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なぜ『若者は山里をめざす』のか?ドキュメンタリー映画監督が語る”消滅可能性都市”の今と未来

著者: 株式会社ムービー・アクト・プロジェクト


埼玉県東秩父村に移住する若者たちを捉えたドキュメンタリー『若者は山里をめざす』が、2023年1月14日より公開となります。都心からわずか60キロ、消滅可能性都市ランキングの埼玉県第1位にもなったことのある東秩父村に移り住む若者たちを追ったドキュメンタリーです。農業をライフワークに作品を制作し続けてきた原村政樹監督に、本作を撮影した経緯や消滅可能性都市の今後に展望などをお話し頂きました。



きっかけは物質主義的な社会への違和感


―まず、これまでの経歴と、30年に渡りドキュメンタリー映画を制作し続けてきた理由を教えてください。


原村政樹監督(以下、原村監督):僕は1957年生まれで、高度成長期以前のかつての暮らしがあった最後の世代なんです。小学生のころは千葉の三里塚にある母の実家に行っていたのですが、飼っていた鶏を解体して食べたり、ご飯を炊くのも、風呂も薪だったり。電気はあったけど、ガスと水道はなかったんです。家の周りには畑や雑木林、川も多くありました。そんなかつての時代の生活には触れていたんです。


小学校2年の時に東京オリンピックがあって、中学で大阪万博と、時代がどんどん豊かに、便利に変わって行きました。その一方で70年安保、水俣病や光化学スモッグなどの公害問題、ベトナム戦争もあった。

なんとなくそんな形で豊かになっていく社会に対して違和感があったんです。大切なものを置き去りにしている感覚ですね。

そんな時、日本テレビ「すばらしい世界旅行」というアマゾンに行ったり、ニューギニアに行ったりする紀行番組を観ました。こんな人間の根源的な暮らしのある世界があるんだとすごく感銘を受けたんです。


やはり、人間が生きていく根底にあるのは食べ物なんですね。

それを生み出しているのが、第一次産業である農業と自然。

端的にいってしまうと、自分が農業と自然をテーマにし続けてきたのはそんな根源的なくらしに対する、ある意味での憧れがあったからです。

高校では人類学者の本を読み出したり、大学では探検部に入って、フィリピンやインドネの山岳少数民族の村に滞在したり。

以降、フリーの助監督を5年経験した後、30歳で監督となりました。





―本作『若者は山里をめざす』を撮るきっかけはなんだったのでしょうか?


原村監督:若者が地方の人たちと付き合って、地域社会の良いもの受け取りながらやっていく活動を取材していて、奥会津の方にも行ったりしていました。

そんな中、西沙耶香さんという東秩父村出身の女性と知り合ったんです。

彼女は大学進学と就職で一度は東京に出たものの、ふるさとが「埼玉県の消滅可能性都市No.1」に指定されたことにショックを受けて、村に戻り地域おこし協力隊の一員として活動をしていました。



村のおじいちゃん、おばあちゃんたちを訪ねて、特産品や伝統文化の話を聞いて、それを新しい形で残していこうと試行錯誤している。そんな活動に感動して、撮影を始めたんです。


様々な理由から東秩父村に集まる若者たち


―本編には他にも、東京育ちの青年や、隣村から伝統芸能を学ぶ為に移り住んできた青年が登場します。


原村監督:東京から移住してきた高野晃一さんは撮影の最中に知り合いました。

10代の頃から旅が好きで、特に農村に憧れを抱いていた青年で、大学卒業後、都内の銀行に就職しましたが、希望した仕事に就けなかったそうです。

そこで心機一転、東秩父村に移住して、地域おこし協力隊に応募して採用されました。

村で獲れる「ノゴンボウ」(山菜の一種)に着目し、成果が中々出ない中でも1年、2年と諦めずに特産品として開発に取り組み続けました。



市村太樹さんは隣の寄居町出身で、和紙職人を目指す青年です。

話を聞きにいったら、「都会で効率重視の仕事をするより、地元から必要とされている仕事をしたい」と言うんです。

村の伝統文化である和紙をやろうという若者がいるんだということに驚き、取材を始めました。



「時間が溶ける」ような場所


―原村監督から見た東秩父の魅力とはなんでしょうか?


原村監督:まずは山に抱かれているような風景、そして暮らすみなさんによそ者目線がなくて、本当に温和なんです。

西さんが村の人と話している様子を取材していたんですが、いつの間にかテーブルの上にお菓子や草苺がでて、段々と人が集まってくるんです。

そんな気持ち良さあります。

ゆっくりと時間が流れる、「時間が溶ける」と僕は表現しているんですが。

都会で暮らしていると忙しくて時間に追われる日々が続きますが、ここでは話をしているうちに、いつの間にか時間がたっている。そんな感じがするんです。



―今後、東秩父村はどうなって欲しいとお考えですか?


原村監督:状況が急激に変わることはないし、その必要もないと思います。

ただ、若者が外から入っていくだけではなく、地元の人達と、先輩の人たちと、一緒になって活動していくという環境が整っていくと良いと思っています。

この映画の舞台となった東秩父村は、一つの事例として取り上げたのであって、この村だけを良くしようというように考えたわけではありません。同じような地域が日本全国に存在します。こういった「時間が溶ける」場所で生活したいと思う都会暮らしの方は多いと思います。是非、自分に合った「東秩父村」を探し当てて欲しいと考えています。


―来年1月14日より、公開となります。どういう人たちに見て欲しいと考えていますか?


原村監督:都会の生活の中で困窮していたり、なんとなく息苦しさを感じている若い人に特に観て欲しいです。

未来を創っていくのは若者です。こんな世界もあるということを知ってもらって、願わくば第二のふるさとにしたいと思ってもらい、定期的に付き合えるような関係になって欲しいと願っています。





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