【音のプロに聞いてみた!⑤】家電の音って何でうるさいの?
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音のプロに聞いてみた!シリーズ概要
40年以上に渡り商業施設や家電の最新の音を手掛けてきた
サウンド・スペース・コンポーザー井出 祐昭氏に
仕事の裏側や、私たちの傍にある音の問題、
今からでもできる音の工夫について聞いてみました。
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今回のテーマは「家電の音って何でうるさいの?」
近年よく物議にあがる、「音声案内が多すぎてどの家電から出た音なのか分からない」問題や、「家電の音で寝てる子供が起きてしまった」問題。
往々にして、無機質と呼ばれてしまう家電の音ですが、オシャレにすればいいってもんじゃない気も…
今回はこのもやもやをぶつけてきました。
これからの家電の音ってどうあるべき?
家電や電子機器の音って分かり易い反面、正直耳を付きますよね。あれは何故なのでしょう?
ー家電の音に関しては20年以上、あらゆる方向から開発してきました。
ある意味、酸いも甘いも分かっているので、色々と御答えできるかと思います。
それではまず、何故うるさいのか?ということ。
一つは、音の帯域にあります。
家電のお知らせ音は、大体高めの耳障りな帯域にあります。
耳障りな帯域は、自己防衛本能からきているのではないかと言われていて、急ブレーキ等、命に関係してくる危機的な局面で身を守るために出来たのではと考えられています。
この帯域は他の帯域よりも大きく聴こえ、耳に留まり易いので、お知らせ音はあえてこの帯域を中心に創られています。
小さい音でもしっかり聴こえやすいので、部品も小型化やシンプルか出来てコストダウンできます。
「ピー」と、その帯域だけ出すような家電が多いのは、これも理由の一つでしょう。
家電の音が「うるさい」と感じる理由は、帯域だけでなく、色々な音がしてやかましいということにもあると思います。
電子レンジ、洗濯機、炊飯器、お風呂の湯沸かし機能…それぞれからのお知らせがありますよね。一つ一つは良くても、それらが混ざりあったら識別も出来ずに気持ち悪い。
そうなると、もうやめてくれと言わんばかりの世界になる。
「家電はうるさい」の理由はこういうことかなと思います。
あまり改良されて来ていないように思われますが、何故でしょうか?
ーあまり良い印象を持たれていない割に、改良がなかなか進まないのは色々と事情があると思います。
例えば、ハードウェアの限界やコスト的なところ。もっと大きいのは慣習ですね。
私たちは電子レンジは「チン」で家のチャイムは「ピンポン」だと、経験知から音を記号化して認識しています。何も考えずに音を変えると混乱を招くほか、「これは○○を知らせる音だ」と学習するところから段階を踏むことになります。
私の経験で言うと、この難しさの最たるものが元祖JR新宿駅・渋谷駅発車メロディの開発でした。
家電と言うと、「ジー」といったベルや「ブー」と言ったブザーを一新する取り組みで、しかも電車のホームで鳴らす音なので、安全と関係している。
何年も掛けて開発を行いましたが、大変な仕事でした。
どのように改良できるでしょうか?
ーお知らせ音にはポイントがいくつかあります。
一つは、誰にでも分かる、誰にでも知らせされるということ。
これについては長年考えてきましたが、原理原則があるんじゃないかと考えています。
例えば、お寺の鐘や教会の鐘は何千年も続いていますよね。嫌だったら淘汰されているはずです。
最近では除夜の鐘がうるさい等といったクレームもあるようですが、それでも残っている。ここに秘密があるんじゃないかと思います。
つまり、音そのものに何かを知らせるという原理原則があって、この考え方を踏襲し表現することが大事なんじゃないかと。
原理原則に関しては、研究に研究を重ねて突きとめました。
二つ目は、識別性と調和。私たちは、個と調和と呼んでいます。
「個」は、その出てる音が美的に見てどうか?
