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「塩こうじをグローバルな発酵調味料へ」、古くて新しい万能調味料「液体塩こうじ」

著者: ハナマルキ株式会社

100年以上もの間、日本で愛され続ける老舗味噌メーカー・ハナマルキには、2012年の発売以来着実に売り上げを重ね、10年間で約10倍の売り上げとなった大ヒット商品があります。それは、「液体塩こうじ」。

伝統調味料である「塩こうじ」を絞り、液体化することで使いやすさが格段に向上するだけでなく、使用用途を大幅に拡大し、製造特許も取得しています。

家庭用調味料としてはもちろん、食品・惣菜メーカーや外食産業での採用も増加しているうえ、国内だけでなく海外への展開も進む「液体塩こうじ」は、どのようにして生まれ、なぜ看板商品にまで成長したのか。

ハナマルキ株式会社の取締役マーケティング部長を務める平田 伸行氏へのインタビューを交えながらお届けします。

誕生のきっかけは「あったらいいのに」というお客様からの一言

ハナマルキの創業は1918年。「素材とモノづくりを大切にしていく」という企業理念のもと、家庭用から業務用まで約400種にもおよぶ製品を幅広く展開し、「お味噌ならハナマルキ♪」のフレーズとともに長く愛されてきた会社です。


新商品誕生のきっかけとなったのは、日本で2011年ごろにわき起こった「塩こうじブーム」。簡単に素材の美味しさを引き出せる魔法の調味料としてテレビなどで話題となり、瞬く間に一大ブームに。2011年に2億円だったこうじ業界全体の売り上げは、翌年の2012年にはその31倍の62億円になったと言われています。


ハナマルキでもこのチャンスを活かそう!と「塩こうじ」の販売を開始したところ、お客様から「こうじの粒が苦手で使いにくい。塩こうじの液体タイプがあればいいのに」というリクエストが届いたそうです。それならば塩こうじブームが盛り上がっているうちにと、すぐに開発をスタートさせ、粒タイプの塩こうじに遅れることわずか半年、2012年10月より「液体塩こうじ」の発売を開始しました。


▲インタビューに答える平田氏


――平田さんはこの「液体塩こうじ」を拡販するために、ハナマルキに入社されたそうですね。


(平田)そうなんです。でも実は入社するまで、恥ずかしながら「液体塩こうじ」の存在すら知りませんでした。ハナマルキについても味噌の会社というイメージしか持っていなかったのですが、花岡俊夫社長(現・会長)から直接「液体塩こうじ」の紹介を受け、「おもしろい!これは間違いなく売れる!」と確信しました。


――なぜ、間違いなく売れると思われたのですか?


(平田)売れるための条件が揃っている商品だと思ったからです。塩こうじ自体の歴史は古く、味噌・醤油と並ぶ日本古来の調味料です。江戸時代にはすでに「塩こうじ(塩麹)」のという文言が記載された文書が存在していたとか。ただ、味噌、醤油に比べればまだ認知低く、いわゆる「新しい日本古来の調味料」になることが、ストーリーがあり、売れる1つのポイントだと思いました。

さらには塩こうじが米・塩・水のみでできていること。それなのに、強い酵素を持ち、たんぱく質を分解して旨味が生じたり、生臭みをマスキングするなど様々な効果がある。類似の調味料がない、新しい調味料だということですね。

液体タイプであることも大きいですね。塩こうじを搾って液体化することにより、きれいな黄金色に変わり、粒タイプより圧倒的に使いやすくなる。日本古来の調味料をそのまま展開するのではなく、「液体」という形態に変え、進化させたものを拡大していく、というやりがいも生まれます。

もし、液体塩こうじが思うように売れないとすれば、それは私が担当する宣伝PRに問題があるということになるだろう。それくらいに思えた商品です。


▲塩こうじは、味噌・醤油と並ぶ日本古来の調味料


――そして、ハナマルキに入社。当時の「液体塩こうじ」に対する反応はどのようなものだったのですか?


(平田)ちょうど塩こうじブームが終焉したころでしたので、取引先からは「もう塩こうじはそれほど売れないし、すでに売場には粒タイプの塩こうじがあるから必要ない」「液体の塩こうじどうやって使うかわからない」と言われ営業も逆境に立たされました。社内でも、「ブームが終わった商品になぜ注力しないといけないんだ」といった雰囲気は正直あったかもしれません。加えて、ハナマルキの社員自身が「液体塩こうじ」の使い方やメリットに気づいていない可能性もありそうだと感じていました。

そこで、社内の部署横断で推進員をアサインして「塩こうじ会議」を実施し、参加者全員で「液体塩こうじ」をどう提案していくかを議論していきました。会議はお昼時に開催し、「液体塩こうじ」を使ったメニューを調理、試食をし、液体塩こうじの使い方を研究しました。


――他にはどんなことにチャレンジされたのですか?


