アジアの健康長寿社会・地域内協力の実現に挑む「アジア健康長寿イノベーション賞」—どの国・地域でも共通する価値を導き出すプラットフォームを目指して
アジア健康長寿イノベーション賞について
日本は世界的な高齢社会として知られているが、日本以外のアジア諸国もまた、これまでにない速さで少子高齢化が進んでいる。この現象は、複数の要因によって引き起こされているが、主に医療技術の進歩や出生率の低下が理由として挙げられる。
この流れの中で、日本国際交流センター(JCIE)および東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)は、「アジア健康長寿イノベーション賞」(HAPI : Healthy Aging Prize for Asian Innovation)を立ち上げ、アジアにおける健康長寿の達成、高齢者ケアの向上に資する取り組みを募集・表彰している。
このストーリーでは、賞誕生の背景や、公募から得た気づき、そして高齢化が進むアジア圏において、賞が目指す共通価値の創出について考える。
賞誕生の背景。アジアで急速に進む高齢化の緊急課題
一般的には、65歳以上の高齢者の割合が総人口の7%を超えた社会を「高齢化社会」と分類されるのに対し、高齢化率が14%を超えた社会を「高齢社会」、21%を超えた社会を「超高齢社会」と分類される。1970年に「高齢化社会」に突入した日本は、わずか24年間で「高齢社会」になり、現在は高齢化率が29%を超えた“超” 超高齢社会と評される。ヨーロッパにおいて高齢化の進展が比較的速い英国(46年間)やドイツ(40年間)と比べても、極めて速いスピードで高齢化が進行した。一方、アジアにおいては、韓国(18年間)やベトナム(17年間)など、今後も日本を上回るスピードで高齢化が進展すると見込まれる国々が複数あり、保険制度や介護施設などのインフラの準備が整わないまま、短い期間で高齢化に対応しなければならず、地域全体として喫緊な課題となっている。
<アジア諸国における高齢化の進展:高齢化社会から高齢社会に移行するのに要した年数を表すグラフ>
(出典:https://ahwin.org/data-on-aging/)
このような背景を基に、高齢化が進行するアジアにおける健康長寿社会の実現・地域内協力を強化することを目標に、日本政府は2016年にアジア健康構想(AHWIN: Asia Health and Wellbeing Initiative)を発足し、その一環として創設されたのがアジア健康長寿イノベーション賞である。日本、韓国、中国(香港・マカオ・台湾を含む)およびアセアン10か国の計14か国・地域から高齢者の健康長寿やケアの向上に資するプログラムやサービス、製品、政策の取り組みを募集・表彰する国際賞であり、お互いの知見や経験、ノウハウ等を共有することを目的とする。
多様な解決策の提案。想像を超えるアジアからの反響
<2022年に都内ホテルで行われた第3回授賞式の様子>
同じアジア圏とはいえ、社会及び経済状況等は国によって大きく異なる。ましてや、「介護・ケア」というのは、家族観を含むそれぞれの文化や宗教と強く結びついたものであり、地域で共通する価値を探し出すのは困難だと、厳しい声もあがった。そんな指摘も理解したうえで、アジアの多様な背景を包摂した賞となるよう、アジア各国の高齢化問題の専門家で構成される諮問委員会を立ち上げ、助言を得ながら2020年に第1回公募を迎えた。無名な賞だったこともあり、「初回は30件集まれば御の字」と話す委員もいた中、いざ蓋を開けてみたら国内外から100件を超える応募が集まり、確かなニーズを感じる結果となった。
その後、新型コロナ蔓延の影響で応募数はやや減少したものの、創設以来全3回の公募で、アジア13か国・地域から237件もの応募が集まり、そのうちの9か国に位置する28団体を表彰してきた。
技術革新からコミュニティ創出まで、幅広く取り組みを歓迎
対象となる取り組みについて、賞の名前に「イノベーション」とあるが、先端技術の開発・活用などハードだけでなく、コミュニティの創出や多職種・多分野での連携、既存システムの利活用など発想のイノベーションも含まれる。
大賞は「テクノロジー&イノベーション」「コミュニティ」「自立支援」の3分野に合致した事例が選ばれる。過去の受賞団体は地方自治体、民間企業、学術機関、市民組織とさまざまである。一例を紹介すると、第3回「テクノロジー&イノベーション」での大賞は埼玉県入間市にある民間企業、株式会社オレンジリンクスが選出された。
認知症による行方不明者の増加が社会問題となるなか、身元確認に必要な情報を登録した小型で防水のQRコードシールを爪に貼ることで、地元警察や自治体への連携を可能とし、迅速に保護できるシステムを開発した。世界共通のQRコードを利用した安価なシステムであるため他国への汎用性や、個人情報や位置情報を含まないプライバシー保護への配慮が高く評価された。認知症になっても安心して外出できる社会への実現に向けた更なる運用が期待される。
<身元確認に必要な情報を登録した小型で防水のQRコード爪シール>
(画像提供:株式会社オレンジリンクス)
また、上記3分野に限らず、時代のニーズに応える優秀な事例には、特別賞を授与する場合もある。例えば、2021年には千葉県松戸市、千葉大学や民間企業等で構成される「松戸プロジェクト・コンソーシアム」がコロナ禍の中、高齢者がオンラインで交流できる「通いの場」を導入し、都市型の介護予防モデルづくりとその効果検証に取り組む事例が評価され、新型コロナ対応特別賞が授与された。
