映画監督たちのリーダーシップ
凄まじい音を立ててドアに斧がめり込んだ。
二度、三度、ドアの向こう側から斧が突き立てられ、木片が飛び散る。
次第に大きくなっていく裂け目からは、むせ返るほどの暴力で熱気を帯びた空気が流れ込んでくる。
普段は丈夫そうに見えるドアが、文字通り木っ端微塵に崩れゆく絶望に、女は恐怖に顔を引きつらせて叫ぶしかない。
突然破壊が止まり、髪を振り乱して目を血走らせた男の顔が裂け目から覗く。
それはかつて「夫」と呼んでいたものの、なれの果てだった。
男は女を見つけると、グニャリと笑った。
それは、もはや狂気そのものであった。
スタンリーキューブリック監督の「シャイニング」のワンシーン。彼はこの狂気と絶望を役者から引き出す為に、あえて撮り直しを重ねた。
その数、127テイク。
スタッフの視線や表情が無言の重圧となり、俳優の焦燥感、絶望感は相当なものだったであろう。
対照的なのが世界のキタノ。ほぼ一発OKだが、気に入らないシーンは黙ってカットする。これはこれで俳優達は必死だったようだ。
メンバーのパフォーマンスを引き出す為に、リーダーたる自分がどう関わるか。
巨大な宇宙生物との戦いを描いた「スターシップ・トゥルーパーズ」。
兵士達が男女入り乱れてシャワーを浴びるシーンの撮影中、出演者達がヌードになるのを恥ずかしがり撮影が進まなかったので、見かねたポール・バーホーベン監督は、自ら全裸になり模範を示したという。
メンバーからすると、率先垂範型のリーダーがついていきやすいかなあ。
でも、脱いじゃダメ。絶対。
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