「 変化を拒まない心」を生んだ「アーティストとの協働」 をモノづくり経営者が語る
京都法然院に創設された 世界初リサイクルガラスの枯山水。
アーティスト西中千人とガラスオブジェ制作の共同研究を行った
日本耐酸壜工業株式会社 代表取締役 堤 健さんに、無謀な挑戦とも言えるこのプロジェクトについてお話しいただきました。
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アート×工場による 資源循環の啓発
日本耐酸壜工業株式会社 代表取締役 堤 健
■プロジェクトをはじめようと思った経緯
西中さんの作品を初めて見たのは、2010年頃でした。難波の高島屋です。色の違う、組成の違うガラスを継ぐという事ができるのかと驚きました。その技法を知りたくて、思わず声をかけたのが最初の出会いです。
話をするにつれ、西中さんのモノづくりに対する考え方を知り、私たちは同じガラスに関わっていてもこんなにも違うという事に気づかされました。そしていつか一緒に仕事をしたいという思いを共にした事を思い出します。しかし、あまりに違う為、私にはどうしたら融合できるのかわからず、時間だけが過ぎていきました。出会いから5年後、西中さんからご連絡を頂いたのです。
私の会社は90年間ガラスびんを製造しています。2つの工場、4つの窯で1日に500トン程のガラスびんを生産しています。その原料の80%程は市場から回収したガラスびんです。先程の西中さんからのお話は、そのガラスを使って工房では出来ない大きな作品が創りたいというお話でした。アートと日本のものづくり、そして資源循環のコラボレーションに挑戦することが決まりました。
■実際進めてみた感想
まず、会社の中でアートガラスプロジェクトチームを編成しました。主要メンバーは5名とし、すべて技術系の人間で構成しました。これまで、当社のモノづくりの基準は、良い品を量産することが最優先であり、そのための改善改良を怠らない気質があります。継続するためのノウハウや、技術向上のあくなき探求は得意なのですが、ゼロから出発するような新しいものを作り出すことは不得意に感じていました。ですが、時間の感覚もガラスに対するアプローチも違うアートの世界が、どう作用してどのような効果が出るかとても楽しみでした。
■困難に感じたこと
通常、1つの窯でびん製造のために溶けているガラスは140トンです。ですが、アート作品に必要なガラスの量は、1つあたり、わずか20〜500キロ。工場のスケールを手作業のアート作品に適応させるのは未知の世界です。皆戸惑いを隠せませんでした。そんな時、あっと驚く切り口を披露されるのが、西中さんでした。鋳造の技法や、ガラスを冷やし固める知識の深さに驚きました。そして、実行部隊の当社のチームは、表現を形にする熱意と高度な技術力を武器に、アート作品を成形するための様々な難題を乗り越えました。例えば、1500度のガラスが溶けている窯から、作品の型に流しこむ方法を考えているとき、樋で流す方法を思いつきますが、ガラスは温度が下がるとすぐに噛んで流れなくなります。温度を維持したまま型まで流す方法を見つけるまで試行錯誤でした。
■完成を迎え、その後をどう感じたか
私たちが最初に製造に成功したパーツが、京都法然院の西中さんの作品「ガラス枯山水:つながる」に含まれています。パーツを型から割り出した瞬間、チームメンバーは皆落胆したそうです。びん製品では欠点とされる歪みやヨレがあるガラスの塊に、複雑な気持ちになったようです。でも、西中さんが素晴らしいと称賛し偶発の美を喜ぶ姿に、私たちのこれまでの価値基準では計り知れない、芸術の領域を垣間見たようです。
「唯一無二の作品」を造ることは、これまでのモノづくりの「当たり前」を変化させました。チームメンバーに新しい視点が加わったのが分かりました。次第に図面には落とせない造形美を自分たちの手で造ることで審美眼が育ち、偶然できる歪みやしわにオリジナリティを感じるまでになり、完成度も高まりました。
■プロジェクトから得たもの
私達はこのプロジェクトから多くの事を学びました。イノベーションの大切さと、変化を拒まない心です。チームメンバーが目を見張るほど会社の技術力を飛躍させたわけではありません。しかし、ガラスを美しく見せるのは光だとする、今までに無かった叙情的な感覚を西中さんとの共同研究から得たのは確かです。これは、工場の中だけでは決して辿りつかない価値観だと思っています。美しいびんとは何か、新しい視点が生まれたと感じています。
この先も、今回の美術作品に携わるような、ガラスびんを違った形で表現するようなプロジェクトを進めたいと思っています。私たちはガラスびんを造り、回収し溶かして、再利用として美術作品を造る。そんなリサイクルを啓発できる活動を進めるのは、常に資源保持による持続可能な社会の実現を目指す高い意識からです。これからもガラスびんの可能性を求め、様々な挑戦をしていきます。
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ニシナカユキト GLASS STUDIO
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