「夢」か「安定」か? 〜超就職氷河期に二度内定を捨てた話し PART11〜

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前話: 「夢」か「安定」か? 〜超就職氷河期に二度内定を捨てた話し PART10〜
著者: 石本 良幸

前回のあらすじ


まさかの展開になってしまった…


僕らのグループはクラス代表として、200人の前で発表をすることになったばかりか、小林先生に代わり研修をすることになってしまった。


その研修は、自分たちがどんな風に発表をするのかをクラスのみんなと考えるというものだったが、結果は惨敗。


発表できるどころか何も決まらないまま終わってしまい、まさに「当たる前から砕けろ!」状態になってしまったのである。


そんな状況の中で唯一の救いであった小林先生も僕らを見放してしまい、武器も作戦も無いまま僕らは「200人の前で発表」という戦場にかり出されることになったのである…


「チームワーク」


午前中の研修は衝撃的な形で終わってしまい、僕は唖然としたまま昼休憩を迎えることになった。もちろんのんきにご飯を食べている時間は無く、少しでもまともな発表ができるように班のみんなで話し合った。


クラスのみんなもあまりに中途半端な形で終わってしまったためか、僕らのテーブルに集まってくれてみんなで「どうやっていこうか?」と協力してくれたのである。誰一人、昼休憩には行かずに!


最初はテンパっていた僕もその状況を見て嬉しい気持ちになれた。まだ3回程度しか顔を合わせていないけど、こうやって一致団結して少しでも良い形で発表できるよう力を貸してくれる。知らず知らずの内に僕らのクラスの信頼関係は大きくなっていたのだ。


「なんとかして昼休憩の間にまとめれるようにしよう!」


みんなの協力してくれる姿を見て僕はもう一度頑張ろうと思えた。時間はわずかに1時間、その間にさっきの研修ではまとめることが出来なかった案を作り出さなければいけない。


「みんな何でも良いので意見はありませんか?」と大塚さんもいつの間にか気合いが入っていたのか、大きな声でみんなに質問してくれた。しかも今は昼休憩なので小林先生がいない。


さっきは黙っていた就活生たちもここぞとばかりに意見を言ってくれた。そしてその意見の一つひとつを奥村くんが一生懸命にホワイトボードに書いてくれた。


僕も何とか無い知恵を絞り出して良いアイデアはないかと考えていた。


ただし制限がある。さっき小林先生に言われたみたいに発表の形を大きく変え過ぎることはNG!基本は僕らの発表の仕方に色を加えるようにまとめていかないといけない。


それが難しいのだ!!みんなの意見を聞けば聞くほどやっぱり形は変わってしまう。最初は付け加える形で話していても、いつの間にかまったく違う形になってしまう。


これにはみんな頭を悩ませていた。小林先生からの指摘はクラスみんなが聞いていたので、誰もがその条件をクリアしないといけないことはわかってくれた。


切羽詰まった状況なだけに意見はたくさん生まれるものの、それを冷静にまとめるだけの余力が僕含めて大塚さんも奥村くんにも無かった。何度も何度もホワイトボードに書いては消してを繰り返しながら僕らは悩んでいた。


そうこうしている間に40分くらいが過ぎてしまい、もはや全員疲労のピークと空腹のピークに差しかかってしまった。そりゃそうだ、朝からずっと考え続けているばかりか、誰もお昼ご飯を食べに行ってないのだから。


僕も半分意識がぼ〜っとなりながら「どうしようか…」と悩んでいたが、その反面満たされる気持ちもあった。約40名近くの就活生が僕らの発表のために必死になって考えてくれる…もはやそれだけでじゅーぶんではないか?発表の場で失敗しようが恥をかこうが良いのではないかと。


それは諦めから言っているのでは無く、うまく発表できること以上に何か大切なことを学べたからだ。その時一瞬、なぜか僕はインターンのときに聞いた杉村さんの話しを思い出していた。


「チーム一体になるってこういうことなのかな?」


そんなことをふと思いながら僕はみんなが力を貸しくれる光景を見ていた。たかがまだ練習、就活はこれから始まるだ。今回はどんな形になるにせよ、みんなの分まで当たって砕けてやろうと覚悟することができた。


残り10分くらいになった時、さすがにこのまま休憩なしはヤバい!ということになり、僕らのグループ以外の人たちは簡単な休憩タイムを取ることにした。僕たちは結局発表の仕方をまとめれずにいたので教室に残ってあーだこーだ話しあっていた。


その時である。教室に一人の教官が入ってきて衝撃的なことを告げた。


「君らのクラスが最初の発表になるので、次の講義は早めに教室に来て下さいね!」


教官は満面の笑みでそう伝えるとそそくさと教室を出て行った…



「笑えねーよ!」僕はその教官の笑顔を見ながら思っていた。あまりの突然の自体に僕らは顔を見合わせながら黙っていた。「こうなれば意地でも何とか形にするしかない!」残り数分で何が形になるのかわからなかったけど、僕はみんなに伝えると他のメンバーもうなずいてくれた。


