AMATSUMIZUについて:https://www.amatsumizu.jp/


こうした取り組みは、2020年度「第6回ジャパン・ツーリズム・アワード」において最優秀賞にあたる「国土交通大臣賞」と「UNWTO倫理賞」のW受賞に続き、2021年グッドデザイン金賞(経済産業大臣賞)、2022年第12回地域再生大賞優秀賞を受賞しました。

国外においては、2022年「LUXURY LIFE STYLE AWARDS 2022」において「Best Luxury Resort Architecture in Japan」を受賞するなど、まちづくり事業における海外での評価も高まりつつあります。

未来へつむぎ、稼ぐ、まちづくり

「伝泊 The Beachfront MIJORA」が全体の中で大きな割合の利益を生み出すことによって、持続可能なまちづくりの推進が実現しています。今後は、大学や地元高校と協力して行うヒアリング調査による歴史の深掘りをはじめとして、より各集落の個性を活かした情報発信体験プログラムの構築を目指し、奄美大島北部の笠利町にある29の集落と連携をより強固なものとする活動に注力していきます。


また、奄美で実践を重ねてきた「小さな声に寄り添い集落を幸せにするまちづくり」は、奄美以外の地域でも応用が可能だと考えています。そこで、2023年7月に山下が代表を務める6社を統合するグループブランドサイト「山下保博とまちづくり」がオープンしました。これにより、大切な地域・文化を宿泊施設の運営という方法で守り育てていくために必要な(宿泊施設のための土地探しと設計、食や体験といった観光コンテンツの開発、伝統技術に光を当てた新規事業の立ち上げ、地域住民との永続的な関わり方の模索といった)あらゆるノウハウを提供する体制を構築しました。

集落を一つの単位として考え、それぞれの集落が多様性に満ちた豊かさを得るためのまちづくりを全国に拡大させることで、「誰一人、何一つ取り残さない社会の実現」を目指します。

山下保博とまちづくり:https://www.machizukuri.yamashita-yasuhiro.net/

伝泊について

伝泊は、3種類のリトリート宿泊施設「伝泊 古民家」「伝泊 奄美 ホテル」「伝泊 The Beachfront MIJORA」からなり、集落住民と観光客との交流を促進するまちづくりを行っています。

奄美大島には豊かな自然や生態系が育まれており、2021年には世界自然遺産に登録されました。同様に、様々な歴史的背景の中で「しま」(集落)ごとに異なる約360の集落文化が何百年も継承されてきたことも、世界に誇る貴重な文化資源です。私たちはそれらを「奄美の宝」と捉え、守りたい、未来へ伝えていきたいという想いから、2016年に「伝泊」をスタートさせました。現在、奄美大島・徳之島・加計呂麻島の3島に41棟 51室の宿泊施設を展開しています。 

伝泊:https://den-paku.com/




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