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80代の著者さんもおられます。

<地方銀行×自治体×ベンチャー企業によるデジタル地域通貨プロジェクト>Part1 ~たった6ヶ月でのサービス開始へと導いた「プロジェクトリーダー」と「入社4年目の若手」が乗り越えた数々の壁とは~

著者: 株式会社北國フィナンシャルホールディングス


石川県珠洲市で開始した、デジタル地域通貨サービス。本サービスの活用により、自治体が発行するポイントの電子化が実現し多くの人々に利用されている。


今後、銀行が発行するステーブルコイン『トチカ』のリリースを控え、さらなる地域のキャッシュレス化を進めていく予定だ。


2023年1月に本プロジェクトは始動。現在では、珠洲市・Digital Platformer 株式会社(以下、DP社)、自治体からの出向者、そして北國銀行の社員、総勢75名ものメンバーがプロジェクトの一翼を担っている。


本記事では、あらゆる困難に直面しながら、2023年10月のサービス開始に至るまでのプロジェクトの軌跡を追った。

「今さら地域通貨?と思いました」

こう語るのは、北國銀行デジタル部デジタルグループ長の今津雄一郎だ。プロジェクトの本格始動前からデジタル部に所属し、現在はプロジェクトの運営リーダーを担う。



北國銀行では、地域のキャッシュレス化を大きな戦略に位置づけ、数年前から積極的に取り組んできた。さらなるキャッシュレス決済比率の向上を目指すにあたり、社内での「地域通貨」構想は以前から認識していたという。


「もちろん、キャッシュレス比率100%に向けた新たな取組みの必要性は感じていました。ですが、今さら地域通貨?世の中にあふれるサービスとの違いは?と、湧き上がるのは疑問ばかりでした。」


プロジェクト立ち上げ当時を振り返る今津が語ったのは、意外にも悲観的な心境だった。

デジタル部着任前は、いわゆる『銀行員』として営業活動を行っていた今津。

特に本プロジェクト始動時においては、会社としての明確なサービス設計や方針が無く、自身のステーブルコインに関する知識もない“ゼロからのスタート”だった。

増えていく“仲間”とともに使命が明確に

「プロジェクト立ち上げ当時のことは、思い出すだけでも辛い(笑)」


こう話す今津だが、程なくして“地域通貨サービスをスタートさせる”というミッションを受入れ、前向きに動き始める。


「依然として何から手を付ければいいのか分からないという状態ではありましたが、まずは社内でのプロジェクト浸透と協力を仰いでいこう、色んな人を巻き込んでいこうと決意しました。先の見えない怖さはありましたが、その恐怖に打ち勝つ覚悟を決めた時、プロジェクトの面白さを感じられるようになりました。」


ここで鍵となったのは、今津と“二人三脚” でプロジェクトの立ち上げから進めてきた番井の存在だ。


「社内でカード加盟店事業の立ち上げに携わった人物に当時のプロセスを聞いた時、気が遠くなるほどの社内連携が重要だと実感しました。自ら手を挙げ、プロジェクトへの参加を名乗り出た番井さんには、とにかく関係する社員を巻き込む力を求めました。」


しかしながら番井は、2020年入社の“若手”。プロジェクト開始当初は、自分より年次が上の社員、役職を持つ社員への説明や協力の依頼をためらっている様子だったという。


「大変だよなという思いも、もちろんありました。ですが、少ない人数でこのプロジェクトを推し進めていく以上、とにかく色んな部署に突っ込む勇気を持てと話してきました。だんだんと覚悟が決まったように見え、“変わったな”と感じましたね。」



番井の変化と同じくして、社内からもプロジェクトへの理解と積極的な協力を得られるようになった。デジタル部単独のプロジェクトではなく、会社全体のプロジェクトとして認識され始めたのだ。


「カード部(加盟店・ユーザー対応)、ダイレクトセンター(ユーザー・加盟店の問い合わせ対応)、オペレーション部(事務フロー制定、申込・トチポ精算手続き)、経営管理部(リスク管理、AML対応、法対応)、システム部(開発、セキュリティ)、公務部(自治体への協力依頼)、総合企画部(当局対応、会計)など、本当にたくさんの方がプロジェクトメンバーとして動いてくれるようになり、議論が活発化したことで、すべきことが明確になりましたね。」


今津は笑顔で語る。

自治体の協力を得られなければ始まらない

「議論を進める中で、他のサービスとの差異化を図るためには、既に構想に上がっていたプロジェクトへの自治体の参画は不可欠だということを、再認識していました。自治体への協力依頼や交渉にあたっても、社内の関係部署と協働できたのは心強かったです。」


サービスをスタートさせる対象地域の選定では、マイナンバーカードの保有率が80%を超える珠洲市を候補とした。

これまでないサービスや構想を提案することになるため、珠洲市に提案を理解、そして共感いただくまでには、大きなハードルがあるように感じるが、そうではなかったと今津は振り返る。


