普通のサラリーマンだった僕が10km以上走ったことないのに1週間分の自給自足の荷物を全て背負って灼熱のサハラ砂漠で250kmを走って横断することになった理由
今日は最下位からのスタートか。まぁ、これも良い経験だ、と自分を笑った。
___サハラマラソンスタートまで、あと295日。
2014年6月14日。
僕は東京タワーで死にかけていた。
2ヶ月前に行われた第29回サハラマラソンの完走者であるオトシさん指導の元、今日は東京タワーで階段トレーニングをした。
オトシさん曰く、サハラマラソン完走に向けて重要なのはロード(普通の道路)でのトレーニングではなく、山でのトレーニング。サハラマラソンのコースは足場も悪く傾斜もある。いくつか山を越える場面もあるとのことだ。ロードでかなりの距離を走り込んでいても、その地形や山が原因でリタイアを余儀なくされる人もいるという。なので、山を走る(トレイルランニング)練習が良いとされている。
しかし、日常のトレーニングで毎度山に行くのもなかなか難しい。そこで有効なのが階段トレーニングだ。どんなトレーニングかというと、ただひたすらに階段を登って降りるだけである。
そして東京タワーでは土日の8:00〜10:00に限り、531段の階段をランナー用に解放している。これは高さ150m、42階建てのビルに相当する高さだ。
本番では10kgほどの荷物を背負わなければならないが、今日は初の階段トレーニングということで荷物なしで挑んだ。
531段あるとは言え、ただただ階段を登って降りるだけ。と、かなり舐めてかかった自分が馬鹿だった。
2往復目でもう足がピクピクと震えて使い物にならない。息も上がり、今にも吐きそうなくらいに気持ち悪くなってしまいました。
なんでサハラマラソンなんかに行くことにしたんだ、、、。
申し込みから12日。早くも猛烈な後悔に襲われた。
___サハラマラソン 4th ステージ 91.7km。(オーバーナイトステージ 1日目)
2015年4月8日。
遂にこの日がやって来た。オーバーナイトステージの始まりだ。
8日の朝8:00にスタートし、徹夜で91.2kmを走破するコースだ。もちろん制限時間内に収まるのであれば途中のチェックポイントなどで仮眠を取るのも自由だ。しかし、昨日の夜に日本人トップ走者の杉ちゃんにその話をしたら
との言葉を頂いた。
杉ちゃんにそう言われたらもうやるしかない!と、徹夜で進み続けることを決めてスタートを切った。
ここまで順調だったこともあり、まさかこれからの24時間が地獄のオーバーナイトステージになろうとは、この時の僕はまだ知る由もなかった。
___サハラマラソンスタートまで、あと26日。
2015年3月10日。
準備でドタバタしているというのにひょんなことから大森ハウスを卒業し、一人暮らしをすることになった。
最初はあんなに居心地の悪かった大森ハウスでの共同生活。今ではすっかり居心地が良くなっていた。
2014年の3月から3ヶ月間台湾で暮らしたときも、ひとりの時間が苦痛でしょうがなかった。
共同生活から一人暮らしへ。また居心地の悪いところへと飛び込む。そうしようと思わなくてもそうなった。10年サイクルでの流れ的にも今年はひとりになって自分と向き合う年らしいので、やっぱりそういう流れかと覚悟を決める。
引越初日、二本あったはずの部屋の鍵が見つからない。鞄、引き出し、服のポケット、仕事場、散々探したが結局出てこなかった。
___サハラマラソン 4th ステージ 91.7km。(オーバーナイトステージ 1日目)
2015年4月8日、AM9:00。
オーバーナイトステージスタート後60分後。
それは突然やって来た。
左足首前に違和感。違和感が少しずつ痛みに変わって行く。
なぜ今このタイミングなのか。よりによってオーバーナイトステージの開始直後なのか。
気がつけば昨日のラクダがすぐ後ろにいる。
痛みを感じ始めたという現実から逃げるように、僕はペースをあげた。
___サハラマラソンスタートまで、あと16日。
2015年3月20日。
また大切なモノをなくした。仕事場の鍵だ。
昨日の夜は職場の打ち上げでかなり盛り上がり久しぶりに記憶が曖昧になるくらいまで飲み明かした。
20日の夜になって預かっている大切な鍵がないことに気づく。
鞄、引き出し、服のポケット、仕事場、昨日のお店に忘れていないか、散々探したがまたも結局出てこなかった。
今日はもう遅くなってしまったので、明日の朝までに出て来なければ、上司に報告することにしよう。
鍵をなくすのは20歳の頃以来、実に13年ぶりだ。13年ぶりの出来事がこの短期間に続けて二回も起こるなんて、、、。
___サハラマラソン 4th ステージ 91.7km。(オーバーナイトステージ 1日目)
2015年4月8日、PM13:00。
第二チェックポイントを過ぎた。スタート直後に始まった違和感は既に完全な痛みでしかなかった。足を出す度に痛みが襲う。
まだまだ先は長い。距離も、時間も、果てしない。暑さと痛みが心を侵食して行く。
スタートして以来初めて「リタイア」の四文字が頭に浮かんで来た。
そのとき、前方から拍手が聞こえた。ずっとうつむいて痛みに耐えていたが、顔をあげると道の脇に停またったジープの側に4〜5人の走者が固まっている。その脇にはスタッフが2名。
何が起こっているのか疑問に思いながら、少しずつそこへ近づいて行く。
リタイアだ。
フランス人のチームのうちのひとりがリタイアする瞬間だった。先ほどの拍手は先を行く走者がここまでの彼を讃えての拍手だったのだ。
名前もわからない彼は歯を食いしばりサングラスの奥から涙を流しながら仲間の手を強く強く握っていた。仲間全員が彼の手をしっかりと掴み、お互いに声をかけあっている。
フランス語は一切わからない。わからないが僕には確かに聞こえた。
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