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人の数だけ、物語がある

NTTテクノクロスが目指す誰もが働きやすい職場とは。~聴覚障がい者との相互理解を図る「ツナガル・ブックTM」発行への想い~

著者: NTTテクノクロス株式会社

NTTテクノクロスでは、ダイバーシティ&インクルージョン(以降、D&I)を重要な経営戦略の一つとして位置づけ、「多様な人財がCROSSしながら能力を最大限発揮し、成長し続ける会社」をD&Iビジョンに掲げ推進しています。2023年5月に誰もが働きやすい職場づくりに向け、聴覚障がい者との相互理解を図る「ツナガル・ブック」を発行し、ホームページにて公開しました。

 「ツナガル・ブック」は、社内利用を目的に作成しましたが、聴覚障がい者が社会で安心して働ける一助となることを願い社外公開することとしました。今回は、本書の発行を推進した人事部人材開発部門の佐藤真美が、本プロジェクトに込めた想いや、未来への展望を語ります。

聴覚障がい者はすぐに辞める?転職活動中に投げかけられた心無い言葉に課題意識が芽生える!

私は生まれつき耳が聴こえません。普段は筆談と手話で生活をしています。

NTTテクノクロスには2022年5月にエンジニアとして入社しました。エンジニアとして勉強を積み重ね、業務を進める一方で、私自身の経験から何か会社に貢献したいと思っていました。

当時私が課題意識を持っていたのは、周囲で社内の人間関係がうまくいかず離職する人が多いことでした。また、離職する人が多いのは「聴覚障がい者に問題がある」と捉えられることも多く、採用を遠慮してしまう企業もあるのではないかと感じていました。私自身も以前、転職の面接時に「聴覚障がい者はすぐに辞めるからね」などと言われ悔しい思いをしたことがあります。

しかし、実際には聴者(同僚や上司など)との間で起こる些細なすれ違いや誤解が徐々に大きくなり最終的に離職を選んでしまうというケースも多いと考えています。

このようなすれ違いが起こる原因の一つとして、世に出ている一般的なマニュアルの多くが聴者により作られており、聴覚障がい者が本当に感じていることや求めていることまで書かれていないことがあげられます。

聴者が聴覚障がいを知ろうと本屋で手にしたマニュアルの内容を実践しても、根本的な解決にはつながらないことが多いのではないかと感じていました。それは、知ろうとしている聴者に対しても申し訳ないし、聴覚障がい者自身にとっても残念なことになってしまいます。

だからこそ、職場の方に渡し、私達のことを深く知って頂ける『当事者が作ったマニュアル』を作ってみたいと考えていました。

この会社だったからこそ実現できた「ツナガル・ブック」の発行

NTTテクノクロスに入社してまず思ったのが、その当時の上司の皆さんがすごくいい人で、今までの会社と違ってすっとなじめる感覚があったことです。

今まで働いてきた会社では、「聴こえないから仕方がない」、「聴こえないからこの程度の仕事で良いだろう」と思われていたのではないかと感じることもありました。しかし、この会社では、私をともに働くメンバーとして、アドバイスや指導をしてくださり、今までの会社では絶対に任せてくれなかったような仕事を任せてくださいました。

これは、障がいがある人を同じ人間として対等に見るという当たり前のことがきちんとできている会社だと言えます。そして何よりも私とどうすればともに働くことができるのかをいろいろと考えてくださっていることがとても嬉しく、この会社で同じ仲間として働けて良かったと日々感じていました。

入社後しばらくして、D&I室のみなさんより「ともに働く社員に障がいを理解してもらうためのマニュアル」を作成する話を頂き、この作業を任されました。そこで、自分自身がこの会社で働けて良かったという想いと、会社としてこのような取り組みを認めてくれたNTTテクノクロスへの感謝を込めて『当事者が作ったマニュアル』作成にチャレンジすることにしました。

聴覚障がいは、単に耳が聞こえないだけでなく、人とのコミュニケーション(=人との繋がり)を困難にしてしまう障がいでもあります。それを表現するため、今までの経験や周囲の友人知人から聞いた話などを思い出しながらとにかくいろいろと書き出していくうちに、今回発行した「ツナガル・ブック」という形になりました。

お世話になった上司に囲まれて

当事者が書いたからこそ、聴覚障がい者の気持ちに寄り添うことができた「ツナガル・ブック」

今回発行した「ツナガル・ブック」には、聴者が作ったマニュアルでは得られない当事者ならではの心理状況も所々に盛り込みました。

例えば、『聴覚障がい者も何かあった時は人の役に立ちたい気持ちがあります』ということです。

実際に、誰かが倒れた時に聴覚障がい者しかいなかった場合、周囲に助けを求めることは難しいだろうからと、聴覚障がい者を一人にしないようにすることしか思いつかない人は多いです。それは単に一人では何もできない人間として見てしまうことにもなります。

このような周囲からの対応の積み重ねによる結果として「自分はいてもいなくてもいい人間なのではないか」、「私は周りから一人の人間として頼りにされていない」など、疎外感を感じてしまうこともあります。聴覚障がい者にもできることはあるし、何より同じ仲間として役に立ちたいと思っていることが見落とされています。聴こえないならではのやり方があること、工夫さえあれば聴者と同じようにできることはあるということに気づいていただく、そこにも「ツナガル・ブック」の意義があるのだと考えています。

また、聴覚障がい者は配慮をお願いすることがどうしても多くなるため、聴者からは「あれもこれもしないといけないのか」と思われてしまうこともあります。そのため、「ツナガル・ブック」では「一方的な歩み寄りではなく双方向の歩み寄りを」という気持ちが伝わるように表現を考えたり、工夫したりしました。

