障害者も弾ける楽器、購入の90%は健常者
福祉用品は商売にならない?
福祉業界の知人曰く「福祉の展示会は悲壮感が漂っている」と。
「悲壮感」というのはオーバーな言い方かもしれませんが、展示会などで障害者向け製品のメーカーから「ま、商売にはならないんですけどね」という言葉を聞くことがあります。
特定の障害を持つ人に役立つ製品はマーケットが小さすぎて、ビジネスとしての旨味は少ないと言わざるを得ません。実際のところ、人気だった製品が惜しまれつつ販売終了になることは少なくありません。
障害者向けの楽器なのに購入者の9割が健常者
InstaChord株式会社は「楽器を弾けない人ゼロ」を目指す電子楽器「かんぷれ -KANTAN Play core-」を開発し、8月上旬までクラウドファンディングを実施しています。
この製品は、弾き語りから音楽制作など幅広く使える電子楽器ですが、運動機能障害、視覚障害、知的障害など、様々なハンディキャップに合わせて、操作方法を自由にカスタマイズできるのが大きな特長です。
携帯ゲーム機のような本体には様々なコントローラーを接続できます。補助スイッチ、タッチセンサー、視線入力機器、モーションセンサーなどのインターフェイスを接続すれば自由なスタイルで演奏できるため、ユーザー1人ひとりの特性に合わせた楽器を作ることができるのです。
障害を持つ人も開発に参加
生まれつきの脳性麻痺を持ち、障害者との交流も深い山下智子さんをアクセシビリティアドバイザーに迎え、障害を持つ人が楽しめるバリアフリーな楽器を目指し開発しました。
しかし、購入者アンケートによると、購入者の9割は健常者でした。
簡単に弾けるヒミツ:6つの数字を選ぶだけ
まず先に、かんぷれがなぜ簡単に弾けるのかというポイントをお話しします。
ポピュラーミュージックは、たった6つの基本コードと6つのスワップコード(※)だけでほとんどの曲を弾けるという法則があります。この点に着目し、1~6の数字が割り当てられたボタンを選ぶだけであらゆる曲を演奏できる楽器システム「KANTAN ミュージック」を日本人ミュージシャン”ゆーいち”が2019年に考案し国際特許を取得しました。
(※注)スワップコードとはKANTAN ミュージックの独自の表現で、基本コードのメジャーとマイナーを入れ替えたコードを指します。
スマホでも体験
KANTAN ミュージックの演奏は、スマートフォンやパソコンのブラウザでも体験できます。
世界的にも評価
InstaChord株式会社は、KANTAN ミュージックを採用したギター型の電子楽器「インスタコード」を2021年に発売しました。これまで日本国内で約7000台を販売し、世界で最も革新的な電子楽器を表彰する「MIDI Innovation Award 2023」で世界ベスト3に選ばれたり、世界的なデザイン賞「iF デザインアワード」も受賞するなど、海外でも高い評価を得ています。
開発者のゆーいちはインスタコードの発売後、障害者向けの体験イベントを数多く開催し、インスタコードでも演奏が困難な人と出会いました。
そして1人ひとりの障害に寄り添った楽器の必要性を感じ、操作方法を自由にカスタマイズできる「かんぷれ」の発想にたどり着きました。
健常者も欲しがる価値を加えて福祉用品から脱却する
前述の通り、障害者向けの製品は、マーケットが小さいので企業の参入も難しいですが、対象を健常者にも広げれば製品の価格は下がり、事業の持続可能性は高まります。
そこで「かんぷれ」は、従来の電子楽器にはない価値を加えることで、障害者や楽器が苦手な初心者だけでなくプロミュージシャンまで購入層を広げ、結果的に購入者の9割を健常者が占める製品になりました。
それではどのような価値を加えたのか、特徴的なものを4つ紹介します。
1)音楽経験がなくてもすぐ弾ける & 音楽理論が身に付く
電卓のような数字を選ぶだけであらゆる曲を演奏できる「KANTAN ミュージック」を採用しているので、数字を選ぶだけで演奏できます。
KANTAN ミュージックに対応した楽譜は無料で100万曲以上が手に入り、弾いているうちに音楽理論が身に付くという他の楽器には無い特長も備えます。
認知機能が衰えて数字が苦手な人の場合は、数字を色に置き換えたり、選択肢を減らすなどの工夫で演奏できるようになります。
コードの詳しい説明は、KANTAN ミュージック公式サイトをご覧ください。
2)指1本で6つの楽器を奏でられる
ギター、ピアノ、ベース、ドラム・・・それぞれの楽器のオンオフを画面タッチで操作して、複数の楽器を同時に弾くという、今までにない体験ができます。
3)音楽制作に役立つ
かんぷれは、MIDI出力やMIDIファイルの書き出しに対応しています。
フレーズを選択してコードを入力するだけで曲が作れるので、打ち込みでの音楽制作スピードを格段にアップしますし、編集の効率も上がります。
4)製品自体が成長する、オープンソースの楽器
この製品の心臓部は、電子工作の世界で絶大な人気を誇るミニコンピューター「M5Stack」採用しています。
そしてメインプログラムは、だれでも改変可能なオープンソースとして公開します。
つまり、「こんな機能がほしい」という要望を自分自身のプログラミングで叶えることができるんです。
音源を自作したり、サンプラー、シーケンサー、ルーパー、リズムマシンなど、新しい機能を追加することも不可能ではありません。
大手企業ではなく中小企業だからできること
バリアフリー、アクセシビリティ、インクルーシブなどのキーワードは大手企業も重視しており「障害者にも使いやすい製品はみんなに使いやすい」という考え方は浸透しつつあります。
しかしながら、障害者向けの新製品のアイディアは、結局製品化されず企業の取り組みをPRするCSR活動に留まっているケースも少なくありません。
障害を持つ当事者からは「はしごを外された」という声をよく聞きます。
商売になる福祉用品を目指す
InstaChord株式会社は社員1名のひとりメーカーです。デザイン、開発、製造などをすべてアウトソースで行うことで、低コストを実現しています。
そして、会社の規模が小さいからこそ、大手企業ほどの大きな規模の売上がなくても事業を継続できます。
かんぷれは、初心者もプロミュージシャンもそれぞれの立場で価値を感じられる製品になったので、冒頭のセリフ「ま、商売にはならないんですけどね」を言わない製品に育てていきたいです。
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