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今日が、残りの人生の最初の1日。

日本最後の秘境「トカラ列島」でのワーケーション推進。十島村役場の歩みと挑戦

著者: 十島村役場

日本に「トカラ列島」という場所があることをご存知でしょうか。

トカラ列島は九州の南の海上にあり、屋久島と奄美大島という二つの世界自然遺産に挟まれた島々です。

全部で12の島々で構成されていますが、そのうち人が住んでいる島は7つで、どの島も人口は100人前後、全部合わせても700人に満たない小さな自治体です。

奄美大島や沖縄に向かう飛行機で上空を通過したことのある人は多いと思いますが、トカラ列島に行ったことがある人は少ないのではないでしょうか。

トカラ列島に行こうと思って計画しても、海が荒れれば船が欠航になってしまうため、「呼ばれないと行くことができない島」とも言われることがあります。

手つかずの大自然が広がり「日本最後の秘境」とも呼ばれるトカラ列島ですが、村長から「テレワークで働く人たちを受け入れることができないか」という指示を受け、検討が始まったのが2021年。

以来、ワーケーションでトカラ列島に訪れる人が少しずつ増えてきています。

このストーリーでは、十島村役場・地域振興課の栄羽(えいは)より、なぜ東京生まれ・東京育ちの私が、縁もゆかりもない十島村にやってきてワーケーションの推進を担当することになったのか、そしてトカラ列島でのワーケーションにしかないその魅力についてご紹介します!



18年間勤めた市役所を辞め、十島村役場に入ろうと思ったワケ

私が鹿児島県の十島村役場に入庁したのは2020年の4月、ちょうど世の中に新型コロナウイルスの暗い影が拡がり始めたのと同じ時期でした。

4月1日に初登庁して辞令を受け取りましたが、都道府県をまたいだ移動にも制限が設けられていた時期であり、県外から引っ越してきた私は、その翌日から10日間ほど自宅待機となりました。

その年の3月末までは、埼玉県の春日部市役所で公務員として18年間働いていました。

2000年に大学の建築学科を卒業した私は、埼玉県を拠点とした住宅メーカーに就職し、社会人としての第一歩が始まりましたが、2002年に当時住んでいた町の役場に転職したところから公務員としての人生が始まります。

その町役場が、隣接する春日部市と合併し、市役所職員となったのですが、現在の十島村と合わせると「市・町・村」すべてで働いたことになります。こういう人はあまりいないかもしれませんね。


その後、事務職から建築職に任用替えとなり、学校の施設管理の部署にいた2011年の3月11日、東日本大震災が発生しました。

春日部市でも震度5強を観測し、経験したことのない大きな揺れに恐怖を感じ、机の下に身を隠しました。

余震が続くなか、点検のために校舎の屋上にある高架水槽に上っていた時に緊急地震速報が鳴り、肝を冷やしたこともありました。

震災後は学校の耐震補強工事や老朽化した校舎の解体と建て替えなどが進み、担当する工事も増加して忙しい時期でしたが、今振り返ると通常であれば数年かけて経験するような技術や知識を集中して得ることができた、自身の礎となった貴重な時期でした。


(春日部市に勤務していたころに担当した学校の改築工事の現場です。3階建ての校舎の屋上でコンクリートの打設をしているところです。)


数年後には、新設された空き家対策の部署に異動になりました。

空き家対策特措法が生まれ空き家問題が世の中でもクローズアップされはじめた時期だったので、空き家対策に関する事業を一から立ち上げていくなかで、新しい分野に取り組んでいく楽しさを感じていたのですが、わずか3年で異動を命じられました。

実績も残してきたつもりでしたが、大きい役所の中では一つの駒でしかないことを実感していたところに、後述する「トカラ列島島めぐりマラソン大会」の情報を見ようとして開いた十島村役場のホームページで建築の専門職を募集しているのを見つけ、それまでに建築職として働いてきた技術や知識を活かして十島村に貢献していきたいと思い、採用試験を受けたのが十島村役場で働くことになったきっかけです。


