「作業×バー」? SAKE文化の継承と挑戦を掲げる気鋭の杉の森酒造が展開する「sagyobar」の開発ストーリー
長野県に位置する日本最長の歴史ある宿場町、奈良井宿。その町中で1793年に創業した杉の森酒造は2012年より休眠状態にありましたが、2021年の秋に新たなメンバーで「suginomori brewery(スギノモリ・ブルワリー)」として再生。日本酒「narai」の製造販売を手掛け、国内外の多くの方にSAKEの魅力を届けています。
そして2023年の夏、地域の新たな観光スポットとSAKEを楽しむ方々と造り手の接点を創りたいとの想いから、これまで倉庫として使用されていた建物をリノベーションし、酒蔵の作業(sagyo)と、角打ちのような賑わいの場(bar)を融合した空間「sagyobar (サギョーバー) by suginomori brewery」をオープンしました。
このストーリーでは開業に至る経緯や開業後の取り組み、今後の展開を通して「sagyobar」の魅力を当社クリエイティブディレクターの山野恭稔がお伝えします。
SAKEという日本の無形文化を継承し世界に展開したい、当社創業の経緯
弊蔵の開業(正しくは営業再開)は2021年の秋になります。開業にあたって事業再生を手掛けたのはスギノモリ・ブルワリーの親会社にあたる株式会社Kiraku (以下、Kiraku) です。Kirakuは国内外で経験を積んだ、国際的な目線をもつメンバーで構成されたチームで、これまでに日本各地の文化や自然などの地域資源に着目し、地域資源を活用した「企画」と「事業創造」を行ってきました。その1つが伝統建築を活用した宿泊施設の企画・開発です。これまでに宮崎県日南市の飫肥重要伝統的建造物群保存地区内の武家屋敷を一棟貸しの宿泊施設「季楽 飫肥」にコンバージョンすることや、京都市内の路地一帯を旅館に再生した「Nazuna 京都 椿通」などの再生事業を手掛けてきました。しかし日本酒事業については、これまで未経験でした。
Nazuna 京都 椿通
なぜKirakuが日本酒の酒蔵の再生をすることになったのか
2019年頃、休業して空き家になっていた旧杉の森酒造敷地・建物の活用・再生にむけて、塩尻市と竹中工務店(以下竹中)において、官民連携プロジェクトが進んでいました。空き家を活用するにあたっては、宿泊施設、レストラン、温浴施設などで構成し、空き家改修は、竹中の官民連携チームで行い、改修後の運営は、株式会社47PLANNINGチームが担う想定で検討が進んでいました。この間において、Kirakuは、これまでKirakuが培ってきた伝統建造物を宿泊施設に再生するノウハウを提供するという立場で、事業組立・企画推進のアドバイザを担っていました。しかし、旧杉の森酒蔵の建物活用については、宿泊施設、レストラン、温浴施設での活用計画が進み、残念ながら、酒造りの機能がなくなってしまう状況でした。日本各地の文化を地域資源として事業創造を行ってきたKirakuチームとしては、1793年の創業当初から町と共に歩んできた日本酒文化を途絶えさせてはいけないという想いから、酒造りは未経験ながらも、Kiraku自ら、杉の森酒造株式会社という会社とその酒造免許を継承することとし、「自分達で日本酒事業に挑戦してみよう」ということになりました。
事業検討の中では、コロナに見舞われたことで検討の継続困難なタイミングもありましたが、事業再構築補助金の採択や、様々なパートナーの皆様のご支援もあり、無事に経験豊かな杜氏や番頭とも出逢うことができました。そして2021年の秋に製造再開、「醸造のその先へ」をスローガンに、今日も企画・製造を行っています。
suginomori brewery蔵内
左からnarai kinmon, narai. sankei, narai (公式ウェブサイト)
地域の食文化を体験できる場所であり、お客様と造り手の結節点としての「sagyobar」
日本酒の製造を再開してからは新しいスギノモリ・ブルワリーらしい味を見つけるため、現場を中心に試行錯誤の日々を過ごしていました。その最中、街歩きを楽しむ観光客の方や酒蔵を見つけたお客様、地域の方から「SAKEを飲める場所はないの?」といった声を頂く機会が多々ありました。奈良井宿は年間約59万人(2019年)もの観光客が訪れる魅力度の高い町で、国内外の日本文化を愛する人が集う場所です。観光において食文化を楽しむことは、その土地に触れる上で重要な体験だと思います。私たちのSAKEを通して、奈良井宿での時間がより豊かになるのであればこれほど嬉しいことはありません。これらを踏まえ「SAKEが求められていることが嬉しいし、町の新たな観光スポットとしても寄与できるのであれば、そんな場所を創りたい」と、素直に感じたことがsagyobar開業のきっかけです。
奈良井宿の街並み
sagyobarを創ったことにもう1つの理由があります。それは造り手がお客様の「生の声」を聞ける環境を作りたいという想いです。一般的な酒蔵は造りに集中する観点や衛生面の観点から、立ち入りをご遠慮頂くケースが多く、中にはショップが併設された酒蔵もありますが、そこに立つ方はスタッフである場合がほとんどで、造り手がお客様と直接コミュニケーションをとれる機会は限られています。話すことは大事なことです。より多くの声をお聞きできることは、良い味を創造することに繋がると信じています。それができる場所を創ることは、酒蔵に限らず「ものづくりの職場環境」においては、とても意味のあることだと考えています。
お客様にお酒を提供する現地スタッフ 佐藤
酒蔵の作業 (sagyo) と、人が集う場 (bar) が融合した空間
