その日は突然やってくる。〜日本と外国の間で生きるという意味〜 世界は狭いフランス編

著者: Yuji Hoshino



ストラスブール、フランスの中で一番好きな街です。

いやストラスブールの人が好きなのかもしれません。

歴史的にドイツとフランスの間で翻弄された地域ですが、

ドイツ人の堅実さとフランス人の柔軟性、

両方の良い面を兼ね備えた人々だからです。 

日本人の思考によく似ていると思います。


ある出張の日、私はパリで仕事をしてからストラスブールへ

夜の20時の飛行機で飛ぶ予定にしていました。

しかしその日はオルリー空港が濃霧で飛行機の出発が遅れ、

離陸できたのが22時。

ストラスブールに着いた頃は、すでに23時を回っていました。


到着後、取引先の会社の社長さんが、わざわざ出迎えてくれ

今日は、是非レストランで食事をいっしょにしたいので

予約もしてあるし、今から行きましょうと誘われました。


私は時間も遅く、ご迷惑ではと断ったのですが

なかなかいいレストランだし、いっしょに食事をしたいという事で

強引に連れて行かれたのでした。


レストランに着くと、とても上品なマダムが出迎えてくれました。

「 Bonsoir 」

遅い時間にも関らず、その暖かい対応と笑顔、Bonsoirの言葉の響きが、

私の疲れた心を癒してくれました。


そのレストランの名前は、CROCODILE。

ストラスブールには2軒しかない3☆レストランの1軒でした。

さすがに3☆だけあって、料理をとても美味しく頂きました。

でもフランス人、本当によく喋りますから、フルコースとなると

3時間はかかってしまいます。

宝石のような綺麗なスイーツが運ばれてきた時は、深夜の1時過ぎ。

結局、深夜2時までお店を開けてくれていましたが

マダムの笑顔としぐさが変わることなく、とても上品で素晴らしく、

本物の接客に触れた「CROCODILE」のことが印象に残っていました。 


帰国して、寂しくなったことが色々ある中で

本場のクロワッサンを日本で食べることができないことが残念と

感じている日々が続きました。


そんな時、いつも車で通る道にあるデザイン事務所が閉鎖されて

なにやら改装が始まる様子。

何ができるのかなぁと何気なく漠然と見ていました。


数日後、通り過ぎてみると予想外にもパン屋さんになっていました。

あれぇ、フランス語が書いてある。

Blanc Pain

ちょっと興味を覚えた私は、次に来た時はお店に入ってみたいなぁと

思いました。


次の日、やっぱりお店を覗いてみたくて

お店に入ってみると、フランス人のご主人が奥でパンを捏ねる姿。

目の前には、フランスで見るクロワッサン、ショコラが並んでいます。

ここは本場と同じ味かもしれないと直感しました。 


たまたまお店に出てきたご主人とお話することができて

聞いてみると、フランスからバターや小麦を取り寄せているとのこと。

直感は確信に変わりました。


これは絶対本場の味に違いない!


お店でクロワッサンを買って、早速食べてみると・・・・・

やっぱり本場の味そのものでした。

うちの近くにフランス人のパン屋さんができるなんて

なんて幸運なんのだろうと嬉しくなりました。

店内を見渡してみると、ケーキも置いてあります。

このパン屋さんの奥様(日本人)は、パティシエでした。


さらにフランス人のご主人、奥様と話していると

奥様はストラスブールに住んでいたとお話しになりました。


ストラスブールといえば、

私はストラスブールで印象に残った出来事を話しました。

すると奥様はビックリされて

「私はCROCODILEでパティシエをしていたのですよ」と。

私もビックリ。

こんなに世界は広いのに、ピンポイントで繋がるなんて!

奥様も、日本でCROCODILEの話ができるとは思いもしなかったと

興奮気味にお話しされました。


あの時最後に出たスイーツは、彼女がつくったものだったと考えると

人の出会いはどこで繋がっているか分からないものと

改めて思ったのでした。


もし食事を断っていたら・・・

もしマダムの対応が普通だったら・・・

もしデザイン事務所がそのままだったら・・・

色々な偶然が重ならなかったら、

ストラスブールの出来事を話すことはなかったでしょう。

一期一会、出会いを大切にしていきたいと思った出来事です。


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