「珠洲市は、とにかく地域の課題と切実に向き合い、考えている地域だと感じました。人口減少や高齢化が著しく進む中で、いかに行政の生産性を向上し、住民に利便性が高く最適なサービスを継続的に提供するにはどうすべきか?ということへの意識が非常に高かったです。そして、その実現のためには変化を厭わず、様々な取組みに積極的な姿勢も印象的でした。今回のプロジェクトを活用すれば、珠洲市の課題解決の一助となるかもしれないと考える反面、我々は“行政の常識”を知らない状態でした。どのようにして話し合いを進めていくべきなのか迷った時、自治体から当社に出向している宮本さん、富樫さんの存在は大きな助けになりました。」


今津が話す宮本(石川県職員)・富樫(金沢市職員)は、2023年3月に人事交流の一環で、当社デジタル部に所属した自治体からの出向者の二人。

行政の目線を持つ“仲間”がプロジェクトに参画し、まさに即戦力としてプロジェクトの推進を支えた。

組織を越えた化学反応が、数々の壁を乗り越える大きな力に

“進むべき道”が見えないスタート時期を経て、社内の理解とプロジェクトメンバーの意識変革を土台に、社外からの“さまざまな協力”がプロジェクトの進行を一気に加速させた。


プロジェクトの発足から約半年後の10月、デジタル地域通貨サービスを活用したポイント発行サービス『トチポ』は、リリースへとたどり着いた。

プロジェクトメンバー個々人のスキルだけではなく、組織を越えた連携による化学反応が、この新たなサービスを生み出したのではないだろうか。

当社のあらゆるプロジェクトの中でも、異例ともいえる速さでのリリースに至った要因は何か。



「とにかく人の協力、これに尽きます。元来、当社の経営陣が語る“Communication、Collaboration、Innovation”の凄さを、身をもって体感しました。プロジェクトのメンバー全員が専門知識を持つプロではなくても、とにかく対話とアウトプットを繰り返す中で、短期間に濃密なサービス構築ができたのだと思います。所属する組織が異なっても、“地域のために”にという想いは、全てのメンバーに共通していましたね。」


そう語る今津の言葉は力強く、今後リリースを控えるステーブルコイン『トチカ』への期待も込められているように感じた。


社内でのプロジェクト浸透とDP社とのコミュニケーションの中心的役割を担った番井にも当時を振り返ってもらう。

社内通達を見てすぐに決意した“ベンチャー企業”への出向


現在、北國銀行デジタル部デジタルグループに所属しながら、DP社への出向も兼務している番井宇宙。当社には2020年、新卒採用で入社した。今津と同様、デジタル部への配属前は、営業店で勤務してきた。


「2022年11月、DP社への出向者を募る社内通達が出ました。見た途端、すぐに当時所属していた営業店の支店長や管理職に、手を挙げたいと相談しました。東京のベンチャー企業で働けるなんてなかなかない経験ですし、迷いはありませんでした。」



デジタルやITの分野に興味があり、いつかは社内の関係部署に挑戦したいと、『基本情報技術者試験』に合格するなど準備を重ねていた。

番井の努力を知る上司は、出向への挑戦に「番井ならいける。」と背中を押してくれたという。


出向者として正式に採用された番井。2023年1月からは、当社デジタル部に週1日、そしてDP社には週4日で出勤した。

ルールや縛りの無い社風に感じたカルチャーショック

現在所属社員は17名のDP社だが、出向当初は10名しか在籍していなかった。役員5名、管理部1名、ビジネス部2名、システム部2名という構成。銀行とは全く異なる社内体制に、最初は驚いたという。


「経営層ともかなり距離が近く、直接会話する場面もしばしばありました。何より、社内ルールや出社時間などの縛りが無く、働き方もかなり自由。とにかく考え方が柔軟でとても勉強になりましたね。ルールがない分進め方に迷う場面もありましたが、働き方についてはいい意味で大きなカルチャーショックだったと思います。」


ベンチャー企業ならではの新鮮さを感じる一方で、銀行とDP社の架け橋という役割に難しさも感じていた。


「銀行がDP社に求める動きを把握しながらも、DP社に出向する身としてその難しさを実感することばかりでした。両者の主張が理解できる立場だからこそ、2社の間に入ることが辛かったですね(笑)ただ、単なる“伝書鳩”になってしまっては、自分の存在意義が無いと感じていました。少しずつ前進するようにということを徹底的に意識して、それぞれの会議では自分の役割を全うしようと考えるようになりました。」

足りない知識と“担当者”としてのプレッシャー

コミュニケーション面の努力を重ねる番井だったが、日々自身の知識不足を実感していく。DP社はまさに『デジタルの専門会社』であり、所属する社員が持つ知識のレベルの高さは、番井と比較してかなりの“差”があった。