(平田)「液体塩こうじ」の使い方を知ってもらうために、スーパー店頭で液体塩こうじを使った料理の試食販売を行っていたのですが、当初、なかなか販売数が伸びなかった。そこで、まずは私自身も店頭でお客様のリアルな反応を確かめてみようと営業担当者に頼み込み、店頭に立たせてもらいました。


――え?平田さんが店頭で試食販売をされたのですか?


(平田)はい。営業担当と一緒に店頭に立ちました。お客様に試食をしてもらい、その場で使い方やおすすめのレシピなどを紹介すると、みなさん「これは美味しいし便利ですね!」と、快く買ってくださる。結果、1店舗における「液体塩こうじ」の1日当たりの販売本数のギネスを更新できました。そこで、次の「塩こうじ会議」で、思い切って、この会議に参加している社員全員で試食販売を行うことを提案したのです。すると、「ハイ!」と、真っ先に手を挙げたのが花岡俊夫社長(現・会長)でした。正直、びっくりしましたね(笑)。そこからは他の社員も積極的に店頭に立ってくれるようになり、お客様のリアルな生声に直接触れることができて、販売や商品開発のヒントをみんなで共有し、ノウハウが蓄積してくようになりました。


――その出来事が、「液体塩こうじ」大ヒットへの布石となったのですね。


(平田)社内の意識が変わったこと、「ブーム関係なく売れる!」と確信したことは大きかったですね。ここから、社内の雰囲気がガラッと変わりました。実は私が入社する際、花岡俊夫社長(現・会長)から『味噌のPRは一切やるな、「液体塩こうじ」に集中を』と言われていたのですが、この時に改めて花岡社長のこの商品に対する覚悟を再確認し、勇気が湧き出てきました。日本古来の伝統調味料という観点から言えば、ブームとは対極にあるもの。無限の可能性を感じています。


液体にすることで、塩こうじのチカラがさらに進化!「液体塩こうじ」に秘められた魅力

▲粒状の塩こうじをハナマルキ独自の製法(特許取得)で液体に



――そもそも塩こうじとはどのようなものなのでしょうか?


(平田)塩こうじの原材料は米と塩と、とてもシンプルです。そして、塩こうじの材料となる米こうじは味噌の製造にも欠かせないもので、ハナマルキが長年の味噌づくりで培ってきた高い技術力によって、こだわりの米こうじが出来上がります。そこから、発酵が均一に進むよう米こうじと塩を混ぜ合わせたのち、発酵室で寝かせて、丁寧に熟成させるといった工程を経て、塩こうじが完成します。しかも、ハナマルキの塩こうじは非加熱製法のため、活きた酵素が料理のうま味をより引き出してくれます。

また、発酵を調整するために少量の酒精を添加しているものの、着色料・保存料は不使用。自然本来の素材を使った調味料であることも魅力の一つだと思います。


「こうじ」には酵素が含まれているため、その酵素が肉・魚のたんぱく質を分解し、うま味成分をより引き出してくれます。「液体塩こうじ」に肉・魚を漬け込んでから調理すると、やわらかくなり、美味しさが増すんですね。硬いむね肉やスネ肉も、塩こうじに漬ければ驚くほど柔らかくなります。また、肉本来の旨みも最大限に引き出せるのでリーズナブルなお肉でも美味しく食べていただけるんですよ。


▲液体塩こうじを使って作った料理。レシピはハナマルキサイトでも紹介されている



――それが液体となったことで、どんなメリットがあるのですが?


(平田)液体にしたことで、計量しやすい・混ぜやすい・溶けやすい・焦げにくいなどのメリットが生まれました。粒状の塩こうじに比べて調理が簡単なので、時短にもつながります。さらにうま味を引き出すだけでなく、魚の生臭さや野菜の青臭さを抑える効果もあり、魚や野菜が苦手な方でも「液体塩こうじ」を使うと食べやすくなります。魚や野菜が苦手というお子さんがいらっしゃるご家庭の方にはぜひおすすめしたいですね。粒の塩こうじ独特の口当たりも「液体」なら気になりません。その結果、利用できる料理のバリエーションが広がり、定番調味料としての基盤を築いています。


家庭用だけでなく、業務用や海外へも続々展開

家庭用調味料としての認知拡大とあわせて、業務用としての用途も広がってきた「液体塩こうじ」。さらに、その勢いは国内にとどまらず、海外展開も着実に進んでいます。2017年1月に日本国内で特許認証を受け、その後はアメリカ、台湾、インドネシア、中国でも特許を取得。2020年には、タイに「液体塩こうじ」専門の工場を設立しました。

▲タイに設立した「液体塩こうじ」の専用工場。2020年2月より本格出荷を開始


――業務用としては具体的にどんな用途があるのですか?


