コロナ禍の危機を乗り越えた大所帯バンド「オワリズム弁慶」 VR表現の新境地に迫る
「オワリズム弁慶」は、2009年に結成した東京を拠点に活動するバンドである。ギターやドラム、管楽器を含めた楽器隊だけでなくダンサーや舞台美術チームを抱えており、メンバー数はスタッフ含め30人ほどの大所帯となる。大人数から発する音楽とエネルギーはライブハウス界隈で評判となり、過去には台湾ツアーなども行なった。
バンド結成10周年を迎えた2020年、記念ライブと全国リリース音源を発表した直後に新型コロナウイルスの世界的な蔓延が始まった。
▼オワリズム弁慶 ライブ写真
▼オワリズム弁慶 ライブ動画
三蜜防止が銘打たれ、各業界のイベント中止が相次ぐ中、YOUTUBEをはじめとするSNSの台頭や、格闘技や音楽、お笑いライブなど配信コンテンツが急速に発展。オワリズム弁慶も新たな活動を見出す必要に迫られていた。
そんな中で公開された、“阿修羅 feat.DOTAMA”は、彼らがコロナ禍で作成した25分に及ぶVR音楽パフォーマンス作品【全天球映画 オワリズム弁慶 幻夢大演舞 -(un)ExtraVERSE-】の一部抜粋であり、360°の実写とCG空間というVRの持つ両極端な2つの特性を活かしながら、「よりリアルでありながら、幻想的な新しい音楽体験」を目指し作成された。
▼【360°VR】オワリズム弁慶 “阿修羅 feat.DOTAMA”
コロナ禍でバンド存続の危機 見出したVRへの可能性
これまでのオワリズム弁慶はレコーディング作品のリリースも行ってきたが、あくまで活動の中心は常にライブ。そのため、コロナ禍での活動制限はバンドの存在意義を見失う出来事であった。特に大所帯であるが故に、人が集まれない環境はスタジオに集まっての演奏リハーサルすら行う事が出来なかった。当時、誰もが抱えていた漠然とした不安の中、バンド活動もこのまま空中分解してしまうのではないかと何処かで意識していた。
▼コロナ禍前のライブ写真
そんな中、なんとかバンドを再起させたいという思いを持つメンバーたちは、何度もウェブミーティングを行い、改めてバンドの特徴や魅力を自己分析し、「大所帯ならではの迫力のあるパフォーマンス」「空間全体を使った演出」こそオワリズム弁慶が提供できる体験の核であるという結論に達し、そこから「VRで表現する」というアイデアが持ち上がった。VRであれば、ミュージックビデオやライブ配信では伝わらないパフォーマンスの迫力を、リアルとは違ったかたちで表現出来る。大所帯バンドだからこそVRという360°の情報量を埋める事が可能であり、新しい表現が出来るかもしれない。先の見えない不安が蔓延する中、VRという新しい試みにバンドの新しい可能性を見出し、再びメンバーのモチベーションに火を付ける事となった。
新しい表現への高いハードル 多方面からの支援と協力
VR作品を「一つのパフォーマンスである」 と定義し、ライブハウスで上映するという発表方法に至った。360°の音楽ライブであるならば、音響もサラウンドサウンドで味わいたいという思いと、同じくコロナ禍で苦境を強いられていたライブハウスへ回帰したい思いがあった。しかし、現実はそう甘くはなかった。
通常のミュージックビデオの制作に比べて、VRは技術面はもとより予算と時間の面でも大きな負担が強いられる。そのため、クラウドファンディングを立ち上げて制作費を募る事となった。結果として120万円の支援が集まり、サポートしてくれるスポンサー企業も見つかった。さらに、映像制作にはファッションブランドのBOTTEGA VENETAとのコラボレーションでも知られるクリエイティブディレクターの奥山太貴や、サンリオピューロランドのVR企画なども手がけるXRクリエイターの三日坊主らというクリエイターが集まった。
▼クラウドファンディングページ抜粋
クラウドファンディングの支援者や、技術面でサポートを行ったクリエイター達は、必ずしもバンドと旧知の仲であった人々ばかりではない。何の後ろ盾も無い1つのインディーバンドが、社会全体が苦境に立たされ不穏な空気が蔓延する中で、VRという新しいメディアでの作品制作を行うという前向きな挑戦は、人々の共感を得る事となり、沢山の支援と協力を得る事となった。
▼DOTAMA氏の応援コメント
演出プランの構築とVR酔い対策
制作にあたり実写VR映像のよりリアルな映像体験と、メターバス空間の様なCGのVR映像のより非現実的な映像体験という2つの特性リンクさせを"VRでしか絶対に表現出来ないパフォーマンス作品にする"事を掲げた。しかし、VRに造詣の深いメンバーがいる訳でもなく、各セクションのクリエイターの力を借りながら、一つ一つ演出プランを構築していった。
