『河 岸(カシ)』父親と暮らした記憶がない、半身の私が、人生の旅に出たストーリー

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「清香ちゃん元気?」と尋ねた。

恵子叔母様(清香ちゃんのお母さん)も離婚をし、再婚して大阪の方で暮らして居るらしい。

孫の清香ちゃんとおばあちゃんは、長い間、一緒に暮らして居る。フランス人形みたいに可愛かった清香ちゃん。

「まったく怠けることを知らない。とにかく、仕事、仕事で、言い合いになる事もあるよ。食事も肉ばかりではいけないと思って、色々考えて作っているよ。恰好は、京子に似てきたわ」

 愛くるしいぐらいに可愛かった、従妹の清香ちゃんが、キャリアウーマンで頑張っているのだと感心して

「写真ない?」と尋ねると

「あるかも?」

財布から取り出した写真は、亡くなった京子叔母様の写真だった。

「これは、京子か」と笑っていたが、

美しかった、京子叔母様の姿と清香ちゃんの姿を重ね想像がついた。

元気で、楽しくくらしているようで、尊敬の眼差しで、おばあちゃんと語らいだ。


「一緒になって十年してから、急におじいさんに

『息子が二人来た、面倒みろ!』

『面倒みれないのなら、娘二人連れて出て行けー』

って急に言われてねぇー、家庭教師もつけて必至に育てたよー

しかし、順司は頭はよかったよ。会社でも会計の方は全部やっていたし。

おじいさんに、怒ってやった事があったわ『空から息子が降ってきて、私は、男を産まずに済んだわ。後からババアも降って来たしねぇー』って」

 おじい様に連れ添い、会社を手助けして、家庭を築き、娘二人を儲けてから、日本語も分からない親父と親父の兄の叔父さんを育て、親父を大学まで出して、おばあちゃんの苦労も壮絶だったであろうに・・・。

食事も終わり、店を後にして、おじい様を参りに屋敷に戻った。


 久しぶりの屋敷に足を踏み入れると、門の扉や、家の窓枠は、木ではなくサッシに変わっていたが、家具の配置や、家全体の質感さえ変わらない。

懐かしさでいっぱいになった。

変わってない事に尊敬する。おばあちゃんが、それだけ、日々、手入れをしている事が伝わる。

お母さんも懐かしそうだ。

 玄関から、庭に面した廊下を通り、奥のかつて、おじい様の部屋であった居間に向かう。

居間には、仏壇があった。

おじい様の遺影の横には、若くして亡くなった京子叔母様の遺影が並んでいる。

「おじいさん、参りにきてくれたよ」

と笑いながら、おばあちゃんが報告した。

おじい様の仏壇に向かい、お線香に火を灯し心を込めて拝んだ。

拝み終えると、おばあちゃんが話し出した。

「私は、毎朝、仏壇にお経を唱えとるよー〝私は神も仏も信じとるでー〟

「順司が、二人目の嫁さんを連れて来た時は、おじいさんが激怒してねー

『三人の子供をお前はどうするんだ!』 『お前には財産をやらん』

って物凄い剣幕だったわー」

 そんな事もあっのか。私はおじい様と、話しをした覚えはないけれど、私達を心配してくれた事があったのだ。

お父さんは、おじい様に奥さんを紹介していたのだ。

初めて聞く話しに、心は複雑だったが『お前には財産をやらん』との話しは、どっかか聞いた言葉だなぁーと苦笑した。

「私は、これっぽっちのお金しかもらえなかったけど、あんた達は、きちんと、もらわなかんよ」

とおばあちゃんは助言してくれたが・・・。

「遺言で、奥さんに全部渡すって書いてあるみたい」と私が言うと

「順司は、尻に敷かれていたんだわ、キツイ性格の奥さんだったで、言いなりだったのだわー」

と良くは言わなかった。

 父は、尻に敷かれるようにも、言いなりになるようにも想像できない私は、黙って聞いていたが、多分、私の中の奥さんのイメージの方が正しいかと、何故か確信があった。

「おじいさんが死んだ時は、遺産が十億あったんだよ」

(十・・・十・・・十憶・・・・・・)