(平田)業務用では、家庭用同様に肉・魚・野菜料理の下味や調味料として利用いただいています。雑味や麹臭を抑えたハナマルキの塩こうじを圧搾した「液体塩こうじ」はほぼクセがないうえ、調理時間の短縮やうま味増加が容易に可能になるという点が好評をいただいています。結果、業務用商品の売り上げは、ここ5年の間で約2倍となりました。

さらに、お客様からの「より使いやすい、保管しやすい商品がほしい」という声にお応えして、業務用に粉末状の「熟成こうじパウダー」も開発しました。


▲顧客のニーズに応え続けることができるのは、長年の味噌作りで磨いてきた高度な技術力があってこそ



――塩こうじが粉末に、ですか?


(平田)はい。「熟成こうじパウダー」は、発酵熟成させた塩こうじを加熱乾燥することで粉末化した発酵調味料で、コク味成分「メラノイジン」の働きにより、味の厚み強化・味わいの持続性向上など、多岐にわたる機能を持つ商品です。「液体塩こうじ」など、麹について様々な角度から研究を重ねる中で、こうじの粉末化が可能になりました。お菓子など、液体やペーストといった形状では導入にハードルのあったプレミックスやシーズニング関連の市場にも提案できるようになりました。


――海外での反応はいかがでしょう?


(平田)海外では「塩こうじ」はまったく知らない、聞いたことがない、という調味料でしたので、説明には苦労しました。しかし、「液体塩こうじ」は肉や魚の下味や味付けに使える〈汎用性の高い〉調味料であるため、提案する国を選びません。現在では認知も広がり、「GOLDEN LIQUID(黄金の液体)」と呼ばれて注目を集めるまでになりました。

2015年に「ハナマルキ タイランド」を設立以後、海外での健康志向の高まりによる発酵調味料の注目から伸長してきており、「液体塩こうじ」の海外売上はここ5年で約2倍となっています。


アメリカ、ヨーロッパ、東南アジア等で採用され、フランスではパリの三ツ星レストラン「ル・サンク」にて「液体塩こうじ」を使ったオリジナルメニューがトップシェフにより展開されました。

そして、料理界のハーバードとも言われる「CIA」(カリフォルニア州ナパバレー)で世界中のトップシェフが集まる国際料理会議「World of Flavor」や、スイス・サンモリッツで毎年開催されるグルメフェスティバルなどでも取り上げられ、和食だけでなく、各国料理への広がりが期待されています。


そして、先ほどご紹介した「熟成こうじパウダー」は粉末のため、輸送コスト削減や長期保存が可能であるなど、海外での導入メリットが多くあり、今後の展開が楽しみな商品です。


  


▲「ル・サンク」総料理長 クリスチャン・ル・スケール氏


発酵食品における技と最新技術で、塩こうじのリーディングカンパニーへ

ますます可能性の広がる「液体塩こうじ」ですが、ハナマルキの挑戦はとどまることを知らず、新商品の開発にも余念がありません。


――“ハナマルキ醸造 麹 研究室”(略称ハナマルケン)という新しいプロジェクトも立ち上げられたとか?


(平田)<「麹」の可能性を追求し、「麹」の未来を創る>というコンセプトで、2023年8月に立ち上げました。「やってみる i try !」をブランドスローガンに、塩こうじ商品のさらなる開発はもちろん、過去の商品開発におけるチャレンジや長年磨いてきた高い技術力を生かして、これまで市場に出なかった技術を昇華させた新しい味噌・麹食材の開発や、新時代のライフスタイルに合う商品の提案など、業界の常識にとらわれない商品を生み出していきたいと考えています。2024年3月には、同研究室より「塩こうじチーズ」の販売を開始しました。


――え?塩こうじでチーズが作れるんですか?


(平田)研究の結果、一般的なチーズ作りにおいて生乳を固めるために使われる「レンネット」(凝乳酵素)の代わりに「液体塩こうじ」を使用して、チーズを作れることが分かりました。 「液体塩こうじ」由来のまろやかな塩味があって、質感はハードタイプやセミハードタイプに近いしっとりした食感で、コクのある濃い味わいと華やかな発酵香をもつ世界初の「塩こうじチーズ」です。


▲液体塩こうじの力が生んだ世界初の『塩こうじチーズ』


――すごいですね。では、最後に「液体塩こうじ」が目指していくところを教えてください。


(平田)日本が世界に誇れる伝統調味料であり、この先も、未来永劫残していきたいものです。日本の食文化は今、世界でも注目されているため、「液体塩こうじ」は日本を元気にしてくれる、そんな存在だと思っています。海外展開にもさらに力を入れていきますが、味噌や醤油のように、日本全国のどんな家庭にもある「一家に一本の基礎調味料」にしていきたいですね。





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