公演回数300回超、1万人以上が参加した「落語で学ぶ相続セミナー」の誕生秘話。笑いながら相続の知識を身に付けられる社会を目指して
私たち石倉公認会計士事務所は、ご高齢の方や目の不自由な方でも「明るく・楽しく・笑いながら相続の知識を身に付けられる社会」を目指して活動している相続専門の会計事務所です。
相続には、できれば避けて通りたい、難しくて煩雑なイメージがつきまとっています。その結果、必要な生前対策が行われず、何の知識もないまま相続を迎え、遺産争いや相続税の支払いなどで疲弊する方たちを大勢見てきました。
私たちは、タブー視されがちな「相続問題」に、笑いを通じて人々に知恵を提供する「落語」というコンテンツを掛け合わせることで、ご高齢の方や目の不自由な方でも、楽しく相続の知識を身に付けられる「落語で学ぶ相続セミナー」を日本全国で展開しています。
横浜市の地域包括支援センターにて
この活動が、テレビや新聞、ラジオで取り上げられたこともあって、公演回数は10年間で300回を超え、今では日本全国の自治体や企業から公演依頼を頂くまでに成長しました。
このストーリーでは、「落語で学ぶ相続セミナー」が生まれるまでの山あり谷ありの道のりを、公認会計士・税理士兼社会人落語家「参遊亭英遊」の石倉英樹が振り返ります。
増え続ける相続トラブルを何とかしたい
公認会計士/税理士 所長 石倉英樹
社会問題化している「相続トラブル」と「空き家問題」
相続専門の公認会計士/税理士として日々仕事をしていると、相続トラブルが年々増えていることを感じます。
相続は、お金の問題と親族間の人間関係が複雑に絡み合うため「誰に相談したらいいのかわからない」という方が非常に多く、何の生前対策もしないまま亡くなってしまうケースが少なくありません。その結果、遺産争いに発展し、実家が「空き家」になってしまうなどの社会問題も生じています。
総務省の「平成30年住宅・土地統計調査」によると、2018年時点で全国の空き家の数は848万9,000戸と過去最高になっており、2013年と比べると29万3,000戸も増加しています。
親が自分から相続対策を始める方法は?ヒントは中高年に大人気の毒舌漫談家にあった
相続はいつか必ず起こる問題です。しかし、子供から親に相続の話は切り出しづらく、一方で親も子供に心配をかけまいと相談しないまま手遅れになってしまうケースを沢山見てきました。
日々、相続のご相談をお受けしながら「親御さんが自ら進んで相続対策を始める方法はないだろうか?」と考えていると、何気なく見ていたテレビに信じられない映像が流れていました。
大きな劇場ホールに満席の観客。たった一人ステージに立つその男性は、お客さんに毒舌を吐きながら、言いたい放題。それを聴いている観客は、あまりの毒舌に怒りをあらわにするかと思いきや、皆さんお腹を抱え涙を流しながら大笑いして喜んでいる。
この光景を観たときに「これだ!」と確信しました。そのステージに立っていたのは、中高年に絶大なる人気を誇る漫談家の綾小路きみまろさん。
他人から言われたくないことをズバズバ言い放ち、独特のリズムと表現力で会場を爆笑の渦に包む。その姿を見て、この雰囲気の中でお客様に話をすれば、ご高齢の方々もきっと皆さん喜んで相続の話を聞いてくれるに違いない。そう思った私は、本業である税理士の仕事を脇に置いて、話芸を習得するために落語のスキルを身に付けることを決意しました。
芸の世界は甘くなかった。落語教室の先輩のアドバイスを受け、朝から晩まで何度も落語を聴いて、耳で覚えた半年間
話芸を学ぶべくたどり着いたのが、プロの噺家さんが開いている落語教室。公認会計士として暗記力には自信があったので、「すぐに落語を覚え、話芸のコツを簡単に掴めるだろう」と最初はタカをくくっていました。
