平凡な会社員が、“脳出血で倒れて働き方を考え直した”話【第十回】
復帰を信じて、リハビリ生活のはじまり。
僕が入院していたのは、大学の付属病院だった。
転院前の救急病院に比べて静かでお風呂にも入れたし、部屋もゆったりとしていたので随分と過ごしやすい環境になった。が…
一つだけ嫌だったのは、ドラマ「白い巨塔」でもお馴染みの集団回診だった。
朝になると脳神経外科の教授が医師や研修医をつれて集団回診にやってくるのだ。一人ひとり病状を確認されるのだが、同部屋の入院患者さんたちもいつもは元気に話しているのに、この時ばかりはおとなしくされるがままにしていた。
このころの僕は、左目が真ん中に寄っていた状態だったので、教授からは人指し指を目で追うように促され、皆の視線が集中する中で症状を分析されるのをただベッドの上で聞いているだけだった。
大学病院は、医師の成長と医学の発展のために存在しており、僕らのような患者は貴重な教材だと頭では充分理解していたつもりだったが、こればかりはやはりあまり気持ちのいいものではなかったのも事実だった。僕は、少しでも医学の発展につながるのだと自分に言い聞かせて気持ちを紛らわせていた。
先日の検査の結果で僕の頭の中で何が起こったか?が、大体わかった。
それは、誰にでも起こる可能性があることで、たまたま僕は頭の中で起こってしまったということであった。これは、運が悪いとも言えるが、生きているということは見方を変えれば運がいいとも言えた。
出血した場所は、脳幹でとても危険な場所だった。運が良かったのは出血した量が少なかったこと、出血した血が運動神経のある方向ではなく感覚神経のある方へながれたこと。もし運動神経に影響があれば呼吸ができなくなり、いまごろこの世にはいなかっただろう。
ほんとに紙一重だった。生きるか死ぬか?の瞬間は人生の中でいつ選択肢を突きつけられるかわからない。それも自分の意志に関係なくやってくるのだ。
「一日一日を本当に大事に過ごしていたのだろうか?」
恥ずかしい話だがこの病に倒れるまで、僕は全く意識をしていなかった。いつも当たり前のように起きて仕事に行き、夜遅くに疲れて帰ってまた寝る…の繰り返し。
当たり前のように毎日がやってくるものだとばかり思っていたが、つきつけられたのは本当は薄氷を踏みながら歩いているようなもので、いつ足元の氷が割れて冷水の中に落ちてもおかしくはないという現実だった。
僕には右半身の痺れや複視などまだまだ強い後遺症があったが、病状は安定してきたためリハビリを行うことになった。
脳出血で倒れてから、少しでも早くリハビリを開始することが大事なのだ。早期にリハビリを行い脳神経に刺激を与えることでダメージを受けた脳神経を少しでも復活させ、筋肉の衰えを最小限にとどめるのが目的だった。
復帰に向けてのプログラムが始まった。
今度こそは一日一日を大事に過ごし、社会復帰を果たすことが僕の目標になったのだ。
<つづく>
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