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「活字離れの時代」を覆した大ヒット児童書は、こうして創られた。学研プラス クリエイター・インサイド第3回

著者: 株式会社 学研ホールディングス

学研プラス(Gakken)が生み出す、数々の個性的で魅力的な商品・サービス。その背景にあるのはクリエイターたちの情熱だ。学研プラス公式ブログでは、ヒットメーカーたちのモノづくりに挑む姿を、「クリエイター・インサイド」として紹介しています。第3回は、シリーズ累計300万部に達し、児童書の新しい潮流となった人気シリーズ「5分後に意外な結末」の生みの親、編集者 目黒哲也です。

活字離れの時代を覆した大ヒットシリーズ

「最近の子どもは本を読まなくなった」と言われるようになって久しい。

 しかし、そんな時代に逆行するかのように、小学生、中学生を中心に爆発的なヒットを続けている児童書がある。「5分後に意外な結末」シリーズだ。

 書店で買われるだけではなく、学校図書館本として多くの子どもたちの手に取られ、今やその人気は一般成人層にまで拡大。2013年に1冊目が刊行されてからのシリーズ累計販売数が300万部に達す大ヒットシリーズとなっている。

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 時代の風潮、社会の常識を覆す型破りな“モンスター・コンテンツ”を生み出した編集者は、目黒哲也。年間に、「よくわからないほど」の冊数(本人談)の書籍を手がける、学研随一のヒットメーカーである。

 型にはまった固定概念の壁を飛び越えることを楽しみ、予測不可能な未来を「無限の可能性」として愛してやまない、考える楽しみを追求する編集者だ。 数々のヒット作を生み出し続けるその原動力を探った。

ジャンルと常識の壁を飛び越えろ

 目黒が現在所属している学研プラスの「コンテンツ戦略室」は、2017年に新設されたばかりの部署。児童書を作る部門の中にある。


「児童書を作る部門内にはありますが、児童書じゃなくても企画を通せる、というのがこの部署の面白いところです。『児童書じゃない、ジャンルが違う』という理由で企画が却下されることはありません。一方で、制約が少ない分、自分で何かをはじめない限り、何もはじまらないという厳しさもあります。良くも悪くも個人のアイデア、考え方が大切にされる部署といえるかもしれません」


 室のメンバーは目黒を含めて数人。「皆さん個性的で、自分自身の考えや、プリンシプルをもっている魅力的な方々です」と、目黒が言うように、背景も性格もバラバラのアメリカン・コミックヒーローたちが大暴れするハリウッド映画になぞらえ、この室を「チーム・アベンジャーズ」と呼ぶ後輩たちもいる。

 2019年、目黒が刊行した書籍は実に30冊超。この年に出した本のジャンルも、学参、就職対策、社会保障、伝記、図鑑、マンガ、小中学生向け読み物…と、児童書の範疇を遥かに飛び越えて広がっている。得意ジャンルへの専門性は編集者の強みでもあるが、目黒の仕事はそこにとらわれない。

「僕は例えば、科学に詳しい、とか英語が得意、という専門的な得意ジャンルを持っていません。まぁ、『できない』『知らない』ばかり言うのも恥ずかしいので、『専門は「編集」です』とうそぶくようにしています」


 新たなジャンルに挑戦しても、固定概念や先入観がないぶん、常識にとらわれない本の作り方ができる。「こんな本にしたら、楽しいだろうな」という直感を頼りに、アウトプットをさまざまな形に変えられる変幻自在の柔軟さこそが、目黒の武器なのだ。こうして、読者だけではなく、自分自身も「面白いもの」を追い求めて花開いたのが、「5分後に意外な結末」シリーズだった。

面白いに年齢の壁なんてない。大人のハートを掴んだ「児童書」

「5分後に意外な結末」を最初に企画した際、目黒はターゲットを中学生にすえた。当初は学校の図書室に置かれる本にしようと考えたのだ。現在の小学校や中学校では、朝の読書運動、いわゆる「朝読」の時間を設けている。授業が始まる前の10分間を、読書する時間にあて、生徒が読みたい本を読むというものだ。

10分間という短時間の中でも、本を読む楽しみを知ってもらいたい、というのが第一のコンセプトでした。でも、活字嫌いの子どもにとっては10分ですら長く感じるかもしれない。そこで思い切って半分の5分でも夢中になれる物語ができないか、と。そのために必要だったのが“意外な結末”でした。オチ、驚きというカタルシスが、読書に強力な推進力をあたえるかなと思いまして。この2つの要素を合わせて生まれたのが、『5分後に意外な結末』という、そのまんま(笑)のタイトルでした」


「中学校の朝読」に狙いを定めて始まった企画。このシリーズを立ち上げたとき、目黒は「学習参考書」の編集部にいた。いろいろな本を作っていたとはいえ、すべて自己流。だからこそ、既存の児童書とは異なる、常識のレールを外した出来となった。

