ルッキズムに囚われずありのままの自分を生きるには? 自身の経験と思いを熱く綴った約20年間のルッキズム激戦記
「ルッキズム」
昨今、耳にすることが増えた言葉でないでしょうか。
外見至上主義。美人やイケメンなど、見た目がいいことをよしとする価値観や、人を見た目でジャッジする思想や行動のこと、です。「人を見た目で判断しちゃだめ」という概念自体は以前からあるものですが、近年、SNSの台頭などによってルッキズム的な動きが加速してきたせいでしょうか、この呼称が注目されることが増え、同時に「反ルッキズム」の機運も高まっているように思われます。
子どもの頃、体型をバカにされるあだ名をつけられたことから容姿コンプレックスに陥り、約20年もの間、周囲や社会がよしとする美の基準に自身をあてはめようともがき続けたのが本書の著者の前川裕奈さん。のちに、その自身を苦しめる元凶が「ルッキズム」というものであると突き止め、それに真っ向から向き合いながら、留学やスリランカ駐在などの経験を通して自分なりに折り合いをつける術を見つけました。
それをもとに、少しでも同じような悩みを持つ人のサポートやヒントとなるべく起業し、その経験と思いを熱く綴ったのが2023年6月末に発売した本書『そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話』です。編集担当のイカロス出版書籍編集統括部 西村 薫が出版までの経緯を振り返ります。
※イカロス出版株式会社は、インプレスグループのグループ会社です。
熱い思いのこもった企画書
「書籍の出版を考えています。それについてのアドバイスをお願いできないでしょうか」
著者の前川裕奈さんからメールが届いたのは、2022年8月のことでした。
実は、その前年の2021年12月、私が編集担当したスリランカ料理レシピ本の出版記念イベントで一度お目にかかって少しお話ししたことがあり、私もそれはよく覚えていました。それでも、わざわざそのレシピ本の著者、石野明子さんを一旦通してご連絡をいただいたのには、彼女の丁寧さと真摯さを感じました。
メールは、ご自身がスリランカで立ち上げて経営しているフィットネスウェアのブランド「kelluna.(ケルナ)」の活動のことから始まりました。その延長でジェンダーや女性の生き方、起業、セルフラブ、ルッキズムなどについて発信活動をしていること、相談や共感のメッセージを受け取る機会がとても多いこと、それゆえもっと多くの人に自身の経験と思いを伝えたいと強く思い、年始から本作りの準備をはじめていること……などが綴られていました。
さらに、数日たってから敏腕ビジネスマンが作るような企画書が送られてきました。そこには、ご自身が感じてきた「女性としての生きづらさ」をリアルに伝えたい、同じように悩んでいる人に「大丈夫」と伝えたい、ほんの少しであっても社会に問題提起をしたい、などといった思いが一層熱く語られていました。
その熱意に感服し、実際にお会いしてお話を聞くことにしたのは10月も終わりに近づいた頃でした。
前川さん自身の経験から「Beauty comes from Self-Love(美とは自分を受け入れ愛すること)」をコンセプトにしたフィットネスウエアブランド「kelluna.(ケルナ)」。
依然絶えることのない容姿についての悩み
弊社イカロス出版は、『月刊エアライン』が旗艦媒体であることが示すように航空分野をメインとし、そのほか鉄道やミリタリー、レスキュー分野で出版活動を展開しています。
海外旅行や通訳・翻訳などについての媒体もあり、その派生としてのレシピ本などを私自身も担当したことはあるものの、今回前川さんが企画書に書いてこられたような、女性の生き方など社会的なテーマのエッセイ本は、会社としてもほとんど前例のないジャンルでした。
果たして前川さんにご来社いただいたとしても、私自身が担当する/社内の別の編集者を紹介する、いずれの形であっても弊社からの出版は難しいのではないだろうか。正直なところ、お話しする前はそう思っていました。
