【第四話】『彼らがくれたもの』〜死に場所を探して11日間歩き続けたら、どんなものよりも大切な宝物を見付けた話〜
こんなことをどこにいても一日中考えていた。
死にたいと思っているのに、
なるべく楽に死ねる方法を探している。
実にバカげた話だ。
その気になれば、すぐそこにある包丁で頚動脈をかっ切って、ほんの数秒であの世に行けるのに。
それが出来なかったのは、正直言って迷いがあったからだろう。
本当は死にたいなんて思っていなかったからだろう。
僕にはそう思わせてくれる要因が幾つかあった。
死が教えてくれたこと…
死を意識した時、必ず頭に浮かぶ顔があった。
それは、中学の頃の友人だった。
バスケ部で3年間、一緒にプレーをしたやつ。
20歳を過ぎてから仲良くなって、
地元でよく呑みに行ったやつ。
この2人は、もうすでにこの世にはいない。
バスケ部の友人は、とても明るく、元気で、とても良いやつだった。
試合でシュートを決めると、対戦相手が嫌がるほど大きく喜ぶようなやつだった。
バスケが大好きなやつだった。
そいつはバスケの強い高校に入り、バスケ部に入ったが、
間もなくして脳腫瘍が見付かり、入院。
手術もして、一度はまた一緒にバスケをするほど回復したが、まもなく亡くなった。
家に彼の死を知らせる電話の音が鳴った途端、
「あいつが死んだ…」
と電話に出た母親から伝えられる前に分かったのは、不思議な体験だった。
葬式で、彼の母親に言われたことを今でも覚えている。
棺の中を覗き込み、バスケ部のみんなで彼に最期のお別れをしていた。
「あなたがひーくん?(僕のあだ名)」
「この子からよく話を聞いていたの。」
「会えて嬉しいわ。」
「◯◯、ひーくん来てくれたよ!」
どんな話を聞かされていたのか分からないが、僕はいい印象だったようだ。
そして最後にこう言った。
「この子の分まで、精一杯生きてね。」
一人息子を亡くした親の辛さは計り知れない。
息子が眠る棺のすぐそばで、息子と同じ同級生の子供達は元気で生きている。
そんな中、彼の母親は僕に、
「生きて欲しい」
と言った。
もう一人、卒業してずいぶん経ってから仲良くなった中学の友達。
こいつも飛び抜けて明るいやつだった。
中学の頃は、お調子者の彼のことを、僕は少し苦手だった。
しかし、数年が経ち、彼のことが好きになった。
相変わらずお調子者だったが、いつも周りの空気を読み、場を盛り上げてくれた。
失礼なことも平気で笑いに変え、
どんな奴にも同じ対応をするやつだった。
そんな彼に最後に会ったのは、彼が死ぬ5日ほど前のこと。
僕らは、いつものように地元の居酒屋で呑んでいた。
彼は二浪して大学に入学し、四年生になる少し前で、
今年に入ってから就活を始めたところだった。
大学で就活を放棄した僕にとって、
1年以上も前から、一生懸命社会に出る準備をしている彼を尊敬した。
「この間、胃けいれんになっちゃってさ!笑」
「まじで死ぬかと思ったよ!笑」
彼は笑ってそう言ったが、
この時彼は、ものすごいストレスを抱えていたのだと思う。
将来の不安。
周囲からのプレッシャー。
そして、
二浪をしたことで、周囲の友達とついてしまった時間の差を、
必死で埋めようとしていたのだろう。
彼は、次の日も就活があるからと、途中で帰った。
これが彼と過ごした最後の時間だ。
今僕は、このストーリーを書きながら、彼のことを思い出すため、
この時一緒にいた地元の女友達に電話をかけた。
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