sagyobarの開業に向けて企画時には様々なことが議論されました。1つが酒蔵機能の拡張です。これまで弊蔵ではコンテナ冷蔵設備で完成したボトルを管理していましたが、その容量が不足していました。また、醸造以外の酒蔵作業スペース(箱詰めや出荷作業等)の充実化も現場からの要望としてあがりました。そこで一般的な酒蔵ではあまり見せたくないであろう作業風景を、酒蔵併設ならではの現場を感じることができるリアルな情景としてポジティブに捉え、お客様が集うことができる空間と一体的にすることにしました。
増設した冷蔵スペースを背に作業する番頭 西川
sagyobarの建物は元々は長らく備品保管用倉庫であったことから、料飲を提供する飲食施設へコンバージョンするには大幅な改修と多額のコスト投資が必要な状況でした。そこで飲食営業許可を取得した軽自動車を新たにデザインして導入することで、そこから最適な状態でSAKEを提供する仕組みを取り入れました。それがsagyobarのアイコン的な存在の「suginomori wagon」です。
日本酒移動販売車 suginimori wagon
内部空間で使用している什器は、酒蔵作業でも使用する日本酒瓶を運ぶための外装容器「P箱」を活用しています。製造直後の在庫が多い時は空間にP箱が少なく、SAKEの出荷直後のタイミングではP箱が充実するなど、出荷状況により空間が可変するユニークな仕掛けになっています。このP箱が作業環境と集いの場の橋渡し役を担っているのです。
日本酒瓶を運ぶための外装容器「P箱」を活用した什器
空間で使用されているファーニチャーはクリエイティブカンパニーである(株)博展とコラボし作成しました。ファーニチャーは最先端の技術を使用し、リニューアル以前に使用され、廃棄された酒の蓋を天板のジョイントにしたデザインになっています。そうすることでパズルの様に天板を組み合わせ、様々なシーンを演出することを可能にしています。また、ボトルキャップを一つのレガシーとして捉え、コミュニケーションのきっかけも創出します。
提供 : HAKUTEN _ Experiential Design Lab
2023年夏、sagyobarはオープンしました。開業してからまだ日も浅いですが、その中でもすでに多くの収穫がありました。その1つが企画の狙いでもあった来訪者と造り手とのコミュニケーションです。営業時には国内外の多くのお客様が足を運んでくださり、味に限らずブランドについての率直な意見が飛び交っています。また、この場自体に興味を持って頂いた方の中からはイベント出店のお誘いもあり、sagyobarが出張するようなイメージでイベント参加も始まりました。私たちにとって良い機会創出の場にもなっています。
今後はsagyobarを上手く活用しながら、naraiをベースとしたカクテルの研究開発や、酒粕を使用したスイーツやnaraiに合うペアリングフードの検討 及び これらに関するお客様の声の集約をすることで、私たちらしい「醸造のその先へ」を体現していきたいと考えています。
映像製作:Qe to Hare Inc.
sagyobarの価値とは? (現地メンバーの声)
酒蔵のみの時はお客様にお酒を提供することや直接ボトルを販売することができなかったのですが、sagyobarのような場があることでフラッと立ち寄ってくださる方とコミュニケーションが取れたり、お酒を提供しながら私たちの取り組みや商品説明をすることができるようになったことにメリットを感じています。実際にsagyobarで私たちに興味を持っていただき、酒蔵案内まで希望される海外の方もいらっしゃるので、日本酒文化を広めていくことにも貢献できているのかと思います。少数チームなので思うように営業日を増やすことができないもどかしさもありますが、多くの方に足を運んでいただければ嬉しいです。また、これからも多くのイベントに参加することで、皆様に私たちの日本酒naraiをお楽しみ頂ける機会を作りたいと考えています。今後はアパレル商品やグッズなど、ブランドアイテムの企画や販売も行っていければとチーム内で話し合っていますのでご期待ください。
番頭 西川と杜氏 入江
■ sagyobar 営業情報
アクセス
〒399-6303 長野県奈良井755-1
電車でお越しの方
JR中央本線 奈良井駅より徒歩4分
お車でお越しの方
塩尻I.Cより35分 / 伊那I.Cより40分
※「道の駅 奈良井木曽の大橋」または「水辺のふるさと ふれあい公園」駐車場をご利用ください
※空き地や道路への駐車はご遠慮ください
営業時間
基本的には不定期営業ですが、毎週金曜と土曜 午後1時〜午後5時まではOPEN
※その他日にちについては、スタッフを見かけたらお声がけください
※ドライバーの方、未成年の方にはアルコール飲料の販売は行なっておりません。
https://www.narai.jp/bar
■ 杉の森酒造株式会社
株式会社Kirakuの子会社。1793年創業の「杉の森酒造」が2012年に休眠に入り、2021年
「suginomori brewery(スギノモリ・ブルワリー)」として酒蔵再生、製造再開をする。日本酒「narai (ナライ)」を製造。
URL : https://www.narai.jp
Instagram: @narai.sake
suginomori breweryクリエイティブディレクター
山野 恭稔
多摩美術大学卒業後、乃村工藝社にて商業施設や地域創成を中心に全体構想や企画、空間プロデュース業務に携わる。日南市総合戦略課にも従事。2020年にKirakuへ入社。クリエイティブディレクターとして、各投資案件の構想・企画からプランニング業務を行う。 2020年の開発初期よりsuginomori breweryのクリエイティブディレクターも務める。
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