しかし、前川さんの口から語られるルッキズムと闘ってきたこれまでの経緯には、共感する部分がとても多くありました。この同調圧力が強い日本で、容姿についての悩みをまったく持たずに生きてきた人はおそらくいないはず。私自身も小さい頃から、「女子としてはデカい」身長、どこにも出かけていないのに「海にでも行ってきた?」と聞かれる地黒の肌、どうやっても流行りの髪型になどできない針金のような剛毛の髪……テレビや雑誌に出てくる小さくて白くてふんわりしたカワイイ女子とはまったく違う自分に、どこか諦めのような思いを抱えて生きてきました。この多様性が叫ばれている令和の時代になっても、それがなくなるどころか、かつては無かったSNSなどの影響もあり、さらに加速していることに改めて驚くばかりです。
女性が生きづらい状況を少しでも変えたい
さらに、ルッキズムのほかにも話題は社会、とりわけ仕事におけるジェンダー格差、婚姻における改姓のこと、出産可能年齢のこと……さまざな「女性の生きづらさ」へと広がりました。私も実際に前川さんの年齢の頃、それらにかなりモヤモヤしていました。あれから20年近くの時が経っているのに、今その年代にいる女性たちがまだ同じこと、同じ生きづらさに悩んでいる。
これってどうなのだろう……。
もしかしてこのままだったら、さらにこの次の世代の女子も同じことに悩み続けるのだろうか……。
少し前の世代を生きている女性として、「そんな状況を変えたい、微力かもしれないけれど声を上げたい」という前川さんの声を世に出すお手伝いをしないという選択肢はないのではないか。話し終わってから、だんだんそう思えてきました。
このジャンルの本の経験がない会社と編集担当ではいろいろと難しいかもしれないけれど、やってみるしかない。
その思いを企画書に詰め込み、緊張しながら企画会議に出したところ、なんとか、どうにか、無事に社内的にも珍しい分野の企画が承認されました。
「ルッキズム」をメインテーマに据える
前川さんの思いと企画内容には、いくつもの要素がありました。ルッキズム、起業、セルフラブ、スリランカ、国際協力、ジェンダー格差などに代表される女性の生きづらさ……。
この本のメインテーマを何にするか、本として内容もタイトルも、どこにフォーカスするのがよいのか。特にルッキズムを前面に出す場合には、社会的にも、著者と読者の個人的な感情としても、かなりデリケートな部分を内包するので慎重になります。
届けたい人に確実に届くタイトルと内容について、前川さんと作戦会議をくり返しました。前川さんはありとあらゆる候補と可能性をとても論理的に書き出して連日私に送ってくださり、私はそれを図にして、二人でそれを眺めながらうんうん唸り続けました。
その結果、前川さんの伝えたいことが最も多くの人にひっかかるであろう「ルッキズム」に主としてフォーカスするという方向が定まりました。
前川さんの企画書やその後作成していただいた膨大な構成&タイトル案、それを西村が図にして……幾度も作戦会議を行いました。
この作戦会議には、かなり心強い助っ人の存在もありました。フリーライターのウィルソン麻菜さんは、以前に前川さんを取材して記事を執筆したことがあり、それ以来漫画とアニメと声優の朗読劇が大好きな前川さんのオタク友だちでもあります。彼女が前川さんの思いと書きたいメッセージに共感・賛同して、前川さんの壁打ち相手やブレーン的な存在として厚意で参加してくれたのです。プロの目線がもう一つ加わったことはありがたかったです。
さらに、前川さん、ウィルソンさん、私の3人は、年齢も見た目も異なりますし、独身、既婚、離婚、国際結婚、子どもがいる/いない、など、同じ「女性」ではありますが、経験や属性がバラバラ。それでも「わかる」と共感できたり、逆に「まだ社会は変わってないのか」と落胆したり、「私はこういう苦しみがある」と新しい見え方をお互いに教えあったり。3人の女性がチームとなったことで視点が増え、結果として読者の年齢層をひろげることにもつながったように感じます。場合によっては炎上しかねないデリケートなテーマにもかかわらず、それをできるだけ回避するべく随所で留意しながら、最終的に全般としてやわらかく着地できたと感じるのも、3人だったから、なのかもしれません。