NTTテクノクロスには私以外にも何人か聴覚障がい者がいます。私自身も含めその方々が今後も息長くこの会社で働いていけるようにしていけたら嬉しいですし、「ツナガル・ブック」を社外の皆さんにも公開したことによって聴覚障がい者がともに働ける環境が社会に広がってくれたらとても嬉しいです。

ツナガル・ブック」制作メンバーと一緒に

聴覚障がいの大きな問題は「聴こえない」ということではなく「人と人との間の関わりを作ることが難しい」ということ

聴者は「聴覚障がいは、テレビの音が聴こえない、人の話が聴こえないなどで困る障がいなのだろう」と思っているかもしれません。

しかし、少し考えてみてほしいのです。例えば、「テレビの音が聞こえない」というのは「聴こえないから」なのでしょうか?もし、テレビ番組に字幕があれば聴こえないことは問題ではなくなることもあります。更に手話通訳がつけば、日本語が苦手な聴覚障がい者にとっても障がいを感じにくくなります。このように、環境や制度が不十分であることが障がいを作っていることもあります。このような視点で考えていただけると、聴覚障がい者が「こうなってしまうのは自分が聴こえないからだ」と自分を卑下することがなくなり、ともに周囲の環境を良くしていくことができると思います。

他にも、聴覚障がい者側からの働きかけも大事だと考えています。

例えば私自身は、積極的に社内イベントに登壇し、音声合成ソフト『FutureVoice Crayon』やMicrosoft PowerPointの読み上げ機能を使って発表しています。それによって、多くの社員に「音声合成ソフトを使う方法があるのだな」と気づいてもらうことができました。また、聴覚障がいがある社員からも、「なぜ声で話せないのに登壇しようと思えるの?と思ったけど、そういう方法もあると参考になった!」と言っていただけました。

このように、私自身がいろいろな所に参加して働きかけることで、音声合成を使った発表手段があること、手話を知らなくてもスマホのメモ帳アプリや文字チャットなどでコミュニケーションを取ることができることを周囲の方や同じ聴こえない社員にも知って頂ける機会になると考え、今後も積極的にいろいろな場に出て、働きかけていけたらと思います。

そして、「ツナガル・ブック」の名の通り、聴こえない人と聴こえる人がうまくツナガルことで、あらゆる問題を前向きに解決していくことができたら良いと思っています。

音声合成ソフト『FutureVoice Crayon』利用画面

「ツナガル・ブック」が、聴覚障がい者の働く環境を改善するための後押しに!

ツナガル・ブック」を作成し、社内外からたくさんの反響をいただきました。その時に、「ツナガル・ブック」をどのように活用したのか、ぜひ他の方にも共有してほしいとの声もいただきましたので、ここで紹介します。

社内では、当事者本人が今まで周囲に言いづらかったことを、「ツナガル・ブック」を上司に見せて、「自分の場合はこういうフォローが欲しいです」などと話しをすることができたと聞きました。「ツナガル・ブック」が周囲との相互理解の促進に役立っていると嬉しく思いました。

社外では、自分のパートナーが病気で中途失聴(※病気や事故などで聴こえなくなること)になり、本人も職場の皆さんもどうすればいいか分からず、適応障害になり職場にいづらくなってしまったという方がいました。そのような時に「ツナガル・ブック」の存在を知り、その方自身がパートナーの会社の上司に「ツナガル・ブック」を持って行ってお話したところ、理解を得られ、パートナーがやりやすいように仕事を割り振っていくと約束してくださったということがあったそうです。そのお話を聞いて「ツナガル・ブック」は人助けにもなったのだな、と大変嬉しく思いました。

今後に向けて

社内には、「チャレンジド(様々な障がいのある社員のコミュニティ)」、「デフチャネル(聴覚障がいのある社員のコミュニティ)」という形で、障がいがある社員同士が交流・情報交換をするためのコミュニティがあります。そこでは働き方の相談など有意義な議論が交わされています。

それをその中だけに閉じるのはもったいない、それよりもコミュニティ内で出た様々な意見を会社に共有し働き方改善に繋げたい、また、障がいがない社員からも障がいがある社員に質問・要望などを伝えたりする双方向の場があってもいいのではと考え、新しいコミュニティの立ち上げを考えています。

障がいがない社員も、障がいがある社員に言いたいことや聞きたいことなどがあるはずだと思っています。もしかしたら文句もあったりするかもしれません。でもそれを口にすると差別になるのでは?等思ってしまって、黙ってしまうという人もいるかもしれません。ですが、それでは本当の意味での対等にはならないと考えております。

障がいの有無に関わらず、ともに働くことができる会社、社会を目指し、今後もさまざまなことにチャレンジしていきます。

デフチャネル(聴覚障がいのある社員のコミュニティ)のみなさんと一緒に

プロフィール

佐藤 真美(サトウ マミ)

プログラマーとして社会人生活を開始し、WEB業界・金融業界などさまざまな業界を経験。2022年5月にNTTテクノクロスへ入社。同社の人事システムの保守・運用を担当するかたわら、2023年5月に「ツナガル・ブックTM」を発行。障がいを持つ社員がともに働くことができるような会社、社会を目指し、さまざまなコミュニティ活動に参加。プライベートでは、全国からあらゆるジャンルのエンジニアが50名ほど参加する「デフエンジニアの会」を運営。技術書展で『耳が聴こえないエンジニアがいろいろと書いてみた』をメンバー有志と共同で執筆。イベントでは2時間で50冊という異例の速さで完売。聴こえないエンジニアが働きやすい環境を目指し活動中。

※プロフィールは、本記事の執筆時点の内容です。

関連情報

NTTテクノクロス コラム「情報畑でつかまえて」




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