また、2022年にはタイのテレビ制作会社ブーンメリット・メディア社が特別賞を受賞している。「微笑みの国」と知られるタイでも、政治的分断や若者の都市部への移動等様々な課題を抱えており、世代間の摩擦や高齢者の孤立もまた問題となっている。ブーンメリット社は、「マヌットタンワイ(タイ語で「多世代」という意味)というオンラインメディアを立ち上げ、高齢者が活発に活動している様子や世代間交流の実例等を特集する動画を制作し、Facebook、YouTube、TikTokで発信している。わずか3年で100万人以上のフォロワーを獲得するなど、新たなコミュニケーションツールを活用してエイジズム(年齢に基づく偏見や固定観念)の払拭に効果的に取り組んでいる点が高く評価され、特別賞授与につながった。
<62歳のスケートボーダー等年齢を感じさせないシニアの活動を特集している>
(画像提供:ブーンメリット・メディア)
受賞がもたらすインパクト。国際的パブリシティとネットワークの形成
受賞団体にはトロフィーと賞状が授与されるほか、主催者であるJCIEが取り組みの内容を英文記事化し、アジアの高齢化情報を発信する専用ウェブサイトに掲載し、国際的に発信される。実際に、同ウェブサイトを見た海外のメディアや国際機関から、インタビューを行いたいから担当者に繋げてほしいという引き合いが多い。また、各国で行われる人口高齢化に関する国際会議で、具体的事例として紹介してほしいと依頼を受け、登壇に繋げる機会もあった。業界・地域問わずより多くの人に取り組みについて知ってもらう、国際社会でのパブリシティ強化が受賞のメリットとなっている。
<優秀事例については取り組みの内容が英文に要約・記事化され、ウェブサイトに掲載される>
また、大賞受賞団体については、日本の取り組みから直接学べる訪日スタディツアーに招待される。2023年11月には、過去に大賞を受賞したタイ・ベトナム・シンガポール・中国からの代表者が日本に招かれ、4日間にわたるスタディツアーに参加した。住民が主体となり地域の課題解決・活性化に取り組むモデルや、地域包括ケアシステムの実例などを視察し、また、日本から優秀事例として選出された団体を訪問するなど、受賞者同士の交流も促進された。超高齢社会を迎えた日本のアプローチから学び、アジア地域内でのネットワークを育む機会となった。
<2023年に開催されたスタディツアーで、各国から来日した大賞受賞者が日本からの専門家、介護事業者と交流する様子>
国際医療福祉大学大学院教授で賞の国内事例選考委員長を務める中村秀一氏は「日本が試行錯誤した経験を活かし、より効率的に高齢化の進展に対応できるように後押ししたい」と賞創設時のインタビューで語っている。
アセアン・東アジア圏で注目される賞へと成長。応募言語も10ヶ国語に拡張
創設から3年、賞は国際社会でも着実に実績を積み上げている。2023年12月に開催された日ASEAN友好協力50周年特別首脳会議においては、持続可能な経済成長を伴う健康長寿社会を実現させるための具体的事例の一つとして、共同ビジョンステートメントの実施計画に取り上げられた。
<在マレーシア日本国大使館で行われた授与式>
(画像提供:在マレーシア日本国大使館)
また、2023年までの公募では日本語と英語のみでの募集だったが、対象国からより多くの事例を発掘できることを願い、第4回からは、日本語と英語の他、インドネシア語、韓国語、クメール語、タイ語、中国語、ベトナム語、ミャンマー語、ラオ語と、応募言語を10か国語に増やした。「ローカルレベルで活動している団体は英語に精通しているとは限らない。多民族であり、多様性に満ちたアジアを反映する賞になるためには賞自体のデザインを合わせる必要があり、第4回からはそれぞれの国の言語で応募ができるようにした。」と運営事務局は話す。
人類未曾有の少子高齢化の時代。国や地域を超えて共有できるアイデアを募集
現在、賞は第4回の公募を行っており、5月31日まで応募を受け付けている。公募にあたり運営事務局はこう語る―「表彰事業であるため、甲乙はつけるものの勝ち負けでは決してない。アジアのニーズは多様であり、一人のアイデアがどこかの役に立つことはきっとある。受賞の有無にかかわらず、優秀な事例はどんどん紹介していきたいため、まずはご自身の取り組みについて応募してもらいたい。」
アジア健康長寿イノベーション賞は募集・表彰で終わる賞ではなく、むしろ優良事例の発掘はスタート地点に過ぎない。文化や社会的価値が多様なアジアにおいて、誰もが健康で幸せに老いることができる社会を目指すうえで、アプローチの仕方も十人十色である。人類未曾有の少子高齢化、人の移動とますます社会の多様化が進む今日、私たちができることは互いから学び合い、どの国・地域でも共通する価値を導き出す ― アジア健康長寿イノベーション賞はこの理念のもと、知見共有を促進するプラットフォームを目指す。
<2023年のスタディツアーで、中国からの受賞者が介護施設の利用者と交流する様子>
■アジア健康長寿イノベーション賞 応募方法
以下の応募ページより募集要項をご確認の上、以下のEmailアドレス宛に応募書類をお送りください。
応募ページ:https://www.ahwin.org/award/award-japan/
応募書類提出先:hapi@jcie.org
提出期限:2024年5月31日(金)17:00
日本の団体で、他のアジア地域を拠点とする取り組みの応募をご希望の方は以下をご参照ください。海外事例応募ページ https://www.ahwin.org/award/(英語)
■プレスリリースPDFのダウンロードはこちら
■お問い合わせ先
公益財団法人日本国際交流センター(JCIE)
「アジア健康長寿イノベーション賞」運営事務局
連絡先 電話番号:03-6277-8682
Eメールアドレス:hapi@jcie.org
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