コロナ渦を機に進んだテレワーク。トカラ列島でもワーケーションを促進できないか

緊急事態宣言が発令され、街の中から人の姿が消えたのもこの時期でした。

病院もない島で住民をコロナウイルスから守るためには、とにかく外からの人の流れを制限することが一番の感染対策だということになり、トカラ列島へと向かうフェリーとしま2の船内はガラガラの状態が続いていました。

企業での出勤も制限されるようになり、テレワークが急速に広まり、今では当たり前のように使用されているオンラインミーティングが広く普及し始めたのもこの時期でした。

それと同じ頃、トカラ列島の悪石島(あくせきじま)に、新たに移住体験施設が誕生しました。

島で移住体験ツアーを実施するために整備した施設で、長期滞在にも使用できるようにと、宿泊者が自由に使えるキッチン・シャワー・洗濯機などの設備も備えている施設でした。

そのオープンが「令和2年4月」、コロナ渦で人を呼ぶことができず、オープンと同時に遊休化してしまいました。


(左から2つめの建物が悪石島の移住体験施設。手前の広場は学校の校庭です。)


一方で、トカラ列島の全島に通信用の光ケーブルを敷設する工事がコロナ前から進んでいました。

本土から海底に設置された光ケーブルを使用することで、離島のトカラ列島でも本土と同じような通信環境が利用できるようになり、遊休化していた悪石島の移住体験施設にも、2022年の春に光ファイバーの高速回線が引かれました。

そのような中で、「十島村でもテレワークで働く人たちを受け入れることができないか」という村長からの指示を受けて始まったのが、この「テレワーク・ワーケーション推進事業」です。

手始めとして、悪石島の移住体験施設にテレワークにも対応するようにPCをつなげるモニターやゲーミング用のデスクとチェア、快適に眠れるマットレスを備えたベッドを整備したのが2022年の夏で、実際に自分が施設に泊まって体験してみたところ、通信環境も申し分なく、快適にテレワークができた一方で、朝は釣りをしたり(魚は釣れませんでしたが)、夕方は島を散歩したりと、これはワーケーションをするのに最適なのでは?と、そのときに実感しました。


同じ頃、口之島(くちのしま)では、売店の新築・移転により空き店舗になっていた島の旧売店の建物の活用が課題となり、アフターコロナを見据えて、悪石島と同様にテレワーカーの受け入れも可能な移住体験施設にリノベーションしようということになりました。

悪石島では移住体験のツアー客を受け入れることを前提とした施設だったので個室はありませんでしたが、口之島の施設では個人が快適にテレワークができるよう個室を整備する一方で、個人同士の交流が生まれるようなコワーキングスペースも整備する計画としました。

ここでは、前の職場で建築職として働いていた経験を活かすことができました。(今の役場でも建築職ではあるのですが…)。


(旧売店をリノベーションした口之島の移住体験施設。キッチンもあります。)


この施設のリノベーションが終わり、1月からのプレオープンを経て、2023年4月に悪石島と口之島におけるワーケーションの受け入れ事業を正式に開始しました。

それと同時にPR TIMESを利用してプレスリリースを行ったところ、「秘境でのワーケーション」という意外性が受けたのか、一時Yahoo!ニュースにも掲載されるなど、多くのサイトに転載されるに至りました。

また、そのプレスリリースを見た京都のFMラジオ局から取材の申し込みがあり、オンラインで番組に出演するという機会を得ることができました。

そのおかげもあって、徐々に利用者の予約が入り始めました。

これまで島での産業と言えば、農業・畜産業・水産業などの第一次産業が中心でしたが、ワーケーションを入り口にトカラ列島に足を運んでもらい、島でのテレワークの可能性を体験し、村への「新たな移住のかたち」を創り出すことが、テレワーク・ワーケーション推進事業のいちばんの目標です。


トカラへの思いの原点。トカラ列島島めぐりマラソン大会

話はさかのぼりますが、私がトカラ列島のことを知ったのは2003年頃でした。

桜島よりも活発に噴火活動をしている火山が「諏訪之瀬島(すわのせじま)」という島にあるということを知り、どこにあるんだろうと興味を持ったことがきっかけでした。

役場のホームページには「友好島民の会」というファンクラブ的な会員制度があり、そこに加入したところ、島の美しい景色の写真をふんだんに使ったカレンダーが毎年届くようになり、そのカレンダーを見ては、いつか行ってみたいという思いが膨らんでいきました。