 それは内容だけでなく、子どもたちの手に取りやすさを計算した本の外装や装丁、採用されたフォントなど、様々なところで感じられる。

児童向けの本だが、あえて子ども向けの作りにはしていないのも特徴だ。


「大人が読んで面白いものは、子どもだって楽しめるはず。だから基本は、大人である“自分”が読んで楽しいかどうか、“自分が子どもだったときに読んだとしたら楽しいか”を基準にして、中身を構成しています。テレビ番組だってマンガだって、大人と子どもが一緒に楽しんでいるコンテンツは多い。本当に面白いものは、世代の壁を飛び越える、と自分に言い聞かせました」


 そんな目黒の感覚が正しかったことを証明するかのように、「5分後に意外な結末」シリーズは講談社文庫からも「ベスト版」が発売され、今や多くの大人に楽しまれている。

「徹底して、読者を裏切り続けることにこだわりたい」

「5分後」シリーズを制作する上で、今でも、目黒が「こういう本、こういうシリーズにしたい」と考えていることがある。それは、「読者の予想をことごとく裏切りたい」ということだ。

感動的な“いい話”で読者が涙するのは、それはもちろん素敵なことなんですが、数多くの作品を収めたアンソロジーの中では、必ずしもそうはならない。読書って読者と作品との対話みたいなものですから、読者に、『あぁ、こういう感じでしょ?』と思われてしまったら、読書がどんどん退屈なものになってしまう。最後のギリギリまで、ハッピーエンド、バッドエンド、どちらに転ぶか分からなかったり、まったく予想もしない仕掛けで飽きさせない、というのが、編集担当として考えていることです」


 意外性は物語の結末だけにとどまらない。シリーズ全体の展開でも、読者をあっといわせる意外性を与え続けている。


「『5分後』ではなく『5秒後』に意外な結末を出したり、そこから逆に振った『5億年後に意外な結末』を作ってみたりしました。これらのシリーズでは、絵をオチに使ったり、漫画のようなコマ割り手法を使ったり、あるいは特定のキャラクターを設定したり。シリーズを続けて読んでくれる読者が楽しめるよう、いろんなチャレンジをしています」

常に変化し続けていたい──マルチな編集者の原点。

『5分後に意外な結末』から始まったシリーズは、『5分後に思わず涙』、『悩み部』、『5分後に恋の結末』、『5秒後に意外な結末』などを擁する、一大シリーズへと成長し、読者に驚きを与え続けている。

その企画制作者である目黒は、どんな環境で育ってきたのだろうか。

小学生から中学生の頃は、なんでも『中の上』くらいの普通の子どもでしたよ。サッカーもそこそこ上手かったんですけど、選抜メンバーなんかに選ばれると、そこにはとんでもなく上手な選手がいて。でも、そういう人たちですら、誰もプロなんかにはなれないという、とんでもない世界だなぁと(笑)。頑張ってテストでいい点を取れば入社できる世界ぐらいが、自分の精一杯かなと感じましたね」


 サッカーは好きで頑張ったが、あっさりとそのサッカーをやめた。代わりに夢中になったもの、それが読書だった。特に中学生の頃に出会った筒井康隆の本に衝撃をうけた。


「SFというよりも、あくまで筒井康隆が好きだったんです。小説が自由だったというか、かくあるべしみたいなレールに乗っていない。そんな作風が好きでしたね」


 さらに筒井康隆に惹かれた理由は、「既成概念にしばられず、いろいろな試みをしていたから」だという。


「例えば夏目漱石もそうだし、音楽だとビートルズもそうですよね。両者とも10年間くらいの活動期間でどんどん変化する。一ヶ所にとどまっていない人たち、成功してもそれをすぐに手放して新しいチャレンジをする人たち、変化し続ける人たちは、すごく尊敬できるし、とても惹かれます」


 そして大学生のころ、「編集者になって、こういう本を作れたら嬉しいだろうな」と思う本に出会った。その本は、スコットランドのサイエンスライター、ドゥーガル・ディクソンの『新恐竜』と『アフターマン』だ。開いたページの中では、「恐竜が絶滅せずに進化し続けた世界」「人類滅亡後に地球を支配する動物たちの世界」が、まるで実在するかのように詳細に語られていた。

 固定概念や常識からはるかに逸脱し、どこまでも自由に増殖してゆくイマジネーション。こんなおもしろい本を作りたい。そして、こんなおもしろい本を子どもたちにも届けたい。漠然とではあるが、目黒が編集者への道を志した瞬間だった。


 その夢は20数年後、現実のものとなる。目黒本人でも予想できなかった「意外な結末」だった。

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空気を読むのは大事だけど、それは「何もしない、何も言わない」とは違う

