闇を切り裂きタブー解禁。15年間書きためた原稿がやっと本になった出版記念に、実家のお寺で緊縛イベントをやってみた。

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著者: Kurosawa Yuko

私の実家はお寺です。

ひさしぶりに帰ってきた実家には

ものすごくでかい犬がいた。

名前はポピー。

ゴールデンレトリバー。

家の中で家族と一緒に生活する

この大きな犬は

階段をおりようとすると、

押しのけるようにして先をいき、

散歩にいきたいときは、全身で吠える。

無視すると、自分で扉をこじ開け、

勝手に散歩にいく。

気がすめば帰ってくる

かなり、自由な犬。



脱走すると、かならず二つ山公園というところにいて、

女子高生やおじいさん、誰かとお茶をしている。


とにかく人が好きで犬が苦手だろうが

関係なくおかまいなしに人になつく。


ひさしぶりに帰ってきた福島で

ほとんど友達がいなかった私は

ただポピーの散歩とお寺掃除にあけくれていた。


ポピーを車に乗ってけて川に行って、蕎麦食べて。

じょじょに福島の魅力を再発見しはじめたころ。


部屋で掃除をしていたら、

インスピレーションがおりてきた。


『写真を集めて一冊の写真集をつくる』


私はイメージに打たれたように

部屋の中をうろうろと歩き回って

これをぜったいに作ろうっと決意した。


福島を英訳するとHappy Island。 

それなら「幸せ」という、テーマで写真を集めよう。

生まれ育った福島という場所でつくる写真集。

私は企画書を書くと出あう人にくばってあるいた。


猫の写真、電球の写真、犬の写真、家族の写真、山の写真、

携帯で送ってくる人、CD-ROMでくれる人、

焼いた写真でくれる人、

集まった写真をはさまざまで、

人それぞれの幸せがつまっていた。

これを一つにまとめよう。

そうおもっても言葉がなかなか出てこない。

空いてる部屋に、写真を並べてみたり、

並びをいれかえてみたり。


すっかり煮詰まってしまって時だけがすぎていた

ある日、実家の愛犬ポピーと裏の森を散歩していたとき、

いつもだったらぐいぐい先に進むポピーが

森でお座りしたまま動かなくなった。

「行くよ」と、うながしてもこない。

なんだろう?


つられて自分も立ち止まった。

木に囲まれた石階段の途中、

見上げると葉っぱが重なりあって美しい。


そうやって、葉っぱをみていたら

頭の中にことばが浮かんだ

「ai ai I 愛してます…」


私はスローモーションのように風を感じながら、

ああそうか、これがHappy Islandの出だしのことばなんだなーっと理解して

家にもどって、ことばのイメージで写真を並べかえてみると

つぎつぎと、ことばと写真がかみ合って、流れができてきた。

なるほど、こうやってこの本はできるのか。

不思議な高揚感で、ページをつくると

何ヶ月も悩んでいたのがうそのように一晩で、ページの構成ができた。


こうしてHappy Islandが完成した。






「本ができたので記念に出版イベントをしよう」


実家のある森合という地区に住む

仲間たちがそう言ってくれて

一盃森という小さな森のふもとにある

正眼寺というお寺で完成披露かねたイベントをすることになった。


森合という場所でする、イベント。

その名も『モリノネ』

2010年 10月17日。モリノネ開催。

地元の人々が出店し、つどい、

ライブあって、盛りだくさん。

出版のお披露目もかねた

モリノネは大成功でおわった。

それから、イベントが終わって半年もたたない、

2011年 3月11日。

地震がきた。

地元の人々とその状況をわかちあいながら、

その時の恐怖をなんとかのりこえつつ、

私は次に書きためた短編集を出版するため、東京へ引っ越した。




2015年、2月。

10年以上あたためていた短編集「トウモコロシ」が出版された。




しかし、

私は東京に引っ越してから

誰ともつながらず、ひきこもった生活を続けていた。

本が出版されたのを期に、

ひきこもるのをやめなければ、

いまだ誰ともつながっていない自分を

どうにかして変えなければ。

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