「エンジニアの方が話すワード一つ一つが理解できず、営業を担当するDP社内の上司に聞いては学ぶ、その繰り返しでした。社内にある専門書を勧めてもらい、独学でも勉強していましたが、知識不足を痛感する毎日でした。銀行では、自治体への説明を担当していたので、サービスの全てを把握している“担当者”として見られます。技術面に関する質問に答えられるようにならなければ、という焦りがありましたね。」


銀行ではタスクごとにチームを取りまとめ、DP社ではエンジニアとの調整や銀行の考え方を伝える役割を担った番井。2社での異なる役割に戸惑いながらも、あらゆるプレッシャーの中で、数々の学びを得ていった。

“正解の見えない不安”から“明確な課題に立ち向かう不安”へ

プロジェクト立ち上げ当初、今津同様に「何から手を付ければいいのか分からず、漠然と不安な日々だった。」と語る番井。社内での度重なる会議や、DP社での開発の進捗に伴い、目の前の“明確な壁”が見えるようになった。



「すべきことが明確化していくことで、次はそこに立ち向かう不安が大きくなりました。本当に実現できるのだろうか?どうすれば課題がクリアになるのか?そんな自問自答を繰り返していましたが、ある時“とにかくやらないと進まない”と吹っ切れたようにと思います。」

と、笑顔で振り返る番井。


「とにかく突っ込む勇気を持て」という今津の言葉は、どのように感じていたのだろうか。


「立ち上げ当初、社内でのプロジェクトへの認知はかなり低かったですし、人を巻き込む必要性は強く感じていました。その一方で、“経験”で言えば3年目の単なる一般社員の自分が、年次や役職を問わず、面識のない人にも協力を依頼することを難しく考えていました。最初はためらう気持ちが強く、自信の無さが露呈していたと思います。今津さんの言葉を頭では理解していても、なかなか行動に移せず、その時のもどかしさは鮮明に覚えています。」


プロジェクトメンバーの今津はグループ長という管理職の立場。自分と同じように経験や知識も少ない“仲間”が居らず、求められる立振る舞いにかなり悩んだという。

強い主体性と自覚を求められることへの憂鬱

そんな番井を近くで見ていたプロジェクトメンバーも、番井が立ち向かう“壁”の数々が容易なものではないことを認識していた。


今津は、「社内の若手で、上半期随一の壁に立ち向かっていたのでは。」と言う。


要件定義、社内関係部署とのミーティング、リスク整理、各種説明資料作成、珠洲市との連携・・・あらゆる“タスク”が次々と降りかかってきた。


「増えていくタスクの全てが緊急度の高いもの。常に時間に追われ、それをゆっくりと振り返る時間もなかったですね。作業を終えても、本当にあれで正解だったのか?と不安に襲われる日々でした。」


番井が若手であっても、社内、そして社外の関係者から見れば専任の担当者。プロジェクトに対する知識はもちろん、ファシリテーション能力や課題の発見と整理に取り組む“主体性”を高いレベルで求められる。



「少し自分の成長を感じたかと思えば、また新たな課題が降りかかる。その繰り返しで、もう無理かもしれないと思いました。働く環境には恵まれていたと思いますが、とにかく自分にできるのか?その重圧が大きく、出社したくないと感じることもありましたね(笑)」


自ら手を挙げて希望した配属だったが、「ここまでとは」というのが本音だった。


「自分には無理だ」「ハードルが高い」というのが顔に出ていたと、当時の番井を振り返りったプロジェクトメンバーは語る。

自分の“意思”を明示すること

2023年夏頃を振り返り、当時の記憶が思い出せない程『どん底』を味わった番井だが、徐々に“人を動かすための振る舞い”を身に着けていく。


「社内やDP社での議論を重ねるうちに、自信がなかった“知識”が深まったことが大きいと思います。それによって、“自分は一般社員だから”と言い訳することがなくなりました。また、デジタル部単独のプロジェクトではなく、会社全体のプロジェクトなんだということを、関係部署に正しく説明できるようになり、然るべき人・部署に仕事をお願いすることへの抵抗がなくなっていきました。」


プロジェクト開始当初から勤勉でインプットが得意だったと評価される番井。多くの壁に直面しながらも、現状の自分に足りないものを見つめ、そして学ぶことを続けた。


いつしか自分の意志を表示し、はっきりと相手に伝えられるようになったという。

元々人前に立つことへの苦手意識があったという番井だが、自身の変化を語る表情は明るく、『担当者』としての自信があふれているようにも見える。


『トチポ』リリースを終え、2024年春の『トチカ』発表を控える今、このプロジェクトの魅力を正しく理解し、地域に浸透した際の明確なイメージが持てるようになったという番井。サービスを使うユーザーの利便性が高まり、生活が豊かになってこそ、プロジェクトは成功だと断言する。




Part2では、自治体から出向し本プロジェクトに携わった宮本(石川県職員)・富樫(金沢市職員)の想いに迫る。




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