 目黒が学研に入り、配属されたのは、高校生向けの学参を作る部署。「勉強、得意じゃないけどいいのかなぁ」と思いつつも、25年間、同部署で学参の編集者としてのキャリアを積んだ。高校学参編集部は、よい意味でゆるく、「何でもやってみればいい。ただ、何のアドバイスもできないけど」という雰囲気だったという。目黒は「企画を出すって前向きな行動なんだから、怒られる筋合いもない」と思って、いろいろな企画を出し続けた。

鈍感だから、自分では気づかなかったけど、あとから聞いてみると、怒られていたみたいですね。失笑とか冷笑も多かったです。当時は、学参しか作ったことのない編集者が、他のジャンルの企画なんて出してきて……っていう空気もあり、企画を通すのが大変でしたね」



 そんな中でも続ければ芽が出る。あきらめずに企画を出し続け、企画が通りはじめた。そして出版すれば結果も伴うものも出てきた。

 いまでは、読み物である「5分後に意外な結末」シリーズを手がけているかと思えば、恐竜や昆虫、妖怪などを想像の世界でバトルさせる『最強王図鑑』を生み出し、人気シリーズ(累計85万部)へと育った。かと思えば、大人向けの「マナーとコツ」シリーズでは、堅くなりがちなマナー本を、柔らかいタッチの絵本形式で紹介し、これまたロングセラーに(累計160万部)。さらに『ざんねんな偉人伝』では、日本や世界の偉人たちを、恥ずかしい失敗談を交えつつ、より身近に感じられるように構成。それも15万部を超えるヒットとなった。

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 こうして目黒はジャンルの枠を超え、変幻自在の企画力で、児童書の新世界を開拓している。

 2019年には、目黒が編集者になりたいと思うきっかけとなった『新恐竜』『アフターマン』を児童向けに復刻し出版。書籍も増刷を重ねている。


「大人である自分が楽しいと思うコンテンツを、子どもたちがおもしろいと感じる形に作り変えていくことができれば、作りたい本なんて無限にありますよ。“子どもたちは、かくあるべし”という固定概念にとらわれた本を作るんじゃなく、子どもたちに常に新しい驚きをあたえる本を生み出し続けていきたいですね」


 日々さまざまな企画に向き合う目黒。しかし、組織の中にありながら、一見「常識外」と思えるアイデアを実現させ、成功に導くのは簡単なことではない。

 新たな企画、新たな困難に挑むとき、目黒が大切にしていることがある。その言葉はどこか、ジャンルや常識、流行などの「空気」を読むことに敏感になりすぎて、自分の考えを抑え込みがちな世の中への憂いのようにも聞こえた。


「企画を考えるときは、ブレーキなんて必要ないんです。これまでの経験で身につけてきた先入観や常識、そして自分がこれまで得てきた成功体験を、いかに捨てるか――とても勇気が必要だけれど、それが重要なことなんだと思います。

 今は僕みたいに『どんなジャンルでも作ってみたい』と思う編集者が、なかなかいないような気がします。若い人たちはとても賢いから、世の中の流行や売れ筋、会社から求められているものなど、さまざまな“空気を読む”ことに長けているように思います。 “空気を読む”ことは大切な能力です。でもそれは「何も動かない」「何も発しない」ということと同義ではありません。空気を読んだ上で、自分がどう行動するかが、大事なんじゃないでしょうか。

 思わず『なんだこれ!?』と驚いてしまうような企画、予想もできないとんでもない企画が、この会社から出版されることが楽しみです。」


 書店の児童書コーナーなのに、大人のあなたが読みたくなるような、ちょっと変わった本があったら、ぜひ手に取ってもらいたい。もしかすると、それは目黒哲也という編集者がニコニコしながら企画書を書き、驚きの仕掛けを施した一冊かもしれない。

(取材・文=河原塚 英信 撮影=多田 悟 編集=井野 広、齊藤 剛)

クリエーター・プロフィール

目黒哲也(めぐろ・てつや)

 神奈川県横浜市出身。1992年に学習研究社(現・学研ホールディングス)に入社。入社以来25年間、高校生向けの学習参考書の編集部で編集者として勤務。現在はあらゆるジャンルの児童書を手掛けるコンテンツ戦略室に所属。

担当作品紹介 

「5分後に意外な結末」シリーズ

SF、ホラー、ミステリー。くすっと笑える話、ぞっとする話、感動する話など、ページにして数ページ、5分程度の時間で読めるショートショートを30話前後集めたアンソロジー。最後に「あっと驚くドンデン返し」が待っており、短くても印象に残るストーリが多い。朝読にも最適な一冊。

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『何かが奇妙な物語 墓標の町』『何かが奇妙な物語 緩やかな別れ』

『富江』シリーズや『うずまき』で知られるホラーマンガ界の記載・伊藤潤二氏の傑作マンガを小説化。マンガと小説が悪夢的な融合を果たした、史上「最強・最凶・最驚・最恐」の児童書です。

今まで“伊藤潤二ワールド”を知らなかった人への、最初の道標としてもお勧めです。

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