新型コロナウイルスへの対応で、Web面接システムの無償提供を最速で実現できた訳
ストーリー概要
1月16日、日本国内初の新型コロナウイルスによる新型肺炎患者の発生が確認されました。社会的な業務のオンライン化・テレワーク化の推進要請に応える形で、その12日後にあたる1月28日から、当社はWeb面接システム「インタビューメーカー」の無償提供を開始しました。その流れを受けてWeb面接の実行数も大幅に伸びており、2020年度はすでに昨年度の年間利用回数の4倍を超えるスピードで成長しています。2020年6月現在、インタビューメーカーは国内2,800社を超える企業の、様々な採用シーンで活用いただくまでに成長を遂げました。今回はインタビューメーカー無償提供の決断に至る背景・経緯から、提供後多くの引き合いをいただき、2,800社の企業様に導入いただけるようになるまでの一連の流れを、当社執行役員 CMO 前澤隆一郎(まえざわ りゅういちろう)が振り返ります。
最初に
2020年1月。年が明けて新年の業務が始まった。年末から武漢で新型コロナウイルスの感染のニュースは流れていたが、まだ日本国内では何とかなるのではないかという楽観的な雰囲気が強かったと思う。当社でも、ここまでのウイルスの感染拡大を予測し、事業影響を考慮していたスタッフはいなかった。そんな中、1月25日についに武漢が都市ごと閉鎖されるという事態に至った。国内での感染者も確認され、状況は日々悪化しているように私には感じられた。これは、いよいよ大変なことになるなと直感的に思った。
思い出される苦い記憶
2011年3月、私はリクルートで、ある事業の責任者を任されていた。グローバルに事業展開をしているライバル企業と日本市場をめぐって日々競争していた。その最中に「東日本大震災」が起こった。事業の継続が困難になり、意気消沈し、右往左往していた僕らを尻目に、ライバルはその最悪な事業環境にもかかわらず、それを逆手に取ったプロモーションを堂々と実行してきた。プロモーションは社会的意義と、事業インパクトの両面を兼ね備えた完璧な物であった。遅れを取った僕らは、急ぎ、同様のプロモーションを投下して追いかけることになったが、やはり二番煎じ感は否めなかった。
この時の強烈な経験から、非常事態における企業のプロモーションのあり方を下記のように考えるようになった。
- 最悪な状況に陥っても行動する事業者(ライバル)は必ずいること
- その行動に社会的な意義が伴っていれば、必ず社会もマーケットも歓迎してくれること
- 行動は一番でなければ意味がないこと
- 行動には制限を設けず、できるだけ多くのリソースを投下すること
過去の記憶を辿りつつ、週末に熟考した。仮に、予測していること=国内での感染拡大が現実になったら、自分たちの会社は、自分のサービスは、社会やマーケットのために何ができるのか?やるのであればいつやるべきなのか?例年であれば、各社が新卒採用のための選考活動を始める春が近づいている。オンラインで面接を提供できる自分たちが果たせる役割とは何なのかを考えると、自ずと答えは決まった。
当社のマーケティング組織
コロナウイルスに対する無償提供の取り組みを始めた頃、当社のマーケティング組織は、部長である私(私もプロダクトの開発とPRや広告販促などを兼務)と、新卒の兼任スタッフ1名という陣容だった。ただ2名では流石に全ては対応できないので、PR・SEM・デザイン・コーディングの業務を中心に業務委託のエキスパートスタッフ数名に、非常駐で関わっていただきカバーしていた。スタートアップである以上、専任スタッフは配置しにくいし、基本的には役職者であろうと自分でできることは自分でやっていくスタイルである。ゆえに、意思決定と打ち手の実行の距離感は非常に近かったことが、今回の環境下では大きな強みとなった。
行動は迅速に、許可は事後に求める
週が明けて1月27日。自宅から最寄り駅まで向かう間に、取締役の間渕へ電話した。そして「サービスの無償提供を開始する」ことを打ち明け、「準備が整い次第、”最速”で無償提供を開始する」ことを伝えた。具体的な実行方法は全て一任してもらっていたので、自分が承諾を取ったのはこれだけだった。
15時頃にオフィスに到着し、デザイナー兼コーダーの高木の席に向かった。そして「サービスの無償提供を開始するためにLPを一枚作ってほしい」と伝えた。ホワイトボードにワイヤフレームを書き込み、それを一緒に確認し終え、作業に着手してもらった。FigmaもXDも使う時間はない。デザイナーがコーディングもできることがとても大事な局面であったので、両方できる高木がいてくれたことはとても心強かった。
無償提供LP ※公開当時のデザインから改変
同時に、申込を受け付けるための申込業務を設計する必要もあった。インタビューメーカーは、紙の申込書を回収する前提で営業体制が設計されていた。1社ずつ訪問して紙ベースで申込を回収するのは非効率に思えた。そのため、オンラインで申込を受け付けることを決めた。
だが、申込フォームもインタビューメーカーの利用に必要なURL発行の自動フローもこの時点では存在していない。内製の受付フォームをこれから立ち上げるには、入力項目も設計後に頻繁に変更される可能性もあるし、1分も早く受付を開始することを考えると不向きだった。申込の受付を検討していた新卒の山口の顔色はみるみる曇っていく。
