「お腹の子は、無脳児でした。」最終話 ~妊娠498日の約束~
「この妊娠で最後にしよう。」
「だめなら、家族三人で明るく生きていこう。」
「これ以上は、ハナちゃんの心がもたないと思う。」
と、言ってくれた。
その言葉で、気持ちがずいぶんと楽になった。
はんちゃんはよく、
夫婦って「似たもの同士のないものねだり」だよね、と言う。
きっと、似たものだから理解し合えるし、
ないものを持っているから、助け合えるのかも知れない。
妊娠497日目
約束 1時間半前
「もう、だめ。」
ハナちゃんは言葉を振り絞るように訴えた。
願うように、時計を見る。
23:30
ナースコール。
部屋に近づく足音が大きくなる。
横開きのドアが、勢いよく開く。
妊娠497日目
約束 14時間半前
「よていび、もうすぎちゃっただよ!」
「予定日なんて言葉知ってるんだねー!」
10:30
夏休みのそうたろうと一緒に、2人で健診。
赤ちゃんの心音を初めて聞いて、ワクワクが止まらない。
エコーでは、「あ!顔だ!口だ!鼻だ!かわいい~!」と、女子高生のよう。
「まー、じき産まれると思うよ。」
穏やかな院長の言葉は、緩くも、達観にも聞こえるから不思議。
妊娠497日目
約束 9時間半前
ハナちゃんから着信に、時間を確認した。
15:30
午前の健診から帰って、しばらくして陣痛が始まったそうだ。
会社から病院まで、車で一時間弱。
急がず、慌てずとも、平日夕方前の道路は穏やかだった。
産院まで一直線の、開けた道にさしかかった時。
「本当にこんなことがあるのか」
信じ難い光景に、目を疑った。
病院の前に、大きな虹が架かっていた。
実際は、病院より奥かもしれない。
でも、充分ファンタジーじゃないか。
「赤ちゃんが、空から帰って来る!」
妊娠497日目
約束 6時間前
院長曰く、「今日中のお産はないと思う」
とのことで、自宅に帰ることに。
車中、7分から10分おきの陣痛が、
ハナちゃんの顔を歪める。
帰宅後、ハナちゃんの実家にいるそうたろうに、お泊りセットを届ける。
玄関から出てきたそうたろうの姿は、どこか物憂げだった。
「いい子に、するんだよ。」
「うん。」
「じゃあね。」
振り返ろうとした時だった。
そうたろうに呼び止められた。
「とーちゃん。」
その眼差しは、真剣だった。
著者のHanda Naotoさんに人生相談を申込む
著者のHanda Naotoさんにメッセージを送る
著者の方だけが読めます