第14話 1本の木と奇妙な夜 【少し不思議な力を持った双子の姉妹が、600ドルとアメリカまでの片道切符だけを持って、"人生をかけた実験の旅"に出たおはなし】
私も、みんなのコップにラムをつぎながら地図をのぞきこんだ。
アイリーンが地図を説明するルカの写真を撮っていた。
みんなもう大分いい気分のようだ。
彼女にもラム入りのコップを渡す。
ルカが嬉しそうに今までの旅の話をしてくれる。
地図を指差しながら、国ごとのstoryを話していた。
私たち三人は、彼の世界観に夢中だった。
ルカの口から語られる旅は、少し色があせたポラロイド写真のような、
古本屋で見つけたノンフィクションの冒険小説のような
人のこころの中に残る、何かがあった。
みんな”旅”といっても様々だ。その人の色や匂いがある。
偶然なんとなくここに集まったアイリーンやマイク、
そして私も、それぞれの旅の景色があるんだ。
なんだか不思議な気分だった。
◆
ルカの話も終わり、彼もラムを口にしながら地図をたたみ始めた。
横で覗き込んでいたマイクも立ち上がる。
すると、ふと顔をあげたマイクと目があった。
マイクのいきなりの質問に少しに戸惑う。これはよく旅で聞かれる質問だった。
でも英語だとうまく出てこない。
ほら、ソウルカラーとか。
困っている私に、ルカが助け舟を出してくれる。
英語でなんて説明しようか迷っていたけれど、絵なら見せれば話が早い。
自分の携帯をとりだし、自分の絵を見せた。
日本で描いたソウルカラーもちょっとした絵も、全部写真に収めていた。
マイクが興味津々に覗きこむ。
彼はソウルカラーを指差していた。
なんとか英語で説明してみる。
うまく伝わったのか、よく分からなけれど、
驚いたような顔をしてまた何度も写真を見ていた。
とても気に入ってくれたようだ。
そして次の写真、次の写真へとスライドしていく。
自分の描いた絵が流れていった。
すると、彼はある絵で手を止めた。
携帯はもう彼が握りしめていた。
私は横から覗き込む。
それは私の描いた”木の絵”だった。
そういえば、旅に出ると決めてから
私はやたらと”木の絵”ばかり描いていたことを思い出した。
旅に出る1ヶ月前くらいからずっと描いてるんだ。
当時のバイト先の壁にも、この木の絵を描いた。
引っ越しをする友達にもこの絵を送っていた。
イギリス人の友達への誕生日プレゼントも、
この木の絵で専用のノートを作って渡したくらいだった。
「まほはなんでこの木ばかり描くの?」
友達に何度もそう聞かれても、私にも分からなかった。
とにかく何か描こうとペンを持つと、ついついその一本の木を描いてしまう。
そしてその木の絵のどこかに正三角形の模様と、
RAVAN(ワタリガラス)を描くようにしていた。
これは「宇宙と自然と生き物が正三角形のベストバランスであるますように」
と私が学生の時考えた記号だった。
それは本で読んだ、「(RAVAN)ワタリガラスの神話」で教えてもらったことだった。
マイクが静かに言った。
何だかマイクの様子がおかしかった。
とても驚いたような、なんとも言えない表情をしてこちらを見ていた。
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