表紙は灼熱のスリランカの街なかで撮影
さらにもう一人、この本に関わった女性がスリランカにいます。前川さんと私をつないでくれたスリランカ料理レシピ本の著者、石野明子さん。本職はフォトグラファーで、スリランカに家族とともに日本から移住し、現在コロンボ郊外に自身の写真スタジオを構えています。移住後には、かつて在籍していた朝日新聞のWEB版にフォトエッセイの連載を持ち、前川さんがスリランカに駐在していた際に、前川さんを取材・執筆した経験もある方です。前川さんの起業時の奮闘なども知っている彼女に、スリランカで表紙の写真を撮ってもらおう、と割と早い時期に思いました。
実は当初、前川さんは、本の表紙はイメージイラストなどを使いたいと考えていました。「どの容姿の人がルッキズムを語るわけ?」といった類の無用な炎上は極力避けたい、という理由からです。でも、ご自身はSNSなども積極的に使っていますし、本の表紙や中面に本人の写真を入れなくても、このご時世、ちょっと気になって調べればすぐに本人にたどり着きます。本の表紙をご覧いただいてわかるように、現在の前川さんは明るい笑顔がとてもチャーミングな人です。本を読んだ人が後から前川さんの写真を目にして(本来、どんな容姿の人でもルッキズムに悩む可能性があり、それは本書の中でもさんざん伝えているのですが、現状の一般的な傾向として)「こんなカワイイ人がルッキズムを語ったって……」などとなるほうが、もしかしたら避けたほうがよいことなのかもしれません。
それならば、はじめから表紙に「こんな人が語っている本です」ということがわかるように、潔く写真を使ったほうがよいのでは。前川さんにそう提言すると、少し考えた上で同意していただけました。
前川さんのスリランカ出張に合わせて、フォトグラファー石野さんにお願いした撮影は、前川さんの言葉を借りれば「命がけ」。あまり整備されていない道路や線路で撮影したり、スリランカの灼熱の暑さの中で半日撮影していたら見事に熱中症になってしまったり。それでも、自身が「恋に落ちて」ここで起業したい、と思った国の空の下で撮影することで、ルッキズムと闘っていた時にまとっていた心の鎧を脱ぐことができた前川さんの素の表情を、石野さんが素敵に切り取ってくださったように思います。
線路でも撮影。フォトグラファー石野明子さんと。
信号や横断歩道が少ないため、道路を渡るのも命がけ!
スリランカの空気の中でも紡いだ素直な言葉
すでに1年近く、ご自身で構想を練っていたこともあり、実際に動き出してからは、初めての著書執筆にもかかわらず意外に短期間で執筆は進みました。とはいえ、デリケートなテーマであるけれど伝えたいことはしっかり伝えたい、という気持ちはとても強く、前川さんも言葉尻や言葉選びはかなり慎重になっていました。それゆえ、PCに向かっているうちに朝になってしまったことも数知れず。こんなに週に何度も徹夜をしたのは、人生初だそうです。
その執筆のクライマックスともいえる時期がちょうどスリランカ出張にあたっていたため、スリランカでも執筆を続けていただきました。もちろん仕事の合間をぬって時間を捻出。現地のカフェで連日夜遅くまでPCを叩いていたら、アルバイトくんに「閉店後もいていいから。鍵締めておいて」とカギを渡されて、そんなスリランカのカジュアルさに助けられたこともあったとか。出張途中リラックスするために予約を入れていたアーユルヴェーダの宿泊施設に行っても、南国の海を目の前にしていても、ひたすら執筆執筆執筆……。
前川さん談:連日通っていたコロンボのカフェでは、閉店後も執筆してていいよ、とカギを渡されました(笑)
でも、後から振り返ると、その「スリランカの空気」の中で書くことで紡ぐことができた言葉もあった、と前川さんはおっしゃっていました。それゆえ、彼女が紡ぎ出した言葉はより素に近く飾らないものになって、読む側によりすんなりと入ってくるように感じられるのかもしれません。
