うつ・不眠症・ひきこもりだった主婦が3日間で715キロを下る、カナダの世界規模のカヌーレースで世界3位になった話
フォームの指導をしてくれて、
誰もやりたがらない意思決定をしてくれて、
数え切れないくらい彼に感謝していた。
その恩返しが少しでも出来たらと思った。
タイムロスを防ぐため、ここでも滞在時間3時間きっかりで出発。
出発は非常にストイックだった。
出発までのカウントダウンが始まる。
「あと2分!!」
「あと1分!!」
アワアワしてたら、ハイドレーション(水筒のようなもの)のフタを一時的にしなかったせいで、
出発したときに水を半分こぼしてしまった。
しかも、こぼれた水が思いっきりゾロくんの夜の防寒着にかかり、
ビショビショになって使い物にならなくしてしまった(笑)。
<最も恐れているものと向き合う>
あれだけ疲れていたのに、ボートに乗ると驚くくらい体が軽くなった。
最初は不安だったが、一番前の、初めて見る景色にさらにテンションが上がる。
水の重さの違いは、たいして問題ではなかった。
とにかく漕ぐことが、気持ちよくて楽しかった。
水を掴むときの感触を丁寧に味わった。
水も、人も、自然も、みんな友達。みんな仲間。
だいごさんに習った漕ぎ方のベストができた。
体を捻って、パドルを前から入れる。水の重さを感じて、ストロークを長く。
御嶽での練習のときは、数分で疲れていたのに、今は何時間でも漕げる。
後ろから、ジョナサンとはるかちゃんの軽快な声が聞こえる。
「超気持ちいい!!超楽しい!!いつまででも漕げる!!来年もユーコン出たい!!」
みんな、復活したようだ。
カークマンクリークで、みんな死んだように疲労困憊だったのが嘘みたいだった。
指導が上手い二人は、一番後ろのみなちゃんとトマスキーさんへ漕ぎ方のアドバイスをしていた。
それにより、みんながベストな漕ぎで最終日を楽しめたと思う。
人間の可能性は未知数だ。
御嶽で練習したときは、1日の練習でぐったりだったのに、
それをはるかに超えた時間を漕いでいる。
しかも、睡眠は極めて少ない。
ハイになると、痛みも疲れも吹き飛び、
ただひたすら、気持ちよくなる。
自然との一体感を、チームメンバーと、世界と感じることができる。
絶好調のまま、ぐんぐん前へ進んでいく。
「残り100キロ。あと7時間くらい」と声がかかると、
あーもうそのくらいで終わっちゃうのか・・・寂しいな。と思った。
スタート時に比べたら、完全に感覚がおかしくなっている。
カークマンクリークを出てから、リードの掛け声は2列目以降にお願いしている。
一番前のゾロくんとわたしは、合いの手で合わせていった。
途中、リードが早くなったので、指摘して直してもらった。
残り6時間くらいになったころ、他の選手のボートが次々と現れ、
私たちはそれを鮮やかに抜いていった。
抜くときは、漕ぐペースを上げて鮮やかに抜き去る。
とても気持ちがいいのだが、ペース配分は大切だった。
2回目に他ボートを抜き去ったとき、
ペースがかなり速くなり、抜いた後も落とす気配がない。
うーん、これはどうしたものかと・・・私なりにシュミレーションしてみた。
今、絶好調の人は、きっとこのままのペースでいきたいだろう。
それ以外のメンバーは?
いけるかもしれないけど、途中で疲れてしまうだろう。
そうなると、ちゃぷちゃぷ漕ぎになる、もしくは途中で休憩が必要になる可能性大。
となると、全体のパフォーマンスは落ちる。
そもそも、このペースだと御嶽漕ぎがちゃんとできない。
実際、高速漕ぎに近くなっている。
あと5時間以上ある。このペースでいくのは危険だ。
ゾロくんにそのあたりを話してみた。同意。
ゾロくんに話した理由は2つある。
1つ目は、自信がなかったから。
そして2つ目は、ゾロ君にそれを言わせたかったからだった。
今までいつもそうしてきた。
もし、これを私が言ったらどうなる?
嫌われるかもしれない。
みんなハッピーじゃないかもしれない。
ペースを落とさないほうがうまくいって、いいタイムが出せるかもしれない。
その責任は誰が取る?わたし?
ぐるぐる考える中、勇気を出して大声で言った。
「ペースが速すぎます!
このペースだと、御嶽漕ぎができません!
もっとペースを落としてください!」
以前の自分なら、こんなことは言えなかった。
周りに合わせて、自分の意見を言わないほうが楽だから。
うまくいかなかったら、誰かのせいにできるから。
自分は責任を取らなくていいから。
嫌われてもいい。チームのために言おうと思った。
「~です!」と断定する言い方も、
以前はしなかった。
普段はたいてい、
「~だと思います」
「~かもしれません」
など、曖昧な言い方で自分を守っていた。
<調和へ>
思い切って言って、漕ぐペースを落としたものの、
みんなテンションが明らかに下がっていた。
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