多言語館内放送アプリ「すぐアナ」の開発ストーリー。災害発生時に「海外から日本に来ている方々を言葉で支えたい」

株式会社のんた企画は、東京オリンピックの開催が決まった翌年の2014年春に設立されました。

当時、訪日外国人が困ったことアンケートの第2位に上げられていたのが「言葉の壁」です。そこで、彼らが接する機会が一番多い宿泊、飲食、小売業等で働く方々が、外国のお客さまを接客できる必要最小限の英語が身につけられるCD「おもてなし English」を、業種別に製作、発売しました。会社設立以来、外国の方々とのコミュニケーションの支援を会社の使命としています。

コロナ禍で打撃を受けたインバウンドビジネスが大きく回復している今、災害の発生が多い日本で、災害発生時の案内放送が理解できないと、外国の方々の不安は増大します。このような状況下での外国人を支えたいという思いから、タブレットの画面をタップするだけで4か国語での館内放送ができるアプリ「すぐアナ」を開発、2023年3月に発売しました。

本ストーリーでは、「すぐアナ」の誕生や、開発に込めた想いについてご紹介します。

災害時にスタッフが正確かつスピーディーに外国語でアナウンスすることは 難しい

接客英語のCD「おもてなし English」を発売後、各地で接客英語のセミナーも開催しましたが、オンラインで行った2020年のセミナーでは、接客英語に加え、災害時の英語での案内もご紹介しました。しかし、セミナーの対象が英語初級の方が中心であったこともあり、実際の場面でスタッフが正確かつスピーディーに外国語でアナウンスするのはかなりハードルが高いことを痛感しました。そこで災害時に、案内をする側も受け取る側も、もっと簡単に迅速にできる方法として、アプリを開発する考えに至りました。

しかし、コロナ禍の間はアプリの需要が見込めなかったことから、具体的な開発は、訪日外国人の規制が緩和されることが発表された2022年秋まで持ち越しとなりました。開発の過程で、言語は日本語と英語だけでなく、中国語と韓国語を入れた4か国語としました。世界の人口の１/４が英語でコミュニケーションが取れると言われていますが、重要なアナウンスは、母国語で聞けると安心感が違うことは想像に難くありません。コロナ前の統計では、中国、韓国、台湾、香港からの訪日外国人が全体の3/4の占めており、4か国語の仕様にしたことは商品の有益性を大きく高めたと思っています。

開発の過程で最も重要視したのは「使いやすさ」です。緊急な状況下で放送したい案内文が迅速かつ容易に見つけられるよう、視覚的にわかりやすいイラストを多用し、文例についても必要最小限の約60文に厳選しました。常に使用者の目線に立つことを心がけました。さらに、放送する各文の内容や表現といった最も大切な要素についても、関係する各方面の方々のご意見を取り入れながら慎重に進行しました。より多くの施設に導入していただけるよう、iOS版、Android版ともに、お手頃価格（\29,800 税込み）となっており「すぐアナ」アプリは、Apple StoreとGoogle Playから購入していただけます。

緊急時の情報提供の役割を担うのは「館内放送」

このアプリは、館内放送での使用に特化しています。情報をネットから取得することは、外国人旅行者の間でも常識や習慣になっていますが、災害が発生している時点で、今いるこの場所でどのような行動を取るべきかというピンポイントの情報をネットで得る事は困難です。その情報提供の役割を担うのが各施設の館内放送なのです。この館内放送に英語、中国語、韓国語を加えることで、外国の方々への適切な案内が可能になります。また、外国語のみならず、緊急の場合に冷静なアナウンスを行う上で、収録されている日本語音声も、スタッフの方々にとって心強いツールとなります。

日本には、訪日外国人だけでなく、永住者を除いて100万人近い在留外国人が住んでいますが（2022年末現在。ビザなしの短期在留を除く）、中には日本語でのコミュニケーションが難しい方々もいます。このアプリはこれらの方々への案内にも役立ちます。

いつ訪れるかわからない災害に備える一助として、社会に貢献したい

アプリに収録した文例は、緊急時に迅速かつ効果的な案内を可能にするため、約60に厳選されています。文例は観光庁のホームページに記載されている「用語集」をベースにしており、日本語原稿は、防災の専門家によるチェックを受けています。

また、クオリティに強いこだわりがあるため、アナウンスの音声は、それぞれの言語のネイティブのプロのナレーターにより、スタジオで収録されています。

発売以来、弊社では数々の施策やアプリのデモを行っての営業活動を展開しています。主なものとしては、「おもてなし English」発売の際に最も成果を上げた広告手段であった、全国のホテル旅館組合会報誌へのチラシ封入、さまざまな宿泊施設の支配人やスタッフの方々へのご説明、区役所や地方自治体の防災担当の方々との面談、7月に大阪で2日間開催された「第10回震災対策技術展」へのブース出展と会場でのアプリ体験セミナー実施などが挙げられます。

しかし残念ながら、期待した反応を得るには至らず、購入への踏み出しが難しい状況が続いています。「あれば便利だと思うが、優先順位は低い」というのが共通して寄せられたご意見です。特に、スタッフの補充が喫緊の課題である宿泊施設で顕著に表れています。

それでも、弊社では地道な営業活動を通して、いつ訪れるかわからない災害に備える一助として、社会に貢献していきたいと思っています。