最終段階では、ウィルソンさんのサポートも受けながら、細部まで自身の思いを言葉に紡いでいきました。
辛かった過去も赤裸々にさらけ出して
ようやく本が刷り上がってきたその日、前川さんはウィルソンさんとともに、わざわざ弊社オフィスまで足を運んでくれました。その日にすぐに自分の目で見て手にしたかったのだそうです。
日本社会にはびこるルッキズム。社会が押しつける限定的な「美の概念」や周囲の人の何気ない言葉などが呪いとなって苦しんでいる人は少なくありません。そうではない。美しさの基準も幸せの尺度もひとつではない。自身を肯定し自信を持っている状態(=セルフラブ)こそが、本来の美しさであるはず。今、苦しんでいる人やその周囲の人たちにそれを伝えることで、少しでも救いや気づきにつながれば——そのために、前川さんが過ごしてきた子ども時代からの「思い返しただけで疲弊するような時間」を赤裸々に綴った本書は、ある意味分身のようなものかもしれません。そう思うと、彼女がわざわざオフィスまで受け取りに出向いていらしたことも納得です。
完成した本を、刷り上がったその日にウィルソンさんとともに弊社オフィスで手にして。
小さな声でも集まればやがて大きな変化に
前川さんが経営するフィットネスウェアブランド「kelluna.(ケルナ)」は、毎年初夏の時期から百貨店などでのポップアップストアを展開しているのですが、今年はその売り場にも、前川さんが本書を並べました。事前にSNSなどで告知をしたところ、これまでSNSなどで前川さんを知り、関心を持っていたという人が彼女に会いたいと売り場を訪れて話し込む場面もありました。
前川さん主催で出版記念イベントや別ショップとのコラボイベントを行った際には、「前川さんと同じような経験をしてきたが本を読んで勇気をもらった。自分も人に勇気を与えられる人になりたい」という手紙を携えた高校生が来場し、前川さんが感涙することもありました。
西武百貨店でのポップアップストアでも本書を販売。渋谷店(6月)および池袋店(7月)。
本当に少しずつかもしれませんが、前川さんの思いは本書を通じて伝わりはじめたように感じます。「小さな声でも、たとえかすれ声だとしても、どんどん集まっていくことでやがて大きな変化に通じると信じている」と前川さんが言うように、いずれはルッキズムなどという言葉も聞かれなくなるような、どんな容姿でも、どんな性別・属性でも、生きやすい社会になっていく一助にこの本がなってくれたら、と願うばかりです。
「今、自分の容姿に悩んでいる人も、そういう人が身近にいる人も、まったく知らない世界だという人も、自分大好きノープロブレムなんて人も。自分の見た目が嫌いだった少女が、セルフラブに辿りつくまでの約20年間を、どうかのぞいてみてほしい」(はじめに より)
2023年3月のスリランカ出張の時、この日出勤していた「kelluna.(ケルナ)」のメンバーとアトリエ前で
著者:前川裕奈 / Yuna Maekawa
慶應大学卒。三井不動産に勤務後、早稲田大学大学院にて国際関係学を修める。 JICA勤務時代にスリランカに出会い、後に外務省職員としてスリランカに駐在。2019年にフィットネスウェアブランド「kelluna.(ケルナ)」を起業。現在は日本と行き来しながらkelluna.を運営するほか、企業や学校などで講演を行う。趣味はランニング、ロードバイク、漫画、アニメ、声優の朗読劇鑑賞。
◎kelluna. www.kelluna.com
書籍情報
書名:そのカワイイは誰のため? ルッキズムをやっつけたくてスリランカで起業した話
著者:前川裕奈
ISBNコード:978-4-8022-1308-0
発売日:2023年6月30日
判型:四六判
ページ数:212ページ
定価:1,760円(税込)
発行:イカロス出版
[URL]https://www.ikaros.jp/hintbook/plus/srilanka-sonokawaii.html
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