今日の晩飯もスライムか: 魔法使い養成塾の立ち上げ方 その6

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著者: 石田 宏実

チラシ印刷コストとして50ゴールドがどうしても必要だった。


50ゴールド程度なら、かき集めればなんとかなる。しかしそれを使ってしまったら資金がほぼ空になる。

他にもお金は使うだろうし、ここで全額使ってしまうわけにはいかない。


『せっかくのチャンスなのに・・・金がなくチラシが配れないなんて・・・』


いわゆる資金繰りだ。





『なんかありましたか?』


ダーマが、左手にコーヒーカップを持ち、右手にインスタントコーヒーの粉が入った瓶を持ちながら呑気に声をかけてきた。


『チラシ印刷のコスト50ゴールドが必要なんですよ。』


『一応、資金としてギリギリ50ゴールドはありますけどね。』


『そうなんですか?一応あるんですね。よかった。それ使っちゃっていいですか?』


『ダメですね。今日10ゴールド使うんで・・・』


『何に使うんですか?』


『飲みに行くんです。』


『へ!?飲みに!?それよりもチラシの方が大事ですよね?』


『何いってんすか?人脈の方が大事でしょ?』


『人脈って・・・いったい何に役立ってるんですか?その飲み会は?』


『人脈はあとから効いてくるんですよ』


『結局あなたの「知り合いに」は、一度も役に立ったことないじゃないですか!?』


『焦っちゃダメなんです。人脈はゆっくりと・・・』


『もういいです!印刷しちゃいますので。』


ダーマは私の腕を掴んだ。


『おいこら、その金は駄目だ!』


しかし何の職業にも付いていないただのフリーターの腕力など、無力だった。

魔法を使うまでもなく振り解き金庫から10ゴールドの束を5束掴み、印刷所へ走っていった。


大量印刷ということで結局は40ゴールドですんだ。

そして500部のチラシを、20箇所ほどの防具屋に置かせてもらうことになった。


そして10日後。


外を見るまでもなく晴天を感じさせる、ここちの良い朝だった。

すずめが鳴き、川の音が聞こえてくる。

その音に混じり人間の話し声が聞こえている。

耳を澄ますと、どうやら5,6人のグループのようだ。


人数を認識した直後、ドアをノックする音が聞こえた。


コンコン

最初のお客さんだった。



毎日ゼロだったお客が徐々に増えていった。


無料セミナー目的で毎日たくさんの人が養成塾のドアを開けた。そりゃあそうだ。自分だって無料で魔法が学べるなら行くだろう。

平均すると毎日30人。

チラシを見て来たのだが、1人で行くのは不安ということで多くの人は2人以上で訪れた。


30人のうち、平均すると3人ほどは有料の「メラ養成講座」に申し込んだ。

さらにそのうち20人に1人は「スクルト養成講座」にも申し込んだ。


毎日200ゴールド近い現金が手に入った。資金繰りは一気に改善。

チラシ印刷に悩んでいたことが嘘のようにゴールドが金庫内のスペースを埋めていった。

わずか3時間で、マッチほどではあるが火を指から出せるようになるということが評判となり新聞でも特集されるようになった。

ほどなく毎日500ゴールドが入るようになり街でも評判の店となった。


すべてが順調だった。

しかし・・・順調なときほど罠に気をつけなければならないことを私は知らなかった。

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