出産を控えたパパに捧げるプロローグ パパの長い一日
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8:15『ビデオ撮らなくていい?』。えっ!? 先生なりのジョークかなんかとマジで勘違いした。。。そうかぁ録音でなくて、ビデオ持ち込んでもいけたんか・・・そんなん思いもせんかったわ。それにもう準備する余裕ないし。そもそもビデオカメラ持ってないよ・・・とにかく早よ産ましたげて。・・・ ←こう思ったのはたぶん0コンマ003秒ぐらい。即効で「いっ、いいです・・・」と答える。
『よし、ほなね結構ねチクッとするよ』。麻酔?
「あ”ぁぁぁァァァaaa!」
これ痛いんやろなー。自分の大事なところにプスプスと刺される大きな針を想像してしまい、ここに来たことを初めて一瞬だけ後悔した。
8:16:00『いいよ、きばって』。
「目あけてぇねぇ、頭あげて。ンんnーーーん」 。
「ふぅんーーーーーぅ」
「はい、もっかい(もう一回)息継ぎして。息吸ってぇー」。
「はぁアぁ~~ーー」
「声ださなーい」。
「んんnーーーーーーーーーーん!」
『上手に気張れよるで』。
「はい、もっかい」。
『はいもう一回以降、頑張ろう』。先生の低い渋い声が、自信と安心感を与えるのか? もうすぐエンディングであることがなんとなく感じられる。
「ふぅんーーーーーぅ」
8:17:00『ちょっとな佐藤さん、一生懸命いきみよるようやけどな。力、セーブしとるやろ。もっと気張れるはずや』。そんなアカデミー賞級の演技力たぶんないって。先生流の激励?とともに痛みが治まる。
『いたなったら気張ってよ』。
8:18:00「きよる? きよんね。よし大きく吸って、はいてー、すって、はいてー。
“お”“お””き”“く”↑すってぇ↑ トメテ! はいキバル!! ンんnーーーん」。
「んんnーーーーーーーーーーん!」
「目ぇあけて、んんーーーはい頑張って」。
『そう、そうそうそう』。
「ンンnーーーーーーーーーーンnnn!!!」
ヘソが今にも発射しそうなぐらい飛び出しているよ。
こっから別のものも生まれるのか!?
『そう、そう上手、そう』
8:18:30 『ちょっと一回休もうか』。
「はい休んでぇ」。えっ休むの?
「はー↑はー↑はー↑」
『今度かな?』。
「はーはーはー」
8:19:00『痛み出したらゆうてよ』。
8:19:30 『次でるだろう。がんばりよ。うまいこといったら次でるけん』。
「はい!」
力強くはっきり返事しとるよ。母親ってすげーぇ! もうオレ泣っきょるよ。
8:19:45「大きく吸って、はいてー、すって、はいてー。“お”“お””き”“く”↑すってぇ↑ はいトメテ! んんーーーー 」。
「あぁ↑↑↑ーーーーーぁxxxxーーー」
「声だしたらいかん。んんーーー声だださないよー」
「NNNーーーーーーーーーーンnnn!!!」あかん、
マジへそが発射する!!
「めぇーあけて!めぇーあけて!!あけて!!!」←オレ必死。実はなんで目をあけなあかんかとか全然わかってない。
『はい、でたよ。はぁーはぁーはぁー』。
「ハァー↑ハァー↑ハァー↑」
『もう気張ったらいかん。もう気張ったらいかん。気張ったらいかん』。
8:20:00「ハァー!↑ハぁー。はぁー。はー。」
『はぁはあー言うて、はぁはあ』。
「はーはーはー」
8:20:10 『はい、おめでとー』。
「アcァあぁぁぁ」
「八時二十分でーす」。
「アcァ亜ぁぁぁ!」←オレ
「女の子ですよー。おめでとございますー」。
「はぁぁぁありがとございますぃぅゥuーーー。Hァ、Hぁーーアァ↑あぁぁ」
8:20:45
「え”ぇ”お”ほぁぎゃゃーーあgyaゃぁぁ””みぎゃぁぁRぁらrぁAぁ」
生まれてからの時間は全く覚えていない。自然分娩とは言え、少し縫わないといけないらしくいったん外に出された後、かなりの間、涙も鼻水も止まらなかったのだけは覚えている。自分自身、涙もろいのは知っていたけど、こんなに嬉しかったのはいつ以来だろうか? 大阪難波にいる母、そして義父に伝えなければならないとコールしたが、嗚咽だけで言葉にならなかった(ひたすら鼻水を啜る音だけが聞こえていたに違いない)。それは生まれてきてくれたことへの嬉しさだけでなく、十月の間、そしてラストの10時間(←24時間どころか、100時間以上の出来事だったように思うのだけど、実際は10時間なんだよね)頑張ってきたヨメへの感謝の涙、そして分娩につきあってみて男ってつくづく無力ダウンなんやなと痛感させられた涙だったと思う。カッコつけてるわけではなく、ホントに正直な思いなのだ。クサイ言葉だとは思うけど、この気持ちを忘れないようあえてココに記しておこうと思う。
いろいろな処置が終わって、再度分娩室に呼び入れられるまで分娩室用の手術室と書かれた緑のスリッパを履いたままだったけど気にしない気にしない(^-^;。
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