「お腹の子は、無脳児でした。」最終話 ~妊娠498日の約束~
「ハナを、よろしくおねがいします。」
しっかりお辞儀をして、そうたろうは言った。
「え」
驚きと同時に、目頭が熱くなった。
大好きなハナが心配。
でも、自分は子どもだから付き添えない。
「託された」
と、心で感じた。
そうたろう、大きくなっていたんだな。
もう、立派なお兄ちゃんだな。
「任せろ」
子どもから受け取ったバトン。
何があっても、離すもんか。
妊娠498日目
約束 40分前
「俺は本気で、赤ちゃんが生まれ変わりの子だと思ってるよ。
長い長い、妊娠だよね。」
そう話した時、ハナちゃんは嬉しそうに笑った。
そのハナちゃんは今、苦悶の表情で、赤ちゃんと共に戦っている。
戦っているのは、命だ。
一度は亡くした命。
もう一度生まれ変わろうとする命。
もし自分が死ぬのなら、何をやり残したと感じるのだろう。
もしその後、生まれ変われたら、どう生きるのだろう。
そう考えれば、答えはシンプルだ。
「では、分娩室に移動します。」
時計は、0時を回っていた。
妊娠498日目。
やっと、約束を果たすことができる。
いきむハナちゃん。
がんばれ。
あと少しだ。
あと少しで終わるんだ。
これで楽になれるんだ。
妊娠498日目
約束
「54cm。3612グラムです。
大きな女の子ですよ。」
赤ちゃんは、女の子に性別が変わっていた。
やっと、終わった。
夫婦とも、感動より、安堵で崩れ落ちるような気持ちだった。
そして、やっと始まった。
ハナちゃんのお腹の上に置かれた君と、初めての握手をする。
おかえり。
まだ青白く、小さな小さな手と、498日の約束をつないだ。
一度は亡くした命。
もう一度生まれ変わった命。
失くしかけた夢も、冒険も。
きっと、その手で叶えられる。
さあ、
「人生を楽しもう。」
「お腹の子は、無脳児でした。」は、数百万人の方に読んでいただき、メディア、SNSを通じて数百もの心あるメッセージを頂戴しました。本当に、心より感謝いたします。
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ファーストストーリー「お腹の子は、無脳児でした」~葛藤と感動に包まれた5日間の記録~
英語版 “Our baby was anencephaly” Records of 5 Days Wrapped with Conflicts and Impression
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