〜共感覚を使って愉しむ豊かな生活〜

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次の日、柚子はひとりでコンサートに出かけた。

音楽会の気分ではなかったけれど、

なにもしないでいるのもつまらなかった。


小麦粉の焦げる匂いと焦がしバター、

ちょっと蜂蜜の重さが気になる。

タマネギが焦げていて、その焦げた匂いが強い_。

それが彼の奏でるバイオリンだった。


バランスがよくない。


その日、柚子はあまり体調がよくなかったのかもしれない。

けれども彼の奏でるバイオリンはあまり美味しく感じなかった。

本来ならもっと美味しい組み合わせなはずなのになぁ。。


こういう日もある。

そう、あきらめてコンサートのホールを出たのだった。


別の日に行った、いとこの舞ちゃんの

ピアノの方が素敵。柚子は考える。

彼女の弾いたサティはぞくっとするほど素敵だった。

紫色の音楽。

なんというか、音符と音符、休符のあいだも

ピアノがささやきかけてきてよい意味での緊張感があり、

ジムノペティですら初めて聞いたような気持ちがした。

舞ちゃんのピアノはベルベットとアメジストの手触りだ。

柔らかな硬質。アメジストの輝き。

そうだ、こんど舞ちゃんに紫色のコロンをプレゼントしよう。。

柚子はそう決めると駅に向かうまっすぐの道を足早に歩き出した。


解説
料理のことを考えようとするのではなく、
音楽から自然にレシピが出来上がってくる
ので便利です。でもその通りに作って
美味しいかどうかは人によると思います。


ファンタジアン


JRのお茶の水駅を降りて明治大学のある通り沿いに歩きながら

柚子は頭の中に鐘の音が鳴り響くのを聴いていた。


朝の光とまだ新しい空気の匂い。。。

なにか予感めいたものを感じ、柚子はわずかに身震いした。

素晴らしいことがあるときはいつもそうなのだ。


ビスケットの建物(保険会社らしい)を

横目で見ながら坂道を下って行く。

この街にくる時は決まってこちら側の道を歩いていく。

これは柚子にとって大事な決まり事だ。


交差点まで降りて古本屋の方へ横断歩道を渡る。

柚子が目指すギャラリーはそこからごく近かった。


年に1度、柚子はそこで個展を開いていた。

今年は「ファンタジアン」というタイトルで、

柚子は様々な作品を描いた。

いろいろな人物の外側と内側を描くというもので

中々評判もよかった。

特に、人々の興味を引いたのは柚子の描く人物の

外側と内側のギャップの描き方だった。

内側は柚子がみている人物を描いたので

大変ユニークな仕上がりになっている。

ある人の内側はイチジク。

ばら色のイチジクの果肉、種がたくさんつまってる。

またある人は心臓がチーズだった。

ひんやりとしたチーズの冷たさを感じるからで

それは現実ではなくても柚子にとっては

それがその人の特徴だったから。

最近では柚子のそうした感覚で描かれた絵を

イラストに使ってもらうことも増えてきて

ようやく柚子は自分の居場所を見つけたと考えていた。


今日は会期の半ばで、料理研究家の友人をゲストに招き

ティータイムのトークショーをやることになっている。

友人は彼女の絵からインスピレーションを得た

お菓子を作ってきてくれていた。

ストロベリー・ルバーブパイ。

参加してくれた人に一切れずつ振る舞う。

甘酸っぱい果物の香りと味が

その場にいた人たちの心を和ませている。

柚子は空っぽになったパイのお皿を

ぼんやりとみつめながら思う。

人生とはなんとささやかなものなのだろう。


このささやかな人生を

自分の中にあるファンタジックな共感覚と一緒に

生きていくのだ、と思った。

自分の持っているものを素直に使いながら。

たぶんそれは正しいことなのだろう。


柚子はにっこりとしてパイの最後の一口を飲み込んだ。

頭の中に苺畑を飛び回るうさぎたちが一瞬見えた。


解説
共感覚を絵や音楽などに生かす人もいます。
それもひとつのやり方です。
でも、共感覚のあるなしに関わらず
日々丁寧に生きて、幸せを感じること
ができるのが一番なのではないかな
と思います。
解説
ちなみに共感覚は誰にでもある感覚です。程度が強いか弱いかだと私は捉えています。


読んでくださってありがとうございます。

共感覚の面白さが少しでも伝わったらいいなと思っています。

ポチッとしてくださったらとても嬉しいです。

どうぞよろしくお願いします。









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