「世界中の突然死を減らしたい」。その想いが起業へと駆り立てた医療ITスタートアップ企業「メドリング」。東南アジアでスマートクリニックの拡大を目指す奮闘ストーリー
メドリングは、東南アジア(ベトナム・インドネシア・カンボジア)で、デジタル技術を活用し医療もオペレーションのレベルも高い「スマートクリニック」を拡大させるべく、自社開発のクラウド型電子カルテ「MEDi」を筆頭に「ASEAN Smart Clinic Platform」の運営を行う医療ITスタートアップです。2019年に設立し、経済産業省の官僚であったCEOの安部一真を筆頭に、AIのデータサイエンティストであるCOO/CTOの三浦笑峰、さらには、東京大学医学部出身者など様々な日本の医療関係者が集って構成されています。
同社は、MEDiや関連するクリニック向けサービスを通じて東南アジアのクリニックの質・量ともに改善しスマートクリニックにすることで、誰もがどこでも最低限の医療を受けられる社会である「Universal Health Coverage」を実現、もって、世界中で突然死や重篤な疾患に罹患する方を減らしたいと考えています。
このストーリーでは、事業の背景となっているCEO安部の原体験や、ここに至るまでの苦労、事業の詳細や将来像をお伝えします。
MEDi操作中のインドネシアのクリニックスタッフ
一連の業務をスマート化するクラウド型電子カルテでクリニックを支援
メドリングは、東南アジアのクリニックのオペレーションを改善・効率化し、診療のレベルを上げることでスマートクリニック化し、それによって多くの患者さんから信頼を得て患者数が増える好循環を作れるものと考えています。クリニックの質が上がり、数が増えれば、最終的にUniversal Health Coverageに近づきます。この実現に向け、「ASEAN Smart Clinic Plafform」と称し、以下のサービスを東南アジアで展開しています。
まず主事業として自社開発のクラウド型電子カルテ「MEDi」をベトナム・インドネシア・カンボジアのクリニック向けに展開しています。その機能は多岐に渡り、予約・受付・問診・検査・会計など、クリニックのあらゆるオペレーションをワンストップで支援しています。その特徴の1つが、開発を開始する前からベトナムにおいて自らクリニックを運営し、医療従事者からの意見を徹底して吸い上げ機能を構築したことで、医療従事者にとっての使い勝手が良いものとなっています。すでにユーザー数は50施設を超え、日々その拡大と機能の拡張や改善に取り組んでいます。さらに現在、AIを活用して診療そのものを支援する機能を追加するべく取り組んでいます。
また、MEDiユーザーを筆頭に1,500施設以上ものクリニックをすでにデータベース化しており、それらを対象として、クリニックのビジネス環境好転に資する各種サービス展開もしています。
具体的には、ベトナム・インドネシアにおいて日本の医療関係企業をオーナーとした現地クリニックの開設・運営支援を開始しています。主に専門医や検査設備をそろえた基幹施設とも言うべき施設をその対象とし、同施設が直接患者を診るだけでなく、MEDiユーザーを筆頭に他施設からの患者紹介や遠隔画像診断・日本へのメディカルツーリズム等の依頼も受け付け、その結果がMEDi上でシームレスに共有できる環境を構築しようと考えています。ベトナムにおいては、日本でクリニックを複数施設展開しているわかさクリニックグループ(埼玉県・東京都)が所有するクリニックの運営を支援しており、別の企業によるインドネシアでのクリニック開設・運営プロジェクトもすでに動き出しています。
さらに、当社が2023年7月にグループ入りしたMRT株式会社とともにMEDiユーザーなどに向けた現地での医師紹介事業も準備しています。同時に、日本の医療関係企業による現地クリニックや医療関係企業のM&A仲介サービスの準備もしています。「ASEAN Smart Clinic Platform」に、優秀な医師や日本の企業に参画してもらうことを企図しています。
加えて、今後、治験を実施する医薬品メーカーと医療施設のマッチング、MEDiユーザー向け医薬品・医療機器等の共同購買スキームの構築、医療関係情報の発信をするメディア構築など、日本の医療関係企業とも連携しながら様々な事業を構想・準備しています。
わかさクリニックグループが所有し当社が運営支援中のワクチン接種・メディカルツーリズム受付施設(ベトナム・ハノイ市)
同じ悲しみを繰り返さないために起業を決心
メドリングの創業者でありCEOの安部がこの事業を始めた背景には、幼少期の原体験があります。彼が4歳の時、実父が心筋梗塞で突然死しました。幼かった安部は突如、母と弟とともに暮らすこととなりましたが、ある程度年数が経った頃、母から「突然死で人を失くすこと」の大変さを聞かされました。もちろん、あらゆる死には悲しみや苦しみが伴います。しかし、なかでも突然死は残される者にとっても、死んでしまう者にとっても、心理的にも物理的にもその準備の時間を与えず、通常の死以上の大変さがあると安部は考えています。「突然死をどうにか減らしたい」、この一念が学生時代からの安部の宿願となりました。
幸運もあって安部は東京大学法学部に入学後、「国は経済破綻やエネルギー不足で突然死する。それを防ぐ」との思いを胸に、卒業後は経済産業省に入省しました。そして震災直後、全国の各電力で電力供給が途絶するブラックアウトが目前に迫るなかで旧原子力安全・保安院に配属され電力政策を担いました。電力供給に一定の目処が立ち、「電力不足による国の突然死」という事態を防ぐ一端を担った満足感とともに、官僚という枠を飛び出し、事業家として前例も国境も関係なく世に貢献するとの思いで経済産業省を退官、起業の世界に飛び込みました。