しかし、落語教室の入門者が覚える古典落語の演目時間は約10分。台本を渡されるのですが、あまりの長さに半分も覚えられない。いきなり出鼻をくじかれました。
すると、落語教室の先輩が私にこんなアドバイスをくれます。「落語は文字で覚えようとしちゃダメだよ。そうではなくてリズムで覚えるんだ。まるで歌を覚えるようにね。」
そのアドバイスを聞いた私は師匠の落語を録音し、朝から晩までずっと落語を聴きまくりました。歩いているときや、電車に乗っているとき、何度も何度も耳で覚え、覚えたセリフをひたすら呪文のように口ずさむ。当時は、お風呂の中でブツブツ、トイレの中でもブツブツ、歩きながらもブツブツ口ずさんでいたので、相当怪しい人に見えたに違いありません。税理士としての仕事そっちのけで、そんな怪しい生活が半年ほど続きました。
すると、気がついたらいつの間にか、私の中に落語のリズムが身に付いていたのです。
ついに高座デビュー。初めてのスポットライトに…
人生初の高座
半年かけてなんとか古典落語を覚え切った私は、師匠からみんなの前で落語を披露することを許されます。セリフを完璧に覚え、歌をうたうように落語のリズムを身につけていたため、正直に言うとかなり自信がありました。教室の先輩方に着物を着せてもらい、意気揚々と鼻息荒くいざ高座へ!
しかし、結果は散々でした…
高さ1mほどの高座は、いざ上がってみると驚くほどの高さを感じます。しかも、演者を照らすスポットライトは想像以上に強烈でした。強い光を浴びている私を、師匠や先輩方が下から見上げている。
「この状況で、暗記した落語を10分も喋れるのだろうか…」そう思った瞬間、アタマが一瞬真っ白になり、覚え切ったはずのセリフは途中で何度も止まり、心臓の鼓動は早くなり、汗が止まらない。散々な高座デビューでした。
「落語100回ノック」を決意。緊張せずにしゃべり続ける胆力を身につけるため、2年かけて100回高座に上がり続けた日々
完全に自信を失っていた私に、ある先輩がこんなアドバイスをくれました。「落語ができるようになるには、セリフを覚えただけではダメだよ。失敗しても何度も何度も高座に上がり、場数を踏む必要があるんだ。」
それを聞いた私は、まずは高座に100回上がることを決意しました。まさに落語100本ノックです。市区町村が募集しているボランティア活動に手当たり次第に応募し、様々な町内会のイベントや老人ホームでの催し物など、ところ構わず伺って、税理士としての仕事そっちのけでとにかくがむしゃらに高座に上がり続けました。
さいたま市の介護施設にて
しかし、聞いてくださる方はご高齢の方が多いため、落語が始まって1分程で寝てしまう方もいらっしゃる。さらに素人の落語なので、始めたばかりの頃は笑いを誘うことも少なく、さすがに途中で心が折れそうになりました。
それでも「明るく・楽しく・笑いながら相続の知識を身に付けられる社会を作る」という理想をかなえるため、2年間かけて何とか100回高座に上がり続けました。すると、どんな状況でも緊張せずにしゃべり続ける胆力が備わっていったのです。
久喜市の公民館にて
最大の難関。相続をテーマにした落語作りは困難を極め、暗礁に乗り上げる
落語100本ノックで高座に上がる度胸がついたため、あとは相続を題材にした落語を作るのみ。しかし、今から考えるとココが「最大の難関」でした。
創作落語を作るとき相続の話を入れすぎると、どうしても説明口調になって面白みがなくなります。しかし、笑いを入れすぎてしまうと、逆に相続についての学びがなく、単なるふざけた話になってしまう。なんとも両者のバランスを取るのが難しく、大きな壁にぶつかります。
そこで、自分で創作落語を作ることを諦め、脚本作りのプロにシナリオ作りを依頼してみますが、満足するネタは上がって来ませんでした。いよいよもって「落語で相続プロジェクト」は暗礁に乗り上げます。