▼初期構想イメージボード
実写パートでは、事前に平面図を用いてメンバーの配置と音の配置を計算しながら演出プランを作成し、リハーサルでも実際にVR撮影を行いながら微調整を繰り返した。CGパートも繰り返し出力データをVRヘッドセットでチェックを行い、見え方についての検証や演出の調整を実施した。音声MIXについても5.1CHの音響スタジオでMIX作業を行い、大所帯ならではの楽器数をサラウンドサウンドで充分に聞かせる為、細い作業が行われた。
▼撮影準備 美術や機材の設営作業もメンバー自身で行った。
そして、VR作品で一番高いハードルは「VR酔い」を防止することであった。
普段からVRに慣れていないと、カメラ移動や過度なカット切り替えはVR酔いを起こす可能性が非常に高い。その為、実写もCGも出来る限り固定カメラにし、極力ワンカットで演出を行う必要があった。VRで25分楽しめる演出を構築する事は、予想以上に困難であった。
▼撮影風景
上映についてもライブハウスを会場に複数のVRヘッドマウントディスプレイの同時再生と、特設した5.1CH音響を流すシステムを新たに構築する必要があった。システム会社、VRエンジニア、音響スタッフと何度も再生シュミレーションの打ち合わせを行い、会場での上映に備えた。
【XR CREATIVE AWARD選出】辿り着いた上映会とその後の反響
完成したのは制作スタートから1年半。企画立案まで含めると2年以上の年月を費やした。
▼完成した本編(一部抜粋)
待望の上映会では、チケット対応や上映アナウンスなど全てのオペレーションをオワリズム弁慶メンバー自身で担当した。
▼上映会での確認
上映会は沢山の観客にご来場頂き、無事3日間の上映を終えた。
観客からは「新しい音楽体験」「価値観がアップデートされた」「オワリズム弁慶の世界に入り込んだ」といった感想から、「コロナ禍での状況下で、新しい試みを実現して作品づくりを行うのは素晴らしい」といった企画そのものについても感想が寄せられた。
▼SNSに投稿された感想コメント(一部抜粋)
▼上映終了後の記念写真
その後、テレビ朝日「新世界 メタバースTV!!」にて紹介され、XR CREATIVE AWARDに選出。とくしま4K+NEXT ~4K・VR徳島映画祭~では特別上映される事となった。
▼とくしま4K+NEXT ~4K・VR徳島映画祭~
コロナ禍でのバンドの存続の為、苦肉の策で企画をスタートさせた作品だが、沢山の支援と協力に支えられ、一定の評価を得る事が出来た。
オワリズム弁慶は現在、関東を中心にライブ活動を再開しており、VR作品も2024年1月31日まで「とくしま4K+NEXT ~4K・VR徳島映画祭~バーチャル会場」にてステレオMIX版が無料公開中となっていおり、ライブだけでなくVR作品も見る事ができる。この機会に是非、「体験」してほしい。
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■オワリズム弁慶
YOUTUBE:https://www.youtube.com/@owa_benkei
X:https://twitter.com/owa_benkei
instagram:https://www.instagram.com/owarhythm_benkei/
音源:https://big-up.style/artists/177838/topics
MAIL:owarhythm@gmail.com
※お問合せはメールアドレスまでお願い致します。
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■VR作品概要
【作品名】
全天球映画 オワリズム弁慶 幻夢大演舞 -(un)ExtraVERSE-
【出演】
オワリズム弁慶
DOTAMA
ぽおるすみす(INNOSENT_in_FORMAL)
【スタッフ】
監督/プロデューサー:小澤ヒデキ(オワリズム弁慶)
アートディレクター:奥山太貴
CGデザイナー:三日坊主
ビデオグラファー:sawanofromhell
振り付け:渡部加奈(オワリズム弁慶)
エンジニア:こたうち
3Dデザイナー:井上駿希
サウンドデザイン:神林大河
PA:Kazuaki Kondo
キュレーター:川勝小遥
照明:杉山エリカ・尾野五月
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