そこで、SaaSをフル活用することを決めた。「Formrun」を使って、さくっと申込フォームを設計しSlackに連携した。これであとは申込を受け付ければ担当チームにSlackで通知されるので、後はアカウントURLを発行する作業のみ、社内スタッフが対応すれば良くなった。
オンラインで申込を受付かつ、無償提供を開始することになったので、従来の利用規約で申込時の説明が果たせているか法務や経理とのすり合わせも必要になった。当社のコーポレートスタッフもフットワーク軽くレビューに応じてもらえたことや、顧問契約の弁護士の皆さんにも全力でサポートしていただけたので、28日の午前中には懸念はすべて払しょくできていた。
受付開始に必要な受付フォームやLPの完成を待つ間に、プレスリリース原稿の作成を始めた。当社には広報専任のスタッフはいない。なので、プレスリリースは、私が直接書いた(現在もマーケ部のスタッフが書いており、専任スタッフはまだいない。各スタッフがプレスリリース原稿を書けるようにしている)。プレスリリースの原稿を書く際には、自分たちがこの環境下で社会に果たしたい役割や想いがちゃんと反映できているのか、非常に気を配った。どんなに素晴らしい取り組みも、誤った伝わり方になってしまえば、独善的・偽善的だったり、売名と捉えられかねないためだ。「PRtimes」のおかげで、発信直前までプレスリリース原稿の校正が直接自分でできるのはとても便利な時代になったなあと思う。
そうして、23時までかかったものの、その日のうちに全ての準備を終えた。「やる」と決めてから、7-8時間後だった。
メディア掲載のきっかけは突然訪れる
翌1月28日。社内への周知などもあって、プレスリリースの時間は13:30になった。
1月28日の時点で、新型コロナウイルスへの対応策としてのアクションを取っていた企業はとても少なかった。GMOグループが在宅勤務体制移行を発表していたくらいだった。2011年の苦い記憶がある中で、誰よりも早く行動をすることができたので少しほっとした。ただ、プレスリリースしただけでは、反響は集まらなかった。というよりも、プレスリリース自体が、すぐにはメディアに取り上げられなかった。
今思えば、自社の規模は、世界的な大企業と比べればとても小さくて、サービスの知名度も低かった。そして、扱う商材も、ToC向けではなくて、ToB向けゆえに、メディアからも取り扱いが難しいテーマだったことも影響していたと思う。プレスリリース後、1週間くらいは、かなり静かな推移を辿っていた。
状況が変化したのは、2月2日に「Business Insider」で当社の取り組みが取材され記事となったことだった。元々、別サービスの取材依頼をお願いしていたのだが、横浜のプリンセス号の集団感染がクローズアップされる中、コロナウイルスの経済的な影響について記事化を検討していた記者の方と意向が合致したこともあり、急遽、当社の取り組みが掲載されることになった。
この記事をきっかけに、レガシー系の新聞やテレビのニュース番組から問合せを頂戴するようになった。ここから1か月くらい連日取材を受けるようになった。プレスリリースも他の仕事同様で、「ゼロイチ」のフェーズは最初の一歩目がとにかく重たいことを感じた。
同時に、メディア掲載と比例し、お申し込みや問合せが爆発的に伸びた。電話回線はパンクし、営業スタッフも問合せの受付に回す必要があった。
最終的に、1末~4月までの間に実行したプレスリリースと、メディアの掲載実績は下記のようになった。3/16には、導入先の大手企業様と一緒にNHKの朝のニュースで大きく取り上げていただくことができ、従業員のモチベーションも高められた。
準備しておけば、取材当日のばたばたは解消できる
取材に対応する社内スタッフも必要な準備ができるようになり、気が付いたら「取材受付パッケージ」が完成していた。取材を受ける回数が増えると見込まれる場合、取材受付に必要な下記の準備(固定化)はできるだけ早く終えておくことを他の自社サービス・プロダクトを持つスタートアップ企業の皆さんにもお勧めしたい。
- 取材用の会議室
・照明の明るさ、カメラや記者の方のスペース確保。
・ちらっと映り込ませるための企業ロゴボードの配置。企業ロゴボードは安価なので、早めに発注しておいて損はない。
・地味だけども、取材中に映り込む可能性のある業務用の端末にも企業ロゴを貼り付けておくのはお勧め。シールも安価なのでロゴボードと一緒に手配したい。
・社外で取材を受ける場合は、出先の通信環境(Wi-fi)の確認は必須。
- 取材時のデモ操作用アカウントの用意
・開発検証用アカウントの場合、リアリティのないデモデータが入り込みやすいため、取材用にはクリーンで分かりやすいデモデータを流し込んだ別アカウントを持っておく必要がある。
- 取材時のデモ操作用のデバイス
・撮影中に操作に手間取らないように、利用するデバイスも固定しておいた方がよい。盲点になるのが、バッテリーの残量。取材中にバッテリー切れになると進行の妨げになるので、必ず事前に確認が必要。
・Notificationが入り込むと撮影やり直しなので、Slackなどの通知は全部オフにしておくのも忘れずに。
- 取材時のデモの流れ