しかしその後、全く順風とはいかず、作る事業はどれもうまくいかず、選挙に出馬して落選するという経験もしました。そのような何をやってもダメであった安部にも手を差し伸べ、さらには経験値を積ませてくださる経営者の先輩方の存在がありました。彼らの導きもあって医療ITという世界に足を踏み入れ、その経験をもとに起業したのがメドリングです。
「突然死を減らす」ということを真正面から捉え、何がその目標達成につながるかを考えました。すると、日本や一部の先進国と新興国のそれとでは医療状況が大きく異なっていることに気づきました。それは、一次医療を担うクリニックの質・量の充実度合いです。日本の場合、多くのクリニックと高レベルな医師が一次医療を担い、重症化の兆候を見つけるなど日々奮闘されています。たいして新興国の場合、そもそもクリニック数が少なく、また、あまりクリニックの医師を国民自体が信頼していないため、普段からクリニックにかかり検査などを受ける文化ができておらず、重症化してから病院に直接かかる、ないし、いきなり死亡してしまう「突然死」が当たり前であるという現実でした。
優れた医療制度をすでに有している日本人・日本企業として、この現状をどうにかしなければならない。その強い思いから始まったのがメドリングです。
実父が亡くなった頃のCEO安部
開発着手までの立ちはだかる壁
メドリングは、最初の事業としてベトナムにおけるクリニック運営からスタートしました。これは、クリニックの質・量を増やしていくプラットフォーマーたろう、そして、その根幹にあたる電子カルテを開発しようとした時に、まずクリニック運営に関するあらゆることを自社として理解する必要があると考えたからです。1施設を運営するだけでも、当局の規制・予約管理・受付方法・検査に至るプロセスやデータ保存方法・会計処理など、さまざまな手順を理解し完璧にこなす必要があります。これらを自社として経験をしながら、ゼロからクラウド電子カルテ「MEDi」の開発をスタートさせました。
しかし、その開発を本格化させるまでには紆余曲折がありました。日本の電子カルテを参考にしながらMEDiの初期開発を三浦(現メドリング取締役COO/CTO)自らがスタートしましたが、開発を進めていく中で、クリニックのワークフロー特有の複雑性やベトナム政府の電子カルテへの規制、そして、ローカライズのための言語の壁につきあたりました。一般のクリニックへの導入も視野にいれており、より製品の完成度や開発スピードをあげるため、開発スキルの高い社内のチームを組成してゼロから開発をし直しました。
今振り返ると、日本で開発するのではなく、ベトナム、そしてASEANのルーティンにあわせて現地でゼロからMEDiを開発したことは正しかったと感じています。というのも、これによってベトナムのクリニックフローに適合した電子カルテを開発できただけでなく、2カ国目の進出先であるインドネシア、そして3カ国目のカンボジアにおいても同様のフローとなっており、大きなローカライズを要することなく展開できたからです。余談になりますが、医療の世界は各国によって事情が大きく違うと言われており、特に日本はその傾向が強いと感じます。
リリース後に感じたプロダクト開発の難しさ
MEDiを2022年8月にベトナムでリリースした後も、なかなかユーザーを増やすことはできませんでした。これは、顧客の要求するユーザビリティや機能に達していなかったこと、また、営業やカスタマーサポートの質も量も足りていないことなどが原因でした。異国の地で現地の人に向けたプロダクトを開発する難しさを痛感した時でした。リリースしてもなかなか評価が上がらず、私も三浦も大変苦しい思いをしておりましたが、愚直に機能開発・改善と営業・カスタマーサポート体制の充実に取り組んでいった結果、2023年8月頃からユーザー獲得スピードが上がってまいりました。まだまだ満足できる状況ではありませんが、自信をもってMEDiはクリニックにとって良いプロダクトであると言える状況になっています。
ベトナム・ハノイオフィスにて
COO/CTO三浦からのコメント
先に記載のとおり、当初は私自ら1人でMEDiの開発を始めました。試行錯誤を繰り返しながら、現在は優秀なベトナム人、インドネシア人のチームのおかげで、順調に開発を進めています。とはいえ、多くのユーザーやお客様候補のクリニックから追加の開発要望をたくさんもらっており、それらの開発をスピード・クオリティ双方に気を配りながら進めています。
クリニックのニーズとして顕在化している機能を開発することはもちろん、クリニックのビジネスの成長を支援する機能や、AIの導入など今のクリニックの医療の質の向上を支援する新しい機能開発にも取り組みたいと考えています。クリニックにはMEDiが欠かせないと思っていただけるようなインフラになることを目指しています。
将来展望
前述の通り、当社の目標は東南アジアのクリニックの質・量ともに改善し、Universal Health Coverageを実現することです。MEDiを筆頭としたサービスをもって、ASEANのクリニックにとり「なくてはならないデジタルプラットフォーマー」となって貢献をしていきたいと考えています。
そして、私の父のように「突然死」してしまう人を減らしていきたいと思います。この記事を通じて、「ASEAN Smart Clinic Platform」の考えに共鳴をいただける方が少しでも増えればとの想いを胸に筆を置きます。
メドリング株式会社
代表取締役CEO 安部 一真
メドリング コーポレートサイト
MEDi プロダクトサイト(ベトナム)
MEDi プロダクトサイト(インドネシア)
連絡先:中野
03-6821-1373
pr@medring.co.jp
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