そして、そのトカラ列島で「トカラ列島島めぐりマラソン大会」というイベントが開催されていることを知りました。

週に2便しかフェリーが運航されていないトカラ列島では、全ての島をめぐるには数週間かけて船で移動し続けないといけないのですが、この大会に出場すれば一日で全ての島をめぐることができるので、いつか参加しようと思っていました。


気が付けば30代も半ばを過ぎ、体力的にもそろそろ…と初めてエントリーを決意したのが2013年のことでした。

ところが出発の2日前になって、役場から「台風接近のため中止」との連絡がありました。

その時点ですでに航空券も宿泊先も休暇の手配も済ませていたので、目的を鹿児島旅行に切り替えて当初の予定通り出発しました。

十島村役場の隣には「トカラ結プラザ」というトカラ列島の特産品を扱っている売店があるのですが、そこで同じくマラソン大会にエントリーしていた人たちと出会い意気投合。

翌日からは行動を共にし、開聞岳登山と指宿の砂蒸し温泉へ、そのまた翌日には霧島山の高千穂峰に登り、「来年のトカラマラソンでまた会いましょう!」という約束をして別れたのでした。


(2018年に参加したマラソン大会での一枚。真ん中が私です。この格好でパフォーマンス賞をいただきました。)


そして翌年、再会を果たしたその時のメンバーとチームを組んで参加したのが初めてのトカラマラソン出場、私にとって初めてのトカラ列島になりました。

チームで出場した場合、タイムを取るゼッケンを着けるのは一人ですが、それ以外の人も走って良いというのがこの大会の良さです。

私もすべての島を走りきり、ゴールの宝島の港での歓迎会でトカラ列島のグルメを味わい、全国から訪れたランナーたちと交流できたことは一生の思い出になっています。

この時に体感したトカラ列島の美しい海と大自然、これを多くの人にも味わってもらいたいというのが、私のその後の行動の原点となっているような気がします。


島での生活を充実させ、もっと多くの人に手つかずの自然の中でのワーケーションの良さを知ってほしい

口之島の「あっぽう家」と、悪石島の「コミューン」では食事の提供ができません。

また島内にはコンビニはもちろん飲食店もないため、食事は自炊が原則となっています。

口之島も悪石島も売店がありますので、事前に注文しておくことで食材を確保することはできますが、島のグルメを味わって頂けないことは非常に残念です。

民宿で食事だけでも提供してもらえるようにしたいのですが、民宿も高齢化が進んでいて、宿泊者の食事を用意するだけで手一杯という実情もあります。

せめて新鮮な島の新鮮な魚の刺身や、特産品を食べられるように売店と連携していきたいと思っています。


(口之島にある平瀬海水浴場。キャンプ場もあります。)


また、ワーケーションで滞在しているかた向けに島暮らしの体験プログラムを用意したいと思っています。

釣り道具を貸し出したりするだけではなく、釣りのコツや魚のさばき方を教えてくれる釣りのガイドや、島でたくさん飼育されている牛の世話や、子牛にミルクをあげたりする体験を、訪れた人たちにもしてもらいたいと思っています。

春には特産品の大名タケノコがたくさん採れるので、タケノコ掘りとバーベキューなど、島でしかできない体験プログラムを用意できればいいなと思います。


また、現在は個人単位での利用が中心となっていますが、企業にも利用してもらいたいと考えています。

自由に島から出ることができない隔絶された環境下で、食事なども自分たちで作らないといけないので、新人研修やチームビルディング、開発合宿の場としても活用してもらえたらと思っています。

そして来年度はワーケーションのモニターツアーの開催も検討しています。

まだまだ利用者は少ない状況ですが、トカラ列島の手つかずの大自然の中でワーケーションができるということを、もっと多くの人に知ってもらいたいと思っています。


(トカラ列島へは鹿児島または奄美大島からフェリーとしま2でお越しください。お待ちしています!)




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