うつ・不眠症・ひきこもりだった主婦が3日間で715キロを下る、カナダの世界規模のカヌーレースで世界3位になった話

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「このペースだと、58時間半コースだね」

という声が聞こえてきた。


「このペースでいいですか?」と後ろを振り返って聞くと、

メンバーの一人が「いいです!」と言ってくれた。


「じゃあ、このペースで、出来るだけいいタイムを目指しましょう!」と言った。


リードの掛け声は私が取り、ゾロ君が合いの手を入れてくれた。

途中で、トマスキーさんが合いの手を入れてくれた。

後で聞いたのだが、私の不安が伝わってきたのだという。


このテンションでゴールまで行くのかと思うと、

なんだか悲しくなった。

ここまでがんばってきて、こんな終わりでいいのか?


そして、私はみんなに同意を取っていなかったことに気がついた。

「みなさん、このペースで、58時間台でゴールして、ハッピーですか?」

と、聞いてみた。


いろんな意見があったが、とりあえずこのペースで、

御嶽漕ぎで、ベストを尽くすということになった。


テンションが低かった状態から、少しずつ、

みんなが掛け声をかけてくれるようになった。


ちょっとノってきた私は、掛け声をアレンジした。

そしたら、ペースが速くなってしまった。


2回目にペースが速くなったとき、

「ペースはゾロくんに合わせたほうがいい」とフィードバックがあった。


ゾロくんがリードの掛け声を掛け、私はフォローの合いの手に回った。

とてもしっくりきて、気持ちよかった。


やはり私は女で、合いの手のほうが合っているのだ。

ゾロくんも、「あきこちゃんの合いの手、めっちゃ気持ちいい!」と言ってくれた。


途中、食事や飲み物を取るタイミングがあったが、

もうここまで来ると、何が誰のものだとか、そういうのは関係なくなっていて、

「誰かが何かを求めれば、持っている人が与える」という感じになっていた。


例えば、「ゼリー食べたいから、私の食事バッグ取って~」と後ろに言うと、

「そこにあるゼリー、食べていいよ!」という感じ。


ハイドレーションの水を半分こぼしたせいで、途中なくなっちゃったけど、

補充するのもロスになるから、勝手にゾロくんの水をもらっていた(笑)。


ハイドレーションにはチューブがついていて、口にくわえて水分をとる。

口にくわえる部分を共有するのは、普段なら多分躊躇していただろう。


そういうのが、とても気持ちよかったし、嬉しかった。

もう、私たちは仲間であり、家族なのだ。


ラスト1時間になったとき、

ゾロくんが「ペース上げていいですか?」とみんなに聞いた。


そこから、怒涛のラストスパートが始まった。

ラスト30分になったとき、さらにありえないくらい、ものすごいラストスパートが始まった。


全員が大きな声を出し、全力で限界まで力を出し切った。

特に男子の声は本当に大きくて、力強い掛け声だった。


男子がリードし、女子がフォローする。

男性性と女性性のエネルギー交換のピークだった。


途中で二人乗りカヌーを抜いた。

周囲には、相当異色に映っていただろう。

「このジャパニーズは一体何なんだ?」と(笑)。


ゴールしたとき、ポーズを取る余裕もなく、みんな倒れこんだ。

ゾロくんが男泣きをしていた。

とても美しかった。


陸になんとか上がったとき、みなちゃんが泣いていた。

急に緊張が緩み、私も泣けてきた。

はるかちゃんも泣いている。


その後、みんなでハグし合った。

温かくて、安心した。

私たちは、無事に完漕したのだ。


タイムはなんと、57時間6分だった。

ボイジャー(ボートの種類)部門で堂々3位。

日本人初の快挙ということだった。


ヘタレチームと言われた私たち。

誰一人欠けても、このような結果は残せなかっただろう。


男性性と女性性のエネルギー交換。

私たちはこの3日間、ずっと愛の行為をしていたのだ。


一つになって、巨大なエネルギーとなって、完璧な調和で進んでいく。

開放的で、果てしなく気持ちよくて、幸せで、楽しい時間。


至福を追求した感じがした。



今回のレースにおける個人の目標は、

55時間というタイム以外は、全て達成できた。


その中で、私がずっと掲げてきたものの一つに、

「女性性を上げる」というものがある。


正直、アドベンチャーレースは、男性性で臨むものだと思っていた。

女性性は足手まといだと思っていた。


でも、女性性で取り組める。

これだけは自信を持って言える。

むしろ、男女混合チームの方が、男女のエネルギー交換でパワーアップできるのではと思う。


あとは、「人にどう思われているか」と、

「~でなければならない」といった価値観を手放す。


これが、自分にとって「最も恐れているもの」だったと思う。

それが、レースの中で向き合えたことはとてもよかった。


世界を信頼し、世界から受けとる。

自分が望む方向に、世界が導いてくれる。


世界はいつでも、両手を広げて、待っててくれている。

勇気を出して、ありのままの自分を出したら、世界は温かく受け入れてくれる。





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ユーコンリバークエストという大冒険が終わり、

私はすでに次の冒険に旅立っています。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

このストーリーが、みなさんの新たな冒険に出るきっかけとなれば、とても嬉しいです。


チームメンバー、

応援してくださったみなさま、

たくさんのアドバイスをくれたみなさま、

カヌーの漕ぎ方指導をしてくださった、御岳レースラフティングクラブのだいごさん、

手厚いサポートをしてくださった現地の日本人サポーターのみなさま、

温かく迎えてくれた現地の方々、ボランティアスタッフ、

一緒にレースに参加した外国人選手たち、

カナダの大自然、etc, etc...


感謝でいっぱいです。

ありがとうございました。


※念のためですが、このストーリーは「ユーコンリバークエストに出場しましょう!」という趣旨のものではありません。

本レースは大きなリスクが伴い、相応のトレーニングが必要です。素人のみでの参加は非常に危険です。ご承知おきくださると幸いです。

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ありがとうございました。


※一部写真 撮影:杉本淳/Photo : Atsushi Sugimoto/www.apl-as.com


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