かっこよくデザインされた製品でも、音がブーと野蛮に鳴っていたら元も子もない。
逆に、素晴らしいメロディーでも安い音で鳴れば罵声感が出て来ます。
家の中で毎日感じる野生感、罵声感…つらいですよね。
毎日のことだから慣れるかもしれませんが、例えば子どもがそれを聴いて育つと思うと、ある一定のクオリティを保たなきゃいけないと感じます。
そのためにはソフトもハードも見直さなきゃいけない。何でもメロディーにすればいいわけじゃない。そう思います。
「調和」というのは、音同士がズレたり同時に鳴った時に、「どの製品から何の音が鳴ったのか識別できるか?」ということと、「同時に鳴った時に不快感がないか?」ということ。
出来れば、家の中の雰囲気がより良くなった方が良いですよね。メロディー同士が被ってしまったら台無しです。
更に、それが頻繁に起こると余計気持ち悪いし、最近の家電は相当喋るので、段々おせっかいになってきます。
本来便利であるはずのお知らせ音や音声ガイドに、「もういいよ」といった気持ちを感じてしまいます。
この辺を上手くバランスするのが大事で、最低限必要な情報で、かつ綺麗な音で短時間に伝えられるかということに掛かってきます。
音が重なっても個別を認識できて、不快感がない。
これが理想だと思います。
そもそも今の音お年寄りに聴こえてる?
ー大前提として、そもそもちゃんと聴こえているのか?という問題も改善が必要です。
手間暇かけて音を創っても、老若男女みんなそ意図した形で聴こえているのか?と言えばおそらく違います。
私たちは、加齢によって20歳位から高い音が聴こえにくくなっていきます。最近はイヤホン等で音楽を耳の中につっこんで聴いているので、今後お年寄りになる世代はより衰えが増すでしょう。
以前テレビ番組で、「高齢者の耳で街を歩いてどう聴こえるか?」という番組の監修をしたことがありましたが、「ピーピー」と鳴る音、例えば券売機等のアラート音なんかはあまり聞こえいないということが良く分かりました。
お年寄りになってくると高い音が殆ど聴こえなくなってくる一方、家電の方は何かを知らせないといけないので高い帯域を使う。
ユニバーサルデザイン的に見るとまずい状態ですね。
若い人にはうるさい音がガンガン流れているのに、高齢者には聞こえないということが家庭内で起こってきます。
ユニバーサルデザインを考慮した報知音の推奨がJIS等にもありますが、本格化する高齢化社会を見据えて議論していかなければならないと思います。このような帯域(音の高さ)の設定に加えて、音の拡がりというのも重要です。
現状はそれぞれの音が広がりたい放題広がることが多いし、またそれが響く環境の中で混ざり合っているということだと思います。最低限のエリアだけ伝わるという、適正な指向性を踏まえたアイディアも必要になってくると思います。
恐らくメーカーは既に始めてると思いますが、一部車の走行音のように統一規格的にやらないといけない課題だと感じています。
プロフィール
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井出 祐昭 HIROAKI IDE
サウンド・スペース・コンポーザー Sound Space Composer
有限会社エル・プロデュース代表取締役
井出 音 研究所 所長
ヤマハ株式会社チーフプロデューサーを経て、2001年有限会社エル・プロデュースを設立。最先端技術を駆使し、音楽制作、音響デザイン、音場創成を総合的にプロデュースすることにより様々なエネルギー空間を創り出す「サウンド・スペース・コンポーズ」の新分野を確立。イマジネーションを最大限に喚起する次世代の立体音響システム“ELPHONIC”を開発し、医療・健康分野との関連も深めている。
主な作品として、30周年を迎えるJR新宿・渋谷駅発車ベル、愛知万博、上海万博、浜名湖花博、表参道ヒルズ、グランフロント大阪、東京銀座資生堂ビル、TOYOTA i-REALコンテンツ、TOYOTA Concept-愛i、SHARP AQUOS、立川シネマシティ、世界デザイン博など。
またアメリカ最大のがんセンターMD Anderson Cancer Centerで音楽療法の臨床研究を行う他、科学と音楽の融合に取り組んでいる。最近では、日本ロレアルと共同で髪や肌の健康状態を音で伝える技術を開発。米フロリダ州にて行われた化粧品業界のオリンピックである第29回IFSCC世界大会、PR分野の世界大会であるESOMAR 2017にてグランプリを受賞。
http://elproduce.com/
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