・サービスの理解が深まりやすい典型的な紹介パターンを決めておく
・当社の場合、Web面接システムなので、相手役も立ち合わせる必要があり、アドリブに強い人材を相手役としてアサインしていた。人選も重要。
- 事例紹介/導入企業への取材依頼に備えた候補選定
・ニュース番組の場合、利用サービスを使っている画を撮影したいケースが非常に多かった。その場合、導入いただいている企業様にも取材の依頼をお願いする必要があり、この調整がかなり大変だった。メディアと企業様の間に立って、スケジュール調整や、取材骨子の説明をする必要もあるので、それなりのパワーと胆力が必要になる。当社では、途中から、取材の打診をしやすい企業様を予めリストアップしておき、スケジュールの都合がつけられるお客様から優先的にアプローチさせていただいた。
プレスリリースを多段階的に実行することで、露出効果を持続させる
何とかメディアで自社サービスが紹介いただけるところまで辿り着いたら、ここからは一日も長く、1つでも多くの記事掲載が持続されることが大事になる。取材を行うメディア側の立場で考えると、他メディアですでに掲載されている情報は価値が少し低くなるはずなので、初回のプレスリリースが記事化されてから、時間とともに発信される情報に「差分」を作ることを意識していた。
1つ目は、無償提供の内容を見直したタイミングで改めてプレスリリースを配信することだった。正直、無償提供を開始した時点では、1ヶ月もあればウイルスの感染は収束するとも思っていた。なので無償提供の期間は短く設定していた。その後、収束しない状況を鑑みて、提供期間を一気に4月末までに延長した。また、無償提供の対象サービスは、Web面接のみからWeb説明会まで含めた形に変更した。これらの提供条件が変更になる度に、プレスリリースを打つことで情報に「差分」を作るようにした。
(1回目:1/28に発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000025.000015527.html
(2回目:2/20に発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000015527.html
(3回目:3/26に発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000035.000015527.html
2つ目は、ユーザーアンケート調査を使って、当社しかアクセスしにくいマーケットレポートを作成していくことだった。特に、全国的にコロナウイルスの影響が大きくなる前の時点で調査を行っておくことを心がけた。影響が大きくなってから調査を取得しようとする人は多くいるが、それでは正しく状態を捉えられない。同じアンケート項目で定点調査をかけることこそが定石だ。
(1回目:2/10に発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000026.000015527.html
(2回目:3/5に発表)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000032.000015527.html
こうしたプレスリリースを行うことで、スタジアムが「Web面接」のマーケットについて、多面的な情報を持っている会社であることを認識いただき、結果ニュースを書き起こす際に想起頂きやすい環境を整えられたのかなと考えている。
最後に
スタートアップ企業の皆さんから、どうすればメディア露出できるのか、相談を受けることが非常に多い。大事なのは、メディアの皆さんが発信したい情報が何なのか、更にその先の視聴者(消費者)が知りたい情報が何なのかを想像し、先回りして打ち手を実行していくことに尽きると思う。PRの専任スタッフも、PRツールも、マーケティングツールも、自社がメディア露出を通じて成し遂げたい状態や目的を実現するための手段でしかない。
そのため、サービスの知名度を上げたいからといって、それだけが主題となったプレスリリースを仕立ててごり押ししても、なかなか思った形ではメディアには取り上げられないものだ。とにかく、情報を受け取られる可能性のある消費者の皆さんが望んでいる情報に仕立てた上で送り出せるかどうかが、プレスリリースの成功を左右すると考えている。
私も、スタジアムも、こうしたマーケティングのナレッジは自社に留めず、オープンにもっと発信していき、日本のスタートアップ企業の発展に少しでも貢献出来たらいいなと考えている。また、こうしたマーケティング活動に関心のあるマーケッター・広報マンの入社も歓迎しているので、興味のある方は、ぜひお声がけ頂きたい。
株式会社スタジアム
執行役員 CMO
前澤 隆一郎
2005年リクルート入社。じゃらんの大規模リニューアル、ポンパレのプロデューサー、全社ID・ポイントプログラムの設計を担当。 2011年DeNA入社。北米にてアプリ集客を担当し単月黒字化を実現。 2013年リクルートライフスタイル入社。男性妊活キットSeem、QR決済事業など新規事業を立ち上げ。 2017年LITALICOで執行役員に就任し店舗の集客を管掌。
行動者ストーリー詳細へ
PR TIMES STORYトップへ