私は、表情には出さなかったものの、心の中で、これにはさすがに驚きすぎた。

「それを、一年も、もたないババアに、半分いってまってー」

おばあちゃんは、投げ捨てるように続けて話し出した。

「私と恵子は、二千万円貰っただけだわ。ここの土地代も毎月払っているし」

「・・・・・・」

 あっけらかんと、おばあちゃんは話したが、

(土地代って・・)

屋敷の前の土地も、後ろの土地もおじい様の土地だったと思う。別荘もあったし・・・。

それなのに、この屋敷の土地は、人の物だったなんて、なんて皮肉なんだろう・・・。

 おばあちゃんはおじい様と、籍が入っていなかったのだ。

おじい様と苦楽をを共にし娘を失い、最期まで看取り・・・。

遺産として親父達から受け取った額は、

たったの二千万・・・。


 私達の知らない所で、それなのに骨肉の争いもあったのだろうに・・・。

 言葉を失った私は、立ち上がり廊下の方へと歩いて行き、ガラス戸を挟んで庭に目をやった。

庭木も、よく手入れされている。

庭の池には、昔は錦鯉も泳いでいた。

「昔、おじい様と、ここで写真撮ったよねぇー」

おじい様と孫達とで撮った写真が、脳裏に蘇った。

同じ場所で、おばあちゃんとお母さんとで、並んでもらい、携帯のカメラに収めた。

 元気なおばあちゃんに、別れを告げ、屋敷を後にした。

(元気で何よりだった)

元気なおばあちゃんの姿を見て


―死して長者より生きて貧人ー

 いくらお金があったところで、死んでは何にもならないと・・・・。


 実家への帰り道、情けないぐらい一瞬にして愚行した。

 十億あった財産の半分は、籍の入った配偶者のお祖母ちゃんへ、あとの半分は、親父と叔父さんに渡った事になる。

一年後ぐらいに、お祖母ちゃんが亡くなっている。

親父と叔父さんには、お祖母ちゃんの遺産が入る事になる。

相続税、贈与税、その他土地の売買等で、半分は課税されたとして・・・。

親父の推定財産は、二億五千万程ではないか?と・・・。

親父譲りか?こういう時だけ、頭の電卓は、恐ろしいぐらいに早かった。

直ぐに、兄と姉に、それを伝えた。

二人共、桁違いの額に驚いた。


 兄は、明日出国する。

あちら様の弁護士と連絡が取れて、その日の内に会う事になった。


 夕方、姉の家で弁護士に会った兄貴を迎えた。

兄は、弁護士から渡された書面を姉と私に見せた。

数日の内に、同じ書面が姉と私の家にも送られてくると言う。

その文章に軽く目を通した。

 命日は書いておらず、父が死去した事だけが書いてあった。

遺言書の内容で、全財産を後妻に譲るとしてあるが、後妻の意向により、私達に遺留分にあたる額をお渡ししたいとの内容で一円単位までの金額が書いてあった。


ー言葉を失ったー


姉が、静かにポツリとこぼした。

「何も知らずに、この手紙が来た可能性の方が大きいよねぇー」

私も静かに頷いた。

 親父が死んだ事を、家のポストから手紙を開けて知ったと思うと・・・・。

 自分の性(旧姓)と同じ、初めて見る奥さんの名前も、活字で見ると違和感があった。

 遺言書の内容。

 遺産金額。

 たった数日の、僅かな時間で、私達は、ある程度の推測が出来てから、この書面を見た事に胸を撫で下ろした。

 兄は、弁護士より遺言書や財産目録も見せてもらったと言った。

親父が住んでいたマンションも親父名義になっていたと・・・。

現金残高。通帳残高。

動産は、マンション以外は無く、すべて現金化されていたようだ。

金額には、嘘がないように思えたと・・・。

「ついこの前、宝くじでも当たらないかなぁーなんて、旦那と話していたところ、でも、億でも当たったら、、人生変わってしまうから、すこし当たらないかなぁーって」

と姉が話した。

姉の子供も大学生が二人、教育費が重なる。何気ない夫婦の会話だったのであろう。

私達は、遺留分の金額に意義がない事を確認し合った。

「しかし、真理の予想は正解だったなぁー」と兄貴が苦笑いしたが、

私も、まさかの直観力に自分でも驚いた。

「お兄ちゃん゛金はいらん〟って言ってたよねー。いらないなら、お姉ちゃんと私に、頂戴よー(冗談)」

「俺も、子供が産まれるしー、何かと・・(苦笑)・・」

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