しかしである。1時間もかけて出てこなかったものがほんの数分で出てくるはずも無く、僕らはずっと頭を抱えている状態だった。するとまたも教室のドアが勢いよく開き、先ほどの教官が入ってきた。


「君たちいったい何をしているんですか!もう午後の部が始まっていてみんな集まっていますよ!企業の人たちもいらっしゃっているので早く来て下さい!」


あまりに集中していたためか、どうやら午後の部が始まっていたらしい!結局何もまとまらないまま、僕らは戦場へとかり出されることになってしまった。


誰もが下を向いて困った顔をしている中、僕は一緒に発表してくれる大塚さんと奥村くんに向かって言った。


「こうなれば、もう発表の仕方にこだわることは辞めましょう。各自インターンに参加して感じたことや学んだことがありますし、それを素直に伝えることにしましょう。当たって砕けることになるかもしれませんが、なんとかして全力は出しましょう!」


僕は勢いよくそう言った。たぶんクラスのみんなが協力してくれたこと、そして思考の限界まで考え続けていたためかいつもの臆病な自分は消えていた。


その言葉にすかさず奥村くんが「石本さん!そうしましょ!やれることはやったんですし、ここはもう当たって砕けろですね!なら僕が最初に発表して何とか場の空気を作ってみます!」と言ってくれたのだ。


すると今度は大塚さんが「私もそれで良いと思います。奥村くんの後は私が発表するので、最後は石本さんお願いします!」と賛成してくれた。他のメンバーも「それで良いです!」と言ってくれたので、僕らは各自の想いを素直に話そうという形で発表することになった。


急いで大教室に移動する間、僕は色んなことを考えていた。あれだけディスカッションしたのに何もまとめきれず、あげく最終的には「それぞれが自分の想いを伝える」という順序も何もない形に決まった。


おそらく発表が終われば小林先生に「お前ら全然形になっとらんやないか!どないしたんや!」って怒られる可能性100%…それでも僕らは全力で話し合ったので、もうこれでいくしかないと思った。


大教室に着いたとき、いつも以上に心臓の高鳴りがヤバいことに気づいた。


「このドアの向こうには200人の就活生と企業の人たちがいる…」そう考えるだけで頭はパニックになりそうだったが、不思議と「逃げ出したい!」という気持ちは生まれてこなかった。


おそらく休憩時間のギリギリまでクラスのみんなが協力してくれたおかげで、僕はへなちょこなりに覚悟を決めることが出来たんだろう。


そして深呼吸して教室のドアを開いた。


ドアの向こうの光景を見た時、僕らはビックリした。


そこには200人の就活生と企業の人たちがびっしりと座っていたがそれ以上に驚いたのは、なんとクラスのみんなが一番前の席を陣取って大きな拍手で迎えてくれたのだ!


本当に嬉しかった。僕は熱い想いがこみ上げてくるのを感じた。


そして大塚さんや奥村くんも、その光景を見たときに嬉しそうな表情を浮かべていた。


40名近くのクラスのみんなが一番前で応援してくれる。その光景を見ただけで「全力で当たって砕けてやろう!」と腹をくくることができた。


僕ら3人が前に立った時、マイクが渡されて「時間が少し押しているのでさっそく発表お願いします!」とさっきの教官が言った。


僕は奥村くんの顔を見ると、向こうも頷いてマイクを口元まで持っていった。


いよいよ僕らの発表が始まる。


「奥村くん、頑張ってくれ!!」僕は心の中でそう応援した。


「それでは今から僕らのグループの発表を行います!みなさんよろしくお願いします!」


奥村くんは今までで一番大きな声を出して発表を始めてくれた。

教室の端までキンキンに響いたその声は、僕にとって大きな勇気を与えてくれる声だった。


「ありがとう、奥村くん!」僕はそう思うと、奥村くんはそのまま発表を続けてくれた。


もう発表の仕方にルールも何もない。ただ各々がインターンを体験して学んだことを話すだけ。超シンプルな発表の方法だったが、どう話せば良いのか僕の中でまとまっていなかった。


それでも奥村くんは一生懸命に自分の感じたこと、学んだことを話してくれた。


僕は奥村くんと同じインターンに参加していたので、発表を聞いていると「確かにそうやな!」と共感できることばかりだった。ついこの間参加したインターンが、ずいぶん昔のように思える気がした。


奥村くんの発表が終わると次に大塚さんにマイクが渡った。「大塚さんの発表が終われば最後は自分」僕はそう覚悟しながら大塚さんの話を聞いていた。


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