「まくら」を連続してつなぎ合わせてブレイクスルーに。お客様と二人三脚でオリジナルのシナリオ作りに成功
八方塞がりになった私たちを救ってくれたのは、またしても綾小路きみまろさんでした。通常、落語はあらかじめ台本が決まった演目を、最初から最後まで話し続けます。お客さんが笑おうが笑うまいが、いったん話が始まったら15分ないし20分の演目を最後まで演じ切ります。
しかし、それではその日のお客さんの雰囲気や年齢層などに柔軟に対応できず、プロの噺家ではない私が、ただ一方的に話すつまらない内容になってしまいます。それに対し、綾小路きみまろさんの漫談は、巧みな話芸で小噺をいくつもいくつも連続させて、ひとつのストーリーに仕上げています。この小噺スタイルがブレイクスルーのヒントになりました。
落語の世界には、本編の落語に入る前に「まくら」という小噺があります。まくらは、お客さんが本編に入りやすいように場の雰囲気をほぐす役割があり、いわゆる「アイスブレイク」として用いられているのです。この「マクラ」の小噺を連続して繋ぎ合わせることによって、相続をテーマにしたオリジナルのシナリオを作ることに成功しました。
ただし、頭で考えて作ったネタは、うそっぽくて面白くないので、本当にあった相続の出来事をベースにしながら、それを少しずつ膨らませて小噺を作っていきます。相続の相談に来たお客様から「このネタを使っていいよ」とか、「うちのじいちゃんが亡くなった時に、こんな話があったよ」と教えてもらうこともありました。落語のネタはお客様との二人三脚で出来上がっています。
「落語で学ぶ相続」の様子
反響の「落語で学ぶ相続セミナー」。口コミで全国にうわさが広まり、現在は公演回数300回を超える
完成した「落語で学ぶ相続」のウワサは少しずつ広がり、落語を通じて笑いながら相続の知恵を身につけて頂く活動が広がり始めました。
プロジェクトのスタートから10年経った今では、北は東北仙台から南は九州福岡まで、日本各地の自治体や企業からセミナー講師としてお声がかかり、公演回数は300回を超え、延べ1万人以上の方にご来場頂く活動に成長しています。
更なるミッションとして、高齢者や耳の不自由な方に向けた「耳から学べる相続プロジェクト」を展開中
高齢化が進む日本では、多くの方にとって相続は「他人事」ではなく「自分事」になっていきます。しかし、相続は専門用語が多く、特にご高齢の方には理解が難しいのも現実です。
そこで私たちは、日本全国の自治体や企業と積極的に提携しながら、楽しく相続の知識を身に付けられる「落語で学ぶ相続セミナー」を日本全国で展開して参ります。
さらに今後は、相続に関する本や雑誌を読むのが難しいご高齢の方や目の不自由な方々に向けて「耳から学べる相続プロジェクト」を社会活動の一環として取り組んで参ります。
プロフィール
所長 石倉 英樹 / 参遊亭英遊
相続専門の公認会計士・税理士 兼 社会人落語家
有限責任監査法人トーマツにて上場企業の監査業務に従事した後、コンサルティング会社においてベンチャー企業の上場支援を担当。2013年に独立し、現在は相続専門の石倉公認会計士事務所を運営する傍ら、警察署・金融機関・大手不動産会社からの依頼に基づき社会人落語家「参遊亭英遊」として「落語でわかる相続セミナー」などの講演活動を日本全国で行っている。テレビ・新聞・ラジオに出演し「落語税理士の終活チャンネル(YouTube)」も話題に。
著書
『知識ゼロでもわかるように 相続についてざっくり教えてください。』(総合法令出版)
『税金のことが全然わかっていないド素人ですが、相続税って結局どうすればいいのか